DO-PE & コミックDO-PE コミケで見つけた同人誌

コラムの内容/紹介したサークル名

VOL.9 91年冬コミケ雑感。「サイバーフォーミュラ」ブーム。
TENTHOUSE 共同謀議
炬燵屋CO.LTD K・S Institute
つけたらBカップブラの会 SYSTEM GZZY
M空間 U.SA PRODUCTS
薄荷屋  
VOL.10 92年春の即売会。スーパーシティ、コミックレボリューション、コミティア。
RYOZAN RYOZAN
PINKSTER Ae・Sop
みずたま消防団 炬燵屋CO.LTD
HIS Cyrillic
POSTMAN カメハウス
ちゃわんむし FITS PROJECT
USAMARU BRAND 迎賓館
ぱるぱらん  
コミックDO-PE

VOL.1
セーラームーンブーム。女性系作家の大量流入。
YAROW CO;GIRLS K・S INSTITUTE&月組
大密党 うぐいす姉妹堂
Y's Company EX
コミックDO-PE

VOL.2
コミケットと会場・日程問題。有明新会場について。
愛Dタウン 冗談じゃないよっっ!
HELLO WORLD マルキンクラブ
炬燵屋CO.LTD KK COMPANY
コミックDO-PE

VOL.3
「コミケット=ジュリアナ東京」説。バブル末期らしい話である。
ヌクレオチド・ファクトリー FAR EAST CAFE CLUB
BURKET出版 THE HIDEKI
ぷーるぐ・えとわす 労働組合

VOL.9 92年02月

[はじめにひと言]

 どうも、今までは「日曜日にコミケでお茶を」を書かせてもらっていた三崎尚人です。今回から「DO−PE」の紙面刷新に伴い、御多忙の戸山優さんの後を継いでこのコーナーの担当になりました。以後よろしくお願いします。

[冬コミケ雑感]

 12月29・30日というとんでもない日付で開催された冬コミケですが、ここ最近で最も無難に過ぎていったコミケでした。一番の理由は、参加者が少なかった、という点でしょう。日程が日程だけに、地方の人や社会人の中には参加出来ない人が多かったようです。ただ、80年代後半を拡大に次ぐ拡大で疾走してきた同人界も、ここにきて息切れが目立っていたこともあって、会場全体には、「同人誌ブームももう終りかな?」という雰囲気が漂っていたような気がしました。まあ、冬よりは確実に人出が多いであろう夏コミケを見てみなければなんとも言えませんが、これ以上大きくなることはないにしても、このまま高値安定を続けるのか、はたまた衰退していくのか、分かれ目は今年だと思います。
 字数の関係で細かいジャンルにいちいち触れませんが、注目すべきはやはり美少女系の動向でしょう。<例の問題>で性表現に関する自主的規制が求められるようになったわけですが、各サークルとも夏コミケでの戸惑いを脱し、いかに表現していくか、というところで工夫を凝らすようになったと言えるでしょう。ただ、今回はお巡りさんもほとんど来ず(仕事納めの後だったからだという説あり)、夏コミケのときの緊迫感がなくなってきましたが、これは、ある意味危険なことです。何度も口を酸っぱくして言いますが、事態は決してよくなってはいないのですから。

[サイバーフォーミュラその後]

 前回の「日曜日はコミケでお茶を」のとき、春の新番組4本が、それぞれに人気を得ているという話を書きましたが、現状はどうかというと完全に「サイバーフォーミュラ」の独走体勢に入っています。
 印刷所系主催の即売会では、回を追う事に「サイバー」サークルが増加し、大手サークルが生まれ、また、他ジャンルの大手サークルの「サイバー」への転向が目立っています。ただ、冬コミケでは、「サイバーフォーミュラ」のスペースは特別配置サークル以外はそれほど混まず、準備会のスタッフは「予想はずれだった」とか言っていました。これは、この「サイバー」のブームがまだ首都圏だけのもので、全国区のコミケでは今一つである事を示していると言えます。
 さて、この「サイバー」ブームですが、トルーパーに代わるブームになるのか、という点については、作家や即売会関係者の間でも意見が別れています。 ひとつは、トルーパーブームが完全におさまってしまった今、新しい刺激を女の子は求めている。女の子たちはより強い麻薬をほしがる以上、かつて「トルーパー」がそうであったように、このままブームは拡大していく、という意見があります。「サイバー」がここまで盛り上がるのにかかった時間は、「トルーパー」よりはるかに早いことを考えると、根拠のない主張ではありません。これは、現象を中心に考えている即売会関係者に多い考えです。
 一方で、作家たちを中心としては、技術的問題において「サイバーフォーミュラ」の限界を主張する人もいます。それは、カップリングの問題です。「サイバー」においては、「C翼」における健小次、「トルーパー」の征当・伸遼といった決まったカップリングがまだ成立しておらず、群雄割拠の状況が続いています。ある程度ブームが盛り上がったら、カップリングというのは自然に落ち着いていくのがこれまでの習わしなのですが、これが「サイバー」には全く当てはまりません。もっと言ってしまえば、カップリング自体を作ることそのものが難しいアニメであるようです。実際出ている本を見ると、全体としてはあまり出来がいい本がないのも事実ですし、その出来の悪さも、カップリングの難しさに起因していることが多いように思われます。そんな事情もあって、実際に「サイバー」本を出している作家さんほど、これ以上のブームの展開には懐疑的なようです。
 どちらが正しいかは夏コミケの状況が判断してくれるでしょう。

[最後に]

 というわけで、この一年は同人界にとって分かれ目の年となるでしょう。その鍵は、男の子にとってはやっぱり美少女系が、そして、女の子にとっては「サイバーフォーミュラ」が握ることになるのでしょう。「DO−PE」のこのコーナーで注意深く見守っていきたいと思います。

TENTHOUSE MEMORIAL 発行/TENTHOUSE B5版 132P 
 
 四国で独自の活動を続け、その流麗な絵柄とマニア心を押さえたストーリーで、長年に渡って美少女同人誌界の人気サークルであり続けている作家集団、T2−UNIT。
 そのメンバーのまぁくUさんと北かずきさんの他サークルへのゲスト原稿を中心に構成されたのがこの本です。
 巻頭の「てやんでぃ」特集を中心に、「マップス」、「ラムネ」、「ようこ」等々、様々なジャンルで、元ネタの特徴を活かしつつ、二人の個性が発揮されているのはさすがです。
 その他、「タミヤどん」シリーズや、イベントパンフのカット、年賀状まで収録されており、「メモリアル」の名にふさわしく、ファン必携のアイテムと言えましょう。


雅遊 発行/共同謀議 B5版 44P+シングルCD

 89年に「NOUVELLE VAGUE」で美少女同人界を席捲し、その繊細緻密な絵柄と圧倒的なエロティシズムで、多くの描き手に影響を与えた異才うたたねひろゆきさん。
 しかし、その凝り性的性格からか、新刊がめったに出ず、ファンをやきもきさせていたのですが、今回の「雅遊」が、ファン待望の本格的自サークル発行誌となりました。
 この本も他サークルへのゲスト原稿中心のイラスト集なのですが、ただ単によせ集めの安易なつくりの本とは異なり、アートディレクションにあの高原宏さんを迎えて、凝りに凝った視覚的構成となっています。
 なお、本に加えてシングルCDが付いています。


