A/Cのレトロフィット(番外)

R-12用コンプレッサが来てしまった時の対策

BMPカタログ文句の「日本製」、「R-134a」の文句が気をそそりました。ただ「コンパチブル」という言葉がひっかかり、オーダー時に「R-134a用として本当にOKなのか?」を確認し、「その通り、両方OK」との返事があったので正式注文したのですが、そううまくはいきませんでした。

 
コンプレッサの対応冷媒仕様
実はこの「R-134aとR-12コンパチブル」という言葉が曲者なのです。実際は、SANDEN、seltec、DENSO等、大抵のコンプレッサメーカーは、出荷時にR-12用、R-134a用どちらかの用途としてのみ出荷し、これはコンプレッサ本体にどっちの冷媒用なのかがラベルされています。これは部品番号によってもどちら対応なのかがわかります。本当に「コンパチブル」なコンプレッサはごく一部の海外コンプレッサメーカが出荷していますが、その場合は
  1. コンプレッサのオイルを空っぽの状態で出荷する。(オイルは用途別に後から入れる)
    • R-134a用はPAGオイル(PolyAlkylene Glycol  oil)
    • R-12用はナフテン系鉱物オイル
  2. エステル系オイルをあらかじめ入れて出荷する。(エステルオイルはR-12、R-134a双方とも親和性が良いとされている。ポリオールエステル(POE)、ポリビニールエステル(PVE)等がある。)
のどちらかを採用しているようです。というわけで日本製の場合はどちらか一方のみの冷媒用です。自分でのオイル交換を前提とした場合は「コンパチブル」とは一般には言わないでしょう。作業後は製品保証外になります。

 
コンプレッサ購入時のトラブル
到着したコンプレッサはカタログと異なるR-12専用のコンプレッサでした。しかもメーカーはSANDEN製でなくseltec製です。スペックはほぼ同等のようですが、R-12用では話が違います。窓口に問い合わせ、R-134a用のものと交換を要求したのですが、「R-134a用はない」とのことで交換不能。数度の返品交渉をしたところ、結局「返品には応じるが送料は購入者負担で」とのこと。
窓口のRichard君は、「あんたの言う事は分かるが上司がOK出さないのヨ」と同情的でしたが、結果が出ないことにはなんにもなりません。
保険つき海外発送は送料もバカにならず、かといって送り返した場合はなにか他の方法でコンプレッサを入手しなければなりません。広告に偽りのある点に腹が立ち、徹底的に交渉してみたい気にもなったのですが、実は次のseltecの窓口フォローによって新たな展開となりました。

 
seltecの助言
コンプレッサにはTAMA-MFGSELTECと刻印があり、この時点ではこんなメーカーが有る事も、このコンプレッサの仕様についてもわからなかったのですが、掲示板にてメーカーのURLを教えていただいたのでwebを見たところ、SELTECとはSELECTIVE  TECNOLOGY社の商品名であり、これを日本の玉製作所が製造しています。SELTECの窓口にメールで問い合わせたことろ、すぐにわかりやすい返事がありました。窓口担当はMr.Brian。的確、迅速なアドバイスには驚きました。以下は彼とのやりとりの一部です。
私の質問
Mr.Brianの返事
BMPという販売元から通販でR-134a用コンパチコンプレッサを購入したら、seltec TM-15HDというのが届いてしまいました。R-12とラベルされていますが、これはどういう仕様のものでしょうか? TM-15HDはグレードで、それはR-12用だ。(うちのは)R-12用とR-134a用とではコンプレッサオイルだけが違うもので他は同じだ。
コンプレッサ本体に8桁の部品番号があるはず。また、本体にどちらかの冷媒仕様かが明記してある。
ありました。488-25011という品番です。またR-12とあります。販売元が発送を間違えたのでしょうか? 488-25011 はR-12用。R-134a用は488-4XXXXという部番が割り当てられている。
それと同一スペックのR-134a用は488-45011か488-45021のどちらかだ。販売元に確認したほうが良い。
販売元は「これしかない。」と言っています。窓口担当者は、コンプレッサオイルをエステルオイルに交換すればR-134aにも使えると言っていますが。 コンプレッサオイル交換で、R-134a冷媒用としてもそのコンプレッサは使用可能だ。全量交換は出来ないが大抵はこれで問題ないはずだ。オイルはPAGオイル(ZXL100PG) の粘度46visを使用のこと。
販売元は返品には応じるが送料は負担してくれないので高くついてしまいます。コンプレッサのオイル交換は私にも出来るでしょうか? そのZXL100PGは日本でも入手可能ですか? 出来るし入手可能と思う。ZXL100PG以外には、出光のDaphne Hermetic PS 46visというのでもOKだ。

注)ZXL100PGは旧ゼクセル  (現ボッシュオートモーティブ)

わかりました。他に合理的な手がないのでやってみます。具体的にはどうするのでしょう?
  • ヘッド下部のドレンボルトを外し、ここからオイルを出来る限り抜く。
  • さかさにすると、低圧口や高圧口からもオイルが多少抜ける。
  • クラッチをまわすとさらに出る。
  • オイル充填量は150ccだが、抜けたとしても110ccだろう。全量抜き取りは無理なので、残留したオイルについては気にしないこと。PAGオイルは150ccを入れる。
  • ドレンボルトの締め付けトルクは13〜15Nm。
  • どうやらZXL100PGは入手出来そうです。
    ところで、コンプレッサ内部のシャフトシールは冷媒によって異なるという話を聞いたのですが本当ですか?
    多分ここは自分では交換できないでしょうが。
    シール材はどちらの冷媒用も共通だ。必要ない。

