川村渇真の「知性の泉」

内容作成の基礎となる説明技術とはなにか


前回は、情報中心システムの時代が進むにつれて、作成内容の質を向上させるための機能が重要となることを、これまでのワープロが果たしていた役割を軸に述べた。今回は、実現の基礎となる説明技術について解説する。説明技術を基礎とした作成支援機能なので、説明技術の中身を知らなければ、支援機能がきちんと理解できないからだ。純粋なコンピュータ技術には含まれないが、非常に重要な内容であるだけに、その考え方を中心に概要を紹介する。


作文指南の本は役に立たない。説明技術は、作文技術より上

 伝えたいことを表現する方法として、文章を用いることが多い。もし図や表を利用するとしても、中心となるのは文章だ。
 いい文章を書くためのノウハウは、作文技術として知られており、数多くの本が書かれている。しかし、中身の薄いものがほとんどで、本当に役立つ本は非常に少ない。雰囲気で説明している本が多く、論理的なノウハウとして確立していないため、読んでも役に立たない結果となる。ノウハウや活用術というのは、たとえ作文が対象であっても、ある程度まで論理的でなければ、本当に活用するのは無理だ。その条件を、多くの作文の本は満たしていない。今回解説する説明技術は、利用手順まで含めて、論理的に体系化したものである。そうでなければ、コンピュータ上で実現することもできない。まだ研究中の部分も残っているが、全体像は確定しつつあるので、概要を紹介する。
 まず最初に、作文技術がカバーする範囲を考えてみよう。作文技術では、誤読されにくい文章を書くことが中心となる。適切な語順を考えるとか、句読点を上手に入れるとか、1つの文を対象とすることが多い。文章と文章のスムーズなつながりも対象範囲だが、全体の構成を決めるのには役に立たない。
 ある程度以上の長い文章を書く場合、問題となるのは、どのような構成にするかだ。作文技術の中でも、文章構成法というテーマで何冊かの本が出ている。中身は貧弱で、どんな説明内容でも起承転結へ無理やりあてはめるというワンパターンで、実際に活用できるレベルまで達していない。よく考えると、わかりやすい構成を決める作業は、作文技術の範疇ではない。これまでは文章が中心だったから、作文技術の延長として、文章構成法という考え方がでてきた。ところが実際は、文章に加えて図や表やグラフを用いる。それらをどのように組み合わせれば、わかりやすい説明に仕上げられるのかを、考える必要がある。つまり、文章構成法というアプローチが、そもそもまちがいなのだ。
 わかりやすい説明を構築する視点で考えると、上手な説明を作成するための技術が見えてくる。理解しづらい理由を分析し(表1)、そこからわかりやすくつくる方法を導きだす。その結果が説明技術だ。文章は説明の一部として用い、そこで作文技術が生きる。つまり、説明技術は、作文技術の上位に位置する。

表1、わかりづらい説明の代表的な原因

表1

「わかりやすく説明することは、    
    たんなる作文技術ではできない」

内容作成技術のテクニック。まず、3つのレベルに分類

 ここでいったん、説明内容を作成するときに必要な技術を整理してみよう。それは3つのレベルに分けられる(表2)。一番上に位置するのは、内容そのものをつくりだす思考技術だ。深く分析するとか、別な視点で見るとか、考えることに関係した技術が中心となる。物事の評価方法や発想法なども含まれる。

