男性向け同人誌の危機を語ろう!

テープ起こしが遅れて間が抜けちゃいました新春(おいおい)特別対談(2000年8月)

[参加メンバー]
三崎尚人:同人誌生活文化総合研究所主宰。どうも、失うものがないらしいです、私。
岩田次夫:さすらいの同人誌評論家。同人誌の書庫のためにアパートを借りる男。
番頭  :さすらいの番頭さん(意味不明)。常に新しい同人誌が大好き。
ナナちゃん:さすらいの映画パンフコレクター。一番館館名入りが基本です。

[はじめに]

[三崎]皆さんあけましておめでとうございます(編注…対談が行われたのは、1月8日)。同人誌生活文化総合研究所のWebも2000年を機にリニューアルします(編注…しました)。その記念対談に今日皆さんに集まってもらったわけです。まあ、冬コミケの話からはじめて、ここのところ話題になっている「男性向け同人誌の危機」を中心に「女性系同人誌の復活」という話も織り交ぜていきながら話を進めていきたいと思います。

[細分化が進む男性系]

[三崎]まず冬コミケの男性系ですが…。
[番頭]売れる人は売れた、売れない人は売れませんでした、以上。
[ナナ]エロゲーは売れたのでは?
[三崎]いや、ジャンルはあんまり関係ないのでは? CD-ROMが山のように出たという話はあるけど。
[岩田]CD-ROMとカレンダーが山のように出て、カレンダーなんか部屋中全部飾ってもまだ追いつかないくらいいっぱいあるんですけど(苦笑)。職場で一枚だけ飾りました。
[三崎]何飾ったんですか(笑)?
[岩田]門井亜矢カレンダー。
[ナナ]うちの会社にも飾ってあるよ。
[三崎]日本Hマンガ研究所の巨乳カレンダーなんていかがでしょうか?
[番頭]あれは〜。
[ナナ]あれは〜。
[岩田]あれは、ちょっと(笑)。職場に張ったら、セクハラって言われてしまいます。
[三崎]話戻すけど、売れてない人は悲惨だった。×××なんて、コミケ閉場後のあまりの売れ残り状態に、どうするんだろうって思った。
[番頭]今、各書店に委託入ってるよね。
[岩田]ちょっと前までは完売していて、行列もできてたんだけど、この冬は行列もできないってサークルが結構あった。
[三崎]割と古手の大手系が今回厳しかったですね。
[ナナ]巨乳系ってだんだん弱くなってきてる。
[番頭]いや、巨乳系の中でも新規のサークルさんが出てきて、そっちの方のサークルに食われてる。部数そのものは書店で売ってるサークルの方が多いかもしれないけど、お客さんの食いつきは若いサークルの方がいいんだと思う。
[岩田]じゃあ、ロリ系が万々歳かというと、これも細分化してバラバラになっちゃってる。たとえば「はかなげ系」とか「スレンダー系」とか「リアル系」とか。それで、自分の好みに合うサークルだけ買う。この細分化は男性系全体に言えることで、これは末期状態だと思う。細かいジャンルの差異で勝負するというのは、ジャンルの末期の証拠だからね。
[三崎]いろんなパロディが氾濫してしてしまって収拾がつかなくなるという、「スラムダンク」より後の女性系と同じですね。
[岩田]いろんなパロディに分かれ、パロディの中でカップリングに分かれ、カップリングの中でシチュエーションに分かれ、どんどん細かくなって読者にすら判別しがたいところまで事態が進んでいってしまう。こうして差異で勝負すると、最初は売れ部数トータル的には落ちてないように見えるかもしれないけど、後は落ちるしかない。
[三崎]本づくり自体が狭まっていくから、縮小再生産にならざるを得ない。
[岩田]じゃあ、広くしようと思って勝負すると、大敗北しちゃう(苦笑)。

[書店販売の弊害]

