内容 |
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VOL.1 | 89年の同人誌界の状況。トルーパーブームについて。このころは、キャプテン翼に思い入れがあって、トルーパーについてはあまり好印象でないのが今から見ると笑える。 |
VOL.2 | この号から対談形式になる。89年の総決算。UROBORSって、まだこの頃はNOUVELLE VAGUEだったのね。 |
VOL.3 | ナディアについて。「若葉マーク男性のための女の子系サークル入門講座」なんていう企画そのものが時代だね。 |
VOL.4 | 「アニパロ・ポルノ批判」批判、「創作至上主義」批判。当時、コミティアを中心にしまうまJACKというサークルが暴れていたので、それを受けての。 |
VOL.5 | 90年総決算。プロ作家の同人誌急増。復活森野うさぎ。紫宸殿パワーを受けてのグランゾードブーム。里透みどり「ベルサイユの漫画家」。 |
VOL.6 | 美少女同人誌の書店での摘発事件を巡って。これ以降、同人誌でもいわゆる「パックリ」が御法度に。 |
VOL.7 | 商業誌=楽曲プロモート、同人誌=アーティストプロモートをリンクさせていくことで、描き手の人気を高めていく手法の検証。 |
VOL.8 | 自主規制後の性表現とは? 過激な描写を垂れ流せば済んだ時代が終焉、描き手はどうすべきなのか? ポストトルーパーのジャンルは何になる? |
どうも、三崎尚人です。前から、同人誌のレビューがしたいよぉー、と喚いていたところ、編集のTさんが拾ってくれまして、このコラムを書くことになりました。以後よろしく。
'89年の同人誌界を一言で言ってしまうなら、やはり、柳の下の2匹目のどぜう、トルーパーの年だった、ということで大方の文句はあるまい(ちなみに、言うまでもなく3匹目はシュラトである。ちゃんと柳の下にいるといいね、タツノコさん)。昨秋以来、あっという間にブームが盛り上がったこのジャンルだが、一連のC翼・星矢のブームの流れとは違った点がある。
それは、トルーパー本を買っている女の子たちの多くが、新しいヒジョーに若い子ばっかりだ、ということ。では、今までブームを支えてきたおばさん・おねえさんたち(うーん、語弊があるなあ)の多くが、何故トルーパー本を買わないのか、という疑問が当然出てくる。
同じ時間と空間を共有していなければ、実感としてはわかってもらえないだろうけど、あの幸福な疾風怒涛の時代はもう終わってしまった。既に熱も醒めてきている今の彼女たちに、かつての自分たちがそうであったような、何も知らない若い女の子のハイパー能天気パワーについていく元気はとてもないのだ。
C翼ブーム最盛期、自分の好みとは違うカップリングの作家の悪口を言う、ということがよくあった(源小次なんて気持ち悪い、といった類のやつね)。今、C翼・星矢で、そんなことは言う人はほとんどいない。ところが、トルーパーでは、悪口の言い合いがものすごく、各即売会の配置担当者のトラブル回避の苦労は、並み一通りではない。ある意味大人になってしまったC翼ブームからのファンにとって、今の狂乱のトルーパーブームは、言ってしまえば馬鹿らしいものでしかない。
そうは言っても、彼女たちにとって、トルーパー本がC翼本くらい必死になって集める程に面白ければ、むしりとった衣笠じゃなかった、昔とった杵柄、長蛇の列も厭わずに買いに走る。そうするだろうことは賭けてもよい。でも、C翼・星矢ブームの洗礼の中で出会った綺羅星のように輝く名作の数々に比べれば、長時間並んで買うほどの作品を、トルーパーブームは、彼女たちに(そして、ぼくに)与えてくれてはいない。
たしかに、なかよしりぼんのみずき健、YAROW.Coの藤井尚之、HONOBONO COMPANYのKAPPA、STUDIO☆SIGHTの羽柴麟、といった作家たちが、良質の作品を描いていることは事実だ。しかし、彼女たちがかつて描いていたC翼本と今のトルーパー本とどちらが面白いかと言えば、絵そのものは描き慣れた今の方がはるかにうまいだろうけれども、ぼくは前者を取る。
特に藤井尚之については、ぼくが男であることもあって、創作系の田村みゆき(藤井尚之の別ペンネーム)としての印象が強い。『MILK AVE.』(有名ブランドPINK HOUSEネタの本。)みたいなジャンルの方が、彼女らしく完成度も高いと思う。これは、最近の『一蓮托生』(草尾毅との遭遇記)、『レインボーパラダイス2』(NG5のイベントルポ)といった半オリジナル本を見てもよくわかる。だーかーら、早く『MILK AVE.3』を出して下さい、お願いします(と、突如、文体が変わる)。
はっきり言ってしまうと、なんかこのトルーパーブームはあざとい。生き残るためにみんなで無理やり作った楽園、といった面を否定できない。ひとことで言って素直じゃない。これが高河ゆんくらいの天才だったら、あざとさすら美学にしてしまうんだろうけど(注・これは誉め言葉である。誤解無きよう)、それは高河ゆんだからこそ出来る芸当だ。
たかが同人誌、そんなに片意地張るほどのものでもない。自分の好きなことを自由にやればそれでいい。例えば、おすてきシスターズのF.S.S.本『おすてきくらぶ』はかわいらしい佳品だし、岩崎翼(なんぼ企画)の『春夏秋冬』は、その気楽さが魅力だ。自分自身が楽しむことが、面白い本を作るはじめの一歩となるのは当り前の話。商業誌じゃないのだから。
トルーパーについて長々話していたら、残りが少なくなってしまったので、少し先を急ぐ。
他のパロディ系では、星矢の金ひかる(だむだむ団)のがんばりがいい。春コミケに出した上製本『ALPHABET』で見せた力量は大したもの。また、最近多いプロのお遊びで大爆笑ものだったのは『SOS!銀河英雄来襲』(鳥兜組)。明智抄・道原かつみが参加しているのだが、道原かつみの『銀英伝』TV版キャラがすごい。メインキャラ全部が女性(!)の設定なのである。
話を創作系に移そう。最悪時は退廃的とまで言われた創作系だが、最近少しずつ熱気が高まっている。その要因の一つには中村公彦「ぱふ」編集長をリーダーとする創作同人誌即売会コミティアの存在がある。年寄りのお茶会MGMとは違って、場としての自覚を基にした戦略的な即売会運営は、量的には五百サークル、TRCの1ホールを埋めるまでに発展した。コミケットに来る創作系サークルが約2千サークルであることから考えると、この数がいかに大きいか。しかし、コミティアは他の凡庸な即売会と違って、入れ物を人とサークルで埋めることだけでは満足しない。コミティアの目指すのは、質的進化だ。量にかまけて質を問えなくなったコミケット(方針が来るもの拒まずなんだから、仕方無いのだが)、質に固執し活力を失ったMGM、二つの反面教師が目の前にある。これからが正念場。
そんな中で、何冊か本を挙げておくと、境朗代・高哉和晞らの『TO・DAY』(A-GIRL)は、かわいいらしい絵柄の少女まんが系サークルの良質部分を概観するのには格好のアンソロジー。厦門潤(P.P.P.INDEX)が同人誌にケリをつけるために出した『DRAGON CYCLE』は、さすがの出来。少年系では、『Little SANDY with MONSTERS in the MEGAFOREST』を出した、ないとうやすひろ(KAMONEGI SWITCHBLADE)に注目したい。
いよいよ残り少なくなってきたが、最後に美少女系にいってみよう。
春コミケで新旧交代は完全に定着した。そして、その象徴とも言えるのが、春コミ後の商業誌の同人誌紹介コーナーに起こったNOUVELL VAGUE旋風だろう。シャープな絵柄、しっかりした話、それでいて確かな<描写>。ライターたちがこぞって取り上げたのも無理もない(ぼくだって同じ立場なら紹介してしまうと思う)。
とはいうものの、夏コミケの美少女系サークルを見ると、炬燵屋CO.LTDがまず切り開いたこの新しい状況に、続くであろうサークルの伸び悩みが目立つ。ひとりムチャクチャ元気だったのは、BANANA本舗のわたなべみなみくらいか(ニセ悠理愛のネタには爆笑)。レベルは決して低くはない。ただ、早くも与えられたポジションに満足してしまっているような気がする。美少女系の買い手はあまりシビアではないので、適当に描いていれば、だますことはたやすい。でも、それではいままでとなんにも変わらない。お世辞にも絵が巧いとは言えず、絵柄も古いのに、ルナ・インダストリア期待の新人堀川悟郎に人気が集まっているのは、彼のまんがの真摯なまでの愚直さ故だ。各サークルにはいま一歩踏み込んだ努力を期待したい。
とまあ、第1回目ということなので(次があらんことを!)きわめて大雑把ながら同人誌界の現状をながめてきました。つまり、ぼくの言いたいのは、女の子には、止まらなくなった回転木馬から早く降りなさい、ということ、そして、動きだしたばかりでろくろく加速度もついていないのに、押すのを止めてしまう男にはもっと頑張れ、ということです。
大状況の話ばかりで、個々のサークルにあまり触れることが出来ず残念でしたが、次回は多分'89を振り返って、という感じになると思うので、細かいサークルのことまで話してみたいと思います。
意見・感想・反論のお手紙は大歓迎、お待ちしております。
それでは皆さんよいお年を。
(文中敬称略)
- <たかコ>どうも、今度からこのコーナー担当のながの☆たかコで〜す、よろしくね!