表2、説明内容をつくるために必要な技術

表2

 2番目に位置するのが、今回のテーマである説明技術だ。考えた内容を、できるだけわかりやすいように表現することが、中心となる。この部分は、あとで説明する。
 3番目に位置するのが、作文技術などの個別の表現技術だ。文章だけにかぎらず、図、表、グラフ、写真、音、ムービーといった幅広い表現方法を対象とする。テキストに関しては、文章を中心とした作文技術だけでなく、個条書きなどの表現も含まれる。それぞれの表現方法ごとに、異なる表現ルールがある。
 情報中心システムでは、第3レベルの表現ルールの多くを、Auto Expression機能の表現ルールとして組み込む。その結果、わかりやすい内容をシステム側で自動生成し、ユーザーが自分でつくることは少ない。大きな例外は文章だ。文章は特殊なもので、複数の内容を含んでも1つにつくれてしまう。実際、構成をよく考えずに書いている人の文章は、内容の区切りが不明確になりやすい。区切りをハッキリさせ、構成をよくするのは、2番目の説明技術の担当だ。
 ムービーに関しても、既存のテレビや映画では、文章と似た傾向がある。放送や上映の形態が対話型ではないため、1つの連続した形でつくられ、区切りが不明確になりやすい。今後は対話型が主流となり、文章との連携も可能だ。短いムービーを材料として用いる形態へと、徐々にだが変化するだろう。

「説明内容を作成するには、         
   3つのレベルで分けて考えることが必要」

説明技術の中心は、要素を選択し、構成を考える

 第2レベルの説明技術の基本は、説明に必要な要素を洗いだし、それらを適切に構成することだ。それには、説明内容を作成するための手順も含まれる(表3)。

表3、説明技術を利用して説明内容をつくる場合の基本的な作業手順

表3

 まず最初に、説明に必要な要素を考える。要素というのは、説明に用いる材料のことだ。その意味から説明要素と呼ぶ。実例を示すとか、比喩を用いるとか、測定データを加えるとか、誰かの発言を引用するとか、いろいろなものが考えられる。説明の中心となる論理も、洗いだした問題点の一覧も、説明要素の1つといえる。ここで大切なのは、伝えたい内容の主旨だ。主旨が最も明確に伝わるように考慮しながら、必要な説明要素を選びだす。
 ひととおりの説明要素が揃ったら、最も適した並び順を考える。並び順といっても、一列に並ぶわけではない。各説明要素の関係を指定することで、説明全体の構成を形づくる(図1)。各説明要素を矢印で接続し、導かれる順番を明らかにする。問題解決の提案であれば、現状→問題点→原因→対処→実施方法→といった具合に説明要素がつながる。どんな形になるかは、説明する内容によって大きく異なるが、ある説明要素が出発点になり、別な説明要素が終了点になる。出発点や終了点が、それぞれ複数の説明要素になることもある。

図1、説明要素の関連を図で整理する。必要に応じて、要約や参考資料も加える

図1

 説明要素や流れをつくりながら、説明する内容がきちんとしているかどうか、作成者自身でチェックすることも必要だ。視点は2つある。1つは、わかりやすい構成であるかという点だ。説明される内容を知らない人が、矢印の方向に従って上から読むとき、スムーズに理解できるかを考える。ダメなら構成を修正するし、説明要素が不足すると感じたら、新しい説明要素を追加する。
 もう1つの視点は、説明内容がいいかどうかだ。わかりやすい構成が決まると、説明内容がよく見えてくる。その時点で、説明内容に説得力がないとか、矛盾している部分があるとか、内容の欠点が発見できる。これは、第1レベルの思考技術に含まれるべき機能だ。このように実際の作業では、各レベルの技術が明確に区切られるわけではなく、重なる部分が少しある。

説明要素は階層構造で分解する

 最初に洗いだした説明要素は、比較的大きな単位になる。たとえば、実際に使っている例を紹介したほうがいいと判断したなら、実施例が1つの説明要素として加わる。実施例は実例の一種であり、これをより細かい要素に分解できる。何に対していつ実施したか、実施前と実施後の変化はどうか、どのようにして誰が調べたのか、などだ。
 このように、説明要素はより細かな説明要素に分解でき、全体として階層構造になる(図2)。どの程度まで分解するかは、対象となる読者の知識の深さや、説明の目的などに関係するため、作成者が判断するしかない。

