混沌の廃墟にて -67-

値段の話、あれこれ

1989-07-20 (最終更新: 1996-05-18)

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うーむ、DynaBookの2MBラムボードは14万円か… 1MBで8万、ということは、比 例計算すれば1.5MBなら11万程度、本体定価の半分以上はメモリの値段という訳だ。 やっぱり恐ろしいマシンだ。はたして内蔵モデムの定価はいくらになるだろうか。 ラムボードはともかく、仮にも SYSOP なのだからモデムだけは絶対に入れたい。 内蔵できるモデムのスペックが、2400bps、MNP class 5 だそうな。いやはや恐ろ しいマシンだ。(*1)

    *
情報には価値があるという考え方があって、私はこれに賛成する。価値がある ものは、たいてい価格として評価できるが、情報もそれに見合う価格として評価 できる場合があると思う。

OLTという小冊子がこの十月から有料になるそうだ。有料というのは辛いし、無 料の方が個人的にはいいに決まっているが、有料化するという方向については賛 成である。OLTは情報を会員に配布する役目を果しているのだから、それを受け 取る人が受け取った分の代金を支払うというのは当然である。情報が無料で手に 入ることに慣れてしまうと、無料で当たり前という先入観ができるおそれがあり、 これはかなり危険なことだと思う。(*2)

NIFTY-Serve の料金体系は、完全にアクセス時間に比例している(*3)。本来、 会員ごとに最低の資源がアクセスにかかわらず必要だから、その意味での基本料 金があるのは合理的である(また、基本料金制度があれば、OLT有料化には厳しい 反対の意見があるに違いない)。しかし、アクセス時間比例に徹するという態度、 これはかなり高く評価してよいと思う。

じつにうまい作用をしているのが、ピークタイムの料金である。アクセス時間 としては、ピークタイムはやや反応が遅いので、同じ情報量を受け取るのに割高 になるのである。本来、情報量に従って課金するべきだという意見がある。私も それには賛成だが、情報量というのは複雑なファクターがあって、評価されるべ きものだ。ピークタイムというのは、その時間にアクセスする需要が多いという ことだから、時間帯も評価してしかるべきだと思う。つまり、ピークタイムに情 報を受け取ることができるという事実自体にも価値がある。その分、情報として の価値が高くなるのは正当な評価だと思う。これをうまい作用と言ったのである。

    *
>   たとえば、一太郎の価格は5万8000円ですが、それはソフトの値段ではな
>   いと思うんです。それを使用することによる時間や思考上のメリットに値
>   段を付けたものと考えるべきと思うのです。

(ASAhI パソコン、1989/8/1、p.37、肥大化するソフトのジレンマ、 一太郎Ver.4回収が投げかけたもの)

私は上に引用した文章の、後半に書いてあるものを「ソフトの値段」と言うの だと思っていた。実はこの文章の続きには大問題がある。次の箇所だ。

>   完璧であたり前、バグがでれば袋叩き、ではだれもソフトなんか作りたくな
>   くなりますよ
私はマゾではないので袋叩きは勘弁してほしいし、ソフトを完璧にするという のはかなり難しい(完璧であることはどうやって証明するか?)。が、ちょっと 待て。バグは全て同一視できる筈もなく、さまざまなレベルのものがある。コ ンピュータを自動車に例える常套手段に従って、とりあえず例えてみる。

ウインカーの点滅する速度が 1.0 秒間隔のスペックなのに、実際は 1.2 秒だ ったとしよう。これはバグに相当するだろう。しかし、こういうのは些細なバグ と言うのだ。では、時速80km/h を越えるとブレーキが働かなくなるというのはど うだ。これもバグだろう。こういうのは、致命的なバグと言う。致命的なバグが あると運転手の命が危ないので、こういう車は欠陥車と呼ぶらしい。そして、欠 陥車は、回収するものである。

ソフトウェアも、致命的な欠陥があれば、回収して当然だと思うが、それより も当然だと思うのは、致命的な欠陥のある製品を販売しないということである。 私はソフトを作る側の立場だからプログラマ寄りの有利な意見を言いたいと思う が、どんなに大目にみても致命的なバグがでれば袋叩きは致し方なく、弁解の余 地もない。

では致命的なバグとは具体的にどのようなものか、またもやだんだん自分の首 が絞まってきたので、この辺りでうやむやにしよう。:-)

    *
これもよくあるようだが、「ネットワーク運営側は、すべての発言者に対して 報酬を支払うべきだ」とか、「原則として発言の時間は課金しないのが望ましい」 という意見がある。何と私はこのような考え方には反対だ。発言時にも課金しろ というのは、おそらく少数意見だろう。

