小川びいと東浩紀との往復メール

はじめに

 以下に公開するメールは、hirokiazuma.com「近況 2002.7.14」を巡って交わされたものである。
 東の記述の一部分に対して、小川が事実誤認と訂正を求めたのをきっかけに、何度かメールがやりとりされた。最終的な合意には至らなかったものの、妥協案として、両者のメールをここで公開することが提案され、この形となった。これについては、東による「近況 2002.7.28」も参照してほしい。どちらの主張を支持するかは、このメールを読んだ人間にゆだねたい。
 なお、メール本文については、誤字・誤記も含めて、ほぼ原文のままである。

1 小川びい 突然のメール失礼いたします Sun, 21 Jul 2002 03:24:21
2 東 浩紀 Re: 突然のメール失礼いたします Sun, 21 Jul 2002 12:36:56
3 小川びい Re: 突然のメール失礼いたします Sun, 21 Jul 2002 15:35:03
4 東 浩紀 Re: 突然のメール失礼いたします Sun, 21 Jul 2002 17:06:36
5 小川びい Re: 突然のメール失礼いたします Sun, 21 Jul 2002 19:03:29
6 東 浩紀 Re: 突然のメール失礼いたします Sun, 21 Jul 2002 20:41:40
7 小川びい Re: 突然のメール失礼いたします Mon, 22 Jul 2002 08:59:52
8 東 浩紀 Re: 突然のメール失礼いたします Mon, 22 Jul 2002 15:34:45
9 東 浩紀 訂正! Mon, 22 Jul 2002 15:34:45
10 小川びい Re: 突然のメール失礼いたします Wed, 24 Jul 2002 08:53:31
11 東 浩紀 Re: 突然のメール失礼いたします Wed, 24 Jul 2002 11:28:22
12 小川びい Re: 突然のメール失礼いたします Fri, 26 Jul 2002 09:38:00

 公開について配慮いただいた東浩紀氏、協力してくださった三崎尚人氏に感謝したい(小川)。

1 小川びい 突然のメール失礼いたします Sun, 21 Jul 2002 03:24:21

From: Ogawa B
To: hazuma@t3.rim.or.jp
Subject: 突然のメール失礼いたします
Date: Sun, 21 Jul 2002 03:24:21

東浩紀さま

突然のメール失礼いたします。ライターの小川ともうします。

さっそくですが、WEBサイト上の7月17日付け近況、拝見しました。

>「東浩紀はむかしSPA!でセーラームーンを『チャイルド
>・アニメ』だと言っていた」件、これはO氏の勘違いである。
この記述には大変驚きました。取り急ぎ、指摘だけさせていただきます。

『週刊SPA!』1997年4月30日&5月7日合併号「エヴァンゲリオンとは何
だったのか!?」と題する記事が掲載されており、その記事中において、東さま
は次のように発言されております(pp48-49)。

>日本アニメは(略)宮崎、押井、大友らのメジャー路線プラス、『ドラゴン
>ボール』『美少女戦士セーラームーン』などの子供向けメガヒット路線と、
>(略)オタク路線に分化していった。

また、同時に掲載されております年表でも〈子供向け〉として『美少女戦士セ
ーラームーン』を分類されております。
もう一点、さらに細かいことですが、
>O氏から指摘されたガンダム小特集の記事は確認したし
と記述されておられるようですね。あのとき、私は「年表で」と言った覚えは
あるのですが、「ガンダムの記事で」というたぐいの発言はしていないと思い
ます。

以上、取り急ぎ、ご連絡まで。

-----------------------
小川びい Ogawa B
e-mail:b@applehouse.net
-----------------------

2 東 浩紀 Re: 突然のメール失礼いたします Sun, 21 Jul 2002 12:36:56

From: hiroki azuma <hazuma@t3.rim.or.jp>
To: Ogawa B <b@applehouse.net>
Subject: Re: 突然のメール失礼いたします
Date: Sun, 21 Jul 2002 12:36:56

 小川さま、

 東です。
 メール拝見いたしました。

> この記述には大変驚きました。取り急ぎ、指摘だけさせていただきます。
>
> 『週刊SPA!』1997年4月30日&5月7日合併号「エヴァンゲリオンとは何
> だったのか!?」と題する記事が掲載されており、その記事中において、東さま
> は次のように発言されております(pp48-49)。
>
> >日本アニメは(略)宮崎、押井、大友らのメジャー路線プラス、『ドラゴン
> >ボール』『美少女戦士セーラームーン』などの子供向けメガヒット路線と、
> >(略)オタク路線に分化していった。
>
> また、同時に掲載されております年表でも〈子供向け〉として『美少女戦士セ
> ーラームーン』を分類されております。

 これは僕のほうも驚きました。
 というのも、「チャイルド・アニメ」という表現と、「子供向
けメガヒット路線」という言い方ではかなりニュアンスが違うと
思うのです。
 僕の記憶ではあのとき、小川さんは、「東浩紀はセーラームー
ンを所詮チャイルド・・アニメに過ぎないと言っていて、それで
失望した」とおっしゃられたと思うのです。また、いくつかの日
記サイトでも、そのような会話として記録されています。けれど
も、僕のそのSPA!の発言にそのようなニュアンスは読みとれ
ないと思うのですが、いかがでしょう。

> >O氏から指摘されたガンダム小特集の記事は確認したし
>
> と記述されておられるようですね。あのとき、私は「年表で」と言った覚えは
> あるのですが、「ガンダムの記事で」というたぐいの発言はしていないと思い
> ます。

 おお、そうでしたか。ではそれは僕の勘違いですね。
 申し訳ない。訂正します。

 いずれにせよ、僕は、セーラームーンを「子供向けのくだらな
いアニメ」というニュアンスを込めて一蹴したことはないと思い
ます。
 また、小川さんのSFセミナーでの発言が完全な勘違いではな
かったという点も、了解しました。この件は日記で追記いたしま
す。