- <なおと>これこれ、私の立場はどーなる!?
- <たかコ>あれー、三崎尚人せんせは、文章が固いからクビだ、って編集のSさんが言ってましたよ。
- <なおと>(ぐさっ!)いいよ、いいよ、どうせオレの文章は固いよ、フンだ…いじいじ。
- <たかコ>なにいじけてるんですか…今回は'89総決算なんでしょ。さっさと行きましょうよ。
- <なおと>はいはい、若いもんにはかなわないねー。
[美少女系]
- <なおと、以下N>じゃあ、最初はすけべい本からいってみようかな。
- <たかコ、以下T>わーい、えっち、えっち、えっ…
- <N>あのねぇ…ええと、去年の美少女同人誌は、はっきり言ってロクなもんじゃなかった。特に冬は、年3回のコミケで皆息切れしちゃって、メタメタ。
- <T>女の子と違って、男の人って量産が効きませんからねぇ。
- <N>だけど、質が悪くても、本は売れるから反省しない。特にMくん事件は、逆に寝た子を起こしちゃったから、事件以後、明らかに買い手が増えた。だから、ますますゴミ本でも、パクリでも売れる。
- <T>悠○愛さんなんか、商業誌であれだけ描けるのに、最近は同人誌だと絵が荒れ放題!!悲しくなっちゃいます。
- <N>千葉商○大漫研のスペースで一生懸命売ってた頃の初心をわすれないでほしいよね。結局、面白い本を出したのは、NOUVELL VAGUE、BANANA本舗、UNION OF THE SNAKE、ルナ・インダストリア、炬燵屋CO.LTD、といった前回挙げたサークルばかり。後は、ラブアタックのちんぽなめぞう(このペンネームどーにかならんのか、書く方がハズい)さんかな。企画物では、FITS PROJECTの浦島礼仁さんのよい子の学習エロまんが本『まんがはじめて面白塾!!』が、目新しくて笑えたくらいかな。
- <T>私は、ミラクル会での萩原一至さんの大暴言まんが(『激バカジャングル』の『レシピ』)が大笑いでした。
- <N>あの、「ジャンプ」編集部で大問題になったという作品ね。でも、あれだけのこと書かれても、萩原一至を切れなかった「ジャンプ」って、よっぽど、人材不足なんだね。あっ、そうだ、プロと言えば、江古田グループ(笑)もすごかった。
- <T>『ゴミゴミ』では大好きな奥○○○さんのまんがが、服も脱いでないのにすごくヤラピくて、お気に入りでーす。
- <N>誰かも言ってたけど、女の子のパワーを嘆くだけじゃ何も解決しない。自分達で戦わなければね。今の流行を作った竜哭鵠(炬燵屋CO.LTD)さんが、今までとは全く違ったオリジナル作品『回転木馬STAGE0』で生みの苦しみを見せてたのには、驚いた。だって、彼なら、遊んでたって読者はついて来るのに、わざわざ次のステップをめざしているんだもの。作品的には時間的な制約もあったんだろうけど、失敗作。でも、チャレンジ精神はいくら評価してもし足りないね…ん!?
- <T>(ぐー、ぐー、ぐー)
- <N>こらー、寝るなー!!
[オリジナル]
- <N>ところで、去年一番活躍した同人作家って誰だと思う?
- <T>えー、わかんなーい。
- <N>(ええい、この娘はー)実は私も意外だったんだけど、佐藤真理乃(SUGAR LEAGUE)さんじゃないか、と思うんだ。
- <T>ああ、小室哲哉命のすごーく元気のいいお姉さんですね。
- <N>怖いもの知らずな発言だねー。確かに彼女のバイタリティには敬服するね。大長編のTM本『KISS YOU』、巽−サイバーパンク−孝之さんも参加した野阿梓本『NOAH BOOK』、初期作品集の『XYZ』…しかも、合間にディスコパーティや原画展までやっちゃうんだからすごい。
- <T>でも、ディスコパーティは大赤字だったって聞いたよ。
- <N>そういう問題じゃない、これは。志のことを言いたいわけ。こういう発想って、男じゃ絶対無い。出来ないならともかく、根本的に男のサークルって、作家も読者も本以外でコミュニケートする気が無いからね。
- <T>他に創作だと、やっぱりラムフォリンクス2ですね。
- <N>ここ数年、創作の女の子達を引っ張ってきたラム2だけど、去年もよく頑張った。特に時枝理子さんの活躍は目ざましかった。個人誌『トルコ銀貨』を始めとして、どの本でもピュアな世界を構築してた。
- <T>アニパロで高河ゆんもどきや、尾崎南もどきっていっぱいあるけど、創作でもラム2もどきってありますよね。
- <N>美少女系でも富本達矢もどきが多かった。ある意味、真似されれば一流ってところかな。 後、一気にまとめちゃうけど、FT・SF系では、厦門潤さん(P.P.P.INDEX)の『DRAGON CYCLE』と、春日聖生さん(天満星)の『非天-ASURA-』の圧倒的な完成度は、他とはもう格が違う。その他挙げていくと、やなせあろいさん(グループサクサク)の『YUMEOMIMASHO』、神矢そらいさん(BATTLE PROJECT)の『LOVIN' YOU』、北神亮さん(SWAT企画)の『天狼神話〜鬼神の章〜』ってところは、意外に知られて無いけど押さえておきたいね。
- <T>このへんのサークルはフツーの男の人でも楽しめます。
- <N>そういうのしか、挙げなかったんだから、とーぜんです。
- <T>それから、パロディやってる女の子でオリジナル始めた人が、すっごく増えました。
- <N>岩崎翼さん・後藤惺さん(おきどきくらぶ)のクリスマス本『WINTER LOUNGE』は、チャーミングでとても面白かった。
- <T>後、うぐいす姉妹の『ぼけきょ』が、すごいなあ。特にTonoさん。
- <N>あれは、結局は高野文子の『田辺のつる』なんだけど、でもよく出来てた。ぼけ老人まんがなんて同人誌だから出来る作品だね。
- 男性向けのサークルではやはり鴨葱スウィッチブレイドの内藤泰弘さんが、去年最大の注目作家。それ以外には、たいらはじめさん(LTM)の『LUMINARY』、大作『Gush』をひっさげて久々復帰のたかせようさん(LITTLE)あたりがおすすめかな。
- <T>わたしは、乃美康治さんの『とりあたまくん2』と、酒井佐知子さん(赤ちょうちん)の『さっちゃんずBOOK2』が、どちらもハートウォーミングでお気に入りです。
- <N>みんなで内藤泰弘さんを持ち上げていて、芸が無いけど、ホント、少年まんが系にはいい作品がなかった。もっと、男の子はがんばってほしいな。
[パロディ]
- <N>男性系パロディでは、高橋留美子系で、高い人気を得ていたSTUDIO不可思議が解散した。最後の本『SEEN』は、主催者の狭間雅志さんの愛のこもったイラスト集だね。その他のアニパロでは、可愛い絵柄とブッとんだギャグセンスが楽しい、もりしたかなめさんの初の個人誌『PANIC★PANIC』がいいな。
- <T>女性系パロディでは、C翼で懸案の本2冊がやっと出ました。一冊は商業誌とトルーパーで遅れに遅れていたなかよしりぼんの百ページ本。ショタコンの女王みずき健さんの本領はやはり、C翼だと思うけどなあ…もう一冊は、小林昭夫さん(MBP)の個人誌『若島津君の華麗な世界』。ギャグとシリアスの取り合わせが妙味です。
- <N>星矢では、フェニックスこすりさん(世紀末かしら)の『渚のセニョリータ』が、おかしい。彼女は、冬コミでえり子本『LOCO-MOTION DREAM』も出しており、あのDr.モローさんもお気に入りだそうだ。
- <T>後、遅れに遅れていた、高河ゆん・綾部未来の合同J9本『目でみる動物図鑑』が4年遅れで発行されました。
- <N>去年高河ゆんでまともな本はこれ一冊なのに部数が非常に少ない。将来コレクターズ・アイテムになるのは必至だね。
- <T>その他は、おときた工房の魔女宅本『MAJO MAJO MARKET』、F.S.S.の次は「トップ!」だった巣田祐理子さんらの『おすてきくらぶ3』が、とってもかわいい氈B
- <N>銀英伝では某大先生(御自身で明かしてない以上、名前はヒミツ。絵を見れば一発で誰だかわかるけど)が、久々に同人誌界カムバックで『ごめんね銀英伝』(ごめんね商会)を出しました。さすがに面白い本となってました。
[まとめ]
- <T>全体としては、去年は、まあまあの年だったですよね。
- <N>エロを除けばね。ほんとはもっと挙げたい本とかあるんだけど、紙面の関係でここまでです。まあ、大体のトレンドは、前回と今回でフォローしたつもりだけど。
- <T>噂では、夏コミの申込が1万5千通を越えたそうです。
- <N>ますます、大きくなる同人誌界、質的な拡大も伴って欲しいよね。
- <N、T>それでは、また次回です。さよーならー。
[今回のおまけ]
- <N>わーい、田村みゆきさん(YAROW.Co)が、3年ぶりの女の子本『ANGEL』を出しました。
- <T>なんと、WINK本です。とってもかわいい
- <N>ちょっと<百合>してるのがいいなあ...むふふ...
