「総合目次」にもどる |  「演奏会報告の目次」にもどる |  最終修正:2000-07-31(月)

2000年7月30日(日) 渋谷 ON AIR EAST 【ツアー2000『怪人二十面相』】FINAL
17:00開場 18:00開演

【レポート】

1ヵ月弱の日本縦断を経て、ついに最終日を迎えた新譜ツアー。今回の東京公演は、いつもの ON AIR WEST ではなく、道を挟んで反対側の ON AIR EAST。96年以来ですね。WESTと違って2階席ナシの1フロアですが、ステージも客席もEASTの方が確実に広いです。
会場、まず目に入るのが、ステージ背景に張られた、月と煉瓦建築の塔が描かれた幕です。ちょうど『怪人二十面相』ジャケットから主な登場人物(二十面相、明智探偵、小林少年)を抜いた書割。役者の登場を待っているかのようです。場内はクリムゾン風のプログレっぽい音楽が流れています。
今回は鈴木氏側の後ろ隅から見ることにしました。ステージからはちょっと遠いですが、客席も含め、ホール全体を見渡せる位置です。
観客の入りはかなり良く、年齢・性別ともに老若男女入り交じった構成で、ファン層の幅広さをうかがわせます。

開演定刻からほどなく会場が暗転し、ダーティー・ハリーのテーマとともにメンバーが入場。『燃えよドラゴン』などで名高いラロ・シフリンの手になるこの楽曲は、おそらく和嶋氏の趣味で選定されたのではないでしょうか。

ツアー2000の最後をしめくくる本公演のオープニング曲は、もちろん「怪人二十面相」。期待と不安をかきたてるイントロも、今日で最後です。
楽器は和嶋氏がバット2、鈴木氏がイーグルと、いつもの通り。衣装も、横浜公演の時と変わっていません。唯一、和嶋氏がチョッキを脱いで、シャツを腕まくりしている状態なのが相違点です。
二十面相は大阪方面に高飛び、ねじ屋に潜伏か?「幸福のねじ」へ。 鈴木氏が、フーのピート・タウンゼントのように右手をぐるぐると振り回し、観客を煽ります。 終盤、後藤氏の2バスが速い! 今日の後藤氏は特に調子が良さそうです。2曲目にして、観客の興奮は最高潮へ。
スピーディーな曲調から一転して重厚な「賽の河原」。鈴木氏と和嶋氏のボーカルの掛け合いは、初期の曲の楽しみの一つです。ただ後藤氏、多少リズムが走り気味でしたか?!

ここで最初のMC。鈴木氏が「久しぶりにたくさんの人が入っているのを見たので、チンケなMCをするのがはばかられてしまう…」と言いつつ、長いツアーの移動中にゲームボーイで楽しんでいたという「遊戯王」の話題。バイト先に「デュエリスト」(対戦相手)が3人いて、先日の対戦結果は4勝2敗だったとか。
和嶋氏は夏といえば怪談ということで、最近の愛読書は『新耳袋』。一気に読むと怪異現象が起こるそうなので、毎晩すこしずつ読んでいるとのこと。 そして怪談で有名な稲川淳二氏が、人間椅子と同じくメルダック入りしたことに触れ、「レッド・ツェッペリンと同じレコード会社に入るより嬉しい」(和嶋氏)と喜びを表現していました。

次の曲は、その和嶋氏が贈る「楽しい夏休み」。ライヴでは空白恐怖的な夏休みをより強調した形で演奏。また、CDではフェードアウトするエンディングも、ライヴではきっちりと決めます。ベンチャーズ風のメロディーも織り込んでいました。
一息つく間もなく「オース!」という野太い掛け声から始まるのは、やや意外な選曲の「蛮カラ一代記」。久々に聴くこの曲では、和嶋氏はギターとハーモニカの掛け持ちで奮闘。

曲後のMCでは、鈴木氏が前曲の「蛮カラ〜」について、「世の中がハーモニカ・ブームなので、和嶋君が是非やりたいと…」と暴露。
MCの合間にトレモロ音のベースを試奏する鈴木氏、次の曲は当然「芋虫」ということで、観客から歓声があがります。「この曲も和嶋君がテルミンの音を出したいからやるんですよね?」と再び和嶋氏を攻撃。
和嶋氏の、なぜ「芋虫」という曲を作ったか?という問いに対し、鈴木氏は「クワガタを飼育していた当時、成虫になるものもいれば、幼虫のまま終わってしまうものもあった。自分はいったいどちらなんだろう、という問いかけから生れた」と回答。

その「芋虫」、和嶋氏のスライドギターからソロ、テルミン音に至るまで、縦横無尽の活躍ぶりに瞠目。さすがに自分からやりたいと言い出すだけのことはありますね(笑)。テルミン音が鳴りだすと、ギター側の観客の視線が和嶋氏のほうへ集中します。
続いて後藤氏がマイクスタンドを引き寄せ「亜麻色のスカーフ」。後藤氏のボーカルはもちろん、和嶋氏の奔放なギタープレイ、そして「魔女っ子メグちゃん」からの引用というコーラスが聴きどころです。会場からも♪シャンシャラララ〜

