混沌の廃墟にて -32-

パソコン通信は病んでいるか?

1989-01-20 (最終更新: 1996-05-09)

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某ネット(*1)でどういう訳か、NIFTY-Serve の「本と雑誌フォーラム」に対す る批判的な(少なくとも私はそのように読んだ)発言が掲示されていた。なぜ他 のネットで NIFTY-Serve の話題が…というのはこの際忘れるとして、議論の流れ に非常に関心があったので少々それに対する感想を書きたい。FBOOK の皆さん、 ネタにしてしまって申し訳ありません。

要するに、FBOOK がアクティブフォーラムのTOP10に入るのはおかしい、そこで 調べてみると、FBOOK のデータライブラリにはアダルト画像データが登録されて いて、それがアクセスが多い理由だろうという発言だった(少なくとも私にはそ れ以外の解釈ができなかった)。そして親切なことに、データライブラリのタイ トル一覧まで掲示してあった。なぜ他のネットで…ということにはこの際気がつ かなかったことにしよう。(*2)

それに対する反応もさまざまだったが、他のネットの話だから当事者に任せれ ばよいという意見と、けしからんという感じの意見が半々くらいだった(少なく とも私はそのように感じたのである)。

ここで、私がまず「はっ」と思ったことがある。これは、NIFTY-Serve でそろ そろ8カ月も SYSOP をやらせていただいている故に感じられたのであって、そう でなければもしかすると気付く術もないかもしれない。とにかく、最初に「妙だ な」と思ったのは、ていねいにも掲示してあったデータライブラリのタイトルで ある。ご存じのようにデータライブラリのデータ一覧表示を行なうと、アクセス 回数とデータのサイズを知ることができる。データを登録した日時も。

何が妙だったかと言うと、この程度のアクセス回数で本当にTOP10に入れるだろ うかという点だ。若干 SYSOP 経験8カ月とは言え、NIFTY-Serve のランキングが そんなに甘いものだとは思いがたいのである(もちろんアクセス時間の増加に貢 献しただろうことは否定しない)。

ところで私は FBOOK には入っていないので詳しい事情は知る由もないし、全く のゴシップだけで想像していたのだが、昨年「小説現代新人賞」を受賞なさった 薄井ゆうじさんや、かの有名なすがやみつるさんのような強力なアクティブユー ザー達による連載エッセイがあるだけでなく、SYSOP の武井さんもネットにへば りついてサポートに力を入れているようなので、それが常時ランキング上位とい う結果を生んでいるのだと思っていた。

事情を知らないで終わってしまっては CHAOS RUINS のネタにもならないので :-)、勢い余って何をしたかと言うと、FBOOK SYSOP の武井さんに電子メールでい きなり質問を送り付けてしまったのである。私の無節操な性格が怖い…。これが 何と夜の1時頃に「お忙しければ無視してください」とただし書きを添えた上で 送ったのだが、その日の朝7時前には長文の返事をもらってしまったというサポ ートの速さ…FPROGも見習わなければならないと痛感した。

で、私の予感通り、アダルト画像データが FBOOK のアクセスの主な要因になっ ているとは考えられないとの回答をいただいた。それが証拠に、画像データを登 録する前から FBOOK はランキング入りしているというのだが、確かにその通りで ある。

    *
で、どこで「FBOOK がアダルトデータのおかげでランキング入りしている」と いう情報になったかよく考えてみると、果てしなく話がややこしくなりそうなの で議論を省略するとして、問題だと思ったのは別のことである。というのは、最 初に述べた「批判的な意見」のほとんどすべてが、次のような前提で意見を述べ ていたのである。
「アダルトデータは、ビデオか本から画像を取り込んだのであろう。他人の 著作権を侵害してフォーラムに人を集めようとするのはよくないのではな いか」
実際の発言が決してこんなおとなしい調子で書かれていないことは、この際問 題ではない。(*3) 問題はもっともっと奥が深い所にあるのだ。

そうでなくても知的所有権が騒がれているご時世である。著作権のような基本 的な権利をないがしろにして良いはずがない。他者の著作権を侵害してはならな いことは日本国の法律に従って社会生活を試みるのであれば当然の常識だし、あ まつさえモラルの面でも結論ははっきりしたものである。さらに、会員規約でと どめのダメ押しまである。