    注)一部の国産コンプレッサメーカーは1992年頃から既にR-134a用の部品対策を行なっているので、seltec TM-15HDのように注入されているオイルだけが異なる製品があるようです。

    そういえば、BMPのエンジンマウントキットがどうもSANDENのSD-5シリーズ用らしいのですが、TM-15HDでもOKでしょうか? SANDEN SDシリーズとTMシリーズは同じマウントだ。

    注)双方のwebにある諸元図面を見たら、マウント位置もクラッチ位置及び径も全く同一でした。

    詳しく教えてくれました。オイル交換は自己責任といえど、メーカーの人が「問題ない」というのですから、私の状況ではやらなきゃ損というものですね。


     
    コンプレッサオイルの入手
    オイルは一般の電装店で入手しました。電話帳で店を探す前にメールで対応してくれそうな所をさがしたら、杉並の大塚電装機器株式会社 がヒットし、ZXL100PGを問い合わせたところ「あります。2日でとりよせ可能」とのこと(250cc入り3500円)。こちらではレトロフィットやコンプレッサのJOINTについて色々と教えて頂き、また7/8インチジョイントも頂戴しこれが役に立ちました。(大塚専務、ありがとうございました。)

    PAGコンプレッサオイルはPAGならどこのオイルでもよさそうな気がしますが、コンプレッサ種類毎に一応銘柄指定があり、それぞれ粘度等の仕様が異なる場合があるようなので、メーカー推奨のオイルを使用する方が確実でしょう。


     
    オイル交換作業
    オイル交換作業は、所要時間約20分。計量容器さえあれば作業は簡単でした。コンプレッサは約7kgと重いので、オイル抜きは2人で作業すると楽です。ということでTWTさんにて作業を実施。^^;

    オイル交換直後の様子
    下の金具が頂いた7/8インチジョイント。

    コンプレッサのオイル交換についてはSANDENのこのマニュアルや、コンバージョン方法の章が参考になります。
     

  • メスシリンダーは抜き出したオイル量確認に使用。
  • ヘッド下部のドレンボルトを外し逆さにするとしばらくしてタラリと抜けて来ます。
  • 垂れて来なくなったら今度は低圧および高圧ポート口を下にして、クラッチを手で回すとまたタラリと垂れて来ます。時間をかければもう少し抜けるかもしれません。
  • エアツールがあればそれで低圧口からエアを吹き付けるともっと抜けるかも。
  • Mr.Brianの言う通り、琥珀色の鉱物オイルが113cc抜けました。(オイルは37cc残留している訳です。)

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  • 新オイル注入はオイル缶から必要注入量150ccを計量カップに取り出し、ドレンボルト穴から手早く注入。
  • 空気中の水分に触れるとPAGオイルは酸化し始めるので、注入が終ったらドレンボルトを手早く締め、低圧/高圧ポートにキャップをして終り。
  • ドレンボルト締めつけトルクは14Nmで。

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    コンプレッサ諸元
    SELTECの図面より
    品名および形式番号 TM-15HD   488-25011    (日本製)
    冷媒  R-12用
    (同一グレードのR-134a用は 488-45011 または488-45021)
    形式 本体:6気筒斜板式   クラッチ部: 2A(Vベルトタイプ)
    排気量 147cc / rev
    許容回転数 700〜6000rpm
    重量 本体:4.4kg   クラッチ:2.25kg
    潤滑油 FREOL-DS-83P(150cc)
    (R-134a用は  ZXL100PG 150cc)
    配管ポート径 低圧側:7/8  インチ 14UNF 
    高圧側:3/4  インチ 16UNF

    注意すべきは配管ポート径です。高圧側はE28-BMWオリジナルホースジョイント径と同一で問題ないのですが、低圧側が少し細いのです。(BMW低圧側ジョイントは多分1+1/16インチ)。そのため、BMPのキットにはアルミ製の低圧用L型ジョイント(7/8インチ)2個、おまけとして高圧用L型ジョイント(3/4インチ)が1個、それと2個のバンドが付属しており、このジョイントを利用してホースを自分で作る必要があります。
    運良くオイルを購入した電装店で鉄製の7/8インチジョイントを頂いたので、私の場合はホースを製作せずに、オリジナルBMWホースのコンプレッサ低圧側ジョイントを切断し、この7/8インチジョイントを溶接で取り付ける作業をTWT-BPさんにお願いすることになりました。


     
    Postscript
    実際のコンプレッサ装着は、この後
  • キット付属のボルトが合わない。(現物合わせで新品を用意)
  • ブラケットが長すぎて、コンプレッサのクラッチがラジエターホースにあたる。(ブラケットを加工)
  • など面倒があり、謳い文句の「ダイレクトにフィットする」というわけにはいきませんでした。どうもこのBMPのM30エンジンマウント部品は、付属のVベルトの長さから推理するに、同じM30エンジンでも車幅に余裕のあるE34-535用を元に設計されたのではないかと思います。

    個人輸入ベテランの方には些細なトラブルなのでしょうが、このようなケースは私は初めてでした。結果的には運良く利用できたのですが、決して良い例とは言えないでしょう。まあ人の失敗談も少しぐらいは参考になるのではないでしょうか。「個人輸入は返品出来て一人前」だそうですが、まだまだ半人前です。

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