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エイズではあるまいが、ビールスと聞くともしかしたら素人の人なら高い金を 出して買ったパソコン(しかも、ホコリをかぶっている)が爆発するのではない かと心配するのかもしれないが、本職のプログラマーはどのような反応なのだろ うか。
「やぁ、ビールスがはやっているようだね。おたくの会社ではセキュリティは 大丈夫かい?」要するにマンパワーのある所ならすべて自前で作ってしまうのが、どのような 事故にも自責点というわけで諦めがつくのかもしれない。
「ほぉ、日本にもいよいよコンピュータ・ビールス上陸か。剣呑、剣呑。して、 どのような症状なのかな?」
「なんでも作成中のファイルがたまってくると、突然ディスクを破壊してしま うという話だ。」
「なんだ、それじゃソフトを買って普通に使っているのとまるで変わらないで はないか。」
真剣な話、普通に店にならべてあるマトモと言われているソフトが平気で突然 ハングするのである。そのようなソフトが平気で流通する世界の方を先に何とか して欲しいものだ…と言いたい所だが、何とかしないといけないのは誰だと逆に 問われるとまたまた墓穴を掘ってしまうので、この話はここまでとする。しかし 実際、パソコンは初めての人に教えてくれと頼まれた時に、「このソフトは突然 ハングアップするからファイルを時々セーブしなさい」と注意するのはどうにも 情けないものである。
*ビールスと言えば誰が見ても悪意に満ちモラルに反した存在以外の何物でもな い。よって退治するのが筋である。しかし、コンピュータの世界にはもっと根本 的に恐ろしい…cpu time のみならずプログラマーの貴重な労働時間をむしばみ、 精神から破壊する…ソフトウェアが昔からあった。例えば、trek、rogue、hack といった名前に心当りはないだろうか。
trek が消費した cpu time がどの位の規模かは明らかでないが、かなり膨大な ものだと予想されているらしい。特にハッカーはこの手のプログラムを好むので、 trek をやった時間を仮に OS やアプリケーションの開発に割り当てていたならと 考えてみただけでもソフトウェア業界 n 年分の損失である。rogue も hack も時 間をかければかける程捕えられてゆく所が怖い。
大きな声で言えないが(電子会議で発言するのに大きな声とは…)私はゲーム は大好きである。hack を解くのに半年もかかってやっと解けたと言ったら、「へ へっ、**なんか 200 万点出したよ〜ん」とあっさりかわされてショックだった。 そこで根性を鍛え直してなんとか 200 万点はクリアしてさらに 300 万点に挑戦 しているのだが、ふと「この cpu time はいったい誰が払っているのだろう」な どとは思ったこともないふりをしている。(*2)
このようなプログラマーがいる会社を破綻させるのは簡単である。まず精根こ めて誰がやっても面白いというゲームを作る。そして何とかライバル会社のネッ トワークに潜入して、さりげなくゲームのディレクトリに置いておけばよい。あ とは勝手に自滅してくれるのを待つだけである。この種のビールスの最も恐ろし い所は、それを発見したのがもしもプログラマーだったとしたら、Write Protect を掛けておく気にはなっても絶対に退治しようなどとは思いもつかないことであ る。管理者は突然プログラムの開発ペースがダウンしてあわてふためくが、原因 を突き止めるのは難しいし、万一管理職まで巻き込んでしまえばさらに大変なこ とになる(そんな事はないはずだが、世の中何が起きるかわからないものだ)。
(*2) hackはnethackという名前になりpcに移植された。最近なら、FreeBSDやLINUXの上でプレイできるはずだ。
COMPUTING AT CHAOS RUINS -2- 1988-09-17, NIFTY-Serve FPROG mes(?)-227 FPROG SYSOP / SDI00344 フィンローダ (C) Phinloda 1988, 1996