- <T>三崎先輩のエッチー!
[ふしぎの海の青の6号「ヤマト」]
- <なおと、以下N>いーま、きぃーみーの
- <たかコ、以下T>セ・ン・パ・イ!!!
- <N>あっ、ゴメンゴメン。
- <T>頭痛い…カンペキに「ナディア」にハマってません?
- <N>そのとーり。「ナディア」は久しぶりに楽しいTVアニメなので、おにーさんはとってもうれしい氈@同じGAINAX制作の「トップをねらえ!」も、面白かったんだけど、あそこまで調子に乗って作品を作ると、自己完結しちゃって、イメージが広がらなかったんだよね。だから、近来最高の<またたびアニメ>だったのに、同人誌で流行らなかった。まあ、OVAというマイナーメディアだったということもあるだろうけどね。
- <T>なーるほど。では、「ナディア」は?
- <N>ところが、この「ふしぎの海のナディア」では、NHK・TVアニメという外部的制約がうまく働いている。「ヤマト」や宮崎アニメからの<引用>がわからなくても、フツーに観ていて楽しめる。あくまでもパロディやお色気は隠し味。そして、そういう作品の方が同人誌でウケるのは、歴史的必然。このことは、高橋留美子や「オレンジロード」は、ウケたけど、「BASTARD!」はウケなかったことを考えればわかると思う。喧嘩承知で言ってしまえば、同人誌のパロディを同人誌でしても仕方がない。
- <T>じゃあ、夏コミケの美少女系では「ナディア」本が多そうですね。でも、主人公が肌の色の黒い女の子なのに、ホントーにウケるかなぁ?
- <N>確かに、そこがネックなんだよね。トーン代もかかるし(笑)。でも、ベトナム○民まんがなんか描いてるTA○Kあたりが、黒○ネタの同人誌を作りそうな気がしない?
- <T>ありがちー。でも、このサークル、Mくんネタとか、作品の出来はいいけど後味が悪い作品が多いので、私は個人的にはあまり好きではありません(だって女の子だもん)。
- <N>私は、固定観念の打破と価値観の相対化ということで結構気に入ってますけど。あっ、「後味の悪い」で思い出したけど、庵野監督は記者会見で、抱負を尋ねられて、「後味の悪い作品にしたい」とか言っちゃって、場を真っ白にしちゃった、って噂で聞いたぞ。
- <T>でも、逆に、ちゃんと人種差別の問題なんか描いたら、後味悪くなるかもしれないけど、それはそれで立派ですよね。
- <N>むづかしいけどね。まあ、今後に期待と言うことですな。
[夏コミ直前女の子系サークル入門講座]
- <T>さて、全く話が変わりますが、前の号の「DO−PE」の阿素湖素子さんの「全国イベントご案内」は、ジャンルにこだわったりして、面白かった。ちゃんと女の子系のサークルについても触れてましたし。
- <N>確かにね。メディアとしての即売会、というのに早くから気づいて活動してきた阿素湖さんらしいバランス感覚だね。商業誌では「花ゆめ」や高河ゆん、CLAMPを読んでる男の子はたくさんいるのに、そういった男の子が、これらと志向性は大差ない女の子系パロディ同人誌は読めない、というのは確かにおかしいもんね。一歩前に歩くだけなんだけど、その一歩がなかなか踏み出せないんだろうなぁ。阿素湖さんがこういう文章を書いたのもすごーくわかる。まあ、同人誌はズリネタだ、と思ってる馬鹿には関係無い話だけど。
- <T>わー、過激な発言。でも、阿素湖さんの「女の子のジャンルにもアタックしてみたら?」という発言だけでは足らないと思いません?
- <N>というと?
- <T>だって、今の大規模な即売会で自分の知らないジャンルの中にほうりだされたら、自分にむいてる本なんか探せるわけないじゃない。
- <N>そりゃ、そうだ。夏コミケなんか二日で一万三千サークルだもんな。
- <T>そこで、サークルにこだわるこのコラムとしては、「若葉マーク男性のための女の子系サークル入門講座」をやりたいの…
- <N>うーん、いいけど、なんかこのタイトル、えっち。
- <T>考えすぎですよー(と言いつつ顔真っ赤)。
- <N>で、条件は?
- <T>(気を取り直して)そ、そうですね。純粋に考えて面白いこと、できれば<やおい>なし、あっても激しくないか、笑えるもの、あまり玄人ウケなサークルは慎む、こんなところでどう?
- <N>その基準だと、前に紹介したのと少しダブるけど、まあいいか。「入門講座」だから。
[C翼系]
(1)フォノW・G
- <T>商業誌でも活躍中の某先生のサークルでーす。
- <N>昨年までは、別サークルでのグループ活動がメインだった彼女ですが、他のメンバー達の多くがトルーパーに転んじゃって、このサークルが空中分解しちゃったので、独立して作ったサークルです。
- <T>この間出した、「Vision Image」は、かつての個人誌「銀の羽」と並ぶ傑作です。
- <N>中学生の男の子の微妙な心理を鮮やかに描いているね。C翼というものをここまで愛せる河内さんは本当に幸せだ。「皆が去っても私だけは愛し続けるわ」みたいな決意が伝わってくる。
(2)MBパブリケーション
- <T>名古屋の小林昭夫さんのサークルです。C翼以外にもオフサイドやオリジナルもやってます。
- <N>華麗でシャープな絵柄の割にギャグが効いてるのかお気に入りですが、シリアスも読ませる。
- <T>本としては、「俺ってすごい」のシリーズが、なんか変で好き!
- <N>松木君が女装する話が大爆笑。
(3)うぐいす姉妹
- <N>広島で姉妹でやってるサークル。お姉さんのTonoさんは、「いーず」(後藤隆幸が表紙のアンソロジー)でも活躍中。
- <T>「ふわふわ」とか「めけめけ」とか、フツー考えもつかないようなタイトルの本で、妙な味わいの本を出してます。
- <N>女の子でも、気付いていない子が多いけど、結構奥の深いサークル。 どうしたら人と人が愛し合えるのか、というのが、今のパロディ同人誌の作品において最重要なテーマの一つ。問題は、その表現方法であって、尾崎南みたいに鋭く描き出して読者に緊張を強いるのも一つの方法だし、このうぐいす姉妹のようにオブラートに包みながらも、読み終った後に、心の中にじわりと気持ちが沸き起こるのも、またよいものですよ(死語)。なめちゃあかんサークルだ。
[星矢系]
(4)紫宸殿
- <T>ここ1年で最も力量が上がったサークルの一つです。
- <N>失礼な話だけど、最初の頃は何で人気があるんだろう、とか言って、皆で不思議がっていたんだよね。
- <T>元々は星矢のサークルなんですけど、最新刊のグランゾート本「C.DARWIN」がすごい。
- <N>今年上半期の同人誌BEST3に絶対入れたいね。ラビと大地の初体験話『進化論』は、五十ページかけて二人の気持ちの変化を丹念に追っていって、傑作。
- <T>特にラスト直前の見開きページに私、感動しちゃった。
- <N>「やおい」というのは、一言で言ってしまえば、ピュアな愛を描くための方法論であって、男と男の同性愛と考えるより、単一の性という性差の無い世界を仮定していると考えた方がわかりやすい。その商業誌での成功例が高河ゆんの「アーシアン」。男の私でも「やおい本」を読めるのは、そういうわけなのだ。
- <T>なんか自己弁護してません?