[ナナ]よほどの本ではない限り、後でも買えるというのも、影響が大きい。
[三崎]同人誌の書店販売のマイナス面については、私も岩田先生も口を酸っぱくして言い続けていることなんですが、結局一部の人にしかわかってもらえていない悲しい現実があるわけですが(苦笑)。
[岩田]同人誌の書店販売は、結局最後はサークルの命を縮める。
[ナナ]同人誌って、限定モノなはずなのに、限定じゃなくなっちゃうということは、ダメなんだよね。
[岩田]書店で同人誌を売ることの弊害は、まず、「いつでも買える」ということは同人誌の希少感を無くしてしまう。で、「いつでも買える」という安心感から買わなくなってしまう。同人誌って一度抜けてしまうと、急速に離れてしまうからね。そして、書店に並ぶということは、普通の商業誌とコストパフォーマンスを比較されてしまう。書店販売って、だからものすごいマイナスなんだけど、ちょっと理解されていないかな、と思う。
[三崎]うちは書店でいっぱい売ってる、とかいう物言いも散見されますから、理解されてないんでしょうねぇ。
[番頭]後、五百円のモノが七百円とか、千五百円の本が千八百円とかで値付けされてると考えちゃうよね。
[三崎]その二〜三割のっかってる分って大きい。
[番頭]それがほんとに手に入らないモノというわけではないから、そういう価格設定ってつらいんじゃないかなぁ。
[岩田]長い間見てるけど、やっぱり書店で手に入らないサークルの方が長生きする。
[ナナ]古同人誌屋での販売と新刊の販売は別モノだから。古同人誌はレアなモノを高く売っているから生き続けているわけで、希少価値がそこにはあるからね。レア物と一般物の違いを判っておかないと。

[同人誌に対する可処分所得の減少 ]

[岩田]男性系の危機の要因はもう一つある。ギャルゲーの原画集を買ってる人間の買い方を見て気がついたんだけど、彼らの同人誌に対する可処分所得は意外に低い。
[三崎]女の子の買い手と同じで、何でも買うという読者じゃない。
[岩田]お金は持っているけど使わない。
[三崎]より若い子が多いから、トータルの所持金が多くないのは事実なんだけど、同人誌に自分の持っているお金を使う度合いが、以前の男性向けの客層に比べて明らかに低い。
[岩田]例えば、我々なら五万円をコミケットに持ってきたらば、三万とか四万まで使っちゃう。ところが、ギャルゲーの原画集を買うような人たちは、自分のほしいサークルの本さえ買えればいい。買えなければお金を持っていても何も買わない。
[三崎]何か他にいい本がないかな、とかはあんまり考えない。
[岩田]で、そういう人たちはそれではどうするかというと、西4の企業スペースに行って企業のレア物買っちゃう。したがって、外周のサークル以外のギャルゲーのサークルが売れているかと言えば売れていない。番頭さんが最初に言った「売れる人は売れた、売れない人は売れませんでした」というのはこのことだ。選択になるかならないか、言ってしまえばそれは、ギャルゲーの原画を描いているか描いていないかになる。
[三崎]評価軸が同人誌としてのおもしろさではない。
[岩田]しかもギャルゲーの原画描いてても自分たちの好みの絵柄じゃないと買わないから、そういうサークルには、列も大して出来ない。一般的にあるジャンルが伸びている時は、一番人気のあるサークルたちに半分くらい金を使って、次のサークルたちに3割くらい金使って…、という風に全体にお金が回っていくんだけど、この状況だとそこまでお金がまわらない。しかも、ギャルゲーの本って割と単価が安いじゃない。これでは金が入る一部のサークルを除けば、他のサークルは金も回らない。そうすると互いに買い合う、支え合うという体制もできない。
[三崎]「サークルは一番重要な買い手でもある」という原則は崩れちゃってる。それにギャルゲーの本を買う一般参加者って買い物が上手でない。
[番頭]一、二サークルだけ並んで終わりです。
[三崎]例えばCUT A DASH!に二時間半並ぶことの時間を金に換算したら、古本屋で買った方が安い、という極端だけどある意味真実を突いてる意見もあるわけだけど…。
[岩田]それは我々みたいな考えであって、若い子の考えていることは違う。彼らがそもそも欲しいのは例えばCUT A DASH!なわけ。じゃ、どうするかというとCUT A DASH!を三冊買って、Yahooかなんかで売り飛ばすか、他の誰かと交換しちゃう。代わりに偽住所不定が欲しいとか。
[番頭]猫屋敷が欲しいとか、Cork Boardが欲しいとか(笑)。
[岩田]今までは古同人誌屋でお金が回ったんだけど、今の状況では回らない可能性がある。自己消費みたいなものだからね。
[三崎]原則は物々交換という感じかな。
[岩田]典型的なのはエヴァ裏掲示板。見ていてなるほどなぁと思ったのは異常に交換希望が多いことね。金が動いてない。

