1.はじめに
輸入車の鬼門とも言われるクーラーのトラブルについて私のクーラー修理体験を元に話したいと思います。講座というより修理のノウハウです。
1 システムの概要
ご存じのように、E28の冷房システムはエアコンではなく、クーラーです。つまり室内の空気を吸い込み、それを冷やして戻すのみのシンプルなものです。カークーラーのシステム概要については略図を参照にしてください。
28クーラーシステムのラインのなかには、R-12というフロンガス(冷媒)が循環しています。
この冷媒ガスの気化熱を利用した熱交換システム、これがクーラーの原理です。具体的には、車内のエバポレーター(evaporate;気化)で室内空気の熱を奪い、その熱をラジエター前に設置されているコンデンサ
-(condense;液化)で社外に放出する、ということを絶えず繰り返しています。
冷媒の気化を効率良く行うためにエバポレータ直前にエキスパンション・バルブという小さな噴射バルブがついています。ここを通った液体の冷媒は霧状にエバポ内部に噴射されます(このときエバポのフィンを通過した室内空気は熱を奪われて冷える)。
また、コンデンサーでひとまず液化した冷媒を、完全に液化した状態でエパポに送り出すためにレシーバー(別名ドライヤー、リキッドタンク)というエア抜きのための部品があります。レシーバーは同時に、フィルターの役目もはたし、水分を除去するための乾燥剤もいっしょに封入されています。
一般的に、エキパンとレシーバーは分解できないので、消耗品と言われています。また、システムをばらした場合は、二つセットで交換することが望ましいとのことです。
冷媒のR-12フロンガスはオゾン層の破壊につながるので、現在では代替フロンR134aという冷媒が使用されています。一般的に
R134aシステムのほうがライン内部の圧力が高めということで、R-12用のコンプレッサー、R134a用のコンプレッサー、というように、設計や部品材質がちがうもののようです。
難しい話はこのへんにして、以下は私のクーラー修理の記録です。
2 クーラーが効かない
1983年式BMW533i/148000km走行時、2000年6月3日
ある日突然、クーラーオンにしても冷気が出ない...。
センターコンソールの奥からシューとかすかな音がする。エンジン止めても、しばらくの間、シューとかすかな音がする。乗っていると、すこしのどが痛くなってくる。エンジンルームからはどこからも、シューという何かが漏れるような音はしない。レシーバーのサイトグラスからは、泡も霧も、何も見えない。冷媒ガスがない??。
3 原因特定
一般的に考えられる故障の原因としては、
1.冷媒ガス漏れ
エパボ劣化で穴空き、ホースのかしめ劣化、ラインのジョイント部分のオーリング劣化、コンデンサ劣化で穴空き、etc。
2.エキパンのつまり
こうなると、普通は熱いはずの細い配管/高圧側ラインがつめたくなるそうです。
3.電装関係のトラブル
クーラースイッチなど断線や、ヒューズ飛び、レシーバーについている圧力スイッチの不具合、..
4.温度調節リレーの故障
症状は、エバポレーターが冷え過ぎて凍ってしまいます。クーラーからピキ、ピシと音がします。エバポにささっている温度センサーも要チェック。にしやん号は以前この不具合でクーラーが凍るようになってしまった。
5.コンプレッサーの不具合
さて今回私の場合、原因はどれでしょう?