- <N>うん(開き直り)。
(5)だむだむ団
- <N>大阪のサークルで、東京では去年頭から人気急上昇。
- <T>かわいい絵柄の金ひかるさんの個人サークルです。
- <N>上製本の絵本「ALPHABET」は、星矢同人誌全体の中でもBESTの部類に入るね。
- <T>最近は、「シュラト」や吉原○恵子本もやってます。
- <N>最新刊「学園天国」は、モトネタがモトネタだから、ちょっとえっちだけど、絵柄と処理を考えて作ってるから、やらしくなってないところがうまい。本の装丁も相変わらずGOOD。
- <N>うーん、たった5つしか紹介できなかったなあ。
- <T>もっと、いっぱい紹介したかったんですけどね。
- <N>紹介しきれなかったサークル+オリジナルでおいしいサークルは、表にしておきますので、参考にして下さい。
- <T>これでチェックして、当日幕張メッセを回れば、新しい発見がきっとあるはずです。
- <N>この世界には貴方の知らない、いや、私も知らない本がまだまだいっぱいあります。それを探すのが、即売会での楽しみの一つですからね。
- <T、N>それでは、皆さんさよーならー。
[「金儲け批判」批判]
- <たかコ>ねー、先輩、いったい同人誌って何なんでしょうね??
- <なおと>なんだい、改まって…。同人誌というのはだね、「おたく女子大生の欲求不満解消の場」((c)東京スポーツ)だ!
- <T>・・・・・・・・・
- <N>ウケんかったか…。いったいどうしたの?
- <T>あのー、最近の同人誌界を見ていると、なんか<違う>んじゃないかなあ、と思って。
- <N>確かにね。この夏コミケで明らかにコミケットの意味は変わったね。でも、それは、新しく増えた数万人もの素人さんのせいもあって、ある程度仕方が無いんじゃないの。素人さんが増えて質的な変化が起こるのは、文化というものにとって必然だから。私は基本的には現状肯定主義者。
- <T>あと、最近多いでしょ、金儲け批判とか、アニパロ批判とか、ポルノ批判とか、そんなの聞いてたら、同人誌ってよくわからなくなっちゃった。
- <N>あんな、馬鹿な話に引っかかっていたの。じゃあ、たかコ、ひとつ質問しよう。きみは同人誌をどういう基準で買っている?
- <T>どーゆーって、考えたこと無かったけど…。そうですね、本が面白そうか、そうじゃないか、かな。
- <N>だろう。その時に、作者が金儲けしてるかしてないか考える? あるいは、考えているとしても、金儲けしているからといって、その本の価値は変わるかい?
- <T>でも、同人誌でしょう…。
- <N>じゃあ、どうして同人誌じゃ金儲けしちゃいけないの? そもそも、いくら金を取ることが金儲けなの、その線引きを誰がするの? 人によっては原価以上の販売をするのが金儲けかもしれないし、別の人は金を取ることそのものが金儲けかもしれないじゃない。そして、もっと言ってしまえば、その作家が善人である必要がどこにあるの?
- <T>そりゃ、そうだけど。
- <N>私は絶対的に読者だから、「出した作品が全て」であって、作者の人間性など全然関係無い。善人だけどつまらない作品しか描けないサリエリと、悪人でどうしようもない放蕩者だけど天才のモーツアルトのどちらを選ぶか、と言えば、言うまでもない。また、まんが界なら、手塚治虫のライバルへの嫉妬心の見苦しさを見なさい。彼は偉大な人ではあるけれど、決して聖人君子ではなかったからね。クリエーターとは本来そうしたものなんだし、そういうところから創造物に対する情熱も生まれるんだから。この間のコミティアに出ていた本で、「私のサークルはやおいに乗っ取られてくやしい。おれも有名になって見返してやる」という、新興宗教まがいの体験記を書いていた馬鹿がいたけど、私に言わせれば、「乗っ取られたのは、おまえに才能がないだけだし、有名になりたいという願望は、おまえが嫌っているやおいねーちゃんと考えていることは実は大差ない」ってだけのこと。泣きごと言う前に、面白いもの作りなさい。
[「アニパロ・ポルノ批判」批判]
- <T>でも、アニパロって著作権を侵害しているし、やおいってポルノなんでしょう。
- <N>あーらら、完全に毒されちゃったのねえ。免疫無いんだから。
- まず、アニパロについて。現時点で、いわゆる同人誌のアニパロが著作権侵害であるという判例はない。あるのは商標権の侵害(タイトルロゴ使ったりするやつね。これはまずい)だけ。著作権侵害は判断が非常に難しいの。それにあんまり厳密にやると、逆に自分の首を締めかねない。パロディの元ネタとて著作権の侵害とは無関係でないんだから。よーするに、同人誌のアニパロは法的に著作権の侵害であるとは言えないんだよ。だから、アニパロ批判で「著作権の侵害」と言っているのは、法的には何の意味もない。強いて言えば、道義的責任だろうけど、「うる星やつら」や「サムライトルーパー」の送り手のやり方−−送り手が、様々な手段でパロディを刺激し、送り手とパロディが共犯関係となり、送り手はパロディが無かったならば得られなかったであろう多額の利益を得ている−−を考えると、道義的な責任もないわな。ポルノだってそうだ。これは、表現の自由において永遠のテーマである「わいせつとは何か、そして、検閲することが善か」という問題に関わってくる。私は基本的に全ての人による全ての検閲に反対する。倫理無き表現の暴走は確かに問題だけど、それよりも、善意の民衆による清教徒的な検閲の暴走のほうがはるかに恐ろしいからね。もちろん、アニパロやいわゆる<ポルノ>に問題は全く無いという気はないよ。でもね、だからといって切り捨てれば、文化として成熟して、世間様から認められると考えるのは阿呆の発想。アニパロや<ポルノ>の問題点が今のように激しく言われるのは、それだけ、この二つが商品として現在の高度資本主義社会において効用があることの裏返しだからだ。それを切り捨てればまんが同人誌なんてごくごく小さなマイナーなジャンルとなって、世間から忘れられてしまうだろうね、文芸同人誌のように。そして、文化には常に闇の部分が必要。闇の部分があればこそ、表の光の文化は活性化され光り輝くのだから。闇を切り捨てれば表の光の文化も衰えてしまうよ。山口昌男の「中心と周縁」理論なんてわざわざ持ち出さなくても、そのくらいのことは実感でわかるでしょ。
- <T>御講義有難うございまーす。
- <N>あのねぇ。
[「創作至上主義」批判]
- <T>難しいけど、大体わかりましたよ。他人の言葉をいろいろ聞いて、迷っちゃいましたけど、自分の感性を信じればいいんですよね。
- <N>まあ、そういうこと。自分が「この本が面白い!」と信じられれば、それがどんな本でもいいじゃないの。繰り返しになるけど、才能が無い奴が汗水たらして作ったつまらないオリジナル同人誌と、天才が遊びで1日で作った面白いアニパロ同人誌と、読者がどちらを取るかと言えば、言うまでもなくアニパロだ。読者の基準は常に「面白いか、面白くないか」だ。それが現実。そもそも、同人誌=創作・オリジナルというのがあるべき姿であるなんていうのは大嘘だ。オリジナルの道とは、確かに刻苦して、表現を会得するため、荒野を突き進むことであって厳しいものだ。それは認める。しかし、だからこそ、オリジナルの道を行く人間なんてほとんどいやしないんだ。十数万人の人間が安易な道に流れず、刻苦して<創作>に励む方が私から見れば異常だ。そんな世界は人間が人間である以上、存在し得ない。身もフタもないことを言えばね、創作を行い、荒野の中に己の道を探そうと苦闘している横で、ひとまたぎで苦労を乗り越え、自己と表現を確立してしまう天才というのがいる。そして、時代を動かすのは結局はこの天才なんだ。これは歴然とした事実。凡庸な創作者の努力は、ほとんど常に無駄でしかない。それをわかってこの道をいくのは止めないよ。それはそれで素晴らしいと思うから。でもね、それを他人に強要するのは、創作者の奢りだ。人はそんなに強くはないんだからね。そして、最後に、もっと決定的なことを言ってしまおう。創作者の皆さん、あなたの作品は本当にオリジナルなものですか? キャラクターや設定や物語を借りていないからといって、あなたの作品がオリジナルだと本当に言えますか? あなたの作品は過去の作品の模倣ではないですか? そうではない、と言いきる創作者がいたとすれば、それは、<荒野>を突き進む自分を描いている<楽園>に酔っている偽りの創作者だね。<オリジナル>なもの−−それは、ひとの見果てぬ夢だよ。でもね、新しい<オリジナル>などはもはや存在しない。既成の記号と記号とを組み合わせ、複製が複製をうみ、新しい物語は成立するけど、その新しい物語は、ほとんど常に過去の物語のパロディと複製に過ぎないの。この無限の連鎖の上に物語は成立しているわけで、現代の表現とはこの不毛さとの戦いでもあるわけ。この戦いは、自己の作品が<既にあった物語>の複製である、という冷徹な自己認識から始まる。しかし、認識すら出来ない者には、<物語る>資格などないと思うんだ。
- <T>そういった意味では、パロディもオリジナルも同じ問題を抱えているわけですね。
- <N>まあ、そういうことだね。さーてと、ものごとがどこにあるかはっきりさせようと思ったから、今回はかなり挑発的で露悪的な内容になっちゃたね。
- <T>みなさーん、カミソリは三崎先輩の所にどーぞ。
- <N>おまえなあ、そーいう態度ってあり!? まあ、これ読んで絶対文句あるやついるだろうから、反論は受けるぞ。私は誰の挑戦でも受ける!
