宇宙飛行士毛利さんの真意

「教授の言葉を信じるな」の意味


 

「宇宙から見ると、国境も境界線も見えません」

かつてそんな名セリフを語った宇宙飛行士の毛利衛(もうりまもる:52才)さんが、二度目の宇宙飛行を終えて、北海道に里帰りを果たした。

平成12年4月17日、母校の北大では、その栄誉を讃えて、名誉学位も授与された。その後の記念講演で、毛利さんは、後輩の新入生2200人を前にして、このような意味のことを語った。

宇宙を視野に入れた発想と生命全体を思いやる優しさを持ち、何事も自分で考え、自分で結論を出す位の気概を持って、勉学に励んで欲しい。教授の話すことを簡単に信じてはいけません

実に含蓄のある言葉である。

最近の日本は、「マニュアル社会」となって、何事も、自分で考えて結論を導く感性を持った若者が少なくなった。すぐに巷に氾濫しているマニュアル本を手にして、はじめから知っているようなフリをする若者ばかりが目立っている。ひどいのになると、デートの仕方から、店の順番まで懇切丁寧に、教えてあるマニュアル本まであるというから驚きだ。

もちろん宇宙飛行士にだって、有りとあらゆるトラブルを想定した「宇宙飛行のための膨大な「シュミレーションマニュアル」が存在する。NASAの宇宙飛行士達は、そのマニュアルを徹底的にたたき込まれる。しかしその上で、予期せぬトラブルでの解決法もまた勉強させられる。

それは例えば、映画「アポロ13号」のようにトラブルの場合の解決法だ。アポロ13号が、月面着陸を目指して飛び出して行ったが、まったく予期せぬトラブルが発生し、生きて還って来れるかどうかも危ぶまれる状態となった。その時、宇宙飛行士とNASAの地上の支援チームは、様々なことを瞬間瞬間において、工夫判断しながら、何とか、地上に戻ることができた。マスコミは「奇跡が起きた」という形容を使ったが、アポロ13号の乗組員の生還は、確かに奇跡そのものであった。マニュアルが、まったく機能しなくなった極限の状態で、乗組員も地上の支援チームも最高の仕事をして危機を乗り越えたのである。

別にアポロ13号以降ではないと思うが、NASAには、そんな訓練プログラムもあると言う。つまり状況に応じて、チーム全体が、協力し合いながら、トラブルを解決していくのである。この訓練の場合、まったくマニュアルは意味をなさず、過去の経験則では、解決が不可能なような条件が、その都度与えられる。生き残るためには、全員が自らの知恵を振り絞らなければならないのである。

おそらく毛利さんは、学生達に「人に頼らず、自分で考え、行動できる人間を目指せ」ということを云いたかったに違いない。マニュアルはあってもそれに頼っていては、独創的な研究はできないし、自分の人生のアイデンティティを見つけだすことも不可能だ。確かに毛利さんの云う通りである。

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さて次の日の新聞には、「教授の言葉を信じるな」という毛利さんの言葉の断片が「見だし」になり、それに対して「学生の間から失笑が漏れた」と、結んであった。マスコミも含めて、どれほど、毛利さんの真意を理解する者がいるか、いささか不安に駆られてしまった…。佐藤
 


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2000.4.18