室内からシューとかすかな音がしたこと、また、運転中にのどがいたくなった(フロンガスには塩素分が含まれているからかもとのこと)ことから、室内部分(エバポレーター・ユニット)のどこかからのガス漏れと判断。漏れの箇所は一箇所ではないかもしれないので、電装屋のリークテスターで診断したほうが確実でいいと思われます。
ちなみに、オーリングもらいに電装屋に乗っていったE30のガスもれ検査をついでにお願いしました(エアコンの利きがが弱いので)。リークテスターで調べてもらって4500円でした。(結局、高圧ホースのカシメ部分からガスが漏れてることが確定。うう。まー、ここはオイルにじんでたからなー)
(画像はリークテスターです。ガスが検知されるとピピピ!とブザーが早まって鳴ります)
4 作業準備
まずディーラーで以下のオーリング類を調達しておきましょう。「R-12のクーラーライン用」と念を押します。
A:外径6.8ミリ(1コだけ確保、エキパン用)この6.8ミリサイズがディーラーになく、これだけはやむなく再使用しちゃいました。電装屋にはあったが、細くてだめそうだったので。
B:外径11.1ミリ(3コほど確保)
C:外径14ミリ(3コほど確保)
D:外径17ミリ(3コほど確保)
ABCオーリング(どれもエキパンに使用)は、面白いことにぴったり入れ子状になります。
その他、ラインの高圧ホース類も交換されるときには、さらにオーリングが必要になります。安いものですから、多めに確保しておいていいでしょう。以上オーリングは、BMP
Designのカタログにも実寸の絵入りで載っていますね。一個100円ぐらいで出ます。私がディーラーでもらったものは、銀色のコーティングのされた、中身緑色(コンプレッサーオイルを塗ると銀色コートがとける)のオーリングでした。
(オーリング各種とシールテープはケースにいれて保管します)
その他、タウンページでよさそうな電装屋を探して、「パテ」と呼ばれる黒いベトベトの断熱材をわけてもらいます。これは低圧ラインに巻き付けて室内ラインの結露を防ぐためのものです。30センチ長さ1枚で200円で、2枚買いました。このときに真空引きとガスチャージの値段、そしてR-12の在庫状況を確認しておきます。愛想が悪かったり価格の高い電装屋はパス!もしあれば、コンプレッサー用のオイルを小量用意したほうがいいですね。オーリングに塗り付けるためのものです。電装屋でわけてもらえればラッキー。私はエアツール用のコンプレッサーオイルを少し抜いて使用しました。
また、ホームセンターのエアツール・コーナーにある、白い「シールテープ」も買っておきます。これはレシーバーに取付ける圧力スイッチをねじ込むときにガス漏れ防止するために使用するものです。
さらにスポンジ地のスキマテープを購入。冷気の抜けをよくするために、エバポ本体に貼ります。
工具は、特殊なものは何もいりません。25ミリぐらいまで開けるモンキーレンチがふたつあればだいたいことは足ります。
5 車での作業
エパボケースを取り出すべく、室内のばらしに入る。
ごちゃごちゃした配線のばらしもあるので、まずバッテリーのマイナス端子を外してしまいましょう。
そして室内ばらしの作業性をよくするために、助手席も取り外してしまいましょう。シートベルト取付け部も外さねばならなくて面倒だが、このほうが格段に作業効率が上がります。17ミリのラチェット1本があればできます。助手席がないとこんなにも室内が広いのかと感心しつつ、座布団を敷いて、さぁ次なる難しい作業に入ります。
にしやん号は以前にもセンターコンソールをばらしたことがあります(開閉フラップの調整やサーモコントロールSWを交換した)。その時に、いくつかのねじ類とコンソールの一部は取っぱらってしまったので、バラシは簡単でした。あんまり見栄えは気にしないタチなので、これでいいのです。
まずグローブボックスを外し、サイドブレーキからATシフト周辺のシフトコンソール周辺を外し、センターコンソール前面を外していきます。Bentleyマニュアルなどをご参考にばらしてみてください。奥まった所にあるエパポ・ユニットが見えてくるまで根気が必要ですが、地道に作業するしかないです。まぁー、なんとかなります。また、たくさんのネジ類が出るので、組みつけ時にわからなくならないようにしておきましょう。
(エバポユニットがむきだしになりました)
エバポを部品取り号(1984/533i)のものと交換する。
エバポユニットは左右奥下に7ミリのボルトと、正面下のステー1箇所で固定してあります。これを外します。左右7ミリのボルトは、なかなか難儀しますよー。同時に、エバポユニットにつながる右側の配線カプラーと、正面に差し込んである温度センサー(長いクギのようなもの)も取り外しましょう。
さて、グローブボックス左側あたりにある高圧・低圧ラインのジョイントが見えますか。これをモンキレンチ2本を使って外すのですが、太い低圧ラインには白いベトベトした断熱断露材がまかれているはずなので、まずこれを取ります。レンチ2本掛けでラインのジョイントを言うに慎重に外す(トルクの感じを手で感じておいてください!)と、シュー!とフロンガスの残りが漏れてくるかもしれません。オゾン層ゴメン!同時にコンプレッサーの潤滑油も多少たれるかもしれませんのでご注意を。ラインが外れたら、慎重にエバポユニットを引き出しましょう。
(外したエバポユニットを上からみたところ)
エパボケース内部とクーラーのブロワーモーターを掃除する。
エバポユニットのケースを上下に分割しましょう。7つのクリップとひとつのねじでとまっています。分割したらケースと、モーターと、エキパンのくっついたエバポ本体にわかれます。今後クーラーオンで臭ーい冷気が出ないためにも、ケース内部は水洗いします。市販のエアコン洗浄剤を使用してもいいかも。
新品のエキパンを装着し、エバポ本体を組み上げる。
新品、もしくは漏れのない中古のエパボ(もちろん洗浄済み)を用意したら、新しいエキパンを組みます。エキパンに3箇所の接続箇所があってすべてオーリングを替えるのですが、外径6.8ミリという小さいオーリングがディーラーになかったので、これだけは再使用してしまった・・・。ここから漏れないことを祈るばかりです。新品のオーリングにはかならずコンプレッサーオイルを塗る。エキパンの組みつけは画像のとおりに。各ジョイントに余り過大なトルクをかけると、オーリングがちぎれてしまうそうですから注意して。じつはこの締めが最も大事だったりして。エキパンから2本出ている細い銅線も外したときのようにちゃんと組みます。エバポの低圧側にはパテを巻いておきます。
(冷媒の流れを図示。銅線が2本でているから、外部均圧式のエキスパンションバルブですね)
ここでコツがあります。エンジンルームから室内に来ている2本の配管ジョイントとの接続はぴったりドンピシャでいかないので、エンジンルームから来ている高圧低圧の配管の位置関係をよくみておいて、エバポ・ユニットを注意して組み上げます。(これでもたいていはうまく合わないので、最後はバイスなどで銅管をすこしグィッとまげてうまくフィットするようにするのですが...)
