川村渇真の「知性の泉」

論理的分析とヒラメキの組み合わせが重要


ヒラメキの前に論理的な分析を用いる

 創造的な活動といえば、一瞬のヒラメキによって難題を解決すると思われがちだ。ところが実際には、ヒラメキが最初からポンと出るケースはほとんどない。これを理解してもらうために、思考の過程を少し分析してみよう。
 どんなテーマを考える場合でも、まず最初は、情報を集めて現状を検討する。テーマに関する知識がなければ、問題を解決することなど不可能だからだ。集まった情報を論理的に分析しながら、問題点を掘り下げていく。そうしている途中で、解決の糸口になりそうな箇所を見付けだす。その箇所で、解決のためのヒラメキが出れば、思考が1つ進んだことになる。
 ヒラメキが出るまでの過程では、対象テーマの情報をいろいろな角度から見る。そのとき、情報を論理的に分析する。有効な軸を見付けて整理するとか、共通点や相違点を並べるとか、前提条件や状況を変えてみるとか、様々な角度から分析を加える。そうして得られた結果を見て、解決に役立ちそうなアイデアを求める。何かを思いついたら、それがヒラメキとなる。
 1つのヒラメキで、全部が解決するわけではない。一部だけを解決するヒラメキのほうが多く、いくつものヒラメキを組み合わせて全体を解決する。細かなヒラメキを求めるために、論理的分析を何度も用いるのが一般的だ。

論理的分析とヒラメキを繰り返すのが思考

 ヒラメキが出る前段階だけでなく、役立ちそうなヒラメキが出た後でも、論理的な分析が必要となる。思いついたヒラメキが、本当に役立つかどうかは、論理的に分析してみなければ判断できないからだ。
 ヒラメキが出た瞬間は、「これで解決だ」と思うことが多い。ところが、いろいろな角度から分析を加えると、ヒラメキの欠点も見えてくる。運が悪いと、大きな欠点を持っていて、まったく使いものにならない場合もある。実際には、良いと思ったヒラメキだけに、欠点があっても、それに負けないだけの利点を持っている。その欠点を克服しようと、別なヒラメキを求めて思考を続ける。
 以上のことから分かるように、思考の過程では、論理的分析とヒラメキを交互に繰り返す。繰り返しの最小単位は「論理的分析→ヒラメキ→論理的分析」である。「論理的分析」の箇所を1段掘り下げた表現に変えるなら、「論理的整理→ヒラメキ→論理的評価」とも表現できる。
 たいていの思考では、いろいろな角度から最小単位を何度も繰り返すので、全体では論理的分析とヒラメキを繰り返しているように見える。実際には、論理的分析の後でヒラメキが出なくて、別な角度から論理的分析を試すことのほうが多い。結果として、「論理的分析」が何回か繰り返され、その途中に「ヒラメキ」が少し入る形になる。

論理的分析はヒラメキの創出を手助けする

 以上の流れの中で「論理的分析」は、「ヒラメキ」を手助けするという役割を果たしている。この点こそ非常に重要で、良い思考法を求めるための大きなヒントとなる。
 論理的分析の必要性は、それを用いない場合を考えればすぐに分かる。分析しないでヒラメキを求めようとすると、どこをどう考えて良いのか困ってしまう。何の指標もなしに考えるのは非常に難しく、羅針盤なしで航海するようなものである。当然、有効なヒラメキなど、まったく出てこない。
 ヒラメキが出てくるのは、論理的分析によって、考える対象を絞ったためだ。その意味で、論理的分析はヒラメキを生むためのガイドといえる。考える対象を上手に絞れれば、思考をそこに集中できる。もしヒラメキが出てこないと、再び論理的分析を用いて、別な思考対象を見付ける。この繰り返しによって、有効なヒラメキを生み出すのである。
 このような手順で思考を続けると、論理的分析と小さなヒラメキの組み合わせで、大きな問題も解決できる。解決方法の全体像が、大きなヒラメキだと外からは見えるかもしれない。しかし本人は、大部分が論理的分析の結果であって、ヒラメキの部分は非常に少ないと思っている。こんなケースは、意外に多いようだ。

論理的分析の部分を技法として確立する

 有効な「ヒラメキ」が出るかどうかは、本人の能力に大きく関係する。それに比べて「論理的分析」のほうは、きちんとした手順を確立できれば、ある程度の訓練で使える可能性が高い。この論理的分析を手順化した技法こそ、本コーナーで紹介する思考法である。それには、技法の組み合わせ方や適用手順も含まれる。
 手順化された論理的分析は、ヒラメキの部分とまったく無関係というわけではない。考える対象を絞り込むことによって、ヒラメキを出やすくする効果も持っているため、実質的に、本人のヒラメキ創出度を高めることになる。より難しい問題を解決できることに加え、同じ問題をより早く解決するのに役立つ。
 論理的分析の手順化とは、分析中に頭の中で考えていた工程を明らかにして、誰もが使える形に変換する作業である。分析方法は何種類もあるので、技法も何種類かになる。発想法に属する技法もあるため、単純な分析方法だけではない。それらの技法を上手に組み合わせることで、全体として有効な思考法に仕上げる。
 ここまで説明したように、論理的分析とヒラメキを上手に組み合わせることが、良い成果を生む。つまり、質の高い思考を実現するのだ。本コーナーの大きな目的は、ヒラメキの創出を助けるような技法の何種類もの提供である。

(1998年4月23日)


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