一様でないことの素晴らしさ

元イラク査察官スコット・リッター氏の発言にアメリカ民主主義の底力を見た


イラクで以前核査察を行ったスコット・リッター(41)という人物が、イラクに戦争を仕掛ける如き行為は許されないとして、日本にやってきた。彼によれば、現在国連が中心となって進めている核査察を徹底すれば、イラクの武装解除はできると指摘している。

この人物は、民主党員でもなければ、左翼でもない。れっきとした大統領選ではブッシュを支持した共和党員である。彼のキャリアを見ればもっと驚く。何とCIA(アメリカ中央情報局)職員として、旧ソ連の軍縮査察にも関わったこともがあり、湾岸戦争では海兵隊大尉として、湾岸戦争の真っ直中で戦った戦士である。

彼はインタビューの中で、毅然としてこう答えた。
「私は湾岸戦争に従事し、戦争がどんなものかを知っている。米国が攻撃を受ければ、私は祖国のために戦うだろう。平和主義者でもないし、反戦主義者でもない。しかし米国の民主主義を信じる市民として、私が体験によって知り得たことを語らねばならない。・・・大切なのは法に基づいて問題を解決することだ。・・・米国が国際法を破り、イラク攻撃を始めれば、北朝鮮も、『米国が狙っているのは政権転覆で、査察に協力しても無駄』となる。これは悪夢だ。米の単独行動主義で査察体制が崩れ、全世界が危険にさらされる」

アメリカの一部では、リッター氏がイラクに転向した人物との否定的な評価もある。しかし彼の正面を見据えた瞳の奥には、アメリカ社会の底力とも言うべき、強い正義感と何よりも、対立を怖れぬ民主主義の伝統があるように感じた。共和党支持者の中にも、リッター氏のような人物がいる。このことから我々日本人は何かを感じ何かを学ぶべきだ。彼はまだ41才である。もしかしたら10年後彼は共和党の大統領候補者に名を連ねているかもしれない。自分の信念に基づいて正論を主張する彼を見ながら、何故か爽やかな春風を感じた。戦争を避けることができるかもしれない・・・。

翻って日本社会を見渡した時、本当は言いたいことが山ほどあるのに、正面切ってモノを言えなくなっている政治家の何と多いことか。いや政治家だけではない。ほとんどの日本人が、孤立を怖れてか、己の信念に沈黙という蓋をして言葉にしないという情けない現状にある。一様でないことの素晴らしさをリッター氏の勇気ある行動から教えられた気がした。

佐藤
 

 


2003.2.6
 

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