第13条(フォーラム、電子掲示板等への記載)
会員は、フォーラム、電子掲示板等へ記載する場合、第三者の著作権等、 その他権利を害さないものとします。

(NIFTY-Serve イントロパック、会員規約より引用)

こんなことはいまさら書かなくても、あたりまえの事なのだが…それはさてお き、SYSOP を8カ月やっていると NIF (*4) の著作権に対する執念を感じさせる 厳しさというか、姿勢にはかなりお世話になっている(例えば発言者が拒絶すれ ば原則として同じ NIFTY-Serve 内と言えども他のフォーラムへ発言を転載するこ とさえ不可なのだ (*5))。こういう所がはっきりしているから SYSOP の余計な 負担がかなり軽減されているという実感がかなりある。

さて、問題をはっきりさせよう。上に書いた「前提」の「他人の著作権を侵害 して…」という箇所である。つまり、アダルト画像データが登録されているとい う前提から、ただちに「無断で画像を利用した」という結論になっているのであ る(私のみた限りでは、次に書くような結論を発言した人は一人もいなかった)。

何故に「画像データが登録されている」が「無断登録」になるのだろう。著作 権は侵害してはならないというあまりに当然の仮定さえあれば、画像データが登 録されているなら当然許可を得ているにちがいない、と私は考えた。実際、FBOOK SYSOP の武井さんに出した手紙の中に、次のように決め付けて書いたのである。 「私は画像のデータに対して許可を取っていることをポイントにして意見してみ たいと思っている」。

結論を書けばその通りだったのだが、当然すぎて感動すらない。(*6)

(そういえば FROCK のジャケットデータも制作側の許可の上で…とコメントさ れていたっけ…)

ここで思い出したのが、以前「最近のユーザーはソフトはハングアップして当 然、バグがあって当然と思っていますよ、エディタを使う時には暴走するからこ まめにセーブするのが常識になっている、なぜエディタが暴走するのが常識なん だ!」という内容の発言をしたことである。NETWORKER という雑誌の’89年2 月号の「ネットワーク考現学」というエッセイで、同じような主張が述べられて いたのでうれしくなった。ワープロソフトが暴走するのが異常だと思う人が他に もいたんだ(私の周囲には驚くほど少ない)。(*7)

パソコン通信のホストに画像データが登録されていたら、無断転載だという論 理がこれに似ているではないか。私は最初に言った「批判的な文章」を書いた皆 さんがこのような前提で意見を書いていたことを責める気は全くない。それどこ ろか悪いとさえ思わない。何がおかしいかと言うと、そのような「常識」をいつ の間にか作り上げてしまった得体の知れない「高度情報化社会」という化け物で あり、異常が常識になってしまう狂った社会そのものなのだ。

以前、平成を「平常」に「成る」と評したが、語呂から考えても「平気」に「 成る」と言うのがよりぴったりしている。「バグがあっても平気に成る」時代の 幕開けにならないことを心から祈って欲しい。無断転載が平気に成ってよいわけ がない。まだまだパソコン通信は(いつまでたっても)始まったばかりの世界な のだ。


補足

(*1) アスキーネット。

(*2) アスキーネットでは、よかれあしかれNIFTY-Serveの話題をよく見かける。逆はほとんどない。

(*3) ひとことで言えば“罵倒”である。

(*4) 当時、ニフティ株式会社はエヌ・アイ・エフ株式会社という社名だったため、NIFという表現を使っている。

(*5) それどころか、SYSOPの判断がなければ、同一フォーラムの中でさえ無断で複写、転送することができない。

(*6) つまり、こういうことだ。無断で転載できない画像データがネットで公開されていたとする。NIFTY-Serve(の会員達)は、この人は許可を得て公開したと解釈する。 アスキーネット(の会員達)は、この人は違法行為をしたと断定的に解釈する。

当時は今ほど著作権という言葉が浸透していなかったと思うのだが、それでもNIFTY-Serveには、一般会員ならともかく、仮にもSYSOPなら著作権侵害するわけがないという前提があった。もしかすると、アスキーネットの会員が「NIFTY-ServeのSYSOPが著作権侵害している」という誤った思い込みをした理由は、当時のアスキーネットのsigop

(*7) この発想は健在らしい。Windowsは落ちるから、こまめにセーブするとか。でもセーブした途端に落ちるとか。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -32-
    1989-01-20, NIFTY-Serve FPROG mes(?)-172
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1989, 1996