ANGELS 発行/炬燵屋CO.LTD B5版 100P

 美少女同人界でいま最も綺麗な絵を描く作家を挙げろと言えば、やはり、炬燵屋のたつねこさんとUROBOROSのうたたねひろゆきさんということになるでしょう。この二人が組んだ「えり子&ようこ」リバーシブル合同誌がこの本です。
 歌を歌うことの本質的意味について、「えり子」側からの視点でがたつねこさん、「ようこ」側のそれがうたたねさんで、同じストーリーをそれぞれ描き、真中でそれを合わせています。構成にしろ、本のつくり方にしろ、細やかな神経が行き届き、両人ともその持ち味を存分に出していると言えましょう。
 そして、忘れてはならないのが、MORONさんのプロデュースでしょう。巻末の名文も心に残ります。


5年3組 発行/K・S Institute B5版 156P
 
 「ナディア」、「ようこ」に続くK・S Instituteの第3弾は「ライジンオー」本です。
 相変わらず、メンバーは超豪華。円英智、伊藤まさや、伊崎浪、オゲレッ太・尾泥、豊島ゆーさく、成田りな、厦門潤、あさりよしとお、むっちりむうにぃ……。
 ショートギャグが中心で、ちょっと散漫な印象もあるのですが、執筆者みんなが悪ノリしているので、全体としての勢いが感じられるのが魅力でしょう。特に強烈なのは、きお静児さんの<バン○イ>ネタ。あんな事書いていーのかなあ?
 一方、力作長編を書いているのはメインライターのたかやま☆みずほさん。選ばれし者とそうでない者との葛藤をうまく描いています。


Olive 発行/つけたらBカップブラの会 B5版 36P
 
 その華やかで個性あふれる絵柄で、「シュラト」などの女性系のアニパロで根強い人気を持ち、今は「サイバーフォーミュラ」に夢中のまなづるちづこさんがなんと女の子本を出しました。
 内容は、いろいろなアニメの女性キャラクターのイラスト集なのですが、これがとてもかわいい! それに服のしわや下着のレース、胸のふくらみ加減とか、微妙なところへのこだわりが、さすが女性の描いた絵で、リアリティとセクシュアリティを感じさせてくれます。
 冬コミケではこの本以外にも女性系アニパロ作家の出した女の子本が何冊かあり、<例の事件>以降、一時止まっていた女の子の美少女系志向が、ふたたび高まってきたような気がします。


遊裸戯 第弐章 発行/SYSYTEM GZZY B5版 92P
 
 ここ最近の美少女系は、<ロリ>というよりは<エロ>という言葉で表わすのがふさわしいと言えます。これは、劇画でなくまんがという手段で表現されるものが、ぼくらの琴線にふれるからであって、ぼくらは<ロリ>に敏感に反応しているわけではないからです。しかし、いま敢えて<ロリ>的な物語を語ろうとする者の情熱や意気込みは、面白い作品を生み出す原動力となるのかもしれません。
 影夢優さんの「遊裸戯」シリーズは、そんな作品です。今回の第弐章は、父子相姦ネタなのですが、大邸宅の和室で80ページにわたって濃密な世界が繰り広げられます。和室である以上、当然、和布団、和服、縄、柱、青竹と、お約束をきっちり守った描写がいいですね。


TOYBOX 5 発行/M空間 B5版 40P
 
 元々のやっていたジャンルが千差万別のためか、パロディ系の中でも数の割にはサークル毎の個性が非常に強いのが、「パトレイバー」の特色です。そして、その中でも、クセの強さと切れ味の鋭さで言えば、このM空間のまおまりをさんの右にでる人はいないでしょう。
 今回の作品は、内海課長の香港時代の話で、内海と黒崎がアラブゲリラに襲われる話なのですが、これがかっこいい! 微妙なバランスの上に成立している見事な構図、スピード感たっぷりの画面とコマのつなぎ、説得力のあるアクションの展開、それでいてとぼけた味のあるストーリー。これだけ描いても、まだ本当に描きたいことは描いていないと言うんですから、恐れ入ってしまいます。


クラックムーン−欠けた月− 発行/U.SA PRODUCTS B5版 100P
 
 同人誌、そして商業誌で独特のファンタジーの世界を構築しているみさきわたる(杉山志保子)さん。そのみさきさんがお友達を集めて、<石>がテーマという一風変わったファンタジー本をつくりました。それがこの「クラックムーン」です。
 メンバーは、槙夢民、内藤恵理子、小椋真空、おさみともえなど、なかなか豪華。<石>を通して、日常と非日常の転換点を各々の角度でうまく描いています。
 その中でも気に入っているのは、繭の中で石をつくる晶族の少女と人間の男の恋物語「菁瑯稀譚」。少女から女へのメタモルフォーゼを見事に描いて、作者のあらたな一面を見たような佳品であります。


PLATONIC 発行/薄荷屋 A5版 130P
 
  そのチャーミングな絵柄とユニークな物語で、「ファンロード」などでも人気の篤見唯子さんの個人誌です。
 内容はオリジナルが中心で、ストーリーが、ファンタジー物1本、妖精物が2本、現代物が1本の合計4本収められています。その中では、ファンタジー物(?)の「Misunderstanding」での女性キャラクターの微妙な表情の変化を丹念に描いているところや、妖精物の「ちょっと待ってね」の絵柄とはだいぶギャップのある、突拍子もないオチがお気に入りです。
 これ以外にも、「星矢」や「トルーパー」などのアニパロや吉田栄作コーナー(!)、さらには便箋の絵の再録まであって、篤見さんのいろんな世界を楽しむことが出来ます。



VOL.10 92年02月

[春の即売会ウオーズ]

 GWは、四月二九日には、東京ではコミック・レヴォリューション、コミティア、という各々に特色のあるイベントが開かれました。そして、五月三日は八千スペースという一日当たりの規模ではコミケットを凌ぐ、Super Comic Cityが開催されました。おおむね成功を収めたこの三つのイベントについて、今回は考えていきたいと思います。

[C.レヴォリューション]

 個人主催の即売会では最大規模のイベント。池袋のサンシャインシティという地の利の良さが強み。ジャンル構成が豊かで、創作系や美少女系に多くのスペースを割いているところや、カタログの読物ページや各館のネーミング、色紙プレゼントなど、規模の大きさの割には、手作りの味があるところが、人気の秘密でしょうか。
 今回は、通常よりも一館減でサークル数も減ったのですが、天候にも恵まれ、カタログが完売するほどの活況でした。特に、男性の一般参加者の数が非常に多く、美少女系はコミケ並の大混雑が起きていました。コミケ以外ではこのC.レヴォが男性系サークルの参加できるほとんど唯一の場ですからね。
 その一方で、女性系のサークルは、ほとんどが、新刊をSuper Comic Cityに合わせていて、いまひとつ盛り上がりに欠けたような気がします。ミニコミケとでも言うべき多様性の一方で、会場の制約上規模をこれ以上は大きくできず、スケールメリットのなさという点が多様性を逆に欠点にしてしまっているところで、問題が生じているような気がします。

