貴乃花引退に思う


2003年1月20日。二日連敗をした横綱貴乃花は、ついに30才という若さで、引退を決めた。結果の要求される相撲という戦いの場で、よくここまで精進努力してきたと、頭のさがる思いがする。

相撲という世界は、とかくケガの多き世界だ。将来を嘱望された多くの逸材が、ケガによって、若くして廃業引退を遂げてきた。貴乃花の場合も同じだ。彼は僅か30才で、年寄り「藤島」を襲名することが決まった。

相撲界のこれまでの、歴史からいって、横綱の引き際としては、潔いものではなかった。しかし私はだからどうしたと言いたい。かっこいいばかりが、もてはやされる時代にあって、貴乃花は、ボロボロになった自己の肉体を全国の相撲ファンの前に晒した。この姿をよく目に焼き付けることだ。誰しもこの時の貴乃花の気持が分かる時が来るはずだ。

自分の心で考えることとそれに肉体がついて行かないことの違和感を誰しも味わう時が来る。そうそれは老いということだ。相撲にはそれが早く来る。だからお相撲さんは、現役を引退した時から、「年寄り」と呼ばれるのである。

貴乃花は、千代の富士から受け継がれてきた相撲道の看板を、10年に渡って、結局たった一人で支えてきたのだ。その看板のために、あらぬ誤解を受けたりもした。兄の若乃花とも不仲の噂が囁かれている。それが横綱の重責というものだ。看板を背負った者だけが分かる強烈なプレッシャーと戦ってきた貴乃花は、今相撲の神さまからその身を解放されて一人の30才の若き男子に戻ったことになる。数々の感動を胸に秘めて、土俵を去る男に拍手をおくりたい。

 あちこちに故障抱ゑし貴乃花土俵去る朝に淡雪の降る

佐藤
 

 


2003.1.20
 

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