Eにっぱち講座

第1回   「バイヤーズガイド:E28のすべてをチェック!(エンジン編)」

講師は、E28ライフ名誉教授 ヘラルドさんです。
ご感想、ファンメールは   ヘラルドさん(munich_e28_520@yahoo.co.jp)へ是非どうぞ。


目次
はじめに
1.1 全般 1.2 タイミングベルト 1.3 カムカバー内の状態
1.4  オイル漏れ 1.5 その他

はじめに

これからE28を買おうか、と思っているそこのあなた。あるいは、E28は欲しいけど古いBMWというのはトラブルが多いのではないか、と思って手を出しかねているあなた。少しはそんな方の役に立てるかと思いまして、これまで自分の520iを維持してきた経験と、いろいろなE28を見てきた経験から「バイヤーズガイド」を書いてみようと思います。

E28は最終モデルでももう12年選手ですから、当然新車を買うようにノーチェックで買って問題なし、というわけにはいきません。きちんとメンテされた車は、今でも驚くほどよいコンディションとBMWならではのドライブフィールを保っています。一方で程度の悪いものをつかむと、トラブルの続出に100年の恋もさめる、ということになりかねませんので、できる限りのコンディションの確認をすることをお勧めします。
また、このバイヤーズガイドに書いてある内容はご自分のE28の程度の良し悪しの判断にも役に立つかもしれません。

もし他に、こんなところも見たほうがいいよ、というようなアドバイスがありましたらお知らせいただけるとありがたい限りです。

524tdのエンジン関係のチェックポイントがありませんが、筆者が実物を撫で回したことがないのでご容赦ください。また、正規輸入されていなかった518、525i、528i、524dについても見たことがありませんので触れてありません。アルピナ、ハルトゲについては見せていただけるなら喜んで見に行きます。(ン?)

 この記事はあくまでもチェックポイントとして書いてありますので、大部分は「こういう症状があるのは不具合かもしれませんよ」という書きかたしかしてありません。チェックしていって該当する症状があったときに、手を出すのをやめるか、直してもらうよう交渉するか、ほおって置くか。その判断はそれぞれの方の事情次第なので基本的にはあえて触れていません。

ここにあげてあるチェックポイントを全てクリアする車はまず見つからないと思います。もしあったら、新車同様といってもさしつかえないコンディションですから、相場より大幅に高くても「買い」であることは間違いありません。高い車には高いなりの、また、安い車には安いなりの訳が必ずあります。

よい車が見つかって、仲間が増えることを楽しみにしています。



1.1 全般

まず冷間時の始動性に問題ないか確認してみてください。 正常なら、せいぜい2−3秒のクランキングで始動します。始動性が悪いようだと、水温センサの異常(全モデル)、コールドスタートインジェクタの異常(518i、533i,535i、M5、'87春頃までの528e)、エアフローメーターの異常などが考えられます。

掛かった瞬間に排気管から濃い白い煙が一瞬出るようだと、バルブシールがへたってオイル下がりをしている可能性があります。かける瞬間は後ろに注意していてください。

スタートしたら、異音が発生していないか確認します。たとえば・・
 

  • ゴーッという音

  •  ウォーターポンプのベアリング破損(要交換)
  • エンジンの前の方でガラガラ音

  •  ビッグ6のタイミングチェーンのへたり(要交換)
  • 大きな打音(カカカ、とかコココ、とか)

  •  バルブクリアランスが大きい(これは調整可能)
     ビストンとシリンダーボアのクリアランスが大きい
    (オイル消費が多すぎるようなら要オーバーホール)
  • 空気の漏れるような音

  •  吸気系のホースに穴があいている(要交換)
  • ブブブ、というような排気音

  •  シリンダーヘッドとインマニの間のガスケット抜け(要交換)

    M5も含め、スタート直後から回転は安定しているはずです。回転数はタコメータの読みで900−1200回転らい、暖まると600−800回転くらいになるはずです。S38(M5)、M30(533i、535i)、M10(518i)では冷間も含めアイドリング時には回転ムラはまずないはずです。ムラがあるようなら吸気系の空
    気漏れ、エアフローメーターの不良、インジェクタの汚れなどが考えられます。M20(520i、528e)では「わぅわぅ」というような回転ムラの出るものがたまにありますが、これについては走らせてみておかしくなければ大きな問題ではありません。
    (私の520iでもここ2年ばかりこの症状が出ていますが、まだ退治できていません)

    走らせてみたときには、M5、528e以外は3000回転くらいからいわゆる「カムに乗る」感じが実感できると思います。M5、528eは低回転からトルク感のある回り方でレブリミットまで回るはずです。フルスロットルの加速途中でトルクの落ち込みを感じさせるとか、回転の上がり方に滑らかさがないものはエアフローメータの動作不良、燃圧レギュレータの不良、インジェクタの汚れ、スロットルスイッチの故障・調整不良、まれに燃料フィルタのつまり、燃料ポンプの不良などが考えられます。また、高回転で排気管から白い煙が出る場合はピストンのクリアランスが大きくなってオイル上がりをしている可能性があります。



    1.2 タイミングベルト(520i、528e、524td)