- <T>はいはい、飲み屋でこの話するんじゃなかったかなぁ…
- <N・T>それでは皆さん、さよーならー。
(10月12日高田馬場・鳥やすにて)
- <たかコ>今回は、'90年総決算ですね。
- <なおと>去年一年でだいぶ、同人誌界の状況が変わったから、いろいろ言わなければならないことがあるね。
- <T>プロ作家さんがたくさん来ましたね。永野あかね、真鍋譲治、きむらひでふみ、天王寺動物園、あさりよしとお、見田竜介、萩原一至……
- <N>女の子系だと、こなみ詔子、栗本薫、ごとうしのぶ、高口里純、といったところかな。
- <T>高口里純さんなんか、自分で「あすか組」のキャラを全部男にしちゃった本を出してたもんね。
- <N>栗本薫さんも「グイン」の外伝だ。こういうプロのお遊びってけっこう面白いよね。
- <T>でも、そんなに商業誌ってつまんないのかなあ?
- <N>まさしくその通り。ダイレクトな反応もないし。前に聞いたことがあるんだけど、商業誌だと、ファンレターって本当はあんまり来ないんだって。有名な作家さんでも、月に数通なんてことがよくあるらしい。それを考えると、同人誌の、反響の良さは、プロの作家さんにとっても楽しいだろうね。じゃ、個々のジャンルにいってみようか。
[美少女系]
- <T>今年一年で最も変わったのが、美少女系のジャンルです。
- <N>そうだね。ブームとして完全に定着した。買うお客さんも沢山増えたし、サークルも昔に比べればがんばって本を出した。
- <T>新しいサークルが伸びてきましたしよね。サークルHCM、高画堂、ぴか、といったあたり。
- <N>それに負けじと古いサークルもけっこうがんばったよね。T2−UNITや、ばいぶるとか。描き手も読み手もどっちも元気だから、しばらくは、男の子主導で同人誌界は動いていくと思う。
- <T>BEST3を挙げるとしたら、何になります?
- <N>ベテランでは森野うさぎさん。別のペンネーム(影夢優)で夏コミに出した「遊裸戯」は、あの森野さんらしからぬ気合いの入った長編で、よく出来ていた。
- <T>しかし、いい本を出して怒られる人って珍しいですよね。「やれば出来るのに、なんでこいつは十年間(!)も何もしなかったんだ!!」って、おぢさんたちはみんな怒っていましたから。
- <N>平生往生(笑)。ただ、冬出した「第2章」で早くも何か迷ってるみたい。もっとがんばってほしいな。後、よかったのは、あのNOUVELLE VAGUEの一二三四五さんが新しいサークルUROBOROSで作った「BLACK OUT」。今回の続編も絵柄・内容ともに鋭い切れ味。
- 最後のもう1冊は新田真子さんが夏に出した「麗子」。一連の婦警物の集大成とも言うべき作品だね。
- <T>というわけで、久しぶりにいい本が揃った美少女系ですね。
- <N>もっとも、すぐ男の子は怠けるから、今年もその力と勢いを持続して欲しい。
[メジャーパロディ系]
- <T>何だか落ち着いてしまった感のあるメジャーアニパロですが…。
- <N>特に最大勢力のトルーパーが沈静化したからね。そんな中で人気を取り戻しているのがC翼。トルーパーから入ってきた女の子が新しくファンになってる。
- <T>後、尾崎南の商業誌のファンが、同人誌に流れてきていますからね。
- <N>でもね、再ブームが起こりつつあるのは、C翼の場合、少し落ち目になっても、C翼を愛して支えていたサークルがいくつもあったからだ。ここが、星矢との大きな違い。<T>うぐいす姉妹やおぢろう組…。
- <N>それにフォノW・GやNAUGHTY BOYS、リリスとか。こういう底固いサークルがいるジャンルはしぶとい。
- <T>ついに次回のコミケットの申し込みジャンルコードに登場してしまったワタル・グランゾートのブームがありましたね。
- <N>ひとことで言ってしまえば、このブームは紫宸殿がひとりで作ったと言って言い過ぎじゃない。かつて高河ゆんの<「魔王伝」ショック>ぐらいのものを、90年の同人誌界オールジャンルを通じてNO.1の本である「C.DARWIN」は、女の子に与えた。
- <T>冬コミケには間に合わなかったけれど、総360ページ、その中でメインライター櫻林子・橘水樹合作の長編が230ページという「C.DARWIN2」も大傑作です。
- <N>まだ、91年が始まったばかりだけど、量的・質的にこの「PART2」を抜くのは至難の技だろうね。ティク・オフしちゃったサークルの力って本当にすごい。
- <T>メジャーパロディBEST3の残り2冊は?
- <N>ひとつは総集編なんだけど、柴田文明(BAUHAUS)さんのかれこれ4年来の懸案だった「INTERCEPTER」。これも300ページ近い厚い本で、C翼ブームの中で異彩を放っていた柴田さんの今までの歩みが楽しめる。 最後の一冊は、私にしては珍しくトルーパー本を挙げる。四位広猫(HIRONETWORK)さんが出した「INNOCENT」。彼女にしては非常に珍しいや○い本なんだけど、さすが、C翼時代から良質の本を作ってきただけあって、何故この本ではや○いを描かなければいけないのか、よく考えられている。
- <T>絵的にも一時よりだいぶよくなりましたね。何かあったのかな。
- <ん>うん、彼女も含めてそうだけど、ブームがある内はブームに乗ればよかった。しかし、ブームがある程度収まってしまって、現状でさらなるワン・ステップを目指す場合、今まで持っていたわだかまりとかこだわりとか、そういうものを振っ切ってしまった人の方が強いんじゃないかな。
[パロディその他]
- <T>コミケットのもうひとつの傾向は、ジャンルがどんどん拡散しています。誰かも言っていたけど、「自分が欲しいと思った本はコミケットに行けばある」、というのはほんとの話ですねぇ。
- <N>しかも、どのジャンルにもそこそこの人気サークルが出来て、おもしろい本があったりするから、フォローするのはとっても大変。
- <T>大手やメジャーパロディだけで全体を見た気分になっちゃだめですよね。
- <N>そういうこと。そんな中で面白かったのは、異才里透みどり(世紀末スペシャル)さんの同人誌界よろずパロディ本「ベルサイユの漫画家」シリーズだね。一人で十数人のプロのまんが家の絵をまねて、同人誌界やまんが業界のパロディまんがを描き続けた才能には脱帽。
- <T>私のおすすめは、やっぱりパロディの原点といったらこれしかない「ヤマト」のパロディ本「Yの喜劇」です。
- <N>MULTIPLIESのひらのあゆさんの本だ。手垢まみれで誰も振り向きもしなかった「ヤマト」だけど、もういい意味でワン・オブ・ゼムになったんじゃないかな。
- その他、男の子パロディ系だと、「てやんでぃ」が、いいメンバーを揃えて質・量ともになかなかの出来だった。
[創作系]
- <T>あんまり面白くなかったという気がするんですが…。
- <N>そうだね。美少女系と似ているところがあるんだけど、どん底を脱して、コミティアという居心地のいい場所もあることだし、その後精進していないというか、楽をしちゃってるというかね。
- <T>代表作とでも言うべき作品を出しちゃって、もう後は遊びかな、というサークルならまだしも、本当ならまだまだこれからのサークルが、手抜きしてるところがあるからずるい!
- <N>某F○系の作家さんやファンタジー指向のサークルに多いよね。人気があるならあるなりに、それに安住しないでいい本作らないと飽きられちゃうと思うな。
- そのせいもあるんだろうけど、ここ数年の創作少女系で質的な支えとなり、他のサークルを引っ張ってきたラムフォリンクス2が、去年は最近少し息切れ気味だね。いかなラム2とはいえ、独りで支えるにはちょっと荷が重いかな。
- <T>そんな中で、挙げる本は?