図2、最上位のブロックを最初につくり、説明要素ごとに、細かな説明要素へと段階的に分解していく

図2

 上位となる説明要素の種類が決まれば、その中に含まれる細かな説明要素が、ある程度まで導きだせる。代表的な説明要素テンプレートを用意することで、大切な説明要素を欠くことは確実に減らせる。
 下位階層の説明要素でも、上位階層と同じように、矢印で説明要素の流れを指定する。この矢印もテンプレートに含める。
 説明要素の種類別テンプレートは、各説明要素の上手なつくり方を手助けするツールでもある。かなり細かな説明要素にまで分解してしまえば、それに従ってつくるのは比較的容易だ。それ以上分解できない最下部の説明要素に関しては、作成時の注意点を加えることで、テンプレートをより役立つ内容に仕上げられる。

説明要素ごとに最適な表現方法を決定

 説明要素を分解し終わったら、説明要素ごとに最適な表現方法を決める。文章、表、写真、ムービーなど、作成の手間も考え合わせながら選択する。
 1つの説明要素に、複数の表現方法を用いることもある。写真と説明文というように、文章以外の表現方法では、文章と一緒に用いることが多い。ムービーと表と説明文とか、3つ以上の表現方法を組み合わせてもかまわない。大切なのは、説明要素に適した表現方法であるかだ。テンプレートには、含まれる説明要素ごとのおすすめ表現方法も加える。
 実際には、つくる手間が一番少ない文章を採用することが多いだろう。文章を多用した説明であっても、文章は説明要素ごとにつくるので、区切りは明確になる。加えて、全体の構成を把握しながらつくるので、文章だけで表現する場合でも、内容は確実に向上させられる。
 コンピュータ上のツールが使いやすくなれば、文章以外の表現方法を利用する割合が確実に増える。割合の増加速度は、ツールの使いやすさで決まる。この場合、情報中心システムのように、表や図を自動生成する方式が圧倒的に有利だ。情報中心システムの時代には、文章以外の表現方法が増えるだろう。
 説明技術で全体の構成を決めるとき、図で表すほうが理解しやすい。図として編集するなら、コンピュータが適している。説明技術は、手作業で書類を作成する場合にも利用できるが、コンピュータ上で実現したほうが便利だ。
 説明技術を適用できる範囲は幅広い。企画書や報告書だけでなく、自分の夢を語るときにも役立つ。文章だけの小説でさえ、小説向けのテンプレートをつくることで、有効に利用できる。

マルチメディア時代こそ重要度が増す説明技術

 ここでの解説では、第2レベルだけを説明技術としたが、本当は第3レベルも説明技術の一部ともいえる。表現方法ごとに、上手な説明を助けるノウハウがあり、これも説明技術である。
 説明技術が対象とするデータは、文章や表やムービーなど、コンピュータ上で扱う全部の表現方法が対象となる。第3レベルまで含めると、マルチメディア時代にも対応していることになる。
 マルチメディアの話では、ムービーなどのデータを扱えることや、誰もが情報発信できることが中心となっている。ここでは、大切な問題が検討されていない。情報発信者が増えると、情報の量は飛躍的に増加する。しかし、わかりやすくない情報が氾濫したのでは、無駄な時間ばかりとられて、効率は上がらない。
 その問題を改善するには、説明技術をシステムに組み込むしかない。説明技術の支援を受けながら作成すれば、よりわかりやすい内容に仕上げられる。マルチメディア時代にこそ、説明技術が必要だ。
 ここまでの解説からわかるように、説明技術は、コンピュータ技術の範疇には含まれない。しかし、今後のコンピュータでは重要であり、時間が経てば多くの人に認識されるだろう。残念ながら、今はされていないのだが。
 次世代のコンピュータシステムを設計するには、コンピュータ技術だけでは不十分で、情報に関する幅広い技術が必要となる。その代表的な例が説明技術である。説明技術に基づいた内容作成の支援機能は、既存OSで1つのアプリケーションとして実現する方法も考えられる。しかし、それでは本来のメリットを生かせない。情報中心システムのように、より細かなデータとして扱う機能があり、個々の表現部品を自動生成する機能と連携してこそ、説明技術の特徴を最大限に活用できる。それがどのような形になるのかは、次回に解説することにしよう。

「わかりにくい情報の氾濫を避けるには、
    説明技術をシステムに組み込む」


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