[コミティア]

 創作オンリーという形態ながら千スペースを超えるまでになった異色のイベント。売上や人気の本のデータ、インタービュー、書評などが満載のカタログ、見本誌の会場展示、読書会、パーソナルコミックスの発行、地方の即売会との提携など、開催者の実行委員会の強いリーダーシップのもとイベントが開かれています。
 今回は、C.レヴォと同じ日の開催となり、こことは客層が重なるため、来場者はあまり多くなく、来ても午後からさみだれに来るのではないか、というのが大方の予想でした。ところが案に反して、朝から一般客が集まり、来場者はこれまでのコミティアの中でも最も多かったのではないかと思われました。
 ここでも、男性の一般客の数が非常に多く、吉祥寺倶楽部、えみくり、ラムフォリンクス2、鴨葱スウィッチブレイド、といった定番以外で混んだサークルは、どちらかいうと男性向けのサークルばかりでした。特筆すべきは、コミティアに対するサークルの高い信頼でしょうか。より大きい即売会である、C.レヴォやSUper Comic Cityの影響をほとんど受けず、多数の新刊が発行されていました。
 とは言え、まだまだ、一般客の数が少ないのが実状でしょう。そのためには、オリジナルに特化し純化したコミティアという場の持っているアニパロコンプレックスの裏返しとしての選民思想−−我々はパロディより素晴らしいことをしているという発想−−をどうソフトランディングさせていくかに懸かっていると思います。

[Super Comic City]

 八千サークルとはいえ、一般参加者がどれだけ来るかが鍵でしたが、晴海の中央通路を埋めるほどの来場者がありました。ここでも目立ったのは男性の姿です。だだ、参加サークルの質という点については、今一つだったと思われます。その理由としては、大手はともかく中堅の参加が少なかったことと、数は揃ったけれどもジャンル的にはメジャーアニパロに偏っていて、コミケのような多様性に欠けた点でしょうか。もちろん第1回目と言うことを勘案すれば、十分に成功の範疇には入るといえるでしょう。場としての定着には回数を重ねることが必要で、最低でも後四、五年はかかるのではないでしょうか。
 そのためには、ゲームや美少女系等の男性向けのジャンルやオリジナル、その他のマイナージャンル、といった通常のコミックシティとは違うジャンルを積極的に増やしていく必要があると思います。一日としての規模はコミケを超えても、コミケの持つ多様性や奥の深さにはまだまだ太刀打ちできていないのですから。

[まとめ]

 ようするに、このGWは三つの即売会が相い補いながら<春コミケ>を開催していたと言えるのではないでしょうか。それぞれに課題もあり、運営も大変なのは承知していますが、今後の努力を期待したいと思います。

アパートメントゼロ 発行/RYOZAN A5版 168P
 
 「C翼」、「銀英伝」、「トルーパー」等々、その独特の美しい絵で多くの女の子を魅了してきた犬養陵一朗さん。その犬養さんの人気を決定づけたのが一連の「沈黙の艦隊」本「問題資料」シリーズでしょう。
 今回の本は、過去の「問題資料」の総集編です。犬養さんがいなければ、即売会で「沈黙の艦隊」というジャンルは存在しなかったであろうと言われるだけあり、硬軟取り混ぜてのストーリーの面白さや、あのかわぐちかいじの絵柄を消化して自分の物にしているところなど大したものです。
 後、蛇足ながら女性の描き手でありながら、メカがかっこいいところもポイントが高いですね。男性読者が非常に多いのもうなづけるところです。


TABACCO ROAD 発行/RYOZAN B5版/28P
 
  今回はRYOZANの本をもう一冊紹介します。
 F1ブームは同人界もその例外ではなくて、いろんな本が出ています。中でも精力的なのは、超ベテランサークルまのとのまのお二人でしょうか。そして、今年になって、犬養陵一朗さんもこのジャンルに登場です。
 とはいうものの、実はかなり前からのF1ファンだそうで、にわかファンにはとても出せない確かさが随所に感じられ、いい雰囲気を醸し出しています。
 どのレーサーが好きかというのは、結構サークルによって好みの分かれるところなのですが、犬養さんのイチ押しは<プロフェッサー>=アラン・プロスト。よりいっそうシャープさが増した筆致と絶妙なユーモアに、愛情の深さが感じられます。


STRIKE ME DEAD 発行/PINXTER B5版/28P
 
 そのハイレベルな作画と、ぐいぐい引っ張っていくストーリーで、最近のオリジナル・ビデオ・アニメの中でも出色の出来の「ガンダム0083」。そのパロディ本を出したのは、古くは「J9]や「キン肉マン」、そして、最近は「星矢」、「メロウリンク」と常に女の子系アニパロの最前線でがんばっているバトルマッスルシスターズの下ヶ谷ピクスさんとみらい戻さんのお二人です。
去年の冬コミケ合わせに年末進行の間を縫って作られたこともあり、四コマとフリートークが中心で、決して読みごたえのある本ではありませんが、下ネタも含めて笑わせてくれます。
 また、男性読者には、メカもかっこいいし、女の子もかわいい点も見逃せないところです。


PINK CHERRY FISH 発行/Ae・sop B5版/56P
 
  同人界の「きんぎょ注意報」のファンは男性ばかりのように普通思われますが、実は意外に女性ファンが多いのが面白いところです。
 作者の藤咲薫子さんは、いつもはオリジナルや「トルーパー」を中心に活動なさっています。見て判るとおり、とても可愛らしい絵を描く方で、ひそかな男性ファンも前からけっこういます。
 本の内容は、千歳と由梨香が大手サークルの作家(!)で、お互い張り合うというのが話のメイン。わぴこが「ちーちゃん、やおい、って何?」と、たずねるシーンなど爆笑モノですね。
 ギャグ中心の中、巻末の修一と葵のリリカルな小品もいい味を出しています。


I'll BE THERE 発行/みずたま消防団 B5版/104P
 
 東方幻像騎士団としてのFSS、みずたま消防団としての少女まんが、そして、商業誌ではHまんが。ものぐさうるふさんは、いろんな顔を持った描き手です。
 今回の「I'll BE THERE」は、「コミックフラミンゴ」を中心とした商業Hまんがを五本集めたものです。
 ものぐささんのHまんがの特色は、やはり女性ならではの視点からの女の子の微妙な欲望を描くところでしょうか。セックスに至る過程における描写やエピソードの積み重ねが、作品にリアリティを与え、それが作品にとっていかに重要であるか、ということを、我々は男性よりも女性の描き手からより多くのことが学んでいるような気がします。


WINNERS 発行/炬燵屋CO.LTD B5版/40P
 
  炬燵屋のたつねこさんと言えば、その卓抜したセンスと絶妙のギャグ感覚で、男性ばかりか多くの隠れ女性ファン(!)を魅了してきました。そして、この春は、このサイバーフォーミュラ本とファイバード本「FIGHTERS」が発行され、さらに多くの女性ファンを獲得したようです(笑)。
 話の内容は、ハヤトと飛鳥が、S・アスラーダの上でカーセックスをする話なのですが、これが傑作。原作自体のラスト二回の感動的盛り上がりを知っている人は、ハヤトやアスラーダの台詞や、話の展開に大ウケできます。
 昔の炬燵屋のノリが特に好きだった人には、いっそうこたえられない本と言えるでしょう。


