千葉すずにダビデを見る

 

日本水連の会長古橋廣之進(81歳)という老人がいる。その顔は、まさに浅野匠守(あさのたくみのかみ)をいじめる吉良上野介(きらこうずけのすけ)の顔も、きっとこのようだったと、思わせるほどの醜悪さに満ちている。少しでも自分の意に添わない態度の者は、容赦なく切り捨てる独裁者の顔そのものだ。

古橋は、80歳を越えても尚、水連トップという権力にしがみつき、昨秋世界第二位に当たる記録を出した千葉すずを、五月?の日本選手権での優勝タイムが、「平凡で世界では戦えない」として、代表には選ばなかった。

周囲はあっと驚いた。もちろん一番驚いたのは、青春の全てを泳ぐことに賭けてきたすず本人だったはずだ。自然発生的に国内には、すずを応援する組織が作られ、署名運動も展開された。悩んだ末に、すず側は、CAS(スポーツ仲裁裁判所、本部はスイスローザンヌにある)に仲裁裁定を依頼した。そして去る8月3日、九時間に及ぶ、CASの聴聞会が東京において開催され、裁定が下った。
 

選考に不平等に扱ったとは認められない。
           但し選考の基準が示されず曖昧だった

こうしてCASは、日本水連が千葉すずに対して、「1万スイスフラン(日本円で65万円)」の支払いを命じた。CASは基本的に一審性であり、この裁定がくつがえることはない。したがって双方これを受け入れ、「千葉すず問題」は、取りあえずの決着をみた。内容的には双方痛み分けという形だが、明らかにすずの惨敗であることに変わりはない。何しろ65万の微々たる金銭を受け取った所で、すずの夢だったオリンピック出場は叶わないのだ。

しかしその後、記者会見に応じたすずは、さっぱりした表情でこう言った。

言いたいことはすべて主張できた。CASのはんだんは公平だったと思う。結果を素直に受け止めたい。多くの人に応援されてここまでこれた。そのことに感謝している。水連にも、CASのテーブルに着いていただきありがたく思っている。これからのことはまだ分からない。落ち着いてゆっくり考えたい

一方同じく、記者会見に応じた古橋は、

我々は間違ったことはやっていない。公正慎重に討議し、自信をもっていた。」すずには、「水泳人として、ひとつの経験を生かして立派な社会人になってもらいたい」などと、あの憎々しい顔で言い放った。

すずと古橋、二人の好対照の表情が、全てを物語っていたと私は思う。どちらが勝者で敗者かは語らずともよい。

ただひとつ、この問題に興味を示した欧米各国のマスコミが、「巨人に立ち向かう小人の物語」(米国スポーツニューステレビ)と表したことは、面白い。まさにすずは、巨人ゴリアテに小石のツブテで立ち向かうダビデだったのだ・・・。

だから、私もどこまでも「すず贔屓」を貫くつもりだ。佐藤

 


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2000.8.4