ホームへ戻るDO-PE 日曜日にはコミケでお茶を

内容

VOL.1 89年の同人誌界の状況。トルーパーブームについて。このころは、キャプテン翼に思い入れがあって、トルーパーについてはあまり好印象でないのが今から見ると笑える。
VOL.2 この号から対談形式になる。89年の総決算。UROBORSって、まだこの頃はNOUVELLE VAGUEだったのね。
VOL.3 ナディアについて。「若葉マーク男性のための女の子系サークル入門講座」なんていう企画そのものが時代だね。
VOL.4 「アニパロ・ポルノ批判」批判、「創作至上主義」批判。当時、コミティアを中心にしまうまJACKというサークルが暴れていたので、それを受けての。
VOL.5 90年総決算。プロ作家の同人誌急増。復活森野うさぎ。紫宸殿パワーを受けてのグランゾードブーム。里透みどり「ベルサイユの漫画家」。
VOL.6 美少女同人誌の書店での摘発事件を巡って。これ以降、同人誌でもいわゆる「パックリ」が御法度に。
VOL.7 商業誌=楽曲プロモート、同人誌=アーティストプロモートをリンクさせていくことで、描き手の人気を高めていく手法の検証。
VOL.8 自主規制後の性表現とは? 過激な描写を垂れ流せば済んだ時代が終焉、描き手はどうすべきなのか? ポストトルーパーのジャンルは何になる?

VOL.1 89年11月

 どうも、三崎尚人です。前から、同人誌のレビューがしたいよぉー、と喚いていたところ、編集のTさんが拾ってくれまして、このコラムを書くことになりました。以後よろしく。

 '89年の同人誌界を一言で言ってしまうなら、やはり、柳の下の2匹目のどぜう、トルーパーの年だった、ということで大方の文句はあるまい(ちなみに、言うまでもなく3匹目はシュラトである。ちゃんと柳の下にいるといいね、タツノコさん)。昨秋以来、あっという間にブームが盛り上がったこのジャンルだが、一連のC翼・星矢のブームの流れとは違った点がある。
 それは、トルーパー本を買っている女の子たちの多くが、新しいヒジョーに若い子ばっかりだ、ということ。では、今までブームを支えてきたおばさん・おねえさんたち(うーん、語弊があるなあ)の多くが、何故トルーパー本を買わないのか、という疑問が当然出てくる。
 同じ時間と空間を共有していなければ、実感としてはわかってもらえないだろうけど、あの幸福な疾風怒涛の時代はもう終わってしまった。既に熱も醒めてきている今の彼女たちに、かつての自分たちがそうであったような、何も知らない若い女の子のハイパー能天気パワーについていく元気はとてもないのだ。
 C翼ブーム最盛期、自分の好みとは違うカップリングの作家の悪口を言う、ということがよくあった(源小次なんて気持ち悪い、といった類のやつね)。今、C翼・星矢で、そんなことは言う人はほとんどいない。ところが、トルーパーでは、悪口の言い合いがものすごく、各即売会の配置担当者のトラブル回避の苦労は、並み一通りではない。ある意味大人になってしまったC翼ブームからのファンにとって、今の狂乱のトルーパーブームは、言ってしまえば馬鹿らしいものでしかない。
 そうは言っても、彼女たちにとって、トルーパー本がC翼本くらい必死になって集める程に面白ければ、むしりとった衣笠じゃなかった、昔とった杵柄、長蛇の列も厭わずに買いに走る。そうするだろうことは賭けてもよい。でも、C翼・星矢ブームの洗礼の中で出会った綺羅星のように輝く名作の数々に比べれば、長時間並んで買うほどの作品を、トルーパーブームは、彼女たちに(そして、ぼくに)与えてくれてはいない。
 たしかに、なかよしりぼんのみずき健、YAROW.Coの藤井尚之、HONOBONO COMPANYのKAPPA、STUDIO☆SIGHTの羽柴麟、といった作家たちが、良質の作品を描いていることは事実だ。しかし、彼女たちがかつて描いていたC翼本と今のトルーパー本とどちらが面白いかと言えば、絵そのものは描き慣れた今の方がはるかにうまいだろうけれども、ぼくは前者を取る。
 特に藤井尚之については、ぼくが男であることもあって、創作系の田村みゆき(藤井尚之の別ペンネーム)としての印象が強い。『MILK AVE.』(有名ブランドPINK HOUSEネタの本。)みたいなジャンルの方が、彼女らしく完成度も高いと思う。これは、最近の『一蓮托生』(草尾毅との遭遇記)、『レインボーパラダイス2』(NG5のイベントルポ)といった半オリジナル本を見てもよくわかる。だーかーら、早く『MILK AVE.3』を出して下さい、お願いします(と、突如、文体が変わる)。
 はっきり言ってしまうと、なんかこのトルーパーブームはあざとい。生き残るためにみんなで無理やり作った楽園、といった面を否定できない。ひとことで言って素直じゃない。これが高河ゆんくらいの天才だったら、あざとさすら美学にしてしまうんだろうけど(注・これは誉め言葉である。誤解無きよう)、それは高河ゆんだからこそ出来る芸当だ。
 たかが同人誌、そんなに片意地張るほどのものでもない。自分の好きなことを自由にやればそれでいい。例えば、おすてきシスターズのF.S.S.本『おすてきくらぶ』はかわいらしい佳品だし、岩崎翼(なんぼ企画)の『春夏秋冬』は、その気楽さが魅力だ。自分自身が楽しむことが、面白い本を作るはじめの一歩となるのは当り前の話。商業誌じゃないのだから。