[同人誌を越える商業誌の性表現]

[岩田]さらに別の要因としては、H表現で商業誌の表現の勢いがコミケットを越えているというのがある。以前はコミケットの方が激しかったのだけれど。
[ナナ]「つぶれて結構」でバンバンやってますからね。
[三崎]出版社はその雑誌をつぶせば済むだけど、即売会はつぶれればお終い。
[岩田]この状況は商業誌が明白に狙ってやっている。表現を激しくすれば売れるという以上に、ヘアヌードと同じで境界線をジリジリ広げてる。警察もたぶんこれをある程度までは黙認していると思う。警察がそういう姿勢なのは、おそらくインターネットの影響が一番大きい。ちょっとのぞけば、どこだって「パックリ」の性器を見ることが出来るわけじゃない。その時代に規制をかけても仕方がない。状況との乖離が激しくなるだけだからね。ただし、コミケットはこうした流れには乗れない。だから、「ガチンコ」のエロ本が欲しい人は同人誌を買うよりも商業誌を買っていると思う。
[三崎]これはエロ同人誌でオリジナルが減ってきて、パロディばかりになっているのとリンクしているのかな。同人誌ならではの持ち味が限られてきているのかもしれない。
[岩田]今、エロまんが雑誌って月に七十誌くらい発行されているんだよね。
[三崎]でも軒並みものすごい返本率なんですけど(苦笑)。
[番頭]どっちかというと、創作少年系みたいな作品が受けてるよね。
[三崎]これは少女まんがの問題とも似てるんだけど、少女まんがが衰退した大きな要因のひとつに現実の恋愛に置いてきぼりを食ったというのがあるんだけど、今のエロまんがを読むような若い子の一部は、別にまんがで性表現がなくてもいんじゃないかなぁ、という気がするんですけど、それは言い過ぎ?
[番頭]というか、エロ同人誌を見たときに、「これはいい!」と思えるレベルが上がっちゃってるから、普通程度のモノなら、別にエロ同人誌なんか読む必要がない、ってことだよね。支持されるサークルって数サークルしかいないわけでしょ。

[変わる客層・変わらぬ客層]

[岩田]冬に見てて思ったのは、サークルによって並んでいるお客さん層が全然違うんだよね。例えば、某有名まんが家の老舗大手サークルに行くと、列に並んでいるのは年寄りばかり(笑)。
[番頭]うーん、五年前に見たら、「ああ凄い本だ」と思うかもしれないけど、同じことを繰り返してそれが当たり前になっている。それに、若い読者にしてみれば、プロでえらい人の同人誌だと言われてもよくわからない。商業作品を読んだことすらないかもしれない。だから、魅力を感じようがない。
[ナナ]去年の夏に、若い子に新谷かおるって誰? とか言われちゃった。「エリア88」とか、知らないんだよね。
[番頭]それより、ギャルゲーの原画マンなわけですよ(苦笑)。
[岩田]だから、古いところに並んでいる人は昔から買ってた人たちが大半。五年前と並んでる人間は同じ。
[ナナ]ただ、五年前にいた人は減っているから、売れなくなってる。
[三崎]減ってるのかなぁ?
[ナナ]減ってるよ。五年前に五千人いたら、今はたぶん四千人くらいなんじゃないの?
[三崎]その減ってる千人というのは、単に違う本を買ってるだけなのでは?(笑)。
[岩田]大きいサークルの場合、昔だったら潜在能力として八千部売れる実力があったとしたら、五千部販売したとして、三千部の余裕があった。売れなくなっていると言っても、そのバッファ分がクッションになっているから、まだ少々部数を落とすくらいで完売できる。ところが中堅のサークルで、部数減がバッファも越えちゃうと、ドーンと一気に売れなくなってしまう。
[三崎]この傾向は、去年の夏くらいから出てきていて、この冬一気に顕在化したわけですね。
[岩田]冬コミケ前に何人かの個人的に知っている作家からも部数について聞かれたけど、基本的には絞った方がいいと答えた。
[三崎]私も、コミケの最中に何人か悩んでいる作家さんの話を聞きました。