- <N>純粋にはオリジナル本とは言えないけど、佐藤真理乃(SUGER LEAGUE)さんのTM本「KISS YOU」が完結した。全5冊約600ページのこれまた大長編を、虚実取り混ぜながら破綻なく描き切った力量はさすがだ。
- 男の子系では、もはや創作系でその名を知らぬ人はなく、圧倒的な支持を得ている内藤泰弘(鴨葱スウィッチブレイド)さんの「僕等の頭上に彼の場所」だね。
- <T>内藤さんの作品に共通するのは、温かさと、読み終わった後のなんとも言えない解放感。とっても気持ちいい。
- <N>本人の望むと望まないとに関わらず、今後の創作系をリードしていく作家のひとりになるだろう。プレッシャーも大きいだろうけど、負けずにがんばってほしいな。
[最後に]
- <T>と、いったところが90年のまとめでしょうかね。
- <N>最後にひとつつけ加えるなら、たかコみたいに、女の子たちが、美少女系なんかの女の子本に興味を持ち始めていること。田村みゆき(YAROW;Co.)のトルーパーロリコン本「BABY PINK HOUSE」なんて、気合いが入っていて、出来もよかった。90年代前半が、美少女系を中心とした男の子の時代になるとしても、このファクターは重要だろうね。
- <T>じゃあ、わたしは時代の先端をいく女なのね(笑)。
- <N>物は言いようだねぁ(笑)。
(1月25日 伊勢丹ロイヤルコペンハーゲンティーラウンジにて)
[例の事件について]
- <N>やあ、ついに起きてしまいましたねぇ。美少女系同人誌の摘発騒ぎ。
- <T>そうですねぇ。いきなり逮捕とはびっくりしちゃいました。
- <N>逃亡も証拠隠滅の恐れもないんだから、ちょっとやりすぎだよね。一罰百戒なのかな。でも、これはわたしを含めて反省しなければいけないんだけど、やっぱり、ここ一年調子に乗り過ぎて、過激な描写の本が増えていたと思うよ。で、これら特に陰部の具体的描写に関しては、現行の法制度下では、違法になってしまう以上、ある意味仕方の無いことだとは思う。表現の自由云々とはまた別問題だからね。
- <T>ただ、思うんですけど、これに限らず、何か最近日本って国はだんだん居心地が悪くなっているように思うんですけどね。
- <N>確かに、息苦しくて生きていきづらい社会になりつつあるということだけは確実に言えるだろうね。風営法改定以降かな、こうなってきたのは。社会全体で<清潔さ>に対する欲求が異常なまでに高まっている気がする。
- <T>過度の清潔願望は、精神病の一種ですよね。
- <N>そして、管理された性欲というのも病気だ。そういう意味では、社会自体が病んでいるのかも知れない。
- <T>無菌状態にしておけばいいというものでもないのにね。
- <N>40歳近くになって、ようやくフィリピンの女性と国際結婚したんだけど、アダルドビデオの観すぎで、セックスの時、いきなり、アダルドビデオみたいなことを強要して、離婚沙汰になったおじさんの話を雑誌で読んだけど、これをアダルドビデオの弊害といって切り捨ててあざ笑うのは簡単だけど、いかに本人の問題とはいえ、このおじさんの性欲解消は、じゃあどうすればよかったのか、という話にはなる。大塚英志は、連続幼女誘拐殺人事件を、おたくになりきれなかった者の犯した犯罪と見事に看破したけど、美少女同人誌に対する過剰な規制は、おたくになりきれなかった者をまた、生みだしはしないだろうかね。
- <T>けど、絶対に世間はそうはみてくれない。
- <N>いや、それでも、今回はマスコミは格好のネタにも関わらず、それほど派手な報道をしなかった。理由はふたつ。ひとつは、調子にのっていると明日はわが身、ということ。もうひとつは、お得意さんの悪口は言えない、ということ。こういうことにはマスコミは敏感だ。
- <T>でも、それらが、美少女系同人誌にとっての免罪符にはならないでしょ。
- <N>もちろん。描き手の側も配慮が必要だ。エロティックな要素がなければ描けないものはこの世に絶対にある。しかし、描く以上は覚悟がないと。なければ、便所の落書きと同じだ。繰り返すけど、そういう意味ではわたしを含めて大多数の皆は考えが甘かったね。
- <T>とはいえ、下手をしたら、場そのものが無くなってしまいかねませんか。
- <N>コミケット代表の米沢氏は、美少女系を切るのは簡単だが、切り捨ててしまえばコミケをやる意味はない、と言ってたらしいけど、その通りだね。しかし、その一方で現実問題として即売会におまわりさんが来て、過激な描写の本を売っているサークルを現行犯逮捕する可能性は充分にある。そうなったらコミケットは終わりだ。即刻そこで開催中止だろうし、どこも会場を貸してくれないだろうから、以後の開催もできまい。たぶん夏コミケは準備会スタッフが美少女系に対して強力な指導を行うことになるだろうね。この間のコミックレヴォリューションでも、スタッフが会場前に巡回して、局部描写のある本の販売を認めさせなかったからね。コミケでも同じことがあるんじゃないかな。事態はそこまで悪いんだ。だいたい数百サークルに自覚を求めても現実問題無理だろうし、はねっかえりもいるだろうしね。
- <T>そもそも、コミケットでは法律に触れるものは、販売しちゃいけないことになっていますからね。
- <N>自分が創った物に責任を負うというのは、その物にだけ責任があるんじゃない。その物が存在することによって起こる社会関係にも責任はある。30万人が集まって、法律に触れる以外の一切の表現が認められる「場」をつぶすことの意味をわかって欲しいな。コミケットが、永久に続くものじゃないけれど、こんなことでつぶれるなんて癪じゃない。
[時代は男とオリジナル]
- <T>前回のこのコラムで「90年代は美少女系を中心とした男の子の時代になる。」って言ってたんですけど、この事件でどうなると思います?
- <N>当然美少女系は大打撃は受けるし、実際受けてる。特に、学生はともかく、社会人として生活していながら同人誌を描いてきた人たちの中には、美少女同人誌そのものから撤退する人も出てきている。だいたい、激しい描写のあるやつは印刷所も印刷してくれないだろう。それじゃあ美少女系は終わりで、もう男の子は駄目か、と言えばそんなことはない。局部描写が出来ないだけで、美少女本を出せないわけじゃない。それなりに手を尽くせばいい。局部描写が無いから売れないというのは、読者の怠慢ではあるけれど、より一層描き手の怠慢でもある。
- <T>局部をはっきり描けないことで、逆に特異な発達を遂げたのが日本の性文化ですからね。さすがだなぁと思ったのはC.レヴォでの新田真子さんのコピー本でしたね。
- <N>彼一流の反骨精神だね。何も過激な描写をすればそれでいいわけじゃない。やり方はいくらでもあるはずだ。後、C.レヴォでは、美少女系以外の男の子向けの本は結構出来が良かった。炬燵屋CO.LTDのえり子本「ちょっとやそっとの恋じゃない」なんて、エロ抜きでのストーリー作りに慣れていないから、バランスを少し欠いていたけど、相変わらずうまい。
- <T>私が気に入ったのは、「BELLE EPOQUEU」(K.S Institute)。高山瑞穂、沖麻実也、柴田文明、次元美良、穂積隆之、伊藤まさや、きお誠児、登坂正男、T2−UNITの面々、という豪華メンバーによるナディア本です。
- <N>VOL1では私も原稿を書いていた身内の本だけど、いい出来だね。「ナディア」本編にみんな愛が無いのが大笑い。私のおすすめは名古屋の芸人くまたかつみさんのラムネ本「猛烈飲料」(BERKUT出版)だね。
- <T>女の子はあんまりいい本が最近ないですね。トルーパーブームも落ち着いちゃったし、代わりのアニメは出てこないし。
- <N>女の子のパロディブームは、C翼ブームから数えればもう5年以上のブームだし、いまメインのトルーパーブームも2年以上、そろそろ息切れしてる。前回も触れたように、そのかわりに起こっているのが、ジャンルの拡散だ。そして、この次に起こるのは、オリジナルのブームだろう。パロディで作品を描く方法論を手にいれた女の子たちは、今度は、自分の手でオリジナルな作品を生み出すようになるだろうね。
- <T>最近で言えば、不二屋の川原翼さんがそうですね。
- <N>その通り。また、男の子も、男性向創作の「男性向」に頼れない以上、「創作」に力を入れざるを得ないから、こっちもオリジナルでがんばるようになるだろうし。
- <T>でも、去年来、オリジナルはあんまり面白くないですよ。
- <N>問題はそこだ。まず、良質の描き手が決定的に少ないし、いても、遊んでいる場合も多い。
- <T>人気急上昇中ののY-COLLECTIONの松野唯さんなんて、溢れんばかりの才能を無駄に浪費しているとしか思えない。もったいない限りです。
- <N>最近はやりの「内藤泰弘症候群」の一人になっちゃたね。そんなことしなくても、前の絵柄で前のストーリーで充分面白かったのにね。
- <T>現状の解決策は?
