混沌の廃墟にて -26-

デートする方が好きな人達

1988-12-12 (最終更新: 1996-05-25)

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まだまだヒューマン・インターフェイスの話は尽きない。CCS(*1)に「パソコン 通信なんて面倒でやらない」という友人がいるという発言があった。一般の人の 感じ方としては穏やかな方である。普通なら、「パソコン通信なんて暗いことは やらない」という所だろうか。暗い vs 明るいの議論は無視するとして、面倒と いう所は心当りがある。

折角共有している環境だから NIFTY-Serve を例にしよう。まず、

    Enter Connection ID  --->SVC
これがいけない。SVC とは一体なんだろう。あなたがコンピューターについて 素人であれば、どのように感じるだろうか。最も悪いケースは、SVC という文字 並びを忘れてしまった時である。「SEV、あれ? SVA ちがうな〜、わからないな 〜、やめたやめた」で、会員が一人減ったかもしれない。そのようなインターフ ェイスよりは、まだ NIFTY-Serve の随所で見られる次のような形式の方が良い。
    Connection ID (1:SGN  改行のみ:SVC)  --->
最も多く使われるかもしれない Connection ID をデフォールトとするのは常套 手段である。訳がわからなくなった時に、とりあえず改行を押してみる習慣は間 違ってはいないと思う。また、上の例では SVC と入力した時にも期待通りに動作 する設計であればなおよい。ただし、SVCやSGN以外のエントリーもたくさんある のなら話は別だが。

もう一つの非常に常識的な解決策は、言うまでもないが、オートログインの登 録をパソコンやワープロに詳しい友人にしてもらうというものである。

    *
ヒューマン・インターフェイスを検討しだすと際限なく修正できそうな箇所が 見つかるのだが、さしあたりどの程度まで簡単に操作できるか考えてみると、例 えばテレビのスイッチを入れてチャンネルをリモコンで選択する程度の手間なら テレ・コミュニケーションもお茶の間に普及するだろう。読むことだけを目的と するならば、この程度のインターフェイスは Visual な環境を作ってやれば簡単 に実現する。

これが、ビデオの録画予約程度になると、参加する人はぐんと減って1割程度 になると思う。9割の人は録画予約という面倒な手順よりも、その時間が来るま で待ってから番組を見るか、さもなくば見ないことを選択すると予想しよう。

さらに、予約して録画した番組を見ながらダビング編集してコマーシャルを抜 いたり、気に入ったシーンだけを集めてオリジナルビデオを作る手間を惜しまな い人がさらに1割いるとしよう。テレビを見る人から比較すれば、潜在ユーザー 層の1%程度となる。

だいたいこの程度がテレ・コミュニケーションの実体だと考える。つまり、今 面倒な手順に耐え抜いてアクセスに手間を費やしている人の数が、潜在ユーザー 層の1%程度だという予想である。NIFTY-Serve の会員が例えば30,000人だとする ならば(*2)、潜在ユーザーの数は300万人である。この程度の人数はあるような 気がする。

つまり、テレ・コミュニケーションに興味のある人が300万人いて、実際にア クセスしている人が3万人であり、297万人が脱落している原因がユーザー・イン ターフェイスだけだ、という図式である。これだけ無責任な想像をしてみると結 構ストレスが発散できるようだ。

    *
全然関係なさそうだが、初期状態で FPRG に興味のあった人が 700 人で、継続 してアクセスする人が 200 人で、発言もする人が 20 人という図式は何が悪いの だろうか。ただし、これを簡単に悪いと言ってしまうのは問題で、実際 200 人が 発言し出すと SYSOP GROUP は玉砕するより他にない。(*3)

SYSOP が会員に対して発言を呼びかけない主義なので雰囲気がこうなったのか もしれない。発言するよう強引に呼びかけない理由は、以前 give and take と give then take の話をした時にもちらっと書いたが、もう一つ肝心なのは、発言 することは面白いということである。

面白いのなら呼びかければよいと思う方もいるかもしれないが、面白いことは 何も言わなくてもやる人は勝手にやるので、自己判断にまかせてみようという方 針である。嘘だと思ったら、実際発言して下さっている方々に嫌々発言している のか、楽しく発言しているのか尋ねてみるとよい(さて、嫌々だったらどう言い 訳しようか…)。

この面白さは、ROM (*4)で興味のある発言のやりとりの観客になる面白さとは 全く別の類のものだ。例えば、恋人とデートする人と、恋人同士がデートしてい る所を覗く人程違うのである。(は? …覗く方がいいって?…う〜む、わかるよ うな気がする)

たまには喧嘩のようになるかもしれないが、トムとジェリーに仲良く喧嘩させ ておけば良いと思っているので、FPRG では SYSOP が論争に油を注ぐことはあっ ても介入する雰囲気がほとんどない。それにしてもどういう訳か、すぐ謝ってし まう人が多くて喧嘩どころではない。パソコン通信では意地でも謝らないという 人を時々見かけるのだが、このフォーラムはその意味でも妙な雰囲気である。

ヒューマン・インターフェイスにめげてアクセスしないという壁を乗り越えた 途端に、間にマシンが介在しているとはいえ、つまりはヒューマン・ヒューマン・ インターフェイスという障害にぶつかる構図も面白い。世間とはかようなもので ある。

    *
サード・ガールという漫画の単行本6巻に、清水寺(多分そうだが…ちがった ら大恥だったりして)が出てくる。清水寺の近くに「七味家」という老舗がある。 言うまでもなく七味専門店であるが、京都に行った時にはここで七味を買ってし まう。ここの七味の話はいまだに「美味しんぼ」の話題にならないが、とりあえ ず美味しい。七味にもちゃんと七つの味があるという当然の事実が再認識できる。

ちなみに、清水寺に行った時はアベックと外人ばかりで風流を楽しむ雰囲気で はなく、何となく空しくなるので一人でいかない方がよいと悟ることができた。

さて、この七味家という店の名前そのものが、間違いようのないという意味で 非常によいユーザー・インターフェイスの例だと思うが、さらにここの電話番号 が0738(シチミヤとルビがふってある)というのが徹底していて凄い(関西では 7をシチ、またはヒチと読む)。日本モトローラの無料コールが68030であるのと 比べると、年季の入り方からしてケタが違う。歴史の辛さを感じるのである。


補足

(*1) CCS: 当時NIFTY-Serveの上位メニューにあった、フォーラムに所属しない電子会議サービス。

(*2) 最近NIFTY-Serveに入った人には想像できないかもしれないが、当時はそんなものだった。

(*3) 1996年現在だと、100人程度? 常時アクティブな人は十数名程度か。

(*4) Read Only Memberを意味するスラング。


    COMPUTING AT CHAOS RUINS -26-
    1988-12-12, NIFTY-Serve FPROG mes(?)-063
    FPROG SYSOP / SDI00344   フィンローダ
    (C) Phinloda 1988, 1996