童話天狗と俄長者

*この童話を宮城県栗原郡一迫町の語り部、佐藤玲子さんに捧げます。*


むかし、むかしある村に、貧しい一家が住んでいだんだど。

それがある時から急に羽振りがが良くなって、お城のような家っこ建でで、家のまわりに白い塀めぐらしたものだから、近所の人だず、びっくりしてしまって、この俄長者(にわかちょうじゃ)のことをさまざま噂っこをしたんだど。

「きっと宝物でもめっけたんだべ」

「いや、あのおやじっこ、ずる賢いから、きっと金持ちでもだまして、詐欺でもしたんでないの」

「いや、あの家の娘めんこいがら、殿様にでも見初められだんでねのか」

「いやそんな訳ね。あの家の娘より、おらの家の娘の方がめんこいべ。そんなごどあるわげね」

色々な話が出てがさっぱり、本当の答えらしいものが出ないまま、俄長者の息子と同じ歳の子供が云ったんだど。

「あのね。きっとテングさんさ頼んだんだべも…。」

みんなはびっくりして、その子の方を見だんだど

「うん。ともちゃん言ってだんだ。倉がらおっかね顔したテングのメンコ出てきたんだど。そのテングのメンコの後ろさ、なんだかわがんね、言葉が書いてあって、それ声出して読んだっけ、テングさんが出できたんだど

「そすてなことあるわげね。天狗だら山さいるもんだべ。何であの家さいるってや」

「ほでねんだど、山から降りで来て、願い事をひとつだけ叶えでけるど、約束したんだどや。何をお願いするが、とうちゃんと、かあちゃん、今悩んでるって、ともちゃん語っていだも・・・

「ほんじゃ、金持ちにしてけろって、頼んだってどか?」

「うん、ほだべよ」

みんなはびっくりして、一団になって、俄長者の家に駆けつけました。そして門をドン・ドンドンど叩いで、

「おばんでがす。おばんでがす」と叫んだんだど

余りに大勢だったので、俄長者の旦那殿(だなどの)の弥助はびっくりして、

「みんなすて、なにしたのっしゃ?」と

門の前さ出で来たんだど

そしたら金の家紋の羽織を羽織って出てきた旦那殿弥助に向かって、みんなが口々に言たんだど。

「弥助いど、弥助いど、テングの面つもの、俺さも貸してけろ?」

弥助は、天狗様との約束で、

「絶対他人さは、洩らしては駄目だよ。もし他人さ、洩らした時には、叶った願いは、消えで、災難がやってくるがらね」と言われていだので、必死で弁解したんだど。

「テングだど…?。みんなすて、何言ってるんだべ。この家は、長い事貯めだお金で建てだので、テングに建でで貰った訳などねえよ」

「弥助いど、嘘ついでもだめだ。自分だけ幸せになるなんて、ずるいべ、だからみんなさ、
そのテングの面貸してけろ。一緒に、この村さ、作ってきた仲間だべ、俺だずよう」

そう云われで、弥助は困ってしまったんだど。やはりこれまで村で、貧乏ながらも生きてこれたのは、みんなのお陰だったし、大水の時も大火の時も、みんな隣近所の人の世話になって来たのだったど。

考えてみだっけ、自分だけ宝を独り占めしてしまったことに気付いて、

「ああ、何て欲たがりなごとしたんだべ、自分が貧しがったがら、自分の家のごどばり、お願いしてしまったのが、いげながったのだべ」ど、思ってこう云ったんだど。

「みんなどうも、少し俺も欲たがりだったがもしゃねなあ。少しも村のごどば、考えねえでしまったもや。申し訳ながったなあ。今からみんなさも天狗様がら貰った宝物を差し上げるがら、堪忍してけねが。俺も男どして、天狗様ど、誰さも語ね、という約束守れなくなっど、祟られるかっしょ。なあどうだべ…。」

しかし村のみんなは、まったく納得できないという顔で、弥助のごと睨んだんだど。

「それでは駄目だ。とにかく面っこ貸してみろ、終わったら、お前さ、間違いなぐ、返すかよう」

みんなの目は、もう貸さないと何をしでかすか分からない顔になっていだんだど。弥助はおっかなぐなって、

「天狗様堪忍してけろ。もう何もいらねから、みんな貰った物返すか、堪忍してけろ」と叫びました。

その声を聞いで、弥助の女房が、家の中がら、飛び出してみだっけ、自分の旦那が、天狗に囲まれているように見えでびっくりしたんだど。

「これ、天狗様、おら家の旦那何したってしゃ、ちゃんと約束守って、天狗様の云うように神社っこも家の後ろさ建てて、祀っているべっちゃ、何不足で、旦那をいじめるのっしゃ。おら分がらねでば…」