CYBER FORMULA AtoZ D 発行/HIS B5版/44P
 
  この本の作者の四位広猫(ちなみに<しいひろね>と読みます)さんが、今のサイバーブームの言いだしっぺのひとりである点は、衆目の一致するところでしょう。初期の彼女の布教活動(笑)と真摯な本やペーパーの制作がなければ、ブームは起こらなかったではないか、とまで言えるくらいです(ちなみに、筆者も彼女に洗脳された一人だったりします)。
 今回の本はブリード加賀の御誕生日本ということで、ハヤト一押しの広猫さんにしては、少々毛色の違う本ではあります。でも、加賀が実にいい男で、ハヤトがすごくかわいくて、原作の持っているあのなんとも言えないすがすがしさを、彼女なりに見事に表現していると言えるでしょう。


CHATTER BOX! 発行/Cyrillic B5版/24P
 
 女の子の描く女の子って、面白いですよね。かわいく描くにしろ、嫌な部分を強調するにしろ、すごくリアルな部分があります。男が女の子を描くと、妙に自分の理想なんかがはいってしまって、嘘臭くなってしまったりすることがしばしばありますから。等身大の自分を見据えるという点に関しては、女の子の方が男より醒めているからなのかもしれません。
 北村知佳子さんのこの本の内容は、ふたつのシリーズの四コマ集なのですが、絵の可愛らしさもさる事ながら、ギャグのセンスが光っています。そして、誇張されてはいても、いわゆる女子高生ノリとかが感じられ、なんてことのない普通の話でありながら、面白味を出しているところがいいですね。


IN THE TREE 発行/POSTMAN B5版/28P
 
 休みなくがむしゃらに働き続けてきたおじさんが、足を痛めたのを機に休みを取って、子供の頃を過ごした町を五十年ぶりに訪れます。そして、子供の頃の話を、いっしょにやってきた奥さんに語ります。それは、一本の大きな大きな木にまつわる不思議なお話でした。
 作者の露崎雄偉さんのすごいところは、子供を子供らしく、大人を大人らしく、年寄りを年寄りらしく描くという、当り前でいて、実はすごく難しいことをちゃんとできるところでしょう。
 そして、読後のなんとも言えない温かさがいいですね。人生捨てたものじゃないな、なんて柄にもなく思ったりしてしまいます。


36℃ KISSES 発行/カメハウス B5版/40P
 
 シャープな絵柄と華麗な女性キャラ、ギャグたっぷりでそれでいてツボを押さえたストーリー、そして、少々のお色気。安永わたるさんのドラゴンボールワールドには、多くの男性ファンがいるのもうなずけるところです。
 今回の本は、タイトルにもあるように、キスシーンを中心としたラブコメディが収められています。カップリングは<ヤムチャ气uルマ>、<天津飯气宴塔`>、<ベジータ气uルマ>の三つ。みんな女性キャラの方が積極的で元気なのが、いかにも<らしい>ですね。
 今回紹介のイラストには、見せ場のキスシーンはわざと紹介しませんでしたので、見たい人は、即売会のカメハウスのスペースで本を買いましょう。


銀河芸能伝説 発行/ちゃわんむし A5版/84P
 
  「HAI!」誌上に掲載されたときから、そのユニークな内容が話題でした「銀河芸能伝説」が、ついに一冊にまとめられました。
 「えり子」と「ようこ」のキャラを「銀河英雄伝説」のキャラと置き換えて、田村帝国プロとアイスター同盟の芸能界での戦いを描いたのがこの作品です。ラインハルトがえり子、キルヒアイスが山形麻美、ユリアン・ミンツがようこ、ヤン・ウェンリーが山下秀樹というのが主な配役。「銀英伝」のエピソードやセリフ回しを使いながら、しかも、ただのパロディに終わる事なく、アイドル歌手のすがすがしい成長物語なっているところに作者の並々ならぬ愛情と力量を感じさせてくれます。


カズンズ 発行/FITS PRODUCTS A5版/68P
 
 この「カズンズ」は、かつて「ロリポップ」で連載されたものをまとめたものです。ひとつ年上の憧れのいとこさやかと新入生の悠との、愛し合い、傷つけあいながらの青春のストーリーが、丁寧に心理描写の積み重ねながら描かれています。
 最近こそ美少女同人誌界の中でも、女の子のこころの動きを丹念に描くような作風の作家さんが増えてきましたが、かつては、この浦島礼仁さんくらいしか、そういったところにまで気を配った作品づくりをしている描き手さんはいませんでした。
時代が今ようやく浦島さんに追いついてきた、と言えるのかもしれません。
 パステルの表紙のあたたかさも心に滲みます。


えっち 発行/USAMARU BRAND A5版/128P
 
 ようこハウスの都はるみさんと、うさまる桃子さんことやましたマガジンの大坂尚子さんが作ったのがこの本です。「ようこ」を中心にいろんなアニメのHパロディが楽しめます。
 別段これといって激しい描写があるわけでもなく、シチュエーションもごくごくノーマルなのに、画面から感じられる熱気とエロティシズムは、お二人の意気込みをよく反映していると言えましょう。
 ゲストも豪華。陽気婢、うたたねひろゆき、櫻林子、やまのべきった等々、そうそうたる面々です。その中で評者の気に入ったのは、あきみれいさんの小説「うすあかりの夜の中で」。多分に生硬なところもあるのですが、その世界観は、読者を酔わせてくれます。


けだものだもの 発行/迎賓館 B5版/40P
 
 その可愛らしい絵柄ときっちりとした描写、そして、ほのぼのとしたストーリー。いま、同人誌通の間では非常に高い人気を得ているのが、南野まりんさんです。
 この本の南野さんのストーリーはセーラームーンとオリジナルの2本。特にオリジナルの方の「仔猫の森」が秀作。また、松本朗さんのサイバーやRyoさんのツインビーも楽しく読めます。
 良質のやおいとロリコンの融合から生まれる作品が、いまはまだ突然変異でも、おそらくは今後のトレンドのひとつになることは間違いないところでしょう。そして、南野まりんさんのポジションにはますます注目が集まっていくのではないでしょうか。


情熱れいんぼう 発行/ぱるぱらん B5版/68P

 荒削りながらもかわいい絵柄と、正統派的な少女まんがのお約束を守りながらも光る個性が見えるのが李エルザさんの魅力でしょう。
 親のペースで組まれたお見合いで出会った二人が、実は前に一度偶然出会っていて、そもそもは乗り気ではなかったはずなのに、結ばれてしまってハッピーエンド。彼女の作品「アリアドネな恋」のあらすじだけを取り出すと、なんてことのない作品に見えてしまいますが、小道具の使い方やエピソードのユニークさで自分の個性を出して、面白いストーリーに仕上げています。
 ゲストの中ではもりむらりえこさんの「卒業」が、これまたかわいらしくて楽しめます。