ただし、正式に連載を依頼して、コラムを書いてもらうかわりに報酬を支払う とか、非常に高い評価のある発言を行なった発言者に対して、「ベスト発言賞」 を授与するとかいう方向には、おおいに賛成である。これは、情報に対して対価 を支払うという原則にも従っている。

最近、掲示板に参照回数が表示されるようになった。GO BBS でタイトルを眺め ていると、人気のある掲示と人気のない掲示の差がかなり目につく。そして、私 の場合、どうも参照回数の多いものを意識的に選択して見てしまう。正のフィー ドバック…。掲示板の参照回数が 10000 を越えたら、テレホンカード 10000 円 相当を進呈、なんてのも面白いかもしれない。

さて、なぜ「すべての発言者に対して報酬を支払うべきだ」に反対なのか。く どいが「べき」という言葉にはよく注意してほしい。運営側が発言者を増やすた めに優遇する方針にするのは、全く問題ないし、運営側がそう決心するのならぜ ひお願いしたい。私の言っているのは、発言者の態度の持ち方である。

ところで、なぜ発言者に対して報酬を…という考えが発生するか? おそらく、 ネットワーカー達は発言を読むことに対して課金を支払っているのだから、発言 があることによって運営側の収入源となっている、収入に手助けをする発言者か らも金を取るのはけしからん、と、このような考えがあるかもしれない。また、 情報を提供するのだから、それに対する報酬をもらえて当然、なのに逆に課金さ れるとは何ごとだ、という論理もあるだろう。

では私がなぜそのような考えに反対なのか、要約すると、「オンライン・コミ ュニケーションは、単なる media space だ」という考え方を持っているからだ。

つまり、ネットワークは、発言を入れておく受け皿にすぎない、運営側は、そ の受け皿を使う人達に対して、「受け皿を使うための」料金を請求する−これが 課金である。その使い方が発言だろうがROMだろうが、それは運営側が関与するこ とではない、というのが原則だと思うのである。我々は、今までオンライン・コ ミュニケーションほど自由に自分を表現できる media がなかった。雑誌に投稿す れば編集が入る、深夜ラジオにはがきを送ると没にされる…。

喫茶店に置いてある一冊のノート、これが media space、我々の世界ではフォー ラムである。それを読んで楽しむのも自由だし、書き込んで反応を待ち焦れるの もよい。だが、喫茶店とは比べるまでもなく、ネットワーキングはグローバルで、 極端な話が、世界中の人に自分の言いたいことを伝えるチャンスがあるのだ。

読み手は何も情報を出さずに情報を受け取ってばかりいる、それに比べて発言 者は読み手に一方的に情報を与えることになる、なのに同じ課金とは不公平では ないか、と言う声もあるだろう。ならば発言しなければいいじゃないか、それな のに何故発言するのだろうか、「そこに電子会議があるから」?

ちょっと違う。発言者は、自分の思った通りの話題に流れを持っていき、自分 の欲しい情報を得るために問題提起できるのだ。これはROMの皆さんが想像できな い程のメリットだと思う。つまり、自分の欲しいリアクションを得るための布石 が打てるのである。ROMというのは手間がかからない半面、テレビを見ているのと 全く同じで、上から流れてきた水をすくうようなものだ。もし自分の欲しい情報 がなければ諦めるか、見つかるまで探すか、類似のケースで我慢するか…いずれ にしても積極的には動けない。

    *
今回は実に勝手な意見に終止してしまったが、もうちょっとだけ。

ところで、「すべての発言者」でなければどうか。オンライン・ライターとい う職業で生活できる時代は、地球が滅亡しない限りきっと来ると思う。報酬とひ きかえに発言する人、それはいっこうに構わない。しかし、報酬を要求するから には、それ相応の情報を提供しなければならない。悪い言葉で恐縮だが、「ゴミ ではいけない」のである。ところで、「混沌の廃墟にて」は、やっぱり…。

(BGM は Pink Floyd の Money、これに限ると思ったのだが、CD が見つからな い…残念)


補足

(*1) 今では信じられないかもしれないが、これは先進的だった。

(*2) 方法論としては、宣伝媒体とすることにより、読者ではなくスポンサーから料金を徴集する考え方もある。

(*3) 1996年4月をもって、基本料金0円という制度は終了した。もはや、何もしなくても毎月一定金額を徴集される。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -67-
    1989-07-20, NIFTY-Serve FPROG mes(?)-369
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1989, 1996