- <N>「場」の改革だと思う。具体的に言うとコミティア。オリジナルをどん底の状況から救ってあげて、ぬるま湯の中で泳がせておいたのが今までのコミティアだった。でも、その役割はもう終わった。リハビリは充分だと思う。今後は「作品作りの場」としての厳しさが必要だ。でも、それは、決してしまうまJACKみたいなパロディ批判じゃないからね。あれを免罪符にしてもらっちゃ困る。面白さから言えば、今はほとんどのオリジナルはパロディに負けてるんだからね。そのためのお手伝いと仕掛けは準備中なので、乞う、御期待!!というところかな。
- <T>秋のコミティアはついにTRCのABCDホール全部を使うらしいですからね。
- <N>コミケットとセールスポイントが違う以上、規模を大きくしてもただそれだけじゃ意味はない。質と量の折り合いは難しいけど、両立を目指さないとね。志しは高くないと。
- <N・T>それでは皆さん、さよーならー。
(3月25日新宿レカンにて)
- <なおと>いやぁ、ネタが全然ないぞ、どうしよう。
- <たかコ>そりゃあ、夏コミ後に出す雑誌の〆切が夏コミ前じゃあ、対談のやりようもないですからね。
- <N>しかも、今年は同人誌の状況自体がなんとなく全体的に盛り上がりに欠ける。パロディ、オリジナル、男性向け、みんな各々に転換期を迎えているのに、先が見えていないせいかな。
- <T>前回、オリジナルと男性向けの話はしましたから、今回はパロディの話にしましょうよ。
- <N>そうだね。でも、細かいジャンルにこだわると、とても誌面が足りないから、原作とパロディの関係についてちょっと話してみようか。
[女の子はナルシスト]
- <N>ケーススタディとして「サムライトルーパー」のOVAを取り上げる。「外伝」、「輝煌帝伝説」、「メッセージ」、の3種類があるわけだけど、たかコはこれを見てどう思った?
- <T>わたしは「トルーパー」には思い入れがないから気軽く言ってしまうけど、一言で言えば、思ったほどひどくない作品ですね。面白いとも思わないけど。ただ、割と年輩のサークルや早くからの大手サークルさんほど、評判は良くない。彼女たちはTV版の「トルーパー」で転んだから、OVAみたいに<ねらって>作られた作品には抵抗があるみたい。まあ、普通のミーハーの女の子だったら、自分の好きなキャラクター及びそのカップリングが、どれだけ画面に登場するかで、価値判断は充分だと思うけど。
- <N>そして、その映像からイメージを喚起して、自分の脚本・演出で自分の意志による恣意的な自分だけの世界を作ろうとする。
- <T>それが本の形をとれば、同人誌になるわけですね。女の子はナルシスト。自分の世界がいちばん大事ですよね。
- <N>そこで、考えてほしいのが、いままだ続巻中の「メッセージ」のシリーズ。まあ、現状では「トルーパー」人気も落ち着いたこともあるんだけれど、「メッセージ」ネタの同人誌って少ないでしょう。
- <T>特に大手サークルほどそうですね。
- <N>ああいうインナースペース的世界は、自分の創り出した世界観と、その世界観がしっかりしていればしているほど対立してしまうからね。だいたいキャラクターのインナースペースを描くなんて、やっていることはほとんど同人誌と変わらない。<同人誌>のパロディを同人誌でする必要はないわけで、したがって、ネタにされることもあまりないわけだ。
- <T>確かにファンの欲望を盛り上げるのは大事ですけど、ファンの後を追っかける作品ではいつかは飽きられてしまいますよね。
- <N>「シュラト」の人気が今ひとつ盛り上がらなかったのもこの当りに原因があると思うね。
- <T>ファンサービスは必要だけど、過剰サービスはよくないです。
- <N>裏を見透かされたら、お客はしらけてしまうからね。必要なのはサブリミナル・コントロール。潜在意識に働きかけて、女の子に想像の余地を充分に与えて、しかし、表面上は普通のヒーロー物、というのが賢いやり方だと思う。しかも、それにメカや美少女、ホラーの要素もふりかけておくと男にも受け入れられる。
- <T>可処分所得とか、熱狂度の高さとか考えたら、基本的なターゲットは女性の方が商売しやすいのが今の世の中ですからね。
- <N>男性マニアは、質が高くて指向が合えば何でも買ってしまうから数には見込めるけど、醒めているから核の購買層にはしずらいんだよね。その点、女の子は特定作品への熱狂度が高いから、それをコアにして商売の展開が出来る。いろいろなものが氾濫している今の世の中で飽きられないようにするためには、こうした中心となる<核>が必要だ。最近の音楽業界の、先にアーチストプロモーションを展開して密度の濃いファン層をつくった後で、受けそうな曲で楽曲プロモーションをして継続的なヒットを狙うやり方はまさにこのやり方だよね。
- <T>そして、女の子の欲望を満たすことの出来る作品は男の子の心をつかむことができます。プリンセス・プリンセスやドリームズ・カム・トゥルーとか。
- <N>まさしくその通り。小説で言えば田中芳樹や菊池秀行にも同じことが言えるね。アニメーションが今ひとつ盛り上がりに欠けるのは、分極化が進みすぎて、本来アニメーションというジャンルが持っているはずの共通の言葉が失われてしまい、みんなで盛り上がれる作品があまりに無さすぎるからじゃないのかな。そう考えると、初期の「ガンダム」って凄い作品だったんだなと改めて思う。そういう時代だったんだろうけどね。
[同人誌=アーティストプロモ?]
- <N>で、今ふと思ったんだけど、商業誌と同人誌の関係というのは色々あると思うけど、同人誌というのをアーティストプロモーションとして位置づけたのが高河ゆんとCLAMPだったんだろうね。
- <T>なるほど。自分の発行する同人誌で自分でファンをつくり、自分で<核>をつくって、商業誌に出ていって、その核を軸に展開を進めていったというわけですね。
- <N>そして、彼女たちの凄いところはそれを意識して計算ずくでやっていたことだね。そういう意味においては非常に珍しいタイプの新人なんだろうね。おおや和美が典型的少女まんがのデビューの仕方で、典型的人気少女まんが家として活動しているのと比べると、ここが大きく異なるところだ。おおや和美においては、同人誌と商業誌との間には断絶がある。ある意味彼女は古いタイプの人気少女まんが家の最後の一人なんだろうな。ところが、CLAMPと高河ゆんにとっては同人誌と商業誌は切っても切り放せないものだ。彼女たちにとっては即売会や原画展というのはコンサートと一緒だからね。ここでファン心理を煽って、熱狂度を高め、<核>を充実させ、商業誌のプロモーションに結びつけていく。
- <T>そうすると、CLAMPの同人誌活動休止というのは……
- <N>思いっきりマイナスだろうね。こういう売り方を続けるならば、商業誌の仕事を減らしてでも同人誌を続けていくべきだろうね。
- <T>そして、高河ゆんが完全に復活を果たせるか、という点も、商業誌だけでなく同人誌の動きにも関わって来ることになるでしょうね。
- <N>当然そうなるでしょう。後、これは話の裏返しみたいな話だけど、商業誌の側も、新人を増やし、活気を増して、売れるような本がつくりたいなら、同人誌の利用方法を考え直すべきだろうね。まず、現状での各商業誌の新人賞の低レベルさを考えれば、人材として同人誌の作家にもっと注目すべきだろうね。これまでは、一部の中小出版社しかやってこなかったわけだけど、こういったレベルの会社では、目先の利益にとらわれて作家を使い潰すだけでしかないだろうね。
- <T>それは、もったいないですよ。
- <N>だから、生き残りたいなら、大出版社がこの際恥も外聞も捨てて同人誌の才能の取り込みをすべきだろうね。そして、共通言語としてのパロディの上でしか作品を描いていなかった少女たちに、商業まんがの描き方を教育すべきだろう。もちろん、彼女たちの時代性や方向性は大事にしつつね。実際、某大手出版社は最近同人誌系作家の起用に積極的だから、これがもし成功したら面白いことになるかもね。そして、商業誌は同人誌を人材活用だけでなく、高河ゆんやCLAMPのようにアーティストプロモーションの場として利用する、というふうに考える必要があるだろうね。そのやり方も、作家だけに委ねることなく、しかし直接介入はしないで戦略的にサポートしていく必要があるだろう。これまで同人誌はインディーズとしての側面ばかり強調されてきたわけだけど、即売会等のシステムを通じて生じてきたイベントとしての重要性はもっと強調されてもいいと思う。
- <T>同人誌というのは単なる自費出版の本なのではなく、メディアとしての意味あいを持っている、ということですね。
- <N>しかも、まんがというジャンルの生き残りを賭けた最後の希望のメディアとでも言うべきものになるんだろうね。いい悪いに関わらず、事態はここまできてしまったのが現実なんだ。
- <T>なんか今日はハードな話題でした。
- <N>ぼくも疲れたよ。
- <N・T>それでは、皆さんさよーならー。
(7月25日池袋OLD/NEWにて)
[とりあえず無事に終わったけれど…]
- <なおと>やあ、とりあえず無事に夏コミケも終わって良かったね。
- <たかコ>ほんとにそう思います。まさか、灰色の金網付きのバスに乗っておまわりさんがやって来るとは思わなかったけど。
- <N>凝ったことに、ミンキーモモのTシャツを着て、手提げ袋に同人誌を山のように買っている私服の人もいたらしいからね。
- <T>趣味と実益?(笑)
- <N>レモンピープルの読者欄を見ればわかるように、おまわりさんと自衛隊さんには、この手の本のファンが多いからね(笑)。
- <T>冗談はさておき、これで終わりじゃない。むしろこれが始まりです。
- <N>その通り。婦人団体なんかの圧力も強いし、有害図書の条例改正もどう転ぶかわからない。それに、コミケの存在そのものが面白くない人もいるみたいだし…。本当の正念場はこれからだ。
- <T>コミケット準備会は今後も事前のチェックを行うみたい。
- <N>準備会も、やりたくてやっているわけじゃないんだけど仕方がない、というところみたいだね。
[規制の中の表現とは?]