コミックDO-PE VOL.1

 去年夏以来、同人誌界全体を通しての最大の話題といえば、やはり「セーラームーン」であるいうことは衆目の一致するところでしょう。まあ、この話を含めて今回は去年下半期のおさらい。
 「サイバーフォーミュラ」パロディが、サークル数こそ増えたものの、一般読者の数がさほど増えず、良質の本も非常に少なく、尻つぼみとなった後の女性系同人誌は、さらなる状況の拡散が進んでいます。夏から秋にかけては、作者自身がパロディ同人誌を出してしまった「炎の蜃気楼」が、そのキャラクターの類似性もあってか、C翼サークルからの転向組を中心に盛り上がりを見せましたが、まあそれなりのブームといったところで打ち止めで、いま一番の流行は「幽遊白書」。御大高河ゆん(INSIDE EDITION)がいち早く登場、若手の霜降月と組んで、久々の本領発揮。でも、彼女曰く「まだまだ、これから」だそうです。その他では、片桐あつこ(あつあつCOOK)日向朝衣(私が法律!)、が人気。さらに年末からは、田村みゆき、徳田みどり、あづみ享と言ったベテラン陣も参入し、今年上半期は「幽遊白書」主導で動いて行くことになるのでしょう。「幽遊白書」の特徴は非常に読者が若いこと。中・高生がメインなので、新しい方向性を打ち出せるかな、とちらっと思ったりもしますが、「サイバー」ブームを経て高くなり過ぎた本の値段を考えると、お金の少ない学生が買い支えられるのだろうか、と心配になってしまいます。

 一方男性系は、これまでの量的な限界を突破して、サークル・一般参加者の数はどんどん増えているのが現状です。ただでさえ、数年前から拡大基調であったことはベースにあったのですが、ブームを加速させたのはやはり「セーラームーン」でした。その魅力的なキャラクター設定とまじめにボケをカマしてしまうストーリーという、パロディされるために存在していると言わんばかりのこの作品の初回放映後、「これで決まりだな。」と思った人間の数がどれほどいたことでしょうか。そして、その勢いはコミケばかりでなく、昨年十月のCレヴォでは、美少女系の館に入るための列が出来てしまうほど。今年の春のレヴォもスーパーシティも多くの美少女系サークルの参加を得て賑やかになりそうです。
こうした状況のかなり大事な部分を握っているのは実は、男ばかりか多くの女性系サークルが「セーラームーン」の本を作り始めていること。今回紹介した同人誌は一部を除いてそういったサークルでわざと固めてみました。この他にも、むっちりむうにぃ(HELLO WORLD)、有里のえる(世紀末children)、源氏街子(愛Dタウン)、門井亜矢(冗談じゃないよっ!)、邪王(クールぴんぽん便)、水縞とおる(みずまぜぶっく)、ばけだぬき(ぶぶ漬け倶楽部)、妃川美波(綺流)、西崎祥(労働組合)、蓬田麦(稲城雲雀同盟)、まなづるちづこ(B級スペシャル)、某白泉社系作家と某小学館系作家の合同誌、など挙げても挙げてもキリ無し状態。

 しかも、今までならこの手のキワモノは、冗談の企画で一回だけのお遊び、というのがパターンのですが、こんどばかりはちょっと違うみたい。なにせ、描いてて楽しい、お客さんの反応もいい、本はよく売れる(サークルによっては、それまでのメインのジャンルの倍は売れる)と、いいことづくめ。これで次の本を出さないわけはないわけで、当分は、男女入り交じってのブームが続きそうです。さぞ冬コミケに遊びにきていた武内直子先生もご堪能されたのではないでしょうか。
 ただ、最近ブームの過熱に伴っていろいろな問題が生じています。特に、最近美少女系の存在を知った新しい人の中には、かつて美少女同人誌が警察に摘発され、コミケットが中止の危機に追い込まれたあの二年前のことをもう知りません。しかし、お巡りさんは決して忘れちゃいません。現に冬コミケには年末の忙しいはずの時期に本庁のお偉いさんが視察に来ています。ただ、物事が表に出なくなっただけで、事態は決して改善されてはいないのです。準備会のチェックも一段と厳しくなっていましたが、このような現状を考えると、やむを得ないところでしょうし、同様の事前チェックは、C.レヴォやスーパーシティでもあるようです。難しい問題でありますが、忘れてはならない問題でもあります。


[今回のもう一冊]
FUTURE FORMULA GPX(STUDIO AKKA)
 かの山下いくとさんの「サイバー」(!)の個人誌。アスラーダをはじめすごーくメカがかっこいい(当り前だ)。再版をしようか検討中とのこと。


な・い・しょ・のパイナップルムーン 発行/YAROW CO;GIRLS A4版/76P

 後出の徳川蘭子さん同様、もう十年以上に渡って女性系の同人誌で人気を得ている田村みゆきさんの個人誌。以前の「DO−PE」でも書きましたけど、田村さんの場合、通常のやおいパロディよりも、PINK HOUSEいっぱいの華やかな画面に彩られた女の子ネタの方が絶対に面白い。まんがは、4本。圧巻なのはうさぎとまことのお菓子作りえっちまんが「COOKING PANIC」。その大胆な内容は、冬コミケで多くの描き手たちの話題になっていました。企画モノとして傑作だったのは、男性読者からのお便りコーナー。妙なノリで大笑いできます。ゲストは、木崎範、宮下未紀、玖保田めくみ、戸川エズミ。イラストゲスト陣も、むっちりむうにぃ、麻里おりえ、門井亜矢、KITT-AKIRA(!)と豪華です。


りりかる 冬号 発行/K・S INSTITUTE&月組 B5版/172P

 夏の「恋物語」に続くオリジナルアンソロジー第2弾がこの本。パロディ系の作家を中心に健全な学園少女まんがを描いてもらうというコンセプトがようやく軌道に乗ったと言え、なかなかの出来になっています。お勧めは、まつおゆりこさんの「JUNIOR HIGH」。小学生のような無邪気な付き合いはもう出来ない、中学生の男の子と女の子の揺れ動く心を描いて傑作。女の子の友情と恋の悩みを描いたいわさきつばささんの「日曜日」も捨て難い佳作。この他にもあさりよしとお、伊藤まさや、金ひかる、有里のえる、フェニックスこすり、高橋直子、成田りな、ぶるまほげろー、松崎司、T2−UNITの面々などなど、いろいろなジャンルで活躍している作家が集まって個性を競っています。


CUE 発行/大密党 B5版/40P

 その端正な絵柄と、かっとんだギャグセンス、さらには同人界の御意見番的な才気と侠気溢れるフリートークで、C翼以前からマニアックな支持を得ている徳川蘭子さん。最近は、「サイバーフォーミュラ」のナイト・シューマッハに夢中の彼女ですが、一方で緑川蘭子名義でそれに優るとも劣らない情熱を注いでいるのが水野亜美ちゃんだったりします。まんがは亜美がクンツァイトとゾイサイトに捕らわれて襲われてしまう「女の偉大な力を見よの巻」。男性作家にありがちな即物的な表現なんかとはちがって、お尻の描写とか、泣き顔の表情などへのこだわりが、女性作家独特のエロティシズムを深めています。


