川村渇真の「知性の泉」

知識やノウハウのレベルを理解する


知識やノウハウに関するレベルを理解する

 どんなテーマであっても、知識やノウハウを身に付ける場合には、全体の構成や各部分の位置付けを理解することが大切です。それとともに、個々の内容に関する重要度や普遍性などの違いも知る必要があります。
 知識やノウハウに含まれる内容は、すべて同じレベルというわけではありません。たとえば、全体をどのように捉えたらよいのかや、どんな点を考慮すべきかなどは、もっとも重要となる設計思想に含まれます。レベル分けはいろいろあるでしょうが、ここでは次のような分け方をしてみました。

知識やノウハウにおける6段階のレベル分け
1. 設計思想:どのような点を考慮すべきなのか大まかな考え
2. 基本条件:設計思想を満たすための基本的な条件
3. 基本手順:実際に行う際の基本的な作業手順
4. 各種工夫:作業で用いる様々な注意点や工夫点
5. 詳細手順:基本手順の各工程内での細かな作業手順
6. 操作方法:具体的な操作方法や細かな作り方(基本的に本サイトの対象外)

 設計思想とは、その分野で重要となる考え方、視点、捉え方などを含んだもので、重要度がもっとも高い内容です。続く基本条件は、設計思想から導き出したもので、設計思想を満たすための考慮点や条件を指します。場合によっては、根本的な工夫を入れることもあります。
 3番目の基本手順は、基本条件を満たすために作られた、作業の基本的な手順です。評価の作業工程なら、評価目的の明確化、評価項目の設定、評価基準の作成、評価の実施、評価結果の分析に分けます。このように手順を規定することで、作業の質の低下を防げます。多くの人ができるようになることが、作業手順を用意する目的なのです。
 4番目の各種工夫は、個々の作業で用いる上手な方法やノウハウです。小さなものから大きなものまで、かなり多くの内容があるでしょう。2番目の基本条件を満たすための、具体的な工夫と捉えることもできます。その意味で、新しい工夫を考える際には、設計思想や基本条件を満たすように注意します。
 5番目の詳細手順は、基本手順の各工程を、より細かく説明した作業手順です。その工程に入れるべき各種工夫も、作業の中に含めています。作業手順のほかに、作成すべき書類や製造物などの成果物を規定することも大切です。
 6番目の操作方法は、作業に用いる道具の操作方法が中心です。ソフトウェアであれば、選択するメニュー項目、設定する項目と値などが該当します。また、道具を使わない作業での、非常に基礎的で細かな作り方も含むことがあります。
 以上の6段階のレベルのうち、6番目だけは本サイトの対象外です。道具に付属する取扱説明書、基礎的な操作方法を記述した書籍など見ながら、各自で調べてください。

上位レベルほど重要で普遍的

 6段階のレベル分けは、上から下へと流れています。まず最初に最上位の設計思想を明らかにして、2番目の基本条件を求めます。以下も同様の流れで、1つ下のレベルを求めながら、一番下の操作方法までたどり着きます。
 作る順序だけでなく、重要度や普遍性についても異なります。どんな分野でも、新しい道具が登場したとか、今までと異なる考え方の設計方法が出てきたとか、何らかの変化があるものです。そんな変化によって、作業手順や工夫が影響を受けます。どの程度の影響を受けるかは、レベルの上下で違います。一般的に、上のレベルほど影響が小さくて済みます。より普遍的なわけです。
 習得した内容を適用する際にも、注意が必要です。すべての対象は、個々に違う部分が必ずあり、最初から最後まで同じ方法を適用できません。個別の対象に合わせて、修正する必要があります。その際に参考とするのは、より上位のレベルです。まず設計思想に照らし合わせ、やろうとしていることが適切なのか判断します。次に、2番目の基本条件に照らして、正しいのかを調べます。このように上から順番に検討して、対象に最適な方法を求めます。一般的には、より下位レベルの内容ほど多く修正されるでしょう。
 こうした理由から、上位レベルの内容を理解していることが重要だと分かります。しかし、非常に残念なことですが、下位レベルの内容しか興味ない人が数多くいます。そんな人は、基本的に応用力が低いままです。結果として、個々の対象に対応してアレンジすることができず、失敗しやすくなります。
 このような人々の傾向は、出版業界にも影響を与えています。雑誌や単行本では、下位レベルの内容が中心で、それも6番目の操作方法を重視しています。たまに、各種工夫と詳細手順を含むことはありますが、そのレベル内で低い内容が中心です。もっとも重要となる上位レベルの内容は、ほとんどありません。
 読者のほうも、下位レベルの内容を求めるだけでなく、それを高く評価する傾向があります。鶏と卵のどちらが先かと似たような問題で、簡単には解決できません。非常に困った状況です。

