話を聞かないアクアプラス、即売会ができないCPS

2000年8月

 まあ、4月のこみっくパーティという同人誌即売会がロクなもんじゃなかったというのは、今さら改めて言うほどのこともない。そのダメさ加減の一端は、ボケナス氏の別稿「私をこみパに連れてって」を見てもわかるだろう。かく言う私も、実は同じ時に別のシャッターの面倒を見る羽目になっちまった。そして、そのシャッターを守ったのは、ボケナス氏たちと同様に決してこみパのスタッフではなく、そのシャッターに配置されたサークルたちだったことは言うまでもない。
 さて、そういう当日の諸々のトラブルは、既にあちらこちらのメディアで語られているが、そのほとんどが当日の現場の話であり、何故こんな形で即売会が開かれてしまったのかという点はあまり深く話されていないように思う。

 もちろん、その最大の要因は運営会社であるコミケプランニングサービス(以下、CPS)の無能さにある。こみパの企画は、CPSの営業企画部が中心となっての企画であるが、この営業企画部というのは、同人誌即売会ではないイベント事業を主とする独立採算の別働隊であり、CPS本体とは住所も違うし、事業的な関連も薄い。クリエイションともほとんど関係はない。つまり、CPSの中でも同人誌即売会にはほとんどノウハウのないメンバーである。彼らに大規模同人誌即売会を仕切る能力などハナからない。それならCPSはクリエイションのスタッフを使えばいいじゃないかと、普通は思うかもしれないが、CPSとクリエイションの運営組織であるクリエイション事務局とは、いろいろな経緯もあって現在分離されており、CPSが独自に同人誌即売会を開こうとしても、クリエイション事務局に指示・命令して使えるような形にはなっていない。それにクリエイション事務局はボランティアベースでの運営であり、そもそもこんなリスキーなイベントを任せられても困ってしまう。
 しかも、営業企画部のNは、元々独断専行が多い人物で、こみパでもそれが続く。CPSのT社長は再三詳細な進捗を求めるが、報告は上がってこない。T社長も能力が低い(というか、絵に描いたような無能な男だ)ので、複数の仕事はこなせないから、日々の仕事にかまけてほったらかしにする。こういう無責任体制で即売会がうまくいったら奇跡だ。

 そして、もう一つ大きな障害となったのがアクアプラスの姿勢だ。彼らはイメージを損なうような情報は漏らすなと、守秘義務を強調したが、おかげで必要な情報すらも配信されないという本末転倒な事態が発生した。彼らが望むのは見た目きれいな即売会である。特に不正入場に非常にナーバスであったため、会場の導線がまったく公表されなかった。また、販売してよい本に制約を設けたが、それがどのレベルで運営されるのか範囲はまったく不明確であった。おかげで、ネットを中心に情報は錯綜しサークルも一般参加者も混乱した。こみパのWebの情報の更新権限は基本的には彼らにあり、真に参加者が知りたい情報は掲載されなかった。
 だいたい彼らの感覚では通常の即売会スタッフは、ただの「ゴロツキ」であり、企業イベントとしてスマートな同人誌即売会を企業の雇用したスタッフに運営してもらいたいと思っていた(とはいうものの、彼らは招待サークルや優先サークルを別枠で都合百五十サークルほど確保したりもしていたわけで、建前の一方で、やっていることはやっていたりもするのだが……)。
 しかし、そういう見た目のスマートさを追求した挙句がこの始末だったわけだ。カタストロフィーが起きなかったのは、サークルの自主的な努力と、彼らが「ゴロツキ」と思っていた他即売会スタッフの個人的な尽力と、一般参加者のおとなしさの結果だ。個々の現場のこみパスタッフが必ずしも努力しなかったとは言わないが、この規模の即売会ではノウハウと実力のなさは努力では補えない。もちろん、ある意味彼らに手足を縛られた状態での運営をCPSは求められたところもあるわけで、そういう意味ではCPSに同情しないわけではないが、即売会というのは結果が全てである。そして、結果という意味で言えば、彼らの不正入場を排除するという願いは、全くかなえられなかった。出入口ではチケットを持たない者が混乱に乗じて不正入場する事もできた。一般入場者列への横入りも横行した。そして、何よりも、あまりにも一般入場が遅れたため、一般参加者が会場にたどり着いたときには、めぼしいサークルの本は、そのほとんどをサークル参加者が買い尽くすことになった。果たして、これが、彼らの望む同人誌即売会だったのであろうか? こんなことになるなら、彼らが忌み嫌う「ゴロツキ」どもの方がよほどうまく即売会を開いただろう。それは間違いない。
 そして、即売会終了後、彼らのWebの掲示板には、この即売会に対する批判の声が多数上がった。その批判に対して彼らは一言も応えることなく、批判の書き込みを全て削除することで応えた。それが彼らのやり方なのだ。
 はっきり言おう。かつて我々は彼らに対して幻想をいただいていた。彼らは我々の仲間であると。確かにある時点まで彼らは我々の仲間だったかもしれない。しかし、大きくなってしまった彼らはもはや我々を向いていない。もはや彼らは我々の仲間ではないことを我々も認識すべきだ。彼らは同人誌即売会というものが(もしかしたら、いわゆる「おたく」というものすら)好きではないのだ。少なくとも他の企業ならこんな底の浅いことはしないだろう。例えばブロッコリーのコミック・キャッスルの引き際の鮮やかさを思い出してみるがいい。その差は歴然としている。
 そして、逆説的ではあるが、好きではないからこそ、彼らは同人誌即売会ゲーム「こみっくパーティ」を制作することができたとさえ言えるかもしれない……。

注)言うまでもないことであるが、タイトルは『話を聞かない男、地図が読めない女 男脳・女脳が「謎」を解く』(アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズ著 主婦の友社/角川書店)のパクリである。

Web掲載時の注)本文にあるボケナス氏の原稿は、当サイトにおいて未掲載である。

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