空とぶスカート 発行/うぐいす姉妹堂 B5版/50P

 姉妹でC翼を中心に息の長い活動を続けているうぐいす姉妹。奇妙奇怪なギャグと、それでいてハートウォーミングで気のおけない本作りは、この「セーラームーン」でも健在です。お二人揃ってハマったアニメは実はC翼以来だそうで、キレた前書きから笑えます−−「かわいいおちちに71番トーンの世界へレッツゴー氈v。
 お勧めは、Tonoさんの銭湯ネタ「おフロパニック」と、うぐいすみつるさんの生理ネタ「女の子は大変!」。五人のキャラクターの個性をそれぞれうまく活かしたコミカルな作品に仕上がっています。ゲストにBright、里中守、他のみなさんが参加しています。


HONEY PIE 発行/Y's Company B5版/60P

 星矢、シュラトと人気を伸ばし、ここ最近はバスタードで安定した実力を見せていた荒木瑛さんの「セーラームーン」本第2弾。不思議な色気とあたたかみのあるキャラクターの表情が個性的です。ストーリーは長めのが二本、短いのが二本。うさぎたちと仲間になったことによる亜美の成長を描いた「秘密の花園」、ハロウィンでのうさぎと衛のいつもとはちょっと違った出会いの話「Let's HALLOWEEN」の二本がお勧め。タイトルページの亜美ちゃんも色っぽくていいのですが、もっとも魅力的なのはやさしげな衛の笑顔。この辺は女性作家の本領発揮と言ったところでしょうか。


BODY MOVING EX B5版/28P

 その独特の個性溢れるシャープな絵柄とハードなストーリーで人気の高い尾崎芳美さんのうさぎちゃん本の二冊目。「トルーパー」や「サイバー」の他に、「ソルブレイン」や、「ツインピークス」といったマニアックな題材まで描ける実力は折り紙付き。これまでも「サイバー」の葵今日子のボンデージ本も出したことのある尾崎さんだけに革や鞭の質感が何ともえっち。メインのストーリーは、うさぎ<攻>の衛<受>。巧みな構図、大胆な描写、挑発的な表情と、いわゆる美少女系とはひと味違うアダルティな雰囲気が魅力です。本人は「うさぎの耳を取ったら当麻。」とか言って自分で
茶化してますけどね。



コミックDO-PE VOL.2


 今回は番外編的に、同人誌界本筋とはあんまり関係ないけど、たいへん重要な会場の話をしてみたいと思う。

 ここのところ、コミケットの開催日があんまりよくない。冬は、年末の押し迫りきった日ばかり、特に昨年は曜日の具合いも悪くて、ただの平日の開催となった。首都圏の学生はともかく、会社を休めない社会人や帰りの交通手段の確保が難しい地方の人には参加がかなり難しい日程であったに違いない。ばからしい噂話では、この日程は参加人員を減らそうというコミケット準備会の陰謀説まであるが、これは全くの嘘。だいたいそんなことしたら、夏に反動がきて、夏コミケが大変になるだけだし(これは、去年の夏が実証している)、メインスタッフがほとんど社会人の準備会も、特に前日、初日に多くのスタッフが揃わず、やりくりが大変なのに、望んでこんな日程を組むわけがない。正解は、晴海で開催している限り、年末まで一部の館が三越のお歳暮の配送センターや「少年ジャンプ」お正月号(あの×百万部達成ってやつね)用の取次の臨時倉庫となり、全館貸してもらえないから。特に三越と晴海の関係は深く、コミケぐらいではどーにもならないのが実情。もうひとつとんでもないのは、一月二日、三日の土日にやればよかったのに、という話なんだけど、これは準備のことをなーんも考えていない。そう、その日程では設営が元旦になっちゃうんだよ!
 夏コミケも、お盆あたりのイベントが無い時期にしか出来ないんだけど、今回は前日に花火大会がぶつかる。一般参加の人は、ゴミやゲ○だらけの中央通路を見るくらいであんまり関係無いけど、準備する関係者はものすごく大変。なにせ、午後から夜にかけてのゴールデンタイムに、車両規制が敷かれてしまうし、中央通路は、見物の客で埋まってしまう。朝から設営して午後最初までで第一次の搬入、一旦中断ののち、夜、花火が終わって交通規制の解除後、深夜にかけての第二次の搬入、という計画らしいけど、こりゃスタッフも印刷所もサークルも大変だ。花火大会もバックに中央区がいるので強いんだよね。まあ、サーカスが中止なってくれたおかげで、東館が使えるようになり、全館開催で抽選率が下がるのははラッキーだけど。
 抽選率で思い出したけど、よく聞くのに、印刷所関係主催のイベントは、同じ会場を使ってもあんなにスペース数が多いのに、コミケットはもったいない。スーパーコミックシティ並に入れれば、二日間で二万三千スペース入って、ほとんどのサークルが抽選もれしない。という話があるんだけど、こりゃただの数字合わせ。考えてもみなさい。一般参加者の数が印刷所主催のイベントとコミケットじゃ全然違うでしょう。コミケットは一般参加者の多い分、通路の幅を広くしないとパンクしてしまう。同人誌即売会に限らず、晴海のイベントに共通して言えるんだけど、最近は消防署の人がすごく厳しいので運営が大変。消防署の人は、危ないと思ったら、イベントの中止命令が出せる法的権限を持っている<えらい人>なので逆らえないわけ。
 というわけで、規模はここまで大きくなったコミケットだけど、それ故に、世間様とのすり合わせも大変。タクシー公害とか、となりの都営住宅からの騒音のクレームとか他にも問題はいっぱいある。応々にしてこちらの方が立場が弱いから、これらの問題を何とかしのぎつつ、イベントを年二回開き続けるだけでも苦労が多い、というお話でした。


[おまけの未来編]

 こうしてみると、晴海の会場そのものに起因する問題も多い。それは、会場側もよーく判っていて、今、平成八年春をめどに有明に新しい国際展示場が出来る予定。でも、昨今の報道でもわかるように、臨海副都心計画はガタガタ。当初予定ではこの会場は、最初の一年は例の<東京フロンティア>という博覧会のメイン会場として使われるはずなんだけど、今やだいぶ雲行きも怪しい。東西に別れた展示場は、東部分だけで、晴海全館並という大きさなので規模的には充分。コミケットや印刷所主催イベントも進出の予定だけど、まだまだ不確定要素が多いといったところ。特に頭が痛いのは交通問題。京葉線が新木場から有明方面に延長されないと、バス以外の交通手段は、新交通システムという自動運転の規模の小さいミニ鉄道しかない。これは、関西のインテックス大阪へのニュートラムや神戸国際展示場へのポートライナーと同じタイプの鉄道で、コミックシティクラスでも大混雑してしまうという代物。また、道路も首都高速12号線を作ったけれども、、会場自体の駐車場スペースは、晴海よりましな程度らしいので自家用車の使用も今以上には使えないらしい。
 交通だけでもなかなか前途多難なのである。