 トルーパーについて長々話していたら、残りが少なくなってしまったので、少し先を急ぐ。
 他のパロディ系では、星矢の金ひかる(だむだむ団)のがんばりがいい。春コミケに出した上製本『ALPHABET』で見せた力量は大したもの。また、最近多いプロのお遊びで大爆笑ものだったのは『SOS!銀河英雄来襲』(鳥兜組)。明智抄・道原かつみが参加しているのだが、道原かつみの『銀英伝』TV版キャラがすごい。メインキャラ全部が女性(!)の設定なのである。
 話を創作系に移そう。最悪時は退廃的とまで言われた創作系だが、最近少しずつ熱気が高まっている。その要因の一つには中村公彦「ぱふ」編集長をリーダーとする創作同人誌即売会コミティアの存在がある。年寄りのお茶会MGMとは違って、場としての自覚を基にした戦略的な即売会運営は、量的には五百サークル、TRCの1ホールを埋めるまでに発展した。コミケットに来る創作系サークルが約2千サークルであることから考えると、この数がいかに大きいか。しかし、コミティアは他の凡庸な即売会と違って、入れ物を人とサークルで埋めることだけでは満足しない。コミティアの目指すのは、質的進化だ。量にかまけて質を問えなくなったコミケット(方針が来るもの拒まずなんだから、仕方無いのだが)、質に固執し活力を失ったMGM、二つの反面教師が目の前にある。これからが正念場。
 そんな中で、何冊か本を挙げておくと、境朗代・高哉和晞らの『TO・DAY』(A-GIRL)は、かわいいらしい絵柄の少女まんが系サークルの良質部分を概観するのには格好のアンソロジー。厦門潤(P.P.P.INDEX)が同人誌にケリをつけるために出した『DRAGON CYCLE』は、さすがの出来。少年系では、『Little SANDY with MONSTERS in the MEGAFOREST』を出した、ないとうやすひろ(KAMONEGI SWITCHBLADE)に注目したい。
 いよいよ残り少なくなってきたが、最後に美少女系にいってみよう。
 春コミケで新旧交代は完全に定着した。そして、その象徴とも言えるのが、春コミ後の商業誌の同人誌紹介コーナーに起こったNOUVELL VAGUE旋風だろう。シャープな絵柄、しっかりした話、それでいて確かな<描写>。ライターたちがこぞって取り上げたのも無理もない(ぼくだって同じ立場なら紹介してしまうと思う)。
 とはいうものの、夏コミケの美少女系サークルを見ると、炬燵屋CO.LTDがまず切り開いたこの新しい状況に、続くであろうサークルの伸び悩みが目立つ。ひとりムチャクチャ元気だったのは、BANANA本舗のわたなべみなみくらいか(ニセ悠理愛のネタには爆笑)。レベルは決して低くはない。ただ、早くも与えられたポジションに満足してしまっているような気がする。美少女系の買い手はあまりシビアではないので、適当に描いていれば、だますことはたやすい。でも、それではいままでとなんにも変わらない。お世辞にも絵が巧いとは言えず、絵柄も古いのに、ルナ・インダストリア期待の新人堀川悟郎に人気が集まっているのは、彼のまんがの真摯なまでの愚直さ故だ。各サークルにはいま一歩踏み込んだ努力を期待したい。

 とまあ、第1回目ということなので(次があらんことを!)きわめて大雑把ながら同人誌界の現状をながめてきました。つまり、ぼくの言いたいのは、女の子には、止まらなくなった回転木馬から早く降りなさい、ということ、そして、動きだしたばかりでろくろく加速度もついていないのに、押すのを止めてしまう男にはもっと頑張れ、ということです。
 大状況の話ばかりで、個々のサークルにあまり触れることが出来ず残念でしたが、次回は多分'89を振り返って、という感じになると思うので、細かいサークルのことまで話してみたいと思います。
 意見・感想・反論のお手紙は大歓迎、お待ちしております。
 それでは皆さんよいお年を。
     (文中敬称略)


VOL.2 90年03月


[美少女系]


[オリジナル]


[パロディ]


[まとめ]


[今回のおまけ]


VOL.3 90年06月

[ふしぎの海の青の6号「ヤマト」]


[夏コミ直前女の子系サークル入門講座]

[C翼系]

(1)フォノW・G

(2)MBパブリケーション

(3)うぐいす姉妹

[星矢系]

(4)紫宸殿

(5)だむだむ団


VOL.4 90年10月


[「金儲け批判」批判]


[「アニパロ・ポルノ批判」批判]


[「創作至上主義」批判]


(10月12日高田馬場・鳥やすにて)


VOL.5 91年01月


[美少女系]


 [メジャーパロディ系]


 [パロディその他]


[創作系]


 [最後に]


(1月25日 伊勢丹ロイヤルコペンハーゲンティーラウンジにて)


VOL.6 91年04月

 [例の事件について]


[時代は男とオリジナル]

 (3月25日新宿レカンにて)


VOL.7 91年07月


[女の子はナルシスト]


[同人誌=アーティストプロモ?]

(7月25日池袋OLD/NEWにて)


VOL.8 91年10月


[とりあえず無事に終わったけれど…]


[規制の中の表現とは?]


[トルーパーブームついに終焉。次は?]


[今回の1冊]

(10月25日麹町アジャンタにて)

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