2004年夏
枝垂れ桜通信 4
 

平泉の柳の御所跡のしだれ桜にカンフル剤が打たれたことは何 を意味するのか?!

(これは8月18日に記したレポートです。勢変化と 落葉の原因が不明な時点でのその時点での緊急レポートですので、その点を考慮してお読みください。佐藤)


2004年8月13日、いつものように平泉の柳の御所跡に行く。そこには目を覆うような光景が広がっていた。あの柳の御所跡の枝垂れ桜が枯れか けているのだ。まだ秋風も吹かぬというのに、全ての青葉は抜け落ちて、すっかり樹勢を失ってしまっている。いったいこの事実は私たちに何を訴えかけている のだろうか。

2004年8月13日のしだれ桜
(2004年8月13日佐藤撮影)

誰知るや大河に行けぬ高館のしだれ桜の喉の乾きを


2004年7月4日のしだれ桜
僅か一ヶ月前にはこのように葉が茂っていた
(2004年7月4日佐藤撮影)
 
 

今や近寄ればしだれ桜は枯れかけている!!
(2004年8月13日佐藤撮影)

秋風も吹かぬ葉月の盆の頃しだれ桜の葉は何故落ちぬ




駆け寄って間近で見れば、木は水分を汲み上げる力を失っているように見えた。根の辺りは、乾燥しきっている。元々水たまりが出来ていた場所に あったが、折りからの日照り続きの天候も重なったためか、悲しいほどに元気がない。不思議なことに、周囲に在るはずの枯葉が見あたらない。風に吹き散らさ れてしまったのだろうか。

例年8月のお盆の頃と言えば、この辺りの景色は、夏草が生い茂っている中に桜が深い緑の青葉を湛えて秋風の到来を待っている時期である。

2003年8月24日のしだれ桜
(2003年8月24日佐藤撮影)

ちなみに、昨年の8月24日の景色はこのようであった

2002年8月22日のしだれ桜
(2002年8月22日佐藤撮影)

さらに遡って一昨年の8月22日の桜周辺の景色はこのようであった

変わりゆく景色まざまざ見て来たるしだれ桜の50年かな

樹皮にカンフル注射を打たれたしだれ桜
(2004年8月13日佐藤撮影)

物言わぬしだれ桜に耳当てて樹霊の叫び聞き取らんとす

ソバで樹木を見れば、根元から150cmばかりの幹の周囲に、妙な容器が7、8本無造作に突き刺してある。それは黄土色のビニール製のもので、 ラベルに大きく「メネデール」、その 下に「植物活力薬」、「樹幹注入液」と書いてある。とっさに察しがついた。おそらくこれは急激な樹勢の低下に驚いた工事関係者か、あるいは工事事務所か、 それとも平泉町の誰かが挿し込んだものであろう。
 
 

枝の先を見ればその多くが先が折れている。これはせん定によって伐ったものか、それとも自然に折れたものか。
(2004年8月13日佐藤撮影)





それにしても悲しい景色だ。この木は、工事事務所によって、昨年伐採される予定だった。それが周囲の人々の反対の声にあって、思い留まらざるを 得ず、そのままに残してあったものだ。

今年の5月15日と7月4日に撮影した桜の写真と8月13日のものを比較してみる。7月には周囲に水がたまっていたが、まだ樹勢は旺盛だった。 桜の葉も見事に残っていた。(但し、根の部分は、草が枯れ赤茶けた部分も少しある。)それがここ一ヶ月ちょっとで、これほど激変するのは、どう考えても不 自然だ。

根の部分の比較写真

2004年5月15日の根の周辺

2004年7月4日の根の周辺

2004年8月13日の根の周辺




8月13日の写真の根をよく見ると、周囲の草も、赤茶け枯れている。意図的ではなくとも、除草剤を周辺に散布したために、桜に影響を与えたとも 考えられる。よく見れば、根の周辺には、土を掘り起こしたような跡もある。周辺の土を採取して専門家が成分分析をすれば、急激な樹勢の変化の原因が判明す るかもしれない。
 
 

しだれ桜の根の周辺の拡大写真
(2004年8月13日佐藤撮影)

悲しくも男盛りの齢(よわひ)にて朽ち果てんとすかしだれ桜よ




以上のことを勘案すれば、急激な樹勢の変化は、7月4日からこの一ヶ月以内に起こったことはほぼ明白である。それにしても関係者は、桜を樹木医 に見せたのだろうか。もし樹木医であれば、根っこに養分を補給するはずである。ところが根の部分を見れば、敷き藁もなければ、たい肥のようなものもない。 木にとって一番必要なのは、何よりも水のはずだ。だが、木の周囲はカラカラに乾き切っている。土を手に取れば、土がパラパラと落ちるほどの乾燥状態だ。私 には、「メネデール」というカンフル剤を挿している姿は、「ここまで手を尽くした」という関係者たちのアリバイのようにしかどうしても思えなかった。

この目を覆うような環境破壊の現実を、地元の自然を守る会や環境団体などの心ある人たちは、どのように考えているのだろう。最後に平泉の町民の 皆さんに呼びかけたい。

私たちは、今こそ、柳の御所跡の「いっぽん桜」救う行動 を、直ちに取るべきではないでしょうか。
特にこのしだれ桜は、戦後に植えられたものであっても、柳の御 所跡という場所にあって、平泉文化の象徴的存在であります。したがってこの桜を保存することは、連綿と受け継がれて来た平泉の自然と文化そのものを未来に 継承することに通じる正しき行為であると思います。
バイパス工事を別に考えても、どこか然るべき場所に、移植する ということだって考慮に入れても良いのではないでしょうか。ましてや、平泉は、今、世界遺産になろうと、内外で運動を展開中です。
桜は命ある尊い存在です。
この名木が枯れて行く姿を、傍観者として、黙って見ているとし たら、
そのような桜の木一本の命も救えない自然環境に対する意識レベ ルで、
どうして「平泉」が世界遺産などになれるでしょうか。
多くの皆さまの善意の心に訴えたいと思います。

桜木の樹の一本も救ゑずになろうとするか世界遺産と


2004.8.18 Hsato

平泉景 観問題HP

こ の瀕死のしだれ桜に捧げる能台本「石神桜」