AXIS 2 発行/愛Dタウン A5版/56P

 C翼以降常に、女性系アニパロの人気作家として第一線で活躍し、最近はトルーパーとオリジナルJUNEを中心に活動している源氏のお町(源氏街子)さん。彼女がその昔はさいとうみきのペンネームでロリコンをやっていたなんて最近の若いモンはもう知らないでしょうねぇ。その彼女が「昔取った杵柄」で最近セーラームーンに夢中です。カップリングは<まこと&亜美>。源氏のお町さんのうまいのは、感情が盛り上がってSEXに至るのをただ描くのではなく、SEXした後の心のゆらめきとか想いの募り、嫉妬などを丹念に積み重ねて、恋する女の子のありのままを描写しているところ。キスマークの使い方や物語のひきも実にうまく、次号への興味を湧かせてくれます。


セーラームーンマガジン(1) 発行/冗談じゃないよっっ! B5版/30P

 C翼・星矢・トルーパーというアニパロ界の王道で、その可愛らしい絵柄、ギャグというよりは絶妙な漫才のセンス、ほのぼのとしたストーリーで、高い人気を保っていた門井亜矢さんのセーラームーン本。やおい全盛の女の子系パロディ界で、やおいなしでいくつものジャンルにわたって人気を得ている作家は非常に珍しく、彼女の実力の高さがうかがえます。メインのまんがは、うさぎとまことが銭湯で三助のアルバイトの座を争う(!?)「ストリップ・ハート」。他の三人や、衛、元基も加わってのハチャメチャで元気いっぱいの健康お色気コメディが繰り広げられます。本が出ないことが芸ですらある(江口寿史みたいだね)門井さんですので、がんばってこのシリーズを続けて欲しいものです。


M 発行/HELLO WORLD B5版/34P

 古くはシュラト、最近ではサイバーフォーミュラで人気のむっちりむうにぃさんが、セーラームーン本を出しはじめたのは去年の秋から。以来、ほぼ毎月1冊のハイペースでセーラームーン本が発行され、その印象的な瞳と、テンションが高くクセのあるキャラクターたちが繰り広げるギャグで多くのファンを得ています。事実、冬コミケでは、本を求めて列を作る読者の半分は男性という人気ぶりでした。セーラームーン5冊目の今回の本も強烈なギャグのオンパレード。個人的には、セーラー戦士に変身してしまうノリノリの育子ママと、自分がかわいいことがっていて性格が超悪い亜美のネタがお気に入りです。


POWER OF LOVE 発行/マルキンクラブ A5版/36P

 古くはオリジナル、キャプテン翼の源岬から始まり、メロウリンク、外国TV刑事ドラマ、ダガーンと、息の長い活動を大阪を中心に続けている赤坂ラジさんのジャイアントロボ本。原作アニメの第一話の、とてもオリジナルビデオとは思えないハイクオリティは、去年の作品の中でも屈指のモノでしたが、横山光輝作品ということもあって比較的大人の支持が高かったように思います。この本は、表紙のかわいい大作くんとは裏腹に、ギャグ中心のバラエティ本で、内容はなかなかグレート。2Pほどのショートストーリーと4コマが中心ですが、吉田戦車や楳図かずおネタもあり、大笑いできます。


SAILORS 発行/炬燵屋CO.LTD
 BLUE VERSION B5版/40P RED VERSION B5版/68P


 男性向け同人界で最も高い人気を誇るサークルのひとつである炬燵屋さんもセーラームーンです。セーラームーンも、人気の割には長めの作品を描いている描き手が意外に少なく、活気があって面白いにも関わらず、読みごたえという点では、いまひとつ物足りないところがあるりました。しかし、さすがはたつねこさん、前後編合わせて90Pを越える長編を出してきました。前編は<衛&うさぎ>がメイン、後編は<妖魔&レイ、まこ、亜美>が中心。いつものようにシリアスとえっちとほのぼのギャグを合わせたストーリーは、安心して楽しめ、読者の期待を決して裏切らない出来になっています。


初恋 発行/KK COMPANY B5版/84P

 「コミックDO−PE」の読者層を無視したようにJUNE本の紹介。
 この本は青磁ビブロス等の商業誌でも最近活躍が目ざましいこいでみえこさんの個人誌。彼女の代表作である学校の教師同士の恋愛物である「放課後の職員室」シリーズのサブキャラクターの番外編です。
 高校生の時、親の転勤で別れることになってしまい、今では大学生となり、お互い普通に彼女もいる圭と一樹が、四年ぶりに偶然再会します。四年の間のわだかまりや、想いが交錯する中、二人が自分の気持ち、そして相手の気持ちを見い出すまでを、丹念な心理描写で美しく描いています。



コミックDO-PE VOL.3

 [はじめに]

 ジュリアナ東京というディスコがある。二千人も入れて、でっかいお立ち台の上で、ボディコン姉ちゃんが扇子振り回しながらパンツ見せて踊りまくる、というあれである(マスコミおやじ的表現)。
 コミケット的な文化とは対極にあるものとして受け取られるこのジュリアナ東京だが、実はコミケットとよく似ている。というわけで今回は誰も思いつかなかった「コミケット=ジュリアナ東京」というのをでっち上げてみたい。


 [ディスコの仕組み]

 かつての名の知れたディスコの特徴というのはその敷居の高さだった。服装の厳しいチェック、女性同伴以外の男性客の排除、外人や芸能人といった<異人>の優遇…。一定以上のクラスの人種しか相手にしない、というその姿勢は、「選ばれること」により、客の満足感を刺激し、指向性を高めた。
 しかし、指向性の高さと普遍性は通常両立が非常に難しい。「バブル崩壊」のあとではなおさらで、いくつかの有名ディスコは、廃業や方向転換を迫られることになる。例えば、かのキング・アンド・クイーンは今しゃぶしゃぶ屋兼業である。
 そんな冬の状況の中で多くのお客を集めているのが「ジュリアナ東京」である。大人数収容可能のスケールメリット、甘い入口チェック、男性同士もOK、<異人>さんはあまり優遇しない、という「来る者拒まず」の姿勢は、今までのディスコでは「やってはいけない」とされてきたことであった。


 [同人誌の仕組み]

 その昔、同人誌というのは、商業誌でのまんがに飽き足らなくなった読み手及び描き手が、「ふつうではない」作品を「選び」、満足するための表現手段であった。二百ページのまんがが商業誌で読めるお金で、わざわざ、五十ページの同人誌を売買するのは何故なのか。言い古されたフレーズではあるが、当時は、安価で良質な印刷手段も無かったこともあり、この問いかけは切実さを持っていた。
 しかし、コミケットの拡大過程で、そうしたこだわりは、希薄になっていく。そもそも、コミケットの「なんでもあり」というあり方は、表現を深める方向に働く一方で、無責任に表現を垂れ流すことをも黙認してきた。本来ならば「ふつうではない」表現方法であったはずのパロディは、共通作品を媒介としてのコミュニケーションツールへと変質していく。その決定打であり、すべての始まりは「キャプテン翼」であったことは誰もが認めるところであろう。


 [ふたつをつなぐもの]

