タンクバン・パラフの山

昔々西ジャワに、ダヤン・スンビという女が住んでいた。一人で暮らしだった彼女は、夫か生涯の友人がほしいと思っていた。
ある日、彼女が織物をしていると、布が家から外に落ちてしまった。そこでダヤン・スンビは、「もし男が拾ったら私の夫にしてください。女が拾ったら、私の妹に」と、神に祈ったのである。布を拾ったのは、なんとオスの犬だった。ダヤン・スンビは犬と結婚し、それをトゥマンと名付けた。


やがてダヤン・スンビはトゥマンの息子を生み、サンクリアンと名付けたが、父親が誰かであるは、決して告げなかった。
成長したサンクリアンはある日トゥマンと森へ狩りに出かけたが、何も獲物を見つけることができなかった。サンクリアンはそれを犬のトゥマンのせいにして、トゥマンを殺してしまったのである。ダヤン・サンビはそれを聞くと、サンクリアンの頭を大きなスプーンで殴り、彼を追い出してしまった。

長い年月が経って、放浪の旅を続けていたサンクリアンは、森の中に美しい老女が住む家を見つけた。ご想像のとおりその老女こそ、すっかり年取ったダヤン・スンビである。彼女は、すぐにその男がサンクリアンだと気が付いたが、サンクリアンは母とは気づかず、ダヤン・スンビに結婚を迫ったのである。ダヤン・スンビは何とかそれから逃れようと、「ハネムーンのために、一晩で巨大な船をこしらえてください」という条件をつけた。
サンクリアンは夜になると、友である森の幽霊や精霊を呼び、船造りを手伝わせた。一方、ダヤン・スンビは船が完成してはまずいと、近くの森に住む女に助けを求め、その女は一晩じゅう麦をひいて騒音を立て、幽霊や精霊たちの仕事の邪魔をした。 朝になると、幽霊たちは仕事を終える前に消えてしまった。怒ったサンクリアンがボートを横倒しに蹴飛ばすと、その船は巨大な山となった。
それが、今私の住む街、バンドンの北にあるタンクバン・パラフ山である。


マリオ・ルスタン

動物との結婚
フツー犬と結婚するか? しかも子供まで生むなんて? と思いますが、人間の女性が動物の子供を生んだという例は、神話にはよく出てきます。例えば、牛と人間のあいだから生まれたとされるクレタの迷宮の怪物ミノタウロスがそうです。これには、動物と交わることで人間にはない力を手に入れる、という願望が表れていると言われています。


母親との結婚
父親(ここでは犬ですが)を殺し、母親と結婚しようとするというストーリーラインは、ギリシャの「オイディプス」に近いものがあります。両親を知らずに育ったオイディプスは、そうとは知らずに父を殺し、母親と結婚します。インドネシアでは何とか母親がそれを切り抜けますが、オイディプスはしっかり子供まで作ってしまいます。



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