[描き続けることの大切さ]

[岩田]ただ、この転換期の状況で作家はそれでも頑張って描いていくことが重要だと思う。なぜなら、読者というのは消えるわけではなく残っているんだから。確かに買う量は減っているかもしれないけど、それに追いつくように本を作って売ればいい。はっきり言って生き残り競争なんだけど…。
[三崎]で、その場合あんまり今の流行に左右されないで自分の持ち味を生かせる人が生き残ると思う。ギャルゲー系のかわいい絵柄が、このまま未来永劫もてはやされるわけではないからね。そのうち揺り戻しがくると思う。男性系の歴史って、「ロリ→巨乳→ロリ」という繰り返しがあるわけで、今はロリが流行だけど、また「巨乳」がウケる時代がしばらくしたら来ると思うから。
[岩田]きちんと描き続けていれば生き残るというのは、女の子パロディ全盛でエロ系が壊滅的だったあの時代を新田真子と森野うさぎがどう乗り越えてきたかを見ればわかるじゃない。描いてこなかったところは確実に潰れている。
[番頭]今の流行の描き手って、まんがが描けないじゃない。つまり、絵に魅力が無くなったらおしまいなわけで、ちゃんとまんがが描けて描き続けている人が強いよね。
[岩田]一番わかりやすいのは、「ハイエンド」ってもう終わっちゃったよね。ちょっと前まで列ができていたのに今はもう混まない。読者に飽きられちゃってる。
[番頭]読者にとっては 今までよりももっと好きな絵柄のサークルが出てきて、そういうサークルは少年創作のニセ壁に配置されてる(笑)。
[岩田]でも、それがそのまま続くかというとまた飽きられちゃう。流行の絵柄ってそんなもの。
[番頭]後、その後の商業展開がどうなっていくかにも関係してくるけど。
[三崎]絵的に消費されやすい絵柄だよね。しかも、「ハイエンド」とかの流行の括りで人気があっただけで、自分の絵の魅力だけで生き残れる人じゃないと厳しい。このままでいくと、ほんの数人しか生き残れないと思う。でも、このことは一年も前に我々は予言していたわけですが(苦笑)。
[岩田]それと同じことは、今のギャルゲーの原画マンたちにも言えると思ってる。先頭を走っているほんの数人だけが生き残ると思う。
[三崎]流行というのはそういうものですから。
[岩田]その中でも描き続けている作家は強いと思う。Bolze.なんて今の流行の可愛い絵柄ではなかったわけだけど、その強さを見るとね。
[番頭]えー、bolze.って今は流行の絵柄だよ(笑)。
[三崎]いや、あれが流行になっちゃったんだよ。
[ナナ]やっぱり、「描いてる」だけのことはあるよね。必ずまんが描くし。
[三崎]ギャルゲーの絵ってそもそもがアニメ絵で一枚絵だから、そこから、まんがの表現に落としづらい。
[ナナ]絵に動きもないからね。
[三崎]だから、あの絵のままにまんがを描くのはすごく難しい。そうすると、bolze.みたいに、可愛いけれども少しリアリティがあるような絵柄に持っていくようなヒネリが必要なんだと思う。
[岩田]ギャルゲーブームが終わったとしても、そのときに自分のオリジナリティのある絵を描いていて、まんがを描いている描き手は勝ち残ると思う。女の子の例だけど、C翼時代から描き続けているある作家がいる。彼女のサークルは規模で言えば中堅の下くらいだ。でも、今の商業誌の活動で見てみると、C翼から来た作家の中で、単行本を最も数多く出している一人は彼女だ。彼女はひたすら走り続ける長距離走者だね。そういうあり方もある。
[三崎]女の子の中堅サークルの場合、ある日突然大手になれる、というのがあるからね。
[番頭]同じことをしていても、そのサークルを知らない若い女の子の読者からすれば、ある日突然クオリティの高いサークルが現れるわけだから。
[三崎]ジャンルの巡り合わせが当たれば、ちゃんと中堅サークルとしてまじめに活動しているサークルはいつかは必ず大手になれる(笑)。
[岩田]結局は、まんがを描くしかないんだよ。
[三崎]当たり前の結論なんですけどね。
[岩田]どんなきれいな絵、どんな素晴らしい絵でも絵は進歩しない限りは飽きられる。進歩しないと、今のペースだと二年でか保たない。進歩していれば飽きられる前に新しいものが見えるからいいけど、読者は同じものを見せられたら、どんなにうまい人でも二年たったら飽きちゃう。特に今の男の子の読者はね。
[三崎]そう言う意味では、bolze.というサークルは象徴的だよね。絵も良し、話も良し。
[岩田]あそこは、ritという描き手も素晴らしいし、B1Hというプロデューサー兼原作者も有能だから。その相乗効果がよく出ている。
[三崎]まんがという意味では去年の夏のみつみ美里は良かったよね。
[ナナ]あれは良かったね。
[番頭]元々彼女は同人誌でまんが描いてた人だからね。