 僕としては、あそこに記しましたように、小川さんに対して他
意はありません。ただ、小川さんの意図はともかく、あの遣り取
りばかりが一人歩きをして、悪意ある発言がいくつかの日記サイ
トに流れたということで、修正を迫られた次第です。結果として
小川さんにご迷惑をおかけしたら、申し訳なく思います。

--
東浩紀
hazuma@t3.rim.or.jp
http://www.t3.rim.or.jp/~hazuma/

3 小川びい Re: 突然のメール失礼いたします Sun, 21 Jul 2002 15:35:03

From: Ogawa B <b@applehouse.net>
To: hiroki azuma <hazuma@t3.rim.or.jp>
Subject: Re: 突然のメール失礼いたします
Date: Sun, 21 Jul 2002 15:35:03

東さま

ライターの小川です。ご返事ありがとうございます。

ニュアンスの問題に拘泥するのは不毛なのですが、ここは僕の名誉がかかった
問題でもあるので、あえてかかせていただきます。

> 僕の記憶ではあのとき、小川さんは、「東浩紀はセーラームー
>ンを所詮チャイルド・・アニメに過ぎないと言っていて、それで
>失望した」とおっしゃられたと思うのです。また、いくつかの日
>記サイトでも、そのような会話として記録されています。けれど
>も、僕のそのSPA!の発言にそのようなニュアンスは読みとれ
>ないと思うのですが、いかがでしょう。

たとえば以下の日記・コラムを拝見していただければわかるでしょうが、僕は
「すぎない」というニュアンスで発言はしていないと思います。むしろチャイ
ルド・アニメに「分類」したこと自体を問題にしていたのです。
http://member.nifty.ne.jp/windyfield/diary0205a.html
大森望「わるものオーバードライブ」『アニメージュ』2002年7月号

もうひとつ、「子供向けメガヒット路線」という表現は、たしかにおっしゃる
とおりニュアンスが微妙に異なるでしょう。ただ、それが分類・年表と一緒に
載ったときに、どう読者にうつるのか? それを単に編集者の責任に帰すのか?
という疑問は呈しておきたいと思います。

さらに加えて言えば、当該の発言・年表では、セーラームーンとエヴァの間の
関係が完全に捨象されている点も、僕にとっては見逃せないところです(なに
しろ、アニメの歴史に関するレクチャー記事なのですから)。受け手のアニメ
ファンにとっては、まさに「おたく向け」として同一線上にあったわけですし、
作り手側を考えても、その直接的な影響関係は無視できません(あまり指摘さ
れませんが、エヴァはセーラームーンを強く意識して作られています)。

ともかく、あの場では「そんな発言をするわけはない、もしあるとすれば編集
者が勝手に書いたとしか思えない」と即答し、今また僕のことを「あの場で僕
をやりこめるために、あえて嘘を言ったか」などとうそつき呼ばわりしたこと
に関しては、きちんと対応していただきたいと思います。

他意はないとおっしゃるのでしたら、「誇らしげに指摘した」などという表現
や「O氏とともにいろいろ僕にイチャモンをつけていた」などという表現につ
いても考慮していただければ、うれしいです。

それでは。

-----------------------
小川びい Ogawa B
e-mail:b@applehouse.net
-----------------------

4 東 浩紀 Re: 突然のメール失礼いたします Sun, 21 Jul 2002 17:06:36

From: hiroki azuma <hazuma@t3.rim.or.jp>
To: Ogawa B <b@applehouse.net>
Subject: Re: 突然のメール失礼いたします
Date: Sun, 21 Jul 2002 17:06:36

 小川さま、

 東です。

 メール拝見しました。

> もうひとつ、「子供向けメガヒット路線」という表現は、たしかにおっしゃる
> とおりニュアンスが微妙に異なるでしょう。ただ、それが分類・年表と一緒に
> 載ったときに、どう読者にうつるのか? それを単に編集者の責任に帰すのか?
> という疑問は呈しておきたいと思います。

 疑問はお受けしました。

 セーラームーンがオタク向けに重要なアニメであり、子供
向けに括られて終わるものでないことは、先日もお答えしま
したように、僕も重々承知しております。

 しかし、問題のSPA!はセーラームーンを主題とした文
章ではありません。それに、繰り返し言うことですが、SP
A!でも講談社現代新書でも、僕は、アニメに詳しくない一
般読者を相手にしているわけです。

 そのときセーラームーンを「子供向け路線」に分類するこ
とが、果たして僕の仕事全体への信頼を疑わせる根拠になる
でしょうか? 僕はそう思いません。どのようなジャンルで
も、初心者向けに説明するとき、多少大きな括りになるのは
避けられないことと考えます。 

 いずれにせよ、小川さんもお認めになるように、僕はそこ
で、「チャイルドアニメ」という表現はしておりません。セ
ーラームーンを主題にしているわけでもありません。ただ話
の前提として、子供向けのメガヒットとしてセーラームーン
などがあった、という一般常識を繰り返しているだけです。

 しかし小川さんの先日の糾弾は、あたかも僕がセーラーム
ーンについて積極的に悪質な発言をしたように聞こえました。
少なくとも、会場の熱気もあって、そう取られかねない雰囲
気はあったと思います。

 水掛け論になるかもしれませんが、僕自身は、乱暴な部分
があるにせよ、いい加減な仕事をしているつもりはありませ
ん。セーラームーンひとつ見ていないでオタクをネタにつか
っている、しかもそれをプロのライターに指摘されたら編集
者のせいにした、という評判が立つのは、今回の件ではまっ
たく不本意なことです。

