川村渇真の「知性の泉」

プレゼンできる名刺を作成


名刺交換からプレゼンは始まる

 初対面の相手とは、話し始める前に名刺を交換するのが一般的だ。受け取った名刺を見て話し始めるので、名刺の内容は、話題のきっかけを提供する小道具にもなる。だとしたら、プレゼンテーションのネタ提供のツールとして名刺は最適であり、それを意識した名刺作りを考えてもおかしくはない。

忘れにくくするために写真を入れる

 プレゼンテーションも重要だが、せっかく名刺を作るのなら、既存の名刺の欠点も解消しておきたい。それに関しても簡単に述べておこう。
 これまで自分が受け取った名刺を、ざっと見てほしい。その中で、顔を思い出せる人の割合はどれだけだろうか。持っている名刺の数にもよるが、名刺の枚数が多い人なら、顔を思い出せる人の割合は10%以下ではないだろうか。つまり、普通の名刺を渡しただけでは、その人のことを、時間が経つと簡単に忘れてしまうのだ。
 会った回数が少ない人を思い出すためには、顔が分かることが一番だ。顔から話ぶりなどが連想でき、どのような人だったのか思い出しやすくなる。だから、名刺に顔写真や似顔絵を含める。もし名刺をパソコンで作成するなら、イメージスキャナを利用するとか、ビデオカメラから取り込むなどして、顔写真を用意する。最近のパソコンは、ビデオ信号から静止画像を取り込む機能の付いた製品が増えているので、これを利用するのがもっとも簡単だ。
 顔写真に加え、独自の肩書きやキャッチフレーズなどを含めることも有効だ。より強い印象を与えられれば、その分だけ忘れにくくできる。

名刺の表

プレゼンのトリガーを含める

 次の考えるのは、付加価値の部分だ。プレゼンテーションの小道具として使えるように、いろいろな工夫を盛り込む。考え方は簡単で、相手が興味を持ちそうな内容を、いくつかちりばめておくだけだ。あまり一般的でないもののほうが、効果がある。たとえば、ちょっと変わった肩書きを入れると、「○○って何ですか?」といった質問が飛び出しやすい。それをきっかけに、自分の話したい内容を話せばよい。つまり、自分が話を始めるためのトリガーを埋め込むわけだ。プレゼンテーションの機会が、自然に発生するような仕掛けといえる。
 トリガーにさえなればよいので、その機能を果たすなら、どのような内容でも構わない。次に挙げるように、いろいろなものが考えられる。
1、肩書き、キャッチフレーズ
2、自分の作品、名刺全体の変わったデザイン
3、アイコン、似顔絵
4、趣味の一覧、興味のあること、好きな言葉、ジョーク
5、ウェブページのURL
これらは、1つだけでなく複数入れることで、トリガーの働く確率を高くできる。ただし、トリガーとして組み込んだものは、適度に目立たなければならない。その意味から、あまり数を増やしすぎるのは逆効果だ。3〜5が適した個数といえるだろう。
 自分がトリガーだと思っていても、多くの人がそう思わないこともある。だから、実際に試してみて反応がないトリガーは、別なものと入れ替えたほうがよい。自分では分からない部分も多いだけに、試した結果を重要視したい。

話したいことを事前にまとめておく

 せっかくトリガーが働いても、上手にプレゼンテーションできなければ意味がない。スムーズなプレゼンテーションのためには、事前に内容をまとめておき、途切れずに話せる準備をしておきたい。そのほうが、相手の印象も良いはずだ。
 より上級者になると、臨機応変に話を変える術を身につける。そんなツワモノには、広く解釈できるトリガーが有効である。たとえば、「きれいな体で幸せづくり」という文句なら、いろいろな意味に受け取れるだけでなく、仕事でも遊びでも通用する。これは何年も前から実際に使用しているフレーズで、かなり気に入っている。このフレーズに質問が及ぶと、相手や状況によっていろいろな話につなげられる。自分の話したい内容に少しでも関係が付けられれば、曖昧な言葉のほうが適しているといえよう。

名刺の裏

 忘れてはならないのは、どんな話をする場合でも、意識の中に目的を明確にする点だ。自己実現のためのプレゼンテーションであるなら、同じ価値観を持った仲間かどうか、見分けるための適した話題を選ぶ。目的に合った話題の選択が、トリガーを生かせるかどうかの分岐点だ。
 ただし、トリガーの利用にあたっては注意も必要だ。面白くないと感じる話を長くづづけると、悪い印象を与えてしまう。こちらで話している内容について、相手が興味を持っているかどうか、確認しながら話しを進めたい。もし興味がないようなら、プレゼンテーションを中止して、すぐに話題を切り替えよう。より一般的で楽しい話題に。

名刺をネタに何でもできる

 どのような内容を盛り込むかは、アイデアしだいで何とでもなる。より凝ったプレゼンテーションや強い印象を与える際の基礎となる。参考のために、違うアイデアも少し紹介しよう。
 いろいろな作品を見せたいなら、基本になる名刺のほかに、自分の名前と作品だけを入れた数枚の名刺セットを用意する。1枚ごとにコンセプトを持たせて、セットまたは1枚で相手に渡す。渡すときには、作品の解説を簡単に加えるといいだろう。
 意表を突きたいなら、次のようなこともできる。自分の名刺に連番を付け、3カ月に1度とか周期を決めて勝手に抽選をし、当選者には景品を送るという趣向だ。誰に何番の名刺を渡したのか残すために、相手から受け取った名刺に番号を書き残す。送る景品に一工夫あると、なお良い。
 どんなアイデアでも、自分が楽しめないと続かないので、面白いと感じる方法を選ぶことが不可欠である。また、同じことを続けると飽きるので、1年ごとに新しい企画を考える。「今年は何をして周りを面白がらせようかな」などと思うようになれば本物だが、ちょっと本筋から外れているので、ほどほどで楽しみたい。

固定観念に縛られず、自由な発想で

 多くの人が名刺を作る場合、このようなことまで考えていないと思う。しかし、名刺1つでも、これだけ重要な役目を与えられるし楽しめもする。要は、考え方しだいなのだ。大きな理由は、「名刺とはこのようなもの」と決めて掛かっている点にある。全体のデザインにしても、白地に文字を並べたものがほとんどで、一部のデザイナーしか、変わったデザインを採用していない。入れる内容にしても、在り来たりの項目が並ぶだけだ。
 このような固定観念に縛られた考え方こそ、もっとも注意しなければならない点ではないだろうか。どんな物を作るのであっても、その物が持っている本来の目的だけでなく、さらに広く利用できる分野や可能性を考えるようにしたい。その癖を付ければ、何を作るときにでも、もっと良い結果が得られるだろう。

(1995年7月19日)


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