- <N>もっとも、夏コミケに関していえば、準備会のチェックというよりはサークル側の自主規制という部分の方が大きかったような気がする。
- <T>本自体もあんまり出ませんでした。出てもコピー本とか。
- <N>全体としての出来も、萎縮しちゃっているのが本から伝わってきて、いまひとつという感じだった。
- <T>白昼書房の「許さん!」で飛龍乱さんは、逆に自粛をネタにしてのがおもしろかったですけど。
- <N>ただ単に性描写だけ垂れ流せば良かった時代ではない以上、シチュエーションであるとか、やり方であるとか、見せ方とかにより一層の知恵を絞るべきだろうね。そういう意味においてはやおい系のサークルのテクニックは美少女系よりはるかに上だし、男の描き手にとっても参考になると思う。
- <T>三崎先輩が夏コミで男性系女性系を問わず一番やらしいと騒いでいたのは、佐野真砂輝&わたなべ京さんのSE NIGHTの「FROM THE DARK SIDE」でーす。確かにこれが凄いんだ。
- <N>元々は魔王伝から出てきたSE NIGHTだけど、最近はオリジナルの「TWIN」シリーズやファイアーエンブレムで人気を得ているサークルだ。この「FROM THE DARK SIDE」は、「TWIN」の外伝という形を一応取っているけど、本編とはうって変わったハードなやおい本になっている。SE NIGHTには別にやおいメインのシリーズ「LEVEL-C」というのもあってこれも結構な内容なんだけど、今回のこの本は、それよりもすごい。でもね、当然ながらいわゆる直接的な局部描写はいっさい無い。しかし、それでもこれだけの事が出来るといういい見本だろう。
- <T>私は、かみいぐさ倶楽部の「楽園の水平線」もかなりのものだと思います。あの服部あゆみ(鮎み)さんが、濃厚なオリジナルやおいを描いたというのも驚きなんですけど、これがストーリーもエッチもどっちも面白い。
- <N>人間と亜人種の心の交流を、やおいという切口でうまく描いているよね。
- 前からそういう傾向はあるんだけど、目のいい描き手たちは、男なら女の子の本、女の子なら男の本に注目していて、少なからず影響を及ぼしあってきた。この傾向はこれからも続くだろうけど、現状ではまだまだ男の描き手の方が女の子から学ぶものがより多いと思うし、これが規制下の中で表現を高めることの一助にはなると思うけどね。
[トルーパーブームついに終焉。次は?]
- <N>さて、話は変わって、かつての勢いもどこへやらで、トルーパーのブームが急速に沈静化している。
- <T>十月六日のコミックシティは、秋の即売会の中では最大規模で、しかも当麻クンのお誕生日、という割にはいまひとつ盛り上がらなかったですね。光輪騎兵団を筆頭に一部の大手サークルしか混雑しませんでしたし。普通のトルーパーサークルのブロックはガラガラで、一種異様なしらけムードが漂っていました。
- <N>あるジャンルのブームというのは、当然いくつかの売れ線のサークルがそれを引っ張っていくものなんだけど、それだけじゃだめで、しっかりとそのジャンルに根ざした中堅サークルや、普通のサークルがいなければならない。未だにC翼が根強い人気を誇っているのは、この中堅層が他のジャンルと比べ物にならないくらい厚いから。トルーパーブームの失速は、この辺にも原因がある。そして、これはもう構造的問題なのだから、光輪騎兵団がいくらがんばってもブームの沈静化は進行していくだろうね。
- <T>毎回、ブームが終わりそうになると、女の子たち自身が噂しはじめちゃうのが、次のブームになる作品は何か?という点ですね。今回も春の新番組で四つほど候補が上がってますが…。
- <N>「サイバーフォーミュラ」、「メタルジャック」、「ファイバード」、「ライジンオー」、という四つだけど、どの作品ともそれなりにファンや売れ線サークルがいるところが面白い。準備会のスタッフに聞いたんだけど、冬コミケの申し込みでは、この四作品で<アニメその他>のジャンルの中でかなりのシェアを占めているそうだ。同時期に一度に四つもの作品が、騒がれるなんて今までなかったからね。最近の同人誌のジャンルの拡散ぶりがここにも現れている。
- <T>個人的に気に入っているのは、ファイバードだと、名古屋のプロパンガス東京出張所です。
- <N>グランゾートで人気の出た成田りなさんのサークルだ。絵は少々荒っぽいところもあるんだけど、チャーミングで面白い画面感覚の持ち主だ。
- <T>ライジンオーだとこれは文句無しに北海道のYAROW;Co.の田村みゆきさん。
- <N>説明するまでもないトルーパーの人気作家。でも、彼女は前からずっとそうなんだけど、トルーパー以外のジャンルの本の方がずっと面白いところが困りもの。
- <T>このライジンオーも、小学生ネタということもあって、本領発揮です。
- <N>ここでCM。前に紹介したナディア本を出したK・S・Institute がよっきゅん本に続いて第4弾でライジンオー本を冬コミケに出すそうだ。アニメのスタッフも参加して今回も豪華メンバーだそうなので乞御期待、と主催者のK氏は言っていた。CMおわり。
- <T>メタルジャックは、アニメの絵自体がかなりくせがありますから、パロディもどちらかというとくせのある絵柄のサークルが多い。これが一般に受け入れられるか微妙じゃないかしら。
- <N>それだけに熱狂的なファンを作りつつはあるけどね。
- <T>そして、この混戦レースから一頭地抜き出たのは「サイバーフォーミュラ」でしょう。
- <N>HIRONETWORK、SIZE、寿亭といったトルーパー大手サークルを巻き込んで、今いちばん活気があるジャンルだ。
- <T>特に四位広猫さんの「CYBERFORMULA AtoZ」シリーズは、みんなにサイバーフォーミュラを知って欲しい!、という情熱と愛にあふれたとっても楽しい本なので、お気に入り。
- <N>どちらかというとあまりパワフルという感じじゃないサークルだったのに、イベント毎に情報ペーパーは作っちゃうし、上映会はしちゃうし、ノリにノってるといったところかな。
- <T>これら以外にも、O'mitも限定本を出していたりと、ますます本を出すサークルも増えそう。
- <N>トルーパーに代わるジャンルになるかどうかは、冬コミケ次第というところだけど、秋から冬にかけての台風の目になることは間違いないところかな。ジャンルというものがある意味ファッションである以上、栄枯盛衰があるのは当然だけど、トルーパーブーム以後とくに顕著な「勝ち馬に乗る」的な流行り方は個人的にはあまり好きではない。
- <T>この人本当にこの作品が好きでパロディをやっているのか、人気が欲しい、あるいは人気を保ちたいからパロディをやっているのか、わからない人っていますからね。
- <N>しかも、一般の人数の少ない頃はそういう機会主義的なサークルって、自然淘汰されていたのに、最近は裾野が広がって、読者が増えた分、そういう自浄作用って働きにくくなっているのが現実だから。
[今回の1冊]
- <N>今回のお勧めは、やっぱりやってくれた紫宸殿のグランゾート本「SHAKESPEARE」でしょう。
- <T>上下2冊上製本、総ページ数450ページがまたまた圧巻。
- <N>前編の段階では展開がかなりスローモーで、どうなることかと思ったけど、後編のボルテージの高さはさすが。グランゾートという原作品と、人間のあり方と、やおいをここまで有機的に結合させ、なおかつこれがまだまだ物語の端緒でしかないというスケールの大きさ。その一方で大地とラビを中心にキャラクターの細やかな心理描写をが丹念に積み重ねていく繊細な構成。C翼以来のパロディブームのひとつの到達点であることに疑いはない。
- <T>こういう本に出会えるからこの世界やめられないんですよねぇ。
- <T・N>それでは皆さん、さよーならー
(10月25日麹町アジャンタにて)