 小川さんは名誉が掛かっているとおっしゃられましたが、
僕のほうも、その点は同じです。

> ともかく、あの場では「そんな発言をするわけはない、もしあるとすれば編集
> 者が勝手に書いたとしか思えない」と即答し、今また僕のことを「あの場で僕
> をやりこめるために、あえて嘘を言ったか」などとうそつき呼ばわりしたこと
> に関しては、きちんと対応していただきたいと思います。

 僕は「勘違いだ、さもなければ嘘か」と記しています。嘘
とは断言していません。

 口調が強すぎるとお思いかもしれませんが、この点は小川
さんご自身の当日の発言を思い出していただけませんか。あ
の日の小川さんは、僕自身が戸惑うほど、激しい口調で僕の
仕事を全否定していたと思うのですが。そして、その結果と
して、近況欄で問題としたような学生の悪ノリが助長された
こと、これは確かだと思うのですが。

> 他意はないとおっしゃるのでしたら、「誇らしげに指摘した」などという表現
> や「O氏とともにいろいろ僕にイチャモンをつけていた」などという表現につ
> いても考慮していただければ、うれしいです。

 基本的には以上のような考えです。
 とはいえ、ここで悪口を言い合っても不毛ですし、そもそ
もの問題は小川さんに勝手に仲間意識をもって調子に乗って
いた学生にあるのですから、何とか落としどころを考えたい
と思います。

 僕としては、

 (1)小川さんから抗議のメールがあった。
 (2)僕のSPA!の記事のなかには、セーラームーンを
主題とした文章はなかったが、セーラームーンを「子供向け
メガヒット路線」に分類した文章はあった。しかし、セーラ
ームーンの名前はドラゴンボールなどと並べて例としてあげ
ただけであり、とくに主題になっていなかった。「チャイル
ドアニメ」という表現もなかった。
 (3)当日の小川さんの発言は、セーラームーンについて
の小川さんの仕事を背景にした批判で、意図的な歪曲はなか
った。
 (4)当日の僕の答えも、セーラームーンを主題とした発
言をしたことはないという正しい記憶から出たもので、事実
を隠蔽するものではなかった。
 (5)当日の会場の雰囲気は、かなり激しい口調が飛び合
う状態だった。

 というあたりを淡々と追記するというあたりで、納得して
いただければと思います。

 あるいは、この一連のメールを公開するというかたちでも
構いません。ご検討ください。

--
東浩紀
hazuma@t3.rim.or.jp
http://www.t3.rim.or.jp/~hazuma/

5 小川びい Re: 突然のメール失礼いたします Sun, 21 Jul 2002 19:03:29

From: Ogawa B <b@applehouse.net>
To: hiroki azuma <hazuma@t3.rim.or.jp>
Subject: Re: 突然のメール失礼いたします
Date: Sun, 21 Jul 2002 19:03:29


東さま

素早い返信ありがとうございます。

他の方にからまれて、迷惑したとのこと。ご同情申し上げます。

ただ、もういちどご自分の書かれたものを読み返されてはいかがでしょうか。僕について
発言された部分をもう一度引用させていただきます。

>別にY氏に限らず、あちこちの日記サイトや掲示板には、事情通ぶった書き手によって
>誤った事実がばらまかれている。

>アニメライターのO氏が誇らしげに指摘した「東浩紀はむかしSPA!でセーラームー
>ンを『チャイルド・アニメ』だと言っていた」件、これはO氏の勘違いである。

>どのSPA!にもそのような発言は見つけられなかった

>したがって、あの場で僕が「そんな発言をするわけはない、もしあるとすれば編集者が
>勝手に書いたとしか思えない」と即答したことは、単純に正しかったのである。O氏は、
>僕とほかの人物の発言を取り違えたのだと思われる。でなければ、あの場で僕をやりこ
>めるために、あえて嘘を言ったか。

ここまで書いておきながら、

> 僕は「勘違いだ、さもなければ嘘か」と記しています。嘘
>とは断言していません。

とおっしゃるとは、ちょっと信じがたい。引用した文章は「事情通ぶったライターが誇ら
しげにも、勘違いかさもなければ嘘をばらまいたが、東は正しかった」と書いているも同
然ですよ? 違いますか。

そもそも、チャイルド・アニメと子供向けメガヒットアニメという単語に、それほどの大
きな違いがあるでしょうか。たしかに文脈というものは大切ですが、それは今回の場合さ
して問題にはならないでしょう。少なくとも先の引用した日記やコラムを読む限り、その
ような違いが問題になっていないのは明白です。もしかすると、東さまは、チャイルド・
アニメにチャイルディッシュなアニメ、というニュアンスを読みとられた(ている)のか
もしれませんが、そんな意図は当時も今もありません。これは、かつて『アニメージュ』
で、子供向けのアニメを「チルドの時代」と表現したことがあり、それを多少ふまえた、
いわば歴史的な表現でもあります(……って考えすぎか)。

僕があの場で東さんの言動に強い調子で注文をつけたのは確かです。そのことに不快を覚
えられるのは、ある意味当然でしょう。ですが、不快に乗じて、さして調べもせずに、こ
ういう文章で復讐(復権?)を図るというのはいかがなものでしょうか。まさに東さんの
「こういうやつがいるからネットとか日記って侮られるんだよなあ」という感想を、その
まま返したい気持ちです。

「実は、セーラームーンをチャイルド・アニメと評したことはあった。調べもせずにいい
加減なことを書いてO氏の名誉を損ねるようなことをしてしまった。ごめん」

となぜ素直に書けないのですか? 僕の言っていることは不当なお願いでしょうか。

-----------------------
小川びい Ogawa B
e-mail:b@applehouse.net
-----------------------

6 東 浩紀 Re: 突然のメール失礼いたします Sun, 21 Jul 2002 20:41:40

From: hiroki azuma <hazuma@t3.rim.or.jp>
To: Ogawa B <b@applehouse.net>
Subject: Re: 突然のメール失礼いたします
Date: Sun, 21 Jul 2002 20:41:40

