マリン・クンダンの帰郷

昔々西スマトラの小さな村に、マリン・クンダンとその母親が暮らしていた。赤ん坊の頃に父をなくし、彼は母親と苦労して生活していかなければならなかった。
マリン・クンダンは元気で賢く強い子供で、海で魚を取っては母親に持っていったり、街で売ったりしていた。


ある日、いつものように漁をしていたとき、商人の船が海賊に襲われているのを見つけた。マリン・クンダンが海賊を退治すると、商人はたいへん喜び、一緒に旅をしてくれるよう頼んできた。マリン・クンダンは承知し、村を離れて海に出ることになった。

月日は流れ、マリン・クンダンは裕福な商人となり、巨大な船、たくさんの貨物、大勢の乗組員、そして美しい妻を持つようになった。旅の途中、彼がとある村に上陸したところ、村人たちは彼を見つけてこうささやき合った。「マリン・クンダンが大金持ちになって帰ってきた」。一人で寂しい生活を送っていた母親は、愛する息子の姿を見ようと、浜辺にかけつけた。

ところが、着飾った妻と大勢の部下たちに囲まれたマリン・クンダンは、年老いた貧しい母に会うことを拒んだのである。母親は3回繰り返しマリン・クンダンに会うことを乞い、3回繰り返し彼に呼びかけた。マリン・クンダンは、こついに母親にこう言った。「もう十分だ、老女よ。私はお前のような醜く汚い農民の母を持った覚えはない!」。そして、乗組員に出航するように命じた。

怒り狂った老女は、こう言って息子に呪いをかけた。「もし謝らなければ、お前は石に変わってしまうだろう」。しかし、マリン・クンダンは冷たく笑って海に出た。

すると、静かな洋上で、突然嵐が襲ってきた。船は難破し、マリン・クンダンは謝る間もなく船から投げ出され、小さな島の上に落ちた。そして、突然石に変わってしまったのである。


マリオ・ルスタン

息子の帰還
この話とちょうど逆なのが、有名なのが聖書の「放蕩息子」です。遊び歩いて無一文になって帰ってきた息子を、裕福な父親が無条件で迎え入れるのです。成功した息子が母親を拒絶するという話はあまり伝わっていませんが、あまりにも残酷なストーリーなので、人々に好まれなかったのでしょうか。


石に変わる人間
ギリシャ神話のゴルゴンが人を石に変えるように、人間が他の物に姿を変える話はたくさん伝わっています。中でも有名なのは聖書の「ロトの妻」でしょう。神に滅ぼされるソドムとゴモラの街から逃げるとき、「後ろを振り向いていけない」と言われたのに振り向いたため、塩の柱になってしまったのです。今でも死海の沿岸に「ロトの妻の塩の柱」とされるものがあります。



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