設計思想や基本手順を中心に書くのが本サイト

 こんな現状に危機感を持っているため、本サイトでは上位レベルの内容を強く意識し、それを多く含めるように心掛けています。書く順序としても、まず上位レベルの設計思想から説明し、だんだんと下位のレベルへ移っていきます。
 このような書き方なので、最初のうちは設計思想が多く書いてある状態になります。読者の中には、具体的な操作方法から遠い内容ばかりなので、役に立たない内容ばかりだと感じる人がいると思います。しかし、そんな考えでは、いつまで経っても応用力が高まりません。上位レベルの内容を強く意識し、設計思想から検討する癖を付けてください。それが、高い応用力を育てる基礎となります。
 もう1つ、3番目の基本手順を明確化することも大切だと思っています。世の中の様々な設計や検討を見ると、拠り所となるものを持っておらず、何となく作業を進めている状況が数多く見受けられます。このような現状を打開するためには、きちんとした基本手順を提供することが、非常に大切です。大きな仕事の全体で、どのように作業を進めればよいのか決める際の、拠り所となるからです。
 細かな作業手順ではなく、基本手順として提供するので、普遍性はかなり高くなります。それだけに、そのまま利用できる確率は高いでしょう。ただし、アレンジが絶対に不要というわけではないので、設計思想や基本条件と照らし合わせながら、適切な手順かどうか検討することも忘れないでください。
 本サイトの内容を書く場合には、6段階のレベルで分けることはありません。対象となるテーマを説明することが中心なので、あえてレベルを分けると読みづらくなります。また、6段階として明確に分けづらかったり、レベル分けとは異なる内容も含まれるのも、レベル分けの形で書かない理由の1つです。
 6段階のレベル分けは、分野全体を把握したり整理するための物差しの1つと捉えるのが適当でしょう。分野内の各要素の位置付けを確認したり、新しい道具の組み込み方を検討する際に、用いて役立てます。

レベルを意識しながら読むことが大切

 本サイトの内容を読むときだけでなく、新しい分野を勉強したり、自分が担当する分野を考え直す際には、6段階のレベル分けを意識してください。得られた知識やノウハウがどのレベルに当てはまるのか、整理しながら理解するのが良い方法です。
 ただし、本サイトのように設計思想や基本手順を重視しているのは、ウェブや単行本を含めて、かなり少ないのが現状です。その点を考慮し、不足するレベルの内容を自分で考えるようにしてください。とくに重要な上位レベルの内容をです。
 設計思想から始まる上位レベルを考える癖が付くと、物事の捉え方も変わります。言われるまま作業する代わりに、これは何のためにするのか検討するようになるからです。上位レベルを意識した検討では、設計思想まで戻って評価するので、より良い方法に改良したり、無駄な作業をやらないと決断できます。
 レベルを意識しながら読むのに慣れると、とくに意識しなくても上位レベルを考えるように変わります。そうなるのが1つの理想形です。最初のうちは、多少面倒でも、上位レベルを意識しながら読むとか作業してください。長く続けていれば、応用力が高まるとともに、適切な方法や工夫を導き出せるようになるでしょう。


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