 小川さま、

 お返事ありがとうございます。

> ただ、もういちどご自分の書かれたものを読み返されてはいかがでしょうか。僕につい
> て
> 発言された部分をもう一度引用させていただきます。
>
> >別にY氏に限らず、あちこちの日記サイトや掲示板には、事情通ぶった書き手によっ
> て
> >誤った事実がばらまかれている。
>
> >アニメライターのO氏が誇らしげに指摘した「東浩紀はむかしSPA!でセーラーム
> ー
> >ンを『チャイルド・アニメ』だと言っていた」件、これはO氏の勘違いである。
>
> >どのSPA!にもそのような発言は見つけられなかった
>
> >したがって、あの場で僕が「そんな発言をするわけはない、もしあるとすれば編集者
> が
> >勝手に書いたとしか思えない」と即答したことは、単純に正しかったのである。O氏
> は、
> >僕とほかの人物の発言を取り違えたのだと思われる。でなければ、あの場で僕をやり
> こ
> >めるために、あえて嘘を言ったか。

 これなんですが、僕の近況欄の批判対象は「Y氏」とその友
人です。それに冒頭に、ライター経験もないくせに事情通ぶっ
ているやつがむかつく、とはっきり書いてある。プロのライタ
ーの小川さんを攻撃する意図はありません。

>>  僕は「勘違いだ、さもなければ嘘か」と記しています。嘘
>> とは断言していません。
>
> とおっしゃるとは、ちょっと信じがたい。引用した文章は「事情通ぶったライターが誇
> ら
> しげにも、勘違いかさもなければ嘘をばらまいたが、東は正しかった」と書いているも
> 同
> 然ですよ? 違いますか。

 違います。

 「誇らしげに」という言い方にかなりカチンと来られたよう
ですが、そこも僕の印象をストレートに書いただけです。もし
そこまで不快感を覚えられたのなら、この部分は削除してもか
まいません。ただ、小川さんの言動がそういう印象を与えるも
のだったのは確かで、これは否定できません。

 それに、これは汲み取ってもらいたいのですが、僕は少なく
ともこの件を一月は放っておいたのです。もし小川さんに反論
しようとしたら、すぐ行うはずです。僕の近況欄の批判対象は、
あくまでも問題の学生たちにあります。

 それとあと、

> そもそも、チャイルド・アニメと子供向けメガヒットアニメという単語に、それほどの
> 大
> きな違いがあるでしょうか。たしかに文脈というものは大切ですが、それは今回の場合
> さ
> して問題にはならないでしょう。少なくとも先の引用した日記やコラムを読む限り、そ
> の
> ような違いが問題になっていないのは明白です。もしかすると、東さまは、チャイルド
> ・
> アニメにチャイルディッシュなアニメ、というニュアンスを読みとられた(ている)の
> か
> もしれませんが、そんな意図は当時も今もありません。これは、かつて『アニメージュ
> 』
> で、子供向けのアニメを「チルドの時代」と表現したことがあり、それを多少ふまえた
> 、
> いわば歴史的な表現でもあります(……って考えすぎか)。

 この件ですが、そもそも僕自身は、随所で、「セーラームーン
やおジャ魔女のようなメガヒットにしてもオタク的な感性に支え
られている」と発言しているつもりです。ですから、僕自身はな
んでこの件で文句を言われるのか、あの日もまったく分からなか
ったのです。

 それに、繰り返しますが、僕がそこで言ったのは「子供向けで
メガヒットしているアニメ」という単純な意味です。セーラーム
ーンは事実としてそうだったし、それを否定するなら、「子供向
けのメガヒット」という形容詞は使えなくなってしまう。だから
この一文をもって東浩紀は不用意な発言をする、と弾劾するほう
が無理だと思うのですが。むしろ僕は、小川さんがずいぶん強い
口調で非難されたので、だからこそ深い意味を込められていると
考えました。

 そもそも僕はあのとき、「チャイルド・アニメなんて言い方を
するわけがない、セーラームーンは良いアニメだと思う」と即答
したのに、「絶対に言った」と小川さんがおっしゃるので、「じ
ゃあ編集者が勝手に書き加えたんじゃないか」とまで言うはめに
なったのです。そしてあとで気になり調べたところ、「やっぱり
あんなふうに言われる発言はしていないよな」と思った。小川さ
んがあそこまでこだわるのだから、セーラームーンについてよほ
ど不用意な発言をしたのだろう、と想定するのは自然ではないで
しょうか。聴衆もそう思われたと思います。その根拠が「『ドラ
ゴンボール』『美少女戦士セーラームーン』などの子供向けメガ
ヒット路線」という一文というのは、ちょっとひどい。

===

 それで、

> (2)僕のSPA!の記事のなかには、セーラームーンを
> 主題とした文章はなかったが、セーラームーンを「子供向け
> メガヒット路線」に分類した文章はあった。しかし、セーラ
> ームーンの名前はドラゴンボールなどと並べて例としてあげ
> ただけであり、とくに主題になっていなかった。「チャイル
> ドアニメ」という表現もなかった。
 
 これは間違いですか。もしよろしければ、小川さんからの抗議
があった、という事実とともに次回の近況欄で記しておきたいの
ですが。

===

 結論を述べますと、

> 「実は、セーラームーンをチャイルド・アニメと評したことはあった。調べもせずにい
> い
> 加減なことを書いてO氏の名誉を損ねるようなことをしてしまった。ごめん」
>
> となぜ素直に書けないのですか? 僕の言っていることは不当なお願いでしょうか。


