アジ・ビダラ・プティ女王

ムアラ・カマン郡は、東ボルネオのマハカム川沿いにあります。そこはかつて、アジ・ビダラ・プティ女王の治める王国でした。彼女は美しく、賢く、繊細で、まさに伝説の女王と呼ぶにふさわしい存在でした。大勢の王や王子が彼女に求婚しましたが、女王は国を治め民を守ることに忙しく、それらをすべて断っていたのです。

あるとき、東ボルネオに中国の帆船がやってきました。人々は最初貿易船かと思ったのですが、その船には荷物と一緒に大勢の兵士が乗り込んでいました。

船の使者たちは金細工や陶器を携え、中国の王子が女王にプロポーズしていることを伝えました。女王はすぐに断ることはせず、申し出を検討すると答えました。そして使者たちが去ると部下を呼び、中国船に潜入して王子に関する情報を集めるよう命じたのです。

夜になると、その部下は帆船に忍び込み、警備をかいくぐって王子の部屋を見つけました。ドアが開いていてのぞき穴のようなものは見つからなかったので、男は中の音を聞こうと壁に耳を当てました。王子は夕食を取っているところだったのですが、その音が男をひどく驚かせました。まるでイノシシのようなひどい音だったのです。

男は即座に船を離れ、宮廷に戻りました。王子は怪物に違いない、昼間だけ人間の姿をしているのだという報告を聞くと、女王は大いに怒り、翌日、王子の申し出を断りました。

怒った王子>はムアラ・カマン国を襲うよう命じ、中国の大軍はムアラ・カマンの軍勢を破って宮殿に近づきました。すると女王はキンマの葉をかみ、それを掲げながら呪文を唱えたのです。中国軍に向かってそれを投げると、キンマは巨大なムカデに変身しました。中国軍は退却し始めましたが、3匹のムカデがそれを追い、帆船を沈めてしまったのです。

船が沈んだ場所は、現在「ダナウ・リパン」すなわち「ムカデの湖」として知られ、中国船の宝が底に沈んでいると言われています。



キンマの葉
東南アジア方面の植物。ビンロウの実をキンマの葉に包んでかむ習慣がある。一種のかみタバコ。 BACK


マリオ・ルスタン






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