[女の子系の復調]

[岩田]ところで、一つだけほっとしているのは、女の子系が回復していること。明らかに女の子の客は増えている。
[三崎]その要因には何が考えられるんですかねぇ。
[岩田]実はまだあんまり思いつかないんだけど、せいぜい考えられるのは節約に耐えられなくなってるということかな。消費経済は回復しつつあるからね。後、商業誌の今のやおい系に飽きてきたんじゃないかな。
[三崎]それは、ボーイズ系のターゲットの狭さも問題だよね。
[岩田]ボーイズ系は苦しいときに売り上げ動向をこのパターンなら絶対売れるというパターンに絞り込んだ。それ自体は確かに間違いじゃない。ただ、全部がそれになっちゃった。
[三崎]学園ラブラブ(苦笑)。
[岩田]細かいパターンまで決まってるんだよね。ハッピーエンドあることとか、年下責めが云々とか完全にブランド化して固めちゃってる。それに読者が飽きてる。
[番頭]でも、新しい作家が出てきて同じ様なことやってるけどそれは売れているよ。そういう意味では飽きてはいないんじゃないかな。
[三崎]同じパターンでも作家が替われば目先も変わるけど。読者のレベルを考えるとそんなものかなぁとも思う。
[岩田]だから、ちょっと目先の変わった人、普通の商業誌から見ると、ちょっと違う人が人気が出る。×××なんてそうでしょ。我々にしてみれば、昔からよく見たパターンなんだけど、今の女の子から見れば新鮮。商業誌にはないし、書店に行っても同人誌買えないし。
[番頭]前はアニパロから入ってオリジナルに行っていたんだけど、今はオリジナルから入ってアニパロに行ってる人が多いから、アニパロが新鮮なんじゃないかな。自分の知ってる作品がいろんな風にアレンジされてて、しかも今まで自分が見たことないいい感じの作家さんだったりするわけで。後はアンソロジーから入ってくる人も多いかな。
[岩田]客層が変わってる。そうやって本が売れるということは、古くからのサークルの本も売れるわけで、そうすると、そういう古手サークルの人も余裕が出来てきて、本が買えるようになる。良い循環が少しはじまってきたんじゃないかな。
[三崎]パロディ自体も一時期の過剰な作品の消費がなくなってきたし。
[岩田]もう一つ大きいのは、赤ブーブー通信社がイベントを絞ったこと。一昨年の後半くらいから開催回数が減ったじゃない。これが大きかった。あのままのペースでやっていたら、もっとひどいことになっていたかもしれない。

[女の子系のオリジナルの不調]

[岩田]こうした合間の中で、女の子系のオリジナルは厳しいね。特に創作少女は壊滅的だね。
[三崎]創作少女系って、男の子の読者の比率が非常に大きいジャンルなんだけど、昔創作少女を買ってた人、買うような人は、最近はギャルゲー本買ってる(笑)。「可愛い系」の絵柄が好きな人って昔は創作少女に流れてたんだけど、今はみんなギャルゲーにいっちゃった。
[岩田]薄荷屋とかPINSIZEとかね。
[三崎]でじこもそうだし。この系統の場合は別にエロがなくても構わないからなぁ。

[女の子の方がしぶとい?]