 まず僕は「チャイルド・アニメ」と言っていません。「評する」
と言われるほどセーラームーンについて語ってもいません。これ
は小川さんの誇張表現です。

 名誉云々についてですが、今回の近況欄で小川さんの感情を傷
つけてしまったことは、不用意だったと反省します。ただ、小川
さんのほうも僕に対してかなり攻撃をしていらっしゃる。その点
を置いて、いきなり今回の件で僕に謝罪しろと言われても、戸惑
うばかりです。

 それで、僕の前回の提案については、全面却下ということでし
ょうか。ではどうしましょう? 小川さんは別に東浩紀批判を続
けて、僕としては、それを待つ、ということになるのですか。

 僕としては、この件が生産的な争いになるとはとても思えませ
んので、小川さんからの抗議があったこと、僕としてはこう考え
る、ということをサラリと書いて、あとはみなさんの判断に任せ
たいと思います(数日クールダウンの期間をおきます)。意義が
あればお知らせ下さい。

 小川さんのセーラームーンへのこだわりは理解できます。お怒
りも分かりました。しかし僕には、セーラームーンの件で強い批
判を受けるようなことをしたとは、やはり思えません。

--
東浩紀
hazuma@t3.rim.or.jp
http://www.t3.rim.or.jp/~hazuma/

7 小川びい Re: 突然のメール失礼いたします Mon, 22 Jul 2002 08:59:52

From: Ogawa B <b@applehouse.net>
To: hiroki azuma <hazuma@t3.rim.or.jp>
Subject: Re: 突然のメール失礼いたします
Date: Mon, 22 Jul 2002 08:59:52

東さま

お手を患わせてもうしわけありません。確かに生産的ではありませんね。

ですが、以下の点については、もう一度強調させてください。

> それに、これは汲み取ってもらいたいのですが、僕は少なく
>ともこの件を一月は放っておいたのです。もし小川さんに反論
>しようとしたら、すぐ行うはずです。僕の近況欄の批判対象は、
>あくまでも問題の学生たちにあります。

とすれば、なぜ、ああいう文脈で僕のことをわざわざとりあげたのでしょうか?

東さまがおっしゃるとおり、あの場は「そのような放言込み」でした。それに
ついては、お互い一定の了解があったはずです。とすれば、いかにY氏やその
友だちの発言にわずらわしさを覚えたからと言って、僕の発言にまで言及する
必要が(しかも、事実を誤認して!)あるとは思えません。

謝罪という言葉は使いたくありませんが、そのことに対する率直な言葉はない
のでしょうか? 僕には、東さまが自分のプライドを守るため、かたくなにな
っているように見えます。

言っても仕方のないことではありますが、実際、今回のことで、僕は周囲から
いろいろ言われたし、SPA!のバックナンバーを確認しに、遠くの図書館に
まで足を運んでいるのですよ。
---------------------------------------------------------------------

>> (2)僕のSPA!の記事のなかには、セーラームーンを
>> 主題とした文章はなかったが、セーラームーンを「子供向け
>> メガヒット路線」に分類した文章はあった。しかし、セーラ
>> ームーンの名前はドラゴンボールなどと並べて例としてあげ
>> ただけであり、とくに主題になっていなかった。「チャイル
>> ドアニメ」という表現もなかった。
> 
> これは間違いですか。もしよろしければ、小川さんからの抗議
>があった、という事実とともに次回の近況欄で記しておきたいの
>ですが。

僕としては、東さまはチャイルド・アニメに類する言葉を「不用意に」使った
と思っておりますし、それはアニメの歴史を語る、それなりの文脈の中で語ら
れたと思っております。『美少女戦士セーラームーン』を『ちびまる子ちゃん』
『クレヨンしんちゃん』と入れ替えてみれば、その不用意さは明らかでしょう。
あるいは似たような作品である『カードキャプターさくら』(当時放映されて
ませんが)を入れてみれば、その収まりの悪さは納得できるのでは?

> 名誉云々についてですが、今回の近況欄で小川さんの感情を傷
>つけてしまったことは、不用意だったと反省します。ただ、小川
>さんのほうも僕に対してかなり攻撃をしていらっしゃる。その点
>を置いて、いきなり今回の件で僕に謝罪しろと言われても、戸惑
>うばかりです。

こちらはそのとおりでしょうね。謝罪しろ、という表現はなるべく避けている
はずですが、「ごめん」という言葉は使ってしまいました。

僕としては、東さまが、セーラームーンに対してチャイルド・アニメ(に類す
る、ですか?)という言葉を使ったことがあり、それを確認もせずに、相手の
ことを非難した、ということを認めていただければ、それ以上は望みません。
それも難しいですか?
---------------------------------------------------------------------

> 小川さんのセーラームーンへのこだわりは理解できます。お怒
>りも分かりました。しかし僕には、セーラームーンの件で強い批
>判を受けるようなことをしたとは、やはり思えません。

僕は別段セーラームーンへのこだわりはありません。

では、なぜ、こうしてしつこくメールしているのかというと、僕の仕事が主に
アニメの年表を作ったり、歴史的評価を整理することにあるからです。ですか
ら、いい加減な認識を広められるのはすごく困る。いわんや一般誌においてを
や。特に、東さまのように、カルチャー側にはおたく系の顔を、おたく文化側
にはハイカルチャー側の顔をして活動されている方には、もう少し精確な表現
を使ってくれ、という憤りがあります。

もう少し言えば、今回のような誤った(と言ってひどければ、不勉強な、ある
いは不用意な)歴史認識の延長線上に立てられたおたく文化論に、果たして意
義や実証性があるのだろうか、という、疑念があるのです。僕があの場で、現
状分析としてはともかく、世代論として語るのはどうなのか、と発言したのは
覚えてらっしゃいますか? あれはそういう問題意識があってのことです。
---------------------------------------------------------------------

