ビワルの竜退治

これは西ニューギニアのお話です。西ニューギニアはニューギニア島西部にあり、東側をパプアニューギニアに接しています。インドネシアの中でもポリネシアやミクロネシアに近い太平洋的な文化のあるところです。住んでいる人々も、パプアニューギニアの人々やオーストラリアのアボリジニに近いと言えます。



その日、ミミカ村の人々は、12隻のボートに乗って川の上流へ旅立ちました。主食のサゴを採りに行くためです。サゴはニューギニア島の人々にとって、アジアの米、西洋の小麦に匹敵する食べ物です。

3日後、船はサゴでいっぱいになり、彼らは村を目指して川を下り始めました。ところが、タマニピア地域まで来たとき、に襲われて人々はボートから投げ出され、一人の女性を残してみなおぼれてしまったのです。



生き残った女性は、妊娠していました。彼女は陸に上がって木の中に隠れ、木の実や根を食べながら生き延びました。竜がまた襲ってくるのではないかと、常に周囲の物音にビクビクしていなければなりませんでした。

やがて男の子が生まれ、彼女はその子を「ビワル」と名付けました。ビワルは母親から武器の作り方、ワナの仕掛け方、火のおこし方、また歌い方、ティファという太鼓の叩き方などを仕込まれました。

ビワルはハンサムで勇敢な、元気な青年に育ちました。弓矢に長けていて狩りがうまく、いつも家にたくさんの魚やシカ、豚などを持ち帰りました。

あるとき、母親はビワルがたくさんの魚を持ち帰ったのを見て、どこでそれを捕ってきたのか尋ねました。ビワルが川の上流からだと言うと、二度とそこへは行かないように話し、彼の父親とその友人たちが竜に殺された話をしたのです。

ビワルは父の仇をとろうと決心し、洞窟の入口でティファを叩きながら歌を歌い、竜をおびき出そうとしました。歌と太鼓の音を聞いてやってきた竜は、洞窟に頭を突っ込みました。ビワルがすばやくワナのロープを引くと、槍、短剣、矢、棍棒といったたくさんの武器が飛び出してきて、竜の頭を襲ったのです。竜は叫び声を上げ、身もだえしながら死んでいきました。

ビワルは家に帰り、母親に竜を退治したことを話しました。次の日、彼らは船に乗って、母の生まれ故郷に戻ったのです。ミミカ村の人々はたいそう喜んで、ビワルをミミカ村の一員として迎え入れました。


マリオ・ルスタン



サゴ
「サゴヤシ」から取れるでんぷん状のもの。サゴヤシについては、http://www.rhapisgardens.com/sagos/に説明があります。


竜といえば、中国の神話に出てくるような湖や川の主のような存在を思い浮かべますが、ここでは、西洋のヘビと同じく悪魔の化身のような存在だと思ったほうがいいようです。





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