ここで1音半下げ曲に備えて楽器転換。和嶋氏、鈴木氏がそれぞれグレコ、ミラージュに持ち替えます。 この間に、前曲での熱演に対する声援「マスヒロさん、ステキ〜」を受けて、ゴクゴクと水分補給しながら小躍りで応えるマスヒロ氏。
MCでは、鈴木氏が次の曲「あしながぐも」の由来について、「一言で言って『たいしていいことはないな』という事」とコメント。蜘蛛と人生観を掛け合わせて作った曲、とも表現していました。

あしながぐも」は低音の効いたベース・ラインが印象的な、鈴木氏の作曲らしい骨太なイメージ。和嶋氏のギター・リフも独特のノリをよくサポートしています。堂々たる演奏で、トリオ・人間椅子の風格を感じました。
次も1音半下げで「心の火事」。古い曲ながらCDとの解釈の違いが新鮮です。全身でドラムセットを駆動するマスヒロ氏、ステージ後方に火焔を見た!

ここで和嶋氏が「予定に無いMCですが、是非言っておきたいので…」とMCを入れます。 当時「スズケン(鈴研)」と呼ばれていた鈴木氏と中学時代に知り合い、同じ高校に入った時に見たKISSの筆箱、生徒手帳の写真欄に貼ってあったオジー・オズボーンの写真、鈴木氏が発行していた新聞「アンドレ・ザ・ジャイアント・プレス」に掲載されていた今週のお勧めアルバム『ブラック・サバス Vol.4』…など、昔も今も全く変わることのない鈴木氏の嗜好・人間性に触れ、「そのスズケンに捧げる唄です」という前置きで「時間を止めた男」を演奏。
普段あまり演奏しない曲なので、個人的には聴けて嬉しい曲です。朗々とした和嶋氏のボーカルが印象的。しかしサビの部分でそのスズケンのコーラスが入らない…。「コーラスも止めた男」か?(笑)。 エンディングのソロ部分は、CDで聴くよりも長く、また丁寧な演奏と思いました。

次は日曜日のライヴには欠かせない楽曲「暗い日曜日」。東京のライヴは日曜日になることが多いので、演奏される確率は高いようです。 この曲も含め、和嶋氏ボーカルの曲では、鈴木氏のアクションが目立ちます。客席へ向けてベースを突き出す、ステージ中央で首を回転させる、ギター側へ歩み寄りアピール、など。観客もひときわ高く腕を上げ、激しく応酬しています。 ギターソロあたりでのステージ上のスモークを照らす赤いライトは、徒労に暮れた暗い日曜日の夕焼けを思わせる演出でした。

以上で重暗曲コーナーは終了、和嶋氏はバット2、そして鈴木氏は久々にリッケンバッカーを持ち出してきます。
MCは10年ぶりのTV出演と言われる「伝説音舗〜うれる堂〜」(「TVガイド」誌の番組表にも“人間椅子 ほか”と載ってました)の話題。40分収録したが実際に放映されたのは10分だった、司会の東野氏が投げる紙片を何枚取れるかでCMの放送回数が決まるコーナーがあるため、和嶋氏が楽屋で練習していると、TV局の人に「練習している人は初めてです」と言われた、などなどの裏話をひとしきり。

ここで唐突にステージ上の配役紹介。「うれる堂」では東野氏に「ヒーロー」と呼ばれてしまった小林芳雄少年=後藤氏。ライヴは一生着物で出る、と決めているため、二十面相のマントをイメージした着物にしてみました、と怪人二十面相=鈴木氏。着物の裾をヒラヒラさせて内側の赤いものを見せます。そして「志垣太郎ばりに決めるつもりが、謎のサラリーマンになってしまいました」と言う明智小五郎=和嶋氏。ヘアスタイルも固めようと思ったが、最近生え際が気になる和嶋氏は断念したとのこと。「次のライヴでは髪が増えているかもしれません」という和嶋氏に、「それじゃリッチー(・ブラックモア)だな」と苦笑する鈴木氏。

配役も明確になったところで、ようやくの「名探偵登場」。短い曲ながら メンバー全員でのコーラスと、それに続く和嶋氏の「なのだ〜!」が印象に残ります。
次は雰囲気を一転させ、重苦しく「あやかしの鼓」へ。このような旧曲では、鈴木氏のリッケンバッカーの黒いボディと、芯のある音質がよく似合います。
次もまたファースト・アルバムからの名曲「天国に結ぶ恋」。中間部のアルペジオ、鋭いフィードバック、和嶋氏の叫びに合わせて観客も一斉に雄叫びを上げ、ステージと観客席の一体感を感じさせます。
続いて天国から「地獄」へ。洒落た名探偵から土着、情念、地獄の闇へと駆り立てられます。観客も翻弄に身をまかせ、なされるがまま。