長くなりましたが、以上のような事情なので、ご提案の(1)と(5)につい
ては異存がないのですが、(2)〜(4)については、ささやかではあるもの
の、妥協しがたい認識の差があるように思います。いかがでしょう。

もちろん、こんな不毛なやりとりはもう嫌だとおっしゃるのでしたら、メール
でのやりとりを公開するということにしましょう。その場合、お互いが納得す
る第三者に、メールの公開をゆだねるという形の方がいいかもしれません(た
とえば、僕の信頼する同人誌総合文化研究所の三崎尚人さんとか、お互いの知
人である斎藤環さんとか)。

-----------------------
小川びい Ogawa B
e-mail:b@applehouse.net
-----------------------

8 東 浩紀 Re: 突然のメール失礼いたします Mon, 22 Jul 2002 15:34:45

From: hiroki azuma <hazuma@t3.rim.or.jp>
To: Ogawa B <b@applehouse.net>
Subject: Re: 突然のメール失礼いたします
Date: Mon, 22 Jul 2002 15:34:45

 小川さま、

 東です。

 どうも込み入ったことに小川さんを巻き込んでしまい、
申し訳ありません。



 一日ほど時間が経ち、いろいろ考えました。情報も集
めました。件の部分、省略なしで引用すると

「こうして'85年〜'86年から日本アニメは、大資本がバックに
 ついて国際的な評価も高い宮崎、押井、大友らのメジャー路線
 などの子供向けメガヒット路線と、OVA、同人誌、マニア雑誌
 という非常に閉塞したマーケットの中で堂々巡りの再生産を
 繰り返すオタク路線に分化していった」


 となるものですね。

 まず、誤解を本当に解いておきたいのですが、僕はど
うしてこの文章がそれほど非難に価するのか分からない
のです。したがって、シラを切っているつもりは一切あ
りません。

 つまり、

> れたと思っております。『美少女戦士セーラームーン』を『ちびまる子ちゃん』
> 『クレヨンしんちゃん』と入れ替えてみれば、その不用意さは明らかでしょう。
> あるいは似たような作品である『カードキャプターさくら』(当時放映されて
> ませんが)を入れてみれば、その収まりの悪さは納得できるのでは?

 と言われても、なぜそれらのアニメを「子供向けメガ
ヒット」に分類してよくないのか分からないのです。だ
ってそれは、単純な事実ではないのですか? 子どもを
対象にして、大きく売れているという。ちなみに、似た
分類はQJなどでも語った記憶があります。

 つぎに、小川さんが「チャイルド・アニメ」と表現さ
れたとき、まさかこのような分類が非難されているのだ
とは思いませんでした。ですから、小川さんからメール
をいただいたとき、「これまたずいぶん乱暴なことを根
拠に持ち出してきたな」という印象をもったのです。

 繰りかえしますが、僕は、「チャイルド・アニメ」と
いう表現を小川さんが使われたとき、劣ったものを貶め
る言い方として持ち出してきたのだと思いました。僕は
そのような価値評価をしたことはありませんので、その
かぎりで、僕が「そんな表現をしていない」と言い続け
ているのにも根拠があるのです。セーラームーンについ
て積極的に語っていない、というのも事実です。そして
実際、「チャイルド・アニメ」なんて表現は使っていな
いのです。

 この点に僕がこだわっているのは、そこがご理解いた
だけないことに、小川さんの非難の原因があると思うか
らです。小川さんは「子供向け」という言葉に過剰に反
応してらっしゃる。けれど、僕は、この言葉がそんなに
重要なものだと思わない。ですから、それを使ったこと
も不用意だと思わない。

 そして、その点だけを根拠に「東浩紀はアニメが分か
っていない」「いい加減だ」と非難されると、もう何と
もいえない疲労を感じてしまう。だって、そうなってし
まったら、アニメの「簡単な」紹介なんて無理ではない
ですか? それとも、結局のところ、アニメやオタクに
ついてはプロのライター以外は書く権利がないのだ、と
そういうことでしょうか? まあ、こういう状態になっ
てしまうと、それでもいいやという気になってくるので
すが……。

 もしあの会場で、「セーラームーンを子ども向けメガ
ヒット路線と分類しましたよね」と言われたら、僕は単
純に頷いたと思います。こんなふうに言っても屁理屈だ
と思われるのかもしれませんが。


 さて、お互いの立場も明確になったことですし、

> もちろん、こんな不毛なやりとりはもう嫌だとおっしゃるのでしたら、メール
> でのやりとりを公開するということにしましょう。その場合、お互いが納得す
> る第三者に、メールの公開をゆだねるという形の方がいいかもしれません(た
> とえば、僕の信頼する同人誌総合文化研究所の三崎尚人さんとか、お互いの知
> 人である斎藤環さんとか)。
 
 という提案に賛成です。

 最初からこのメールまで、すべて公開して構いません。

 具体的には小川さんから依頼していただけますか?

 *

 なお、最後に付け加えておきますが、近況欄での「誇
らしげに」「イチャモン」といった表現に小川さんが怒
りを覚えたのは分かりました。確かに、Y氏を批判する
はずなのに、そこの部分で不必要に筆が滑っている。申
し訳ない。

 つぎの近況欄では少し訂正を入れておきます。

 ただ、それを根拠に、一方的に被害者の顔をするのは
やはりおかしいです。小川さんはあのとき、初対面の僕
に向かって驚くほど喧嘩腰だったし、かなり激しい言葉
も浴びせている。僕は別のその件で謝罪を求めたりはし
ないけど、人間だから頭に来ることもあるし、そのこと
について印象を語る権利はある。

--
東浩紀
hazuma@t3.rim.or.jp
http://www.t3.rim.or.jp/~hazuma/

9 東 浩紀 訂正! Mon, 22 Jul 2002 15:34:45

From: hiroki azuma <hazuma@t3.rim.or.jp>
To: Ogawa B <b@applehouse.net>
Subject: 訂正!
Date: Mon, 22 Jul 2002 16:13:54

