川村渇真の「知性の泉」

使いやすく設計する術は多くの専門家も知らない


技術では専門家でも使いやすさでは素人

 使いやすさというのは、どんな製品にも関係する永遠のテーマである。面白いことに、どんな分野の専門家でも、使いやすさを理解している人は極端に少ない。そのため、使いづらい製品が数多く登場している。
 データベースも例外ではない。データベースの専門家といっても、データベースの設計に関して、全部を知っているわけではない。フィールド定義やプログラミングを中心とした技術的な知識には詳しい。この点では専門家である。しかし、使いやすく作るといった領域になると、素人とほとんど大差ない人が多い。大きな理由は、使いやすく作ることに対して、あまり気にしていないからだ。その結果、使い勝手を向上するためのノウハウは、体系的に整理されることはないし、まとまって提供されることもない。このような状況が続くため、技術には詳しいものの、使いやすいデータベースは作れない専門家が増える。
 データベースに限らず、使いやすく設計するための工夫は、かなり論理的なものだ。そのため、ルールやガイドラインとしてまとめることができるし、体系化することも可能である。そうしたルールを説明する場合は、論理的な理由も含めることが重要となる。どんな考えからルールが導き出されたかを知れば、そのルールを適応するとき、対象に合わせて改良することも可能だからだ。さらには、自分で新しいルールを作り出すことにもつながる。

設計時に考えるべきことは幅広い

 使いやすいと一言で表現しているが、考えるべき範囲はかなり広い。データベースの操作だけでなく、データベースの運用をスムーズに進めるとか、困ったときに調べやすくするなど、いろいろなことが考えられる。考え出したら、キリがない領域でもある。どこまで考慮するかは、設計者の視野の広さにかかっている。
 ここで説明する内容には、より広い範囲のことを含める予定でいる。そうすることで「設計では、どんな範囲まで考えるべきか」を知らせられると考えたからだ。また、専門家でない人にも役立つようにと、構築の手順も含める。
 説明した全部の内容を、すべてのデータベースに適用する必要はない。設計や制作に費用がかかる以上、ある程度までで妥協することが求められる。それでも、使いやすくできる点は可能な限り工夫すべきだろう。

日経MACでの連載をリニューアル

 これ以降で述べている内容は、日経MACで連載した「ビジネスマンのための使いやすいデータベース構築法」がもとになっている。データベース・ソフトの使い方ではなく、データベースを構築するときに考えるべき点を中心に述べたものだ。とくに重視したのは、いかに使いやすいデータベースを作るかという点である。
 この連載では、Macの雑誌なので、例としてMac用のソフトを用いた。しかし、説明している内容は、特定のOSやデータベース・ソフトに依存しない。キャラクタベースのOSでも使える工夫も数多く含まれている。また、データベース・ソフトのバージョンアップにも関係なく、長く使えるノウハウでもある。このような理由から、特定のOSやソフトに依存しないように、書き直すことにした。同様にサンプルも、特定のソフトに依存しないように作り直した。
 とはいうものの、実際のソフトを用いないと理解しにくい内容も少しある。そこで、特定のOSやソフトに依存する説明は、後半に加えることとした。現在はMacしか使っていないので、実例はMac用のソフトに限られるが。
 データベースの専門家でも素人でも、これからデータベースを作る人にとって、必ず役立つ内容だ。その点では、自信を持ってお薦めできる。これをマスターして、使いやすいデータベースをたくさん生み出してほしい。

(1996年5月30日)


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