【白雪の祈り】
流石に奥州の冬は美しい。ここ中尊寺の東物見から北を見れば、そこには絶景の冬景色が拡がっている、かに見える。しかしよく見れば、南北に平泉バイパスが
工事中であり、東西には衣川の堤防工事が続いていることがわかる。折から平泉はユネスコ世界遺産候補としてノミネートされている。地元ではユネスコ世界遺
産招致の大合唱が起こっているが、そこには世界遺産の精神というものが、住民の間に必ずしも共通認識として浸透しているとは思えない。
今や地方財政は火の車である。そのなかで世界遺産はあたかも地域活性化の救世主のように思われているフシがある。しかし世界遺産条約の発端は、人類共通の
遺産が、理不尽な開発によって台無しになることを防ぐという崇高な願いがあったのである。
とすれば、余りにも見苦しい景色を否応なく現出させ、結果としてあの芭蕉が、「兵どもが夢の跡」と詠んだこの美しき景観を無に帰すことになるバイパスや堤
防の形状そのものが問題にされなければならない。あのC・Wニコル氏は、「何故バイパスをトンネルにしないのですか?」と言われた。ひとつの考え方であろ
う。
あらゆる智慧を活用し、平泉に継承されてきた美しい景観というものを遺す努力をすべきだ。また春が来て雪が解けてしまえば、醜い工事車両が、けたたましい
音を立てて、眼前に拡がる平泉の原野を切り開いていくのである。
白雪よ、こ
のまま春の野辺に居て奥の原野を守り給まはむ