エキパンと配管をくみあげたら、最後に、エバポのつぶれたフィンをドライバーかなにかできれいに起こしてあげましょう。ここがつぶれたままだと、冷気の流れを妨げてしまいます。
この後、モーターと本体、ケースを組み上げますが、エバポの両サイドのスポンジがぼろぼろだったら新しいスポンジ地のスキマテープを貼ります。モーターをケースにはめて様子を見ます。モーターがスムーズに回りますか?OKならばエバポもそっとケースに入れ、7つのクリップでパッチンと上下ケースを閉じます。
1本のビスも忘れずに。
(両サイドにスキマテープを貼る。これをやらないと冷え効率が悪くなるかも?)
エパボの組みつけ。
ではエバポユニットを室内センターコンソール奥に組みつけましょう。エバポユニットが正面のステーでうまくがっちり固定できたなら、両サイドの7ミリボルトは不要かもしれません。(私はこのボルトは組みつけませんでした)エバポユニット取付けで大事なことは、エバポユニットケース下にある排水ドレン穴をコンソールの排出穴にぴったりはめることです。これがずれていると、エバポで結露した水は社内に流れ出して来てしまいますよ。
*pipe01.jpg(エバポ側の銅配管をバイスでつかみ、ひんまげてうまくドッキングさせる)
*pipe02.jpg(このパテは断熱と露付きしないようにするためのもの)
さて、ラインの配管をエンジンルームから来ている2本の外部配管と接続するさいも、オーリングは全部新品に交換し、オイルを塗ってきっちり締めこみます。ジョイント同士がうまくドッキングしそうにないときは、エバポ側の銅配管をバイスでつかんですこしひんまげて調整しましょう。ですが、くれぐれも、軟らかい銅管を損傷しないように・・・。2本のジョイント同士がうまくドッキングできたら、太いパイプの低圧側にパテを巻き付けておきましょう。あとはクーラー関係の配線をもどして、これで室内の作業はおわり。センターコンソールの組みつけはガスが入ってからでもいいのですが、クーラースイッチだけはつけておきましょう。
レシーバーを新品に交換。
エンジンルームにて古いレシーバーを取り外します。古いレシーバーについていた圧力スイッチを外し、新しいレシーバーに付け替えます。この際に、圧力スイッチのネジ部分にシールテープをビニョーンと延ばして1-2巻ぴったりとまきつけてから、ねじ込むといいです。(何と新しいレシーバーは中央の熔接肉盛りが大きく、圧力スイッチにあたってしまったので、この部分をヤスリで削り落とすハメになりました...)レシーバーを取付けたら、2本の高圧ライン配管をしっかりと接続。オーリングは新品を。圧力スイッチも忘れずに接続します。
電装屋さんで真空引きとガスを補充。
電装屋さんに自走していき、真空引きとガスチャージを依頼。工賃は5400円とのこと。(ガス代は別途)真空引きは小型のポンプからでている口金をレシーバーのプラグにつなぎ、20分ほどエア抜きを行なっていました。この後、低圧ラインのガス補充バルブ(キャップがありますね)にゲージマニホールドの低圧側をつなぎ、1缶(250gいり)のR-12ガスを自然吸入させました。(これでエキパンとエバポにまでガスが行き渡る)そしてリークテスターでエバポユニット、レシーバー、コンプレッサー、コンデンサーなど、各部を漏れがないかをチェックしておりました。漏れはないようです、よしOK!
