高館の龍は何処へ

ー甦れ夏草の景観ー

平泉の高館山から夏草に覆われた大河北上川遠望
(2004.7.4 佐藤撮影

青龍が水呑む如き姿して夏草の首大河に伸びる


源義経が平泉に住んでいた折り、その館は高館山にあったと云われる。高館山の頂きから観る奥州の景色は絶景だ。特に初夏、夏草に覆われた大河北上川が南に流れ下るさまは、芭蕉が「夏草や」と絶句して、しばらく言葉を失ったというが、それもなるほど、と頷けるものがある。

北上川から高館山に吹き上げる涼風は、何故か汐の匂いがする。この大河を海から鮭や鱸(すずき)や桜鱒(さくらます)が、魚鱗を光らせながら遡って行く姿がある。北上川は、周辺に住むものにとって豊かな恵みをもたらす海のような存在だ。奥羽山脈からしみ出してくる清水は、小川を作り、やがて集まって大河北上川を形成する。奥羽の原生林から零れた滋養をたっぷり含んだ母なる大河に棲息する鮎は「落ち鮎」となる時点で一尺(30数センチ)を越えるものもある。

しかし今、高館山直下の北上川は、未曾有の危機にある。眼を大きく開けて現実を見れば、「いったいこれは!!」と目を覆いたくなる光景が、そこにある。これが2004年7月の高館の現実の姿だ。実は巨大な道路が、壮観な景色を台なしにしてしまっているのだ。「平泉バイパス」である。問題の工事は、今柳の御所を掠め高館山の前を斜めに横切り衣川の向こうに伸びようとしている。

7月初旬の早朝、高館山に登ると、眼下に悲しい景色が広がり、崖っぷちに伸びた夏草に蜘蛛の糸が張っているのが見えた。出来るものならば、夏草よ。工事現場のすべてを覆い尽くして欲しい。蜘蛛の糸が涙の雫のような朝露に濡れて輝いていた。

夏草の衣を借りて高館の悲しき景色消ゆるものなら

 

 


2004.7.19

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