 しかし、普遍性を得るということは、求心力を失い、飽きられやすくなることでもある。そのため、「選ばれし者の恍惚」という快感原則とは異なったベクトルでの指向性を発揮しなければ、この場は維持出来ない。特に、誰もが踊る者であり観る者であり、描き手であり読み手であるという、ディスコとコミケットの持つ両義性は、その素人さゆえの情熱により、一過性のパワーは持ち得る。しかし、持続力という点では玄人にははるかに及ばない。
 そこで登場した新しい快感原則が、<ボディコン>であり、<パンツ>であり、<やおい>であり、<美少女>なのだ。誰でも参加することが出来るという普遍性の上に、<性>という強力な指向性を高く掲げれば、これが熱狂に拍車をかけ、ブームを起こすのはある意味簡単である。ジュリアナ東京とコミケットの圧倒的な強さの根源はここにある。
 同人誌に関わる人間の一般的な視点からすれば、人前で<パンツ>を見せて踊ることなど思いもつかないことであろう。しかし、同人誌の本来的に持っている送り手と受け手の親密性の上に立ちながら、<やおい>や<美少女>を表現するということは、即売会の机を<お立ち台>に<パンツ>を見せているという冷静な認識を我々は持つべきである。そして、コミケットでのジュリアナ級の馬鹿でかいお立ち台がA館という行列サークル専用館なのである。このお立ち台がその規模やステータスの割に不評なのは、他の館とは切り放され、フロアとの一体感に欠け、お立ち台に求めれれるような様々な欲求を満足させていないからである。この問題が解決されたとき、現在のコミケットのシステムは完成を見るのであろう(おそらく、晴海にいる限り無理だろうけど…)。
 ただし、気をつけなければならないのは、<性>は、手段であり、目的ではないということである。しかし、応々にしてこのことは簡単に忘れ去られていく。まず始まるのは、受け手の質の低下である。質の低下そのものはそもそも普遍化してしまった以上避けれないことではあるが、<パンツ>の中身をのぞき込むモラルの低い馬鹿者が増えていくようになる。しかし、それ以上に問題なのは、質の低い観客に送り手がレベルを次第に合わせてしまうことである。かつてロリコンブームにおいての、その質的にも量的にも悲惨な結末を我々は知っている。だが、歴史は繰り返さないとは限らないのである…。


塔 発行/ヌクレオチド・ファクトリー B5版/32P

 「絵を見てわかる人はわかってください」(御本人談)という、所沢わるつさんのはじめての美少女個人誌(笑)。
 幼い頃から「塔」の中に幽閉され外界を知ることなく生きてきた選ばれし少女。「塔」の主であり夜にしか姿を見せることのない選びし“伯爵”。ふたりの<交歓>を通して、少女の女への変容と、「塔」の所有者の継承を、見事に描いています。特に印象的なのは、少女の大きな瞳と長く乱れた黒髪。幼さとエロティシズムが錯綜し、女性作家ならではの美意識と、ベテランの確かなテクニックを感じさせてくれます。
 なお、おまけの巻末の穴埋めマージャンえっちまんがも、大笑いさせてくれる佳品です。


PINK DIAMOND 発行/FAR EAST CAFE CLUB B5版/40P

 古くは多くの実力ある創作少女系作家たちが参加した会員制サークル「Paper ALICE」の代表者として、また、「私設小田和正後援会」での音楽系パロディで、高い人気を得ている小田和明さん。個人誌サークル「Far East Cafe Club」では、以前からオリジナルの他にミンキーモモ本が発行されたりもしていましたが、この春からはセーラームーン本も登場し、この本が2冊目となります。
 まんがは2本。落ち込んでいるうさぎを美奈子が優しくそして少し厳しく励ます「MISTY」と、いかにセーラームーンにハマってしまったかの実録まんが「Making of PINKDIAMOND」。どちらも、小田さんらしく実に可愛らしいお話です。
ゲストも、神谷香緒里、篝瀬里亜、荻野美衣と豪華。


あたりまえだのセーラームーンR 発行/BURKET出版 A5版/52P

 くまたかつみさんの魅力は、動物やファンタジー系の作品での、真摯で骨太な作品作りをする一方で、「ラムネ&40」などのパロディで、グレイトなギャグが連発できる、という両面性でしょうか。今回のセーラームーン本でも相変わらず読者を笑わせてくれます。
 特に面白いのは、巻末16ページにわたるセーラームーンキャラによる「ウゴウゴルーガ」パロ、「ウサウサルーナ」。同人誌界では世間より早く人気を得ていた「ウゴウゴルーガ」ですが、原作があれだけ強烈なだけに、パロディ負けしている作品が多かったように思われます。しかし、くまたさんのギャグは、両方の作品の持ち味を活かし、さらに笑える描写になっているところがさすがです。


SUPER HIDEKI 発行/THE HIDEKI B6版/84P

  女性系アニパロの歴史において、時代を画した作品となった「キャプテン翼」。このブームの火付け役のサークルのひとつでもあり、その後もコンスタントに質の高い同人誌を作り続け、最近は「ファイアー・エンブレム」パロディでも人気の突貫工事!おぢろう組。
 しかし、その一方で、ファンの秘かにかつ高い支持を得ているのが、飼い猫の“ひで”との日常をおもしろおかしく四コマで描いた「THEHIDEKI」です。コミケ毎にコピー本で発行され、確実に手に入れることがなかなか難しかったこのシリーズですが、今回「VOL1〜VOL5」までの総集編が発行され、作者のへうがけんさん、里中守さんと、“ひで”との心温まる交流をたっぷりと楽しめます。


くらくらSPECIAL 発行/ぷーるぐ・えとわす B5版/96P

  かつて、九州に独自の創作同人誌文化圏があった頃から、多くの才能が集まり、個性ある活動を行なってきたぷーるぐ・えとわす。その中心的存在が、くら☆りっささんですが、今回のこの本は、そのくら☆りっささんの代表作である「スペーストラバーズ」、「放課後には魔導師」などのキャラクターを、お友達が集まってパロったえっち本という異色企画です。メンバーは、水ようかん、猫玄、陽気婢、があさん、みやもと留美、宮岸あきひさ、うたたねひろゆき、けら、どーぶつのこども、邪夢猫、と豪華な面々。中でも一番のお奨めは、栗東てしおさん(笑)の「リンドくん5/8計画のまき」。祈子ちゃんの健気な台詞がなかなか感動的でよくできたお話になっています。


SOPHIA 発行/労働組合 B5版/24P

 「キャプテン翼」時代から硬質感のある独特の絵柄でマニアックな人気を得、最近では「ダイの大冒険」、「健太やります!」などのパロディを中心に活動してきた西崎祥さんの2冊目のセーラームーン本。
 1冊目の「SMANTHA」の漫才的なギャグ(これも傑作!)とはうってかわって、今回はちょっとシリアスなまこと氓、さぎメインの「SERAPH」が中心。5人のキャラクターの性格をうまく描きつつ、お互いに対しての想いやりや、自分のあり方へのこだわりを見事に表現しています。特筆すべきは、西崎さんお気に入りキャラといううさぎの笑顔。屈託の無い印象的なその表情が、物語の説得力をしっかりと大地に根をおろしたものにしています。


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