この後レシーバーのプラグにつないだ真空引きの口金をとり、そこにゲージマニホールドの高圧側を接続。普通、高圧側はコンプレッサーの専用プラグに接続するというが、ここでもいいそうです。ガスはデンソー製のR-12(1本250g入り1080円)をトータル1300g(エンジンルーム内に貼ってある赤いステッカーを見て)入れます。この量はたとえば国産車の大型ワンボックスカーに匹敵する量だそうです。となるとE28はそうとうガス喰いということか??ガス代だけで5400円ですね。前はもっと安かった、と作業担当のおじさん。
ボンベ3本目からはエンジンをかけ、クーラー・オンにして補充していきました。どんどん入れていきます。途中エンジンをふかしたりします。すると、クーラーの吹きだし口から冷気がでてきました!(^.^)おお、冷えてるよ!ガスは合計5本ちょっと入れました。ここでゲージマニホールドの針をみます。コンプレッサーの電磁クラッチがつながった状態で(冷媒が循環している状態で)高圧側で12kg/cm2、低圧側で1.5kg/cm2でOKだそうです。 (古い車に入れ過ぎは禁物、とのことです)この後再度リークテスターで各部を漏れがないかをチェックして終了。1時間もかからないで終了しました。おじさん、どうもありがとう!
*vacuum.jpg(真空引きには小型ハンディポンプを使用しておりました)
*gas01.jpg(最近希少になっているR-12。早めにキープに走るか?!)
*gas02.jpg(日本デンソーのおじさんの作業を良く見ておきましょう)
*gauge.jpg(ゲージマニホールドって、結構高価なんだよね・・・)
6 さて、クーラーの効きのほどは
電装屋さんからの帰り。もちろん、クーラー・オン!ですね。
さぁ、吹きだし口に手をかざして・・・シューゥゥ...とエキパンから冷媒が噴射される音が聞こえます。
おうー、冷気が出ます出ます。ひえーてるーよー。(^.^)
しばらくして、カチ!とリレーが働いて、以前より早いタイミングで電磁クラッチが切れました。
またカチ!と電磁クラッチがつながる。シューゥゥ......冷えぇぇぇ(冷気が出る)
以降、この繰り返しです。いやーよく冷えますわ。ブロワー風量によっては寒いくらいだのう!これで夏は安心して迎えられることでしょう。
7 費用
エバポレーター・コア/部品取り号(同車種)より調達
エキスパンション・バルブ/アメリカの通販ショップで購入/1個44.95ドル
レシーバー(ドライヤー、リキッドタンク)/通販ショップで購入/1個27.95ドル
オーリング/ディーラーでもらった/各種を3コづつ
パテ/電装屋で購入/黒いベトベトした断熱断露用両面テープ/2枚で400円
真空引き、ガスチャージ工賃/5400円
デンソー・R-12フロンガス/250g入単価1080*5缶=5400円/(R-12はだんだん高価になっているそうです。ガソリンスタンドで聞いたところでは、仕入れ値が昨年の10倍だとか!?)
総合計約2万円となりました。
*今回は中古エパポ・コアを使用しましたが、新品のコアを使えばプラス260ドル(BMPプライス)。
おわりに
春先から、そろそろレシーバーでも替えとくかなーなんて思ってるうちにガス漏れしちゃったわけですが、まぁ17年ももってくれたんだから、いいほうだと思います。難しそうに思えるクーラー修理ですが、必要に迫られて必死でやってみると意外に簡単でした。ただ、エバポに行き着くまでの室内のバラシが結構大変なので、ディーラーなどでも工賃が高いのがうなずけます。ですが準備万端で腰を据えてじっくりやれば、誰にでもできると思いました。あと、電装屋さんのいいところを見つけること。今回は日本デンソーサービス山形さんにお世話になりました。
参考資料
・Old-Timer41号/88-89p
「直すに追い付く貧乏なし どけちエアコン修理 高圧ホースの補修」
・Old-Timer 42号/46-47p
「直すに追い付く貧乏なし どけちエアコン修理2 システム全体のバランスを考える」
・Old-Timer 42号/42-44p
「シロウト工作も夢じゃない!? あとづけカークーラー装着テクニック」
・くるまにあ 2000/7月号/88-89p
「大人のメンテ養成講座 第24回 メルセデスのエアコンがおかしい どうやらエバポレーターのようだ 後編」
・ニフティサーブ/輸入車フォーラムFICARN#14 BMWの部屋 過去ログ1999-2000年
written by nishiyan 2000.6.7
「第3回 クーラー修理編」おわり
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