[岩田]同人誌の場合、やっぱり好きでもないことを続けていったらパンクしちゃう。
[三崎]女の子の場合、実際一回パンクしたわけで。
[岩田]で、女の子の場合、居直ったヤツが勝ったんです(笑)。
[三崎]好きなものを好きなようにやる。
[岩田]売れなかったら、部数を減らせばいい。
[三崎]後は、徳川蘭子のように、二年間バックレて充電して、CGのテクを身につけた後で暴れる(笑)。
[番頭]現状、彼女に文句言える人いなくなっちゃったもんねぇ(苦笑)。
[岩田]女の子たちはあの苦しい時期をよく乗り切ったと思う。壊れちゃった人も思ったより多くなかったし。そのかわり…(編注…以下、あまりにセクハラなので数行削除)。後、みんなしっかりしてて、まじめだよ。××さんなんて、今でも一生懸命少年誌に投稿していて、後十年、二十年まんがで食べていこうと思ったら商業誌をちゃんとやって、同人誌は趣味でやる、って考えてるからね。
[ナナ]そういう意味では、男の子の方がしぶとくないね。なんかあると、すぐ死んじゃう(苦笑)。
[岩田]そうだね。女の子の方がしぶといよね。男の子の方が脆い。
[三崎]まんがを一生の仕事にすることのリスクというのは、男の子の方が大きいんだから、もう少し腹を括って一生懸命やれば? と思うこともしばしばあるんだけど。
[岩田]ちょっと情けないと思ったのは、男の子の作家で「うまくいかないので、実家に戻ります」とか言う作家がいたこと。おいおい、ちょっと待て、それは女の子のセリフだ(苦笑)。男でまんが描くというのは比較的繊細の人間が多いから、わからないんでもないんだけど、ある程度シビアな人間じゃないけど、厳しいかもしれない。どんなに忙しくても、コミケには本をだして、それなりのページ数のまんがを描くとかね。

[まとめ]

[岩田]冬が転換点だったと思う。夏は冬の転換点がもっと明らかになると思う。今盛り上がっているギャルゲーの人もこの夏がひとつのピークになるんじゃないかな。その後は、読めるものを出した作家だけが残り、新しいギャルゲーの原画の作家が出てくる。後、古くからやってるところはまんがをしっかり描いて堪え忍ぶ。これは是非言っておきたいんだけど、女の子たちはここ数年の冬の時代、部数が四分の一、五分の一に落ちた。それでも耐えた。男の子の方もそうなると思って耐えて欲しい。今の部数が四分の一になっても保つかどうか常に計算してほしい。生活も含めてね。
[番頭]それについては、既にこの冬でなりかけているよね。今まで当日千五百部売ってた人が千部売れてなくて、八百部とかになったりしてる。
[岩田]それが、四百部とか五百部とかになるという覚悟をしてほしい。それでサークルの運営ができるし、ご飯も食べていけるようにしておかないと、死ぬよ。レヴォとか他の即売会でも穴埋めできないからね。
[三崎]いや、逆にレヴォの方がもっと弱肉強食でしょう。
[岩田]で、書店売りは女の子の時でも実証済みだけど、最初のうちは息をつけるかもしれないけど、あっという間に売れなくなって、あっという間に引き取ってくれなくなる。
[三崎]女の子におけるアニメイトみたいに全国展開な店がないから、結局販路が限られるのも、メリットをより少なくしているよね(編注…虎の穴は店舗増やして好調のようだが)。
[番頭]やっぱり、売れ残って百円でいいからという感じで本が積んであるのは悲しいよね。あれ見ちゃうと「ダメだこりゃ」と思っちゃう(苦笑)。
[三崎]色々と異論もあるようだけど、危機が思い切り顕在化してから「危機だ」と言っても我々の価値がないので、今ぐらいからきっちり言っておこうというのが、今日の趣旨なわけなので(笑)。とりあえずお疲れさまでした。

(文中敬称略)

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