夕張を救え!!


ー夕張に地方財政破綻の構造を見るー


人口一万三千の北海道の小さな市が630億円もの負債を抱えて揺れている。いったい何があったのか。夕張炭坑閉山 以降、ブランド商品となった「夕張メロン」や「夕張映画祭」といった取り組みにより、新しい地域再生のモデルとして脚光を浴びていたと思っていた矢先、本 年突如として財政危機が顕在化し、企業で言う倒産状態(財政再建団体)になってしまったものである。

これに対する国の支援状況は思いの外、厳しく冷酷な感じさえ受ける。おそらくその原因は、これまで自治体倒産という前例がなく、取り組みがどうしても後手 後手に回っているためであろう。しかしながら、現実の話、住民サービスは大幅に低下し、市立校の統廃合(小学校:7校→1校、中学校:4校→1校)やら市 民病院の縮小など、聞いただけで、法の下の平等を謳った日本国憲法の精神にも触れるような状況に追い込まれている。

そのため、このところ、夕張を離れる住民が後を絶たないという。まさに夕張は、閉山によって、過疎化が起こった以来の危機を迎えているのである。

夕張の地名は、アイヌ語の「ユーパロ」から来ている。鉱泉のわき出るところ、という意味にあたる。夕張は、1960年代、炭坑の町として、12万近い人口 を抱える賑やかな都市となった。しかし世界では、エネルギー革命が起こり、石炭から石油への主役の転換が行われた。その結果、炭坑は次々と閉山となり、 1990年三菱夕張炭坑を最後に炭坑の町の火は消えたのである。それからつるべ落としに人口は、10分の1ほどの規模にまで下がった。もはや「市」という よりは、規模で言えば、「町」か「「村」のレベルだ。

それでも地元に残った市民は、市の再生のために、様々な工夫をした。炭坑の跡地を「歴史村」として史跡公園化(テーマパーク)し、農業の適さない大地に は、イメージも沸かない「メロン栽培」に取り組み、これを「夕張メロン」としてブランド化に成功した。更には1991年に「ゆうばり国際冒険ファンタス ティック映画祭」を主催。これにより、閑散とした街のあちこちにポスターを貼り、国内ばかりか、国際的な評価を得るまでになったたのである。

そこに突然降ってわいたように、2006年夏、財政危機が叫ばれるようになったものである。それにしても632億円もの巨額の債務がのしかかる原因はなん だったのか。メロン栽培や、映画祭でそんな巨額の赤字が累積するはずもない。単純に、私はそこに国のハコモノ中心の地方政策の影を見る。夕張では、閉山以 降、「炭坑から観光へ」のスローガンの下に、テーマパークやスキー場が建設されたと聞く。いったいこのグランドデザインを書いた業者はどこか。
夕張市民は、前市長時代にこの計画を内容を承認していることになる。とすれば市民は今回の問題の責任の一端はもちろんある。何故、選 挙で誇大妄想な計画を阻止できなかったのか。

私はここに地方都市が疲弊する基本的な構造があると思う。地方の首長が、地域振興のために、中央のシンクタンクなどに頼み込んで、グランドデザインを練 り、中央からそこに金が下りる仕組みとなっている。ゼネコンや地方の建設会社は、巨額の利益を手にできるために、その計画を推進する首長を強力に選挙で バックアップする。

しかしそのグランドデザインそのものが、その地域の実情を机上でしか見ていないために、現実離れした誇大妄想的なものになる。それでも首長は、バラ色の夢 を語り、巨大赤字を生むと分かり切ったテーマパークだろうが、スパ・リゾートだろうが、強引に建設してしまう。しかし大体が、見積もり計算が現実離れして いるために、数年でハコモノは赤字を垂れ流す赤字マシンとなるのである。

夕張の資産内容を厳しく精査すれば、私が指摘したような地方都市疲弊の構造が明確に浮かび上がってくるはずだ。それにしてもお利口なはずの日本の官僚たち が、何故同じ過ちを繰り返すのであろうか。

夕張の悲劇は、日本中で起こっているのである。最後に、夕張市民のもっとも弱い高齢者、病気を抱える人々、子供たちなどに、直接的な被害が及んでいること に鑑み、早急に政府が主体となって策をこうずるべきだ。事は緊急を要するのである。しかも夕張はもうじき厳冬の時期を迎える。

「美しい国家の建設」を説く安部首相は、すぐに現場を視察し、トップダウンで、救済策を練り上げて、住民を安心させるべきだ。夕張の現状をみることは、地 方の疲弊の原因を探り、一転地域再生のモデルケースとなり得る。民主党の小沢さんも余りにも、この夕張に関しては冷たいのではないか。すぐに夕張入りし、 実 情を視察し、この問題を国会で議論し、与野党の別なく、日本の地方の活性化策の第一歩とすべきである。夕張市民を護れなくて、日本の政治を語るなかれ。
 
  
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2006.11.29  佐藤弘弥

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