トロンの時代・ケイタイの時代 

日本再生の活路が見えた


「トロンとマイクロソフトが提携」というニュースを聞いて、ある確信を持った。

それは大きな時代の潮流の変化ということだ。周知のように、60年代にコンピューター界の巨人となったIBMは、オフコンを主体として、独占的な企業に急 激に成長した。アメリカの資本主義システムは、その独占を許さなかった。その結果、パソコン市場という分野が生まれ、そこにビル・ゲーツなど多くの若者 が、新しい椅子取りゲームに参集した。

その結果、ハードでは、コンパックなどが生まれ、ソフトでは、ビル・ゲーツ率いるマイクロソフトが生まれた。特にビルゲーツの市場的野心は凄まじく、並み 居るライバルを徹底的に殲滅し、市場を文字通り独占する戦略をとった。

多くのライバルたちが、志半ばで葬られた。葬られないまでも、経営者たちは、早々とこの市場に見切りをつけて、別の分野に活路を求めた。

日本産のOSであるトロンは、開発者の板村健教授が、20年ほど前に人間工学などを取り入れた画期的なOSであった。しかもその利用は、その後に登場した 「リナックス」同様、無償であった。まさにマイクロソフトの独占的で閉鎖的な姿勢に対するアンチテーゼとして期待された。

ところが、その頃、すでにアメリカ資本主義の看板スターに成長していたマイクロソフトは、このトロンを当然のように目の敵とした。こうしてトロンを、新時 代の世界標準OSにしようとした坂村氏の壮大な夢は、日米貿易摩擦の犠牲となって、潰えるかにみえた。

しかしトロンは、どっこい生きていた。パソコン市場では、市場を奪えなかったものの、あらゆる家電製品や自動車、携帯電話などに使われるOSとして、こつ こつとその市場占有率を高めて行った。そして今やトロンなしでは、車も家電も動かないまでになった。皮肉な話だが、パソコンOSになり損ねたトロンが、別 の市場に活路を見いだすことによって、NO1のシェアを占める存在となった。

もう時代は、パソコンの時代からケイタイの時代に変わりつつある。歴史は繰り返すのだ。オフコンが進化して、パソコンになったのではなく、パソコン市場の 熾烈な技術革新と競争があって、パソコン市場がオフコン市場を呑み込んでしまった。その代表的なメーカーが、マイクロソフトであった。

それと同じように、もはやパソコンが進化して、ケイタイに組み込まれるのではない。ケイタイ自身が進化して、パソコン機能を包含するようになるはずだ。

ケイタイ技術は、日本国内メーカーの熾烈な技術革新と競争によって、とんでもないところにまで発展進化する可能性がある。現在は、電話機能にインターネッ ト機能、デジカメ機能まで付加されているが、近々にはラジオやテレビ機能までなども付加されるはずだ。そうなると、音声入力技術が確立された場合は、パソ コンの機能まで、持ってしまうことになる。ケイタイを、自宅で、パソコンに収納することで、入力する手もある。

自動車のキー機能や身分証機能(社員証、免許証、パスポートなど)や銀行の決済機能までも付加することなどを考えれば、まさに21世紀は、パソコンの時代 からケイタイの時代への潮流変化が起こることはほぼ間違いない。

大体、マイクロソフトのOSであるウィンドウズの立ち上がりの遅さと言ったらなんだ。日が暮れてしまうではないか。もうOSを気にするような時代ではない のだ。OSは黒子に徹し、スムーズに使用する機械が立ち上がればよい。トロンとの提携を決断したビルゲーツにもいよいよ終末の時は見えた。同時に、日本経 済再生の活路は、小型化技術の結晶としてのケイタイ市場の更なる活性化にこそある。そんな気がする。佐藤

 


2003.9.426
 

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