 東です。さきほどの引用部分、

 こうして'85年〜'86年から日本アニメは、大資本がバックに
 ついて国際的な評価も高い宮崎、押井、大友らのメジャー路線
 プラス、『ドラゴンボール』『美少女戦士セーラームーン』
 などの子供向けメガヒット路線と、OVA、同人誌、マニア雑誌
 という非常に閉塞したマーケットの中で堂々巡りの再生産を
 繰り返すオタク路線に分化していった

 ですね。一行消えたものを送ってしまいました。
 すみません。

--
東浩紀
hazuma@t3.rim.or.jp
http://www.t3.rim.or.jp/~hazuma/

10 小川びい Re: 突然のメール失礼いたします Wed, 24 Jul 2002 08:53:31

From: Ogawa B <b@applehouse.net>
To: hiroki azuma <hazuma@t3.rim.or.jp>
Subject: Re: 突然のメール失礼いたします
Date: Wed, 24 Jul 2002 08:53:31

東さま

小川です。

丁寧かつ率直なご返事ありがとうございます。勝手ながら返信に少し時間を
おかせていただきました。

#今回のメールを公開するかどうかは東さまの判断におまかせします。

まずは、僕の態度を不快に思った件について。

それはある意味、当然だと思います。当時の印象を述べられただけならば、
カッとはなったかもしれませんが、こうしてメールを差し上げることはなか
ったでしょう。僕の批判が根拠のないものだと決めつけられたからこそ、こ
うしてメールしたのだ、ということはご理解ください。

さて、件のSPA!ですが、本文と対になっている年表の部分では、

〈子供向け〉→『ドラゴンボール』『美少女戦士セーラームーン』

と例示してあり、「エヴァ」とは(まず)無関係の流れとされていることを
もう一度確認しておきたいと思います。

これがどうしてそれほど非難されるかわからない、とのこと。なるほど、と
思いました。

別段アニメライターではなくとも、普通にあの時代を過ごしたアニメファン
ならば、エヴァを語る文脈の中で、別の流れのものとしてセーラームーンを
「子供向け」と例示するのは、躊躇することでしょう。エヴァとセーラーム
ーンの直接の影響関係について、くだくだとここでは述べませんが、それを
除いても、セーラームーンを、その後の「おたく向けアニメ」と無関係であ
るかのように語ることは、あまりに無神経すぎる、と半ば本能的に思うに違
いありません。

そのことが、東さんにはわからない。

東さまと普通のおたくとの間には、そこでズレがあるのではないでしょうか。
東さまの著作を指して(お怒りにならないでくださいね)「おたくとしての
現役感が薄い」と評したサイトがありました。これは実にうまい表現です。
僕にしろ、そうしたサイトにしろ、上記のような東さんの感覚に違和感を覚
えているのだと思います。

もちろん、それでいいのです。なぜなら、東さまは文芸評論家であり、哲学
者なのですから。そうした立場からの蛮勇(誉め言葉です)が、おたく向け
の文化に何がしかの利益をもたらすことはあるでしょうし、実際もたらして
いる、と思います。

僕にとって興味深いのは、でありながら、東さまが自分はおたくである、と
いうスタンスをとりたがることにあります。そして、それゆえにこそ、普通
のおたくと、東さまとの間に齟齬が生じるように思うのです。そして、その
齟齬に東さまは無頓着である。あるいは、それを認めようとなさらない。

ここではその理由を探ることは禁欲しましょう。東浩紀論を語ることが、こ
のメールの目的ではないからです(第一、僕の手に余ります)。

理解していただきたいのは、この違和感は、なかなかうまく言葉にできるも
のではない、ということです。僕の場合、東さまの記述の、歴史的な誤り、
事実の誤りをひとつひとつ指摘していくしか、この違和感にかたちを与える
すべを思いつきません。

くり返しますが、東さんはこれからも語るべきである、と思います。しかし
ながら、この齟齬がある限り、常に強い批判や疑念にさらされることもまた
確かでしょう。

最後に事務的な点について。

公開については、同人誌生活文化研究所の三崎尚人さんに引き受けていただ
ける約束ができました。ただ、先方も忙しい身ですので、テキストの整理は
お互いの間で合意しておき、HTMLにまとめる作業は三崎さんにおまかせ
する、という形にしたいと思います。それでよろしいでしょうか?

また、僕の本名や電話番号等を明示した部分については、伏せることを許し
ていただきたいと思います。

ご了解いただけたら、こちらでテキストファイルをおこしたものを、そちら
に確認していただき、それをそのまま三崎さんに転送したいと思います。

乱暴な文章、失礼いたしました。

-----------------------
小川びい Ogawa B
e-mail:b@applehouse.net
-----------------------

11 東 浩紀 Re: 突然のメール失礼いたします Wed, 24 Jul 2002 11:28:22

From: hiroki azuma <hazuma@t3.rim.or.jp>
To: Ogawa B <b@applehouse.net>
Subject: Re: 突然のメール失礼いたします
Date: Wed, 24 Jul 2002 11:28:22

 小川さま、

 東浩紀です。

 まず、

> #今回のメールを公開するかどうかは東さまの判断におまかせします。

 ぜひ公開しましょう。この返信も含めて。

 ただし、こうやってずるずる続くのも何なので、僕のほう
は、小川さんの返信の内容が何であれ、公開されるメールは
この返信で最後ということに決めたいと思います。あとは事
務的なやりとりに限定ということで。

> 公開については、同人誌生活文化研究所の三崎尚人さんに引き受けていただ
> ける約束ができました。ただ、先方も忙しい身ですので、テキストの整理は
> お互いの間で合意しておき、HTMLにまとめる作業は三崎さんにおまかせ
> する、という形にしたいと思います。それでよろしいでしょうか?

