「人間の使命」について考える   

-本のタイトルからのインスピレーション-
  

本屋の店頭で、「フロイトの使命」(エリッヒ・フロム著 佐治守夫訳みすず書房2000年刊)という題にインスピレーションを受けて、何も考えず、この本を買った。著者はフロイト(1856-1939)の弟子のエーリッヒ・フロム(1900-1980)。彼は、フロイトと同じくユダヤ系のドイツ人心理学者である。ハイデルベルグ大学で教鞭を取っていたが、第二次大戦中、ナチスドイツに追われ、アメリカに亡命した人物である。「自由からの逃走」(1941)は、ナチズムの大衆心理を分析し社会心理学の古典と云われている。

さて、私がこの本を買った理由は、実に単純な理由からだ。私はこの本をフロイトという人物の使命発見の軌跡の書として読む。この本の内容は、フロイトという人物が、人間心理の奥に触れて、無意識というものの存在を発見し、その心という捉えがたいものに真摯な考察を加えて学問にまで高めたということを、論じている精神分析学誕生の概説書である。しかし私にとってはそんなことはどうでもよい。

私がこの本から得たものは、タイトルの「人間の使命」ということに尽きる。人は誰でも使命をもって生まれている。フロイトのような偉大な人物については、この使命という概念は実に分かり易い。フロイトは、心理学(あるいは精神分析学)の父と呼ばれたりするが、まさに「精神分析学を誕生させる使命」をもって生まれてきたような人物だ。

フロイトほど、一般の人間の使命は明確ではない。しかし誰も必ずやこの世に生まれた「使命」というものがある。

この本のタイトルが目に入った瞬間、何か心の中に漠然としたイメージが浮かんだ。「使命」ということだ。同じく、フロムと同じくフロイトの学恩を受けたユダヤ系デンマーク人の心理学者エリクソン(1902-1994)は、「アイデンティティ」という概念の発案者(?)であるが、宗教改革のマルチン・ルターの生涯を分析して、彼が自己の生涯の使命としての宗教改革に辿り着く精神の軌跡を分析した。またインド独立の父で、非暴力無抵抗運動の創始者、マハトマ・ガンジー(1869-1948)の生涯もまた分析した。私なりにエリクソンの有名な「アイデンティティ」(日本語で「自己同一性」と訳される)という言葉を解釈すれば、人間が「自己の使命」を自覚あるいは発見し、これと一体になるように努力することではないかと思うのである。

「人間の使命」の発見と自覚。「フロイトの使命」という本を夢をみるように漠然とした態度で読みながら、この「人間の一人一人の使命」というものをもう一度考えて見ようと思った。いったい私にとって、そしてあなたにとって、「使命」とはなんだろう・・・。
佐藤
 


2004.10.22

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