天狗たちは、ますます猛り狂って大声で吠えだんだど

「いいがら、面っこ貸せ、貸さねば、なじょになるが知らねど、いいがらこっちさ、よごせ!!」

弥助は女房の姿を見て、すぐったんだど

「さ、早く天狗の面っこ、持ってこい。くれでやれ、面っこ欲しがったら、くれでやれ

女房は、家の後ろさこしらえた天狗神社の奥さしまってあった天狗様のおっかね顔をした面っこを急いで持って来て、

「さあ、どうぞ、面っこば、返しますから、どうぞ、許してけらいん・・・

その面っこを持って、天狗の形相になった村人は、大騒ぎしながらどごさが行ってしまったんだど…。

二人は、ほどほど疲れで、そごさへなへなとしゃがんだんだど。
すばらぐして、女房弥助に云ったんだど。

「こんなごとなるなら、昔のままの方がよっぽど、いいね」

ほだなあ、こすてなものない方がよっぽど楽だ

弥助も、そう言って、金の羽織っこ脱ぎ捨てて、二人で家の後ろの天狗神社にお参りして、こんな風に祈ったんだど。

「天狗様、天狗様、俺だづ、金持ぢにすてけろって、頼みますたけど、前のまんまの方が俺だづに合ってました。貰ったもの全部お返ししますから、どうが家族が安泰で暮らせれば、何も望みません。分がってけらっせ

天狗のお堂から、何か聞こえでくるがど、思って夫婦は、じっと耳をこらしたんだど・・・。
でも、何にも聞こえでこながったど。きっとあの面っこど一緒に天狗様も、「どっかへいたんだべが・・・」二人はそう思ったんだど。

一晩明けて、次の朝、二人はまだ、同じごど、お願いすさ、神社さいったんだど。

「天狗様、天狗様、俺だづ、金持ぢにすてけろって、頼みますたけど、前のまんまの方が俺だづに合ってました。貰ったもの全部お返しします・・・

今度は、何が聞こえで来るがど、思ってじっと耳を凝らしたんだど・・・。

ゴドゴド、ゴドゴド、ゴドゴド、

お堂の中がら、確かにそんな音が聞こえで来たんだど、

「あんだ、開けでみで、誰がいるんじゃねえの、ねえあんだ」

弥助もおっかねもんだがら、

「分がってる。ちょっと待ってろ」

と、云いながら、振るえる手で、おそるおそるお堂を、ギィギィっと開げでみだんだど。

そしたっけ、あんな小さなお堂の中なのに、昨日天狗の面っこ持って行った村の人達が、ピョコン、ピョコンと飛び出して来たんだど。
30人ばがり、出て来て、最後の男の人が、手にあの面っこさ持っていて、静に語ったんだど。

「おっかながった。あんなこえ思いすたごどね。おごられだ。天狗様におごられだ。何がなんだが分からないうぢさ、白い雲に乗せられて、天狗様の里さ連れでいがれだ。天狗様が云ってだ。”なすて、弥助のごど、いじめだ。俺のごど、大事に祀ってけでけだ男さ、いじめだ。オメダヂ、ミンナ、クッテシマウゾ、カグゴハイイガ”そしておっきな口開げで、みんな喰われてしまったんだ。後はわがんね。真っ暗なって、気がづいだら、この場所にいだのだ・・・」

弥助が、云ったんだど。

「いや、よがった。ホントによがった。みんなこうして、無事でホントによがった」

女房も、ニコニコして、「みなさん、ご無事で、ホントにいがした。」と云ったど、

その笑顔は、まるで桜の花が咲いた見たいだったんので、みんなも嬉しくなって笑顔さなったんだど。そして村中みんなが手を取り合って、無事を喜んだんだど。

最後に出てきた男の人が、面っこを、頭をペコンと下げて、女房さ返したっけ、急に「アレー」って大声出したもんで、みんなびっくりして女房の方を見だんだど。そしたっけ、女房は「これ見でけろ」という風に天狗様の面っこ、上さ、かざしたんだど。

みんながそれを見で驚いたんだど。どうしてがって・・・あれほど怖い顔していた天狗の面っこが、ニコッとして、何とも云えない優しい顔になっていだがらだべなあ・・・。
 

それから、弥助の夫婦は、天狗様から貰った財産を村のみんなさ、分けてあげて、弥助の村は、村中が豊かになって長者ケ村と云われる村になったんだど。もちろんその村の真ん中の小高い森には「天狗神社」が祀られてあって、いづまでも村の守り神として大切にされでいるんだど。

佐藤

 


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2000.3.31