    M20、M21と呼ばれるスモール6のシリーズは、カムシャフトを歯付きベルトで駆動しています。これは樹脂製のベルトですので、チェーンと違って劣化した兆候がつかみにくく、古くなると突然切れる可能性があります。切れるとエンジンオーバーホールということになって多大な出費が必要になりますので、車を買うときのみならず、いつも注意が必要な部分です。E28、E30が「THE END OF THE ROAD」に到着する原因のうちのすくなからぬ部分を占めるのもこのトラブルです。

    こういった理由もあるのか、これ以降のBMWのエンジンは全てがカムシャフトをチェーン駆動にしています。

    ベルトの状態を詳しくチェックするためにはファンベルト、機械式ファン、エンジンのフロントカバーなどを外してベルトが見える状態にする必要があります。現実にはこんなことをさせてくれる車屋はないと思いますので、整備記録があれば前回の交換からどのくらいの距離を走行しているかで判断します。走行条件にもよりますが、交換してから40000km以上走行しているようなら交換した方が安心でしょう。記録がなければ無条件で交換しておくことをお勧めします。また、交換するときにはかならずテンションプーリーも交換します。



    1.3  カムカバー内の状態

    カムカバーの中をのぞいてみると、その車がどのようにメンテされていたかが大雑把にわかります。エンジンオイルを注入するキャップを外してのぞいてみてください。よく見えるように懐中電灯かなんかを使って。

    きちんとメンテされていた車なら、カムとバルブ、ロッカーアームの接触面は少し曇った光沢の銀色で薄くオイルの膜に覆われています。ロッカーシャフトはごく薄い茶色の膜が掛かった銀色、ロッカーアームの側面、ヘッドの表面は茶色みがかったダークグレー、バルブスプリングは半光沢の黒で、いずれも薄くオイルが回っているはずです。
    エンジンが暖まっていれば、オイルの香ばしい(?)香りがします。

    カムカバーの内部に黒いタール状の物が付着しているのがすぐわかるようなら、ろくにメンテされていなかった車であることは間違いありません。カム表面が異常に光っている(特に、カムの山の部分)のは、カムが磨耗し始めている場合が考えられます。色の濃い部分に細かくきらきら光るものが見られるようだと、エンジン内部に異常な磨耗があるかもしれません。

    エンジンが暖まっているときに甘いにおいが混じっているようなら、ヘッドガスケットが抜けて冷却水がオイルに混じっています。極端に排気ガスくさかったり、ガソリンくさいようならピストンのクリアランスが大きくなって、燃焼ガスがクランクケース側に抜けている可能性があります。



    1.4 オイル漏れ

    エンジンからのオイル漏れは、場所によって症状の重さがだいぶ違ってきます。まずはエンジンの周囲をぐるっと眺めてみて、黒光りしているところがないか探してみます。
    オイル漏れのないエンジンならまわりは一様に白っぽくほこりがついたように見えます。

    オイル漏れの症状診断。エンジンの上の方から順番に行きます。

    カムカバー回りからのオイル漏れなら簡単なガスケットの交換で直るので軽症。
    エンジンの前にあるディストリビュータの回り(518i、533i、535i、M5)、あるいはタイミングベルトが隠れているフロントカバーの中の上の方(520i、528e、524td)からもれているのはカムシャフトのオイルシールの損傷で、少々厄介です。
    シリンダーヘッドとシリンダーブロックの接合面からもれている場合はヘッドガスケットの損傷で、ヘッドを降ろして交換する必要があります。
    エンジンの前のクランクシャフトプーリーの周りにもれているようだと、クランクシャフトのフロントシールの損傷、ギヤボックス側のベルハウジングの下ののぞき窓からもれているようならリアシールの損傷です。(ベルハウジングからオイル状のものが漏れている場合には、ATの方の漏れの場合もあります。もれているのがエンジンオイルなのか、ATFなのか要注意です) いずれもエンジンを下ろさないと交換が非常に難しいところなので、手間も費用も一番掛かります。
    シリンダーブロックの横っ腹にある油圧警告灯のスイッチの部分から漏れているのはOリングを交換するだけで直りますのでごく軽症です。
    オイルパンとシリンダーブロックの合わせ面からの漏れもガスケット交換でなおるので大きな問題ではありません。オイルパンについているエンジンオイル量警告灯のスイッチの回りからもよくもれる場合がありますが、これもガスケット交換で直ります。ドレインプラグからもれるのはたいがいOリングの不良で、簡単に交換できます。ただ、このOリングはオイル交換するたびに替えるべき部品なので、ここからもれる場合、きちんと交換していない可能性があります。



    1.5 その他

    オイルパンの下面に傷がある場合、ひどい傷でなければそれ自身はあまり問題ではありません。ただ、そこ以外の部分もぶつけている可能性がありますから、車の下側全体をよくチェックしておきましょう。533i、535i、M5はオイルパンが鋳物のものがあり、これはぶつけるとひびが入ることがあるので、オイルパン表面のフィンに傷がある場合は漏れがないかどうかよく確認することが必要です。



    「第1回 エンジン編」おわり