 構いません。
 このメール(あるいはその返信)まで含めて、全部公開と
いうことで、先方にテキストを流してください。

> また、僕の本名や電話番号等を明示した部分については、伏せることを許し
> ていただきたいと思います。

 この点ですが、「小川びい」というペンネームの明示も避
けられるということでしょうか?
 メールそのほかでこれだけ「東浩紀」批判を行っておきな
がら、最後に名前を伏せられるのは、メールが公開されたと
きにアンフェアに映るかもしれません。
 それでも名前を伏せられるというのなら、それはそれで構
いません。その場合は、「小川さん」を「XXさん」あるい
は「Oさん」で置き換えて整形してください。その整形もす
べて小川さんにお任せします。

> ご了解いただけたら、こちらでテキストファイルをおこしたものを、そちら
> に確認していただき、それをそのまま三崎さんに転送したいと思います。

 よろしくお願いします。あとで問題が起きるとイヤなので、
誤字脱字も含め、おたがい、本文は一切いじらないという約
束で行きましょう。
 実は僕のほうは、誤字を見つけているのですが、仕方ない
ので放置します(笑)。

==

 あと、「東浩紀はおたくでないのに、おたくでないふりを
している」という違和感は承知しました。
 その件について簡潔にお答えしておくと、僕は自分がおた
くと見なされるどうか、結論を出すことにあまり興味があり
ません。というのも、その基準は、結局のところ個人個人で
違うからです。「動物化するポストモダン」は、まさにそう
いう断り書きから始まっています。というか、そういう決断
がなければ、講談社現代新書という枠で本は出さなかったで
しょう。
 僕は確かに大学のオタク系サークルに入ったことはありま
せんし、そういう人脈もありません。けれど僕は、僕なりに
アニメを愛し、エヴァンゲリオンのときも仕事をしたし、今
回も本を書きました。それもまた、1971年生まれのオタ
ク、というかアニメファンのひとつのかたちだったと思いま
す。「おまえのような経歴のやつはアニメについて語る資格
はない」と小川さんがおっしゃるのなら、それはそれで構い
ませんが、それはもはや、「お前なんて仲間じゃない」とい
うだけの主張のように聞こえます。そして、その点で仲間で
はないことは、こういう機会にイヤというほど思い知らされ
ています。
 でも僕は自分にアニメについて語る資格がない、とは思い
ません。件のSPA! の記事にしても、あるオタクにして
みれば言語道断な歴史認識かもしれないけど、別の見方では
ああいう整理も十分にありうる、それぐらいの妥当性はもっ
ていると思います(しかし記事を再読して思いましたが、あ
の構成で年表制作の責任を細部まで僕に問うのはちょっと難
しいかもしれません。ただ、僕がおおむねああいう風にアニ
メ史、というかオタク史を捉えているのは確かです)。

 なお、問題となった記事も手に入ったことですし、近況欄
でも近日中に追記を書きます。小川さんが不愉快に思われた
部分について訂正というか反省を書き記しておきますが、同
時に、「チャイルドアニメ」という表現は一切使っていない
し、なぜそこだけを根拠に自分の仕事がすべて否定されるの
か分からない、という部分も記すつもりです。そこでメール
の公開についても予告しておきます。
 あとの判断は、問題の記事と、このメールのやりとりを見
た読者が下すことでしょう。

 いろいろお時間をとらせて申し訳ありませんでした。先日
は小川さんは名乗られなかったので、挨拶もできませんでし
た。今度お会いしたときには、ぜひ挨拶でも。

 ではそのときに。

--
東浩紀
hazuma@t3.rim.or.jp
http://www.t3.rim.or.jp/~hazuma/

12 小川びい Re: 突然のメール失礼いたします Fri, 26 Jul 2002 09:38:00

From: Ogawa B <b@applehouse.net>
To: hiroki azuma <hazuma@t3.rim.or.jp>
Subject: Re: 突然のメール失礼いたします
Date: Fri, 26 Jul 2002 09:38:00

東さま

小川です。

では、僕もこの返信で、事務的な話以外はひとまず終わりにいたします。
ペンネーム使用の件、ご了承いただきありがとうございます。

さて。

やはりおわかりいただけなかったか、という気持ちです。

仲間内、文化圏の違い、訓練の差、世代の違い、個々人の資質と言えば、
それまで。しかしなお、それを超えた何かについてお話したつもりです。
歴史学者に史料を扱う手つきが問われるように、あるいは自然科学者に、
ある理論が別の理論に比して美しいと感じられるように、それは、言葉
では表せない何ものかなのです、と言うと大げさでしょうか。

セーラームーンと子供向けの関係についてもう一度繰り返しましょう。
ガンプラは当時の小学生にブームを巻き起こしました。だからといって、
ガンダムを子供向けメガヒット作品と紹介したとすれば? それは間違
いではありません。しかし、正しくもないのです。

こうした何かをめぐる問題は、他のお仕事でもちらほらと目につきます
(ここで、その詳細を語ることは避けますが)。これまでも他の方から、
デジコ→でじこや、ギャルゲー→エロゲーという指摘がありましたよね。
これもまた、同質の違和感に基づくように思います。

たしかにそうした指摘のひとつひとつは、主題とは一見関係ありません。
だからといって、それを「お前なんて仲間じゃない」というメッセージ
としか受け取ることができないとすれば、それは間違いです。と、ここ
で、もう一度、訴えておきましょう。

こちらこそ、お時間をとらせてしまって申し訳ありませんでした。ろく
なご挨拶もせず、失礼いたしました。またお会いできる機会があれば、
そのときに。

-----------------------
小川びい Ogawa B
e-mail:b@applehouse.net
-----------------------

(2002.07.31)

Total:  Today:  Yesterday: