川村渇真の「知性の泉」

オープンでない電子会議室も数多く必要


オープンな会議室には欠点もある

 ネットワーク上の会議室は「誰でも参加できるようにオープンでなければ」とよく言われる。しかし、これは本当だろうか。結論を先に述べるなら、オープンな会議室とクローズドの会議室の両方が必要である。「すべてオープンに」といった1つのルールを、全部の会議室に適応すべきではない。
 理由を考えるために、オープンな会議室の長所と短所を見てみよう。まず長所だが、誰もが自由に参加できる点だ。いつでも発言可能で、それを皆で読むことができる。たいていは一部の人しか発言しないが、読むだけの人が結構いて、発言者よりも実際の参加者は多い。ただし、開かれてはいるものの、完全にオープンというわけではない。一定のルールがあり、それを守らない場合には、発言内容を削除されたり、出入り禁止になったりする。もちろん、大人としての行動を守っている限り、自由に発言できる。排除されるのは非常に特殊なケースである。
 次は、オープンな会議室の欠点だ。誰もが発言できるということは、変な人まで参加できることを意味する。とんでもない発言をする人が出てきたら、マトモな議論など実現できない。もっとも代表的な例は市民運動の会議室で、“非論理的をモットーとする人々”が議論を邪魔する形で登場する。
 この種の参加者は、議論する気など最初からない。市民運動が気に入らないため、邪魔するのが最大の目的だ。「発言すれば攻撃するぞ」といった暗黙のプレッシャーをかけ、気の弱い人の発言を止めさせるのも、意識的に行っている。これでは、オープンにしている意味がない。議論する気がないのは、発言の内容を見ていればよく分かる。自分にとって都合の悪い部分は、たとえ指摘されても回答しない。逆に、相手の小さな欠点を見付けると大げさに指摘し、自分が主張したい内容だけを何度も繰り返す。そして、ほとんどの発言が論理的からほど遠い。白熱すると言葉使いが悪くなり、ケンカを引き起こす。“議論を邪魔する癌”という表現がピッタリで、非常に困った存在である。

クローズド会議室なら議論の邪魔を防げる

 これからの会議室では、このような邪魔を排除する機能が求められる。その実現に適しているのが、クローズド会議室だ。
 よく考えると、クローズド会議室は、実社会での会議に似ている。原発問題でも何でも、反対派と賛成派が一緒に話し合う機会は、ほんの少しだけだ。多くの集まりは、同じ意見を持っている人だけに限られ、どのような戦略で活動するのかなどを相談する。同じ反対派と分類されていても、少し意見が異なると別行動を取り、同じ集まりには参加しない。このように、世の中の多くの集まりは、同じ考えを持つ人に限定しているのだ。
 これこそ、クローズド会議そのものである。クローズドにする最大のメリットは、似た考えを持つ人だけが参加するので、安心して発言できる点。ただし、ネットワーク上での会議室なので、実社会での集まりとは違うメリットがある。距離が離れていても、皆と時間が合わなくても参加できることだ。同じ考えを持っている仲間を、全国から集められる。こんなことは、実社会の集まりでは不可能である。
 クローズド会議室で検討した内容は、整理して発表する。ウェブページでも構わないし、オープンな会議室で発言してもよい。また、会議室の全発言を公開し、議論の過程を見せる方法もある。議論のときはクローズドだが、議論した結果はオープンにするのだ。ただし、名前を出したくない人もいるので、その人の発言だけ匿名に書き換えてから公開する。“議論を邪魔する癌”からの攻撃が怖いからだ。癌が出没する限り、仕方のない処置だろう。

手軽に使えるクローズド会議室が必要

 ここで再び、オープンな会議室の話に戻る。クローズド会議室で検討した内容を、オープンな会議室で公開すると、それに対してコメントが付く。マトモなコメントなら構わない。しかし、“非論理的をモットーとする人”からのコメントもあり得る。それは意地悪でセコイ反論となるので、どのように対処するのか考えておきたい。
 クローズド会議室で一通りの議論が終わっているので、無視することもできる。ただし、無視してもセコイ反論を続けることが多いので、反論しにくいように、クローズド会議室でのまとめを論理的に整理して仕上げたほうがよい。“非論理的をモットーとする人”には、徹底して論理的に説明する方法が効果的だ。まとめた内容は、文章で表現するだけでなく、論理的な流れを図で表したい。図で表現すれば、文章だけの説明よりも論理性が明確になるため、セコイ反論がしづらいからだ。会議室の発言はテキスト中心なので、残念ながら図が使えない。図の利点を生かすことが目的なので、箇条書きと矢印記号を組合せて、図の代わりに用いる。これでも十分に効果はある。
 無視するにしろ、反論に反論するにしろ、オープンな会議室だけの場合よりも格段によい。重要な議論は、邪魔されずに、クローズド会議室で終わっているからだ。これだけでも大きな価値がある。議論を邪魔したい人にとっては、歯がゆいだろうが。
 以上のように、オープンな会議室の欠点は、クローズド会議室で補うことが可能だ。今後のネットワークでは、クローズド会議室の有用性を広く認識し、それが手軽に使えるようにすべきである。

(1997年12月29日)


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