野茂5ケ月振りの勝利


あの野茂英雄がまた地獄から這い上がってきた。
今シーズンの野茂は、昨秋、肘を手術したこともあってか、オープン戦から不調だった。4月、シーズンに入っても、力のない球を打たれ続け、三勝しか上げられず、6月30日には故障者リストに入って戦列を離れていた。

連敗が続いた、最後の頃は、痛々しくて見ていられないような投球だった。これまで何度も地獄から這い上がってきた野茂だが、今度ばかりは限界か、と思った。防御率も7点台後半で、かつての豪腕投手のイメージはなかった。ところが野茂の精神は、少しも萎えてはいなかった。いったいこのどん底から這い上がってくるエネルギーはどこから来るのか。普通の神経なら、大リーガーとしてのプライドもあるだろうから、引退していてもおかしくない状況だ。しかし野茂は、悪びれた顔ひとつ見せず、ただ黙々と自身の復活に賭けていたようだ。

8月中旬には、マイナーで登板し、9月1日には、2ヶ月振りに、実践登板を果たした。まずまずの投球はしたものの、3点を奪われ、11敗目を喫して敗戦投手となった。まったくもって、大リーグは厳しい世界だ。その日の僅かな救いは、球速が147キロと少し戻ってきたことだった。それに連れて、野茂の真骨頂である「奪三振」も増えていた。

どんなにフォークが落ちても、やはりスピードのある直球がなければ、野茂のフォークと言えども威力は半減する。その意味で、直球のスピードが戻ってきたことは、野茂に復活の兆しが出てきた証だった。

そして本日9月8日。野茂復活の日がやってきた。馬車馬のように黙々と前に進む野茂に勝利をプレゼントしたいというベンチの思いが伝わるようなゲームだった。その思いに応えるように野茂は6回を二点に押さえて交代した。球数90球、被安打5、奪三振6の力投だった。野茂にとって、4月21日以来、五ヶ月振りの勝利だった。ベテランの代打ベンチュラも満塁ホームランを放って野茂の復活に花を添えた。この勝利はただの一勝ではない。野茂という不屈の精神をもった男が、ベースボールの神さまからの贈られたご褒美の一勝と云ってよい。野茂からまた人生の何たるかを教わった気がする。努力はいつかは必ず報われるのだ。やはりベースボールは人生そのものだ・・・。 
 

 


2004.9.8

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