ここで最後の曲に合わせて、再び1音半下げへの楽器転換。 次回のライヴは、秋の旅行シーズンに合わせて「地獄巡りツアー」と題し、10月に東名阪でライヴを行う、と発表されます。ライヴ期日があやふやなインフォメーション係・和嶋氏は「次回の日程も忘れてしまうようなツアコンですが…」と恐縮していました。ちなみに東京は10月22日(日)新宿リキッドルームです。チケット発売は9月2日から。名古屋、大阪会場は発売中です。

最後の曲は「大団円」。3部構成の楽曲もさることながら、会場の壁面に映る巨大な鈴木氏の影の動きがシアトリカル。 最後のパートで、「♪ごきげんよう〜」と唄いかけながらも奈落へ叩き落とすかのようなリフに圧倒され、演奏は終わります。メンバー退場、暗転。

満場の拍手のあと、いつもより力強いアンコールの呼び声が高まります。
再登場すると、和嶋氏はバット2、鈴木氏はリッケンバッカーを手にします。後藤氏は黒ランニング姿。
「アンコールの最初はまったりと行かせてもらいます」という、和嶋氏の前置きで奏でる荒々しいギターリフは「九相図のスキャット」。もちろん観客も手拍子で歓迎します。アンコール曲としては新鮮な感じで良かったです。
2曲目はストレートに「針の山」。観客ももはや乗るしかない!といった態。和嶋氏は一段高くなったドラムセット台に登り、マスヒロ氏の隣でノリノリ。終盤の歯弾き中に、いまさらながら、バット2の裏に「人間椅子」のサインが書かれていることに気付きました。 再びメンバー退場。暗転の後、再び起こるアンコールの声。

2度目のアンコールでは、鈴木氏が学ラン、和嶋氏がTシャツに着替えて登場。ツアー中頃から採用された、鈴木氏の学ラン姿を拝めて満足です。
鈴木氏の「これからの皆様のご健康をお祈りし、三・三・七拍子〜!」という応援団風の掛け声から「地獄風景」を演奏。倒錯した感覚を運動会の狂騒に乗せて疾走、最後には和嶋氏の背中弾きも飛び出し、観客も大満足のうちに終演しました。

最後にメンバー紹介。「バスドラ王、後藤マスヒロ!」「メガネ王、和嶋慎治!」「 そして遊戯王、鈴木研一!」という締めくくりでした。

総評です。
良いライヴであったと思います。3人が高い水準でバランスしていましたが、特にこの日は、気合・手数足数・アレンジと後藤氏が絶好調だったと思います。
今日はオープニングから観客のノリがすごく良く、「怪人二十面相」「幸福のねじ」の冒頭2曲でライヴの流れが決まったように見えました。メンバーも手応えを感じたようで、予想以上に強力なパフォーマンスと能弁なMCが披露されました。演奏時は集中と熱気、MC時は和やかな空気と、ステージと客席の両方が展開していったライヴだったと思います。まさに大団円のツアー・ファイナルでした。
サウンド的には、最初の印象では少しこもり気味に感じました。ギターの音が聞きづらかったかな?という感じ。ただ、ライヴ後半で鈴木氏がリッケンバッカーに持ち替えてからはそれほど気にならなくなりました。耳が慣れたのかもしれませんが…。
選曲については、新譜からの曲が中心で、ライヴの「ヤマ」となるような曲(他会場での「ダンウィッチの怪」)がなく、平坦な印象がありましたが、曲構成で緩急をつけて全体としてみれば過不足ない、満足のいくものだったと思います。今までのツアーの集大成という感じ。前回(7/9)横浜のレポートでも書いたように、ライヴとしてもコンセプト的なまとまりをもたせたのでしょうか。
ところで、ツアーを通して見ると、新譜『怪人二十面相』の曲はすべて演奏されたようですね。私は「屋根裏のねぷた祭り」だけがライヴで未聴(除-イントロ)ですので、次回の秋のツアーではなんとかコンプリートしたいです!
それでは地獄でお会いする日まで、ご機嫌よう。

以上

【チケット】

チケット

【セットリスト】

SEQ. 曲名 使用楽器
ギター ベース
<オープニング ダ−ティーハリーのテーマ>
怪人二十面相 バット2 イーグル
幸福のねじ
賽の河原
<MC>
楽しい夏休み
蛮カラ一代記
<MC>
芋虫
亜麻色のスカーフ
<MC> グレコ ミラージュ
あしながぐも
心の火事
<MC>
10 時間を止めた男
11 暗い日曜日
<MC> バット2 リッケンバッカー
12 名探偵登場
13 あやかしの鼓
14 天国に結ぶ恋
15 地獄
<MC> グレコ ミラージュ
16 大団円
<アンコール1> バット2 リッケンバッカー
17 九相図のスキャット
18 針の山
<アンコール2>
19 地獄風景
<備考>
 アルバム『怪人二十面相』収録曲


情報・投稿・忠告・激励・罵倒メールは:ecag@st.rim.or.jp までよろしくお願いします。


「総合目次」にもどる |  「演奏会報告の目次」にもどる