松井の大リーグ挑戦に拍手を

−更に進化と飛躍を遂げる野球人松井秀喜−


大リーグヤンキースに移籍した松井の活躍振りが連日報道されている。松井について、門外漢の私など、別に話すことでもないが、数年間、イチローのことを聞かれた松井がこう答えていたのを思い出す。
「イチローさんは、完成された打者ですから・・・」。
この時、松井の心には、自分も、何年かしたら、打者として完成された打者になってやるぞ、という覚悟とか自覚のようなものがあったのだろう。

イチローという選手は、独特の感覚で、自分のスイングを客観視できる選手だ。その感覚は、ある投手に凡打に討ち取られて、一塁に駆け込む時に、突然湧いてきたのだと言う。まるで禅の悟りに近い感覚だが、簡単に言えば、自分が凡打で一塁へ向かう僅か数秒の中で、自分のミスのスイングと正しいスイングがイメージで浮かんだ。そして瞬時に修正する術(すべ)が分かるのだそうだ。それからは、スイングで迷うことはないとイチローは語る。まさに天才イチローの面目躍如だ。

松井にとっての幸運は、やはり野球界のスーパースター長島さんの庇護の下に伸び伸びと野球に打ち込めたことである。その長島さんの薫陶を受けながら、松井は、イチローのスピードに対して、松井らしい豪快なスイングを心懸けてここまできた。その結果、イチローが、日本球界から去った後は、名実ともに日本球界No1の打者として、野球界を牽引してきた。

松井のスイングの特徴は、体の中心の軸がブレずに駒のようにその場で回転するスイングの速さにある。もちろん日本のプロ野球界では飛距離も桁違いの松井だが、上には上がある。昨秋の日米野球で来日したバリー・ボンズの怖ろしいまでに完成されたスイングを見た時、自分が歯が立たないバッターが、大リーグにはいるということを自覚したはずだ。

その時、ボンズは、このように言った。
「松井は良いバッターだが、自分の力が解ったろう。まだ(自分とは)差がある。自分のスイングを磨いて、リラックスしてやれば、大成する素材だ」と。事実、松井は、日米野球の対戦では、やや大きく飛ばないと言われる大リーグのボールをホームランすることが出来なかった。一方ボンズは、松井に格の違いを見せ付けるようにピンポン球のようにスタンドにポンポンとボールを運んだ。これが松井に何かを決意させたのは事実だろう。松井にとっては、かっこうの刺激剤であった。

つい最近、松井は、インタビューに答えてこのような発言をした。
「大リーグでは、自分の今の力は、中距離ヒッターだ。だからむやみにホームランを狙うことはしない」

ヤンキースの強打者、ジオンビー一塁手も、松井に「とにかく、まず三割を狙いなさい。そうそればホームランも出てくるから」ということをアドバイスしている。こうして改めて松井のスイングを見てみると、明らかに変化していることが一目瞭然に分かる。日本にいる時には、弾道が高く滞空時間が長いホームランバッター特有の当たりを目指していたようであるが、今、大リーグに移った松井は、テークバックの短く取り、ボールの芯を鋭く強く叩くスイングを心懸けているように見える。その結果、打球は、弾丸ライナーになる確立が高くなった。2003年3月5日、現在オープン戦の打撃成績は、3試合で9打数5安打である。そのうち二本のホームランを放っているが、これはいずれも弾丸ライナーの打球であった。

松井に限らず、人間は、自分らしい人生を送ることが最高の幸福である。松井は今、野球という生涯を貫くものと出会い、己の存在の全てを賭けて、大リーグという未知の大海原で戦っているのだ。松井のこれまでの成功物語の影には、もって生まれた体格と野球の才能以上に、精神の強さと他人に対する気遣いということを挙げる人が多い。大リーグの代理人を務めるテレム氏という人物が、松井と会い、代理人になって、開口一番、このように語った。
「彼は素晴らしい青年、必ず大リーグでも成功する」
何とこの時、テレム氏は、感激して、涙を流していたというのである。俄には信じられない話だが、きっと松井は、自分が大リーグに行く、心情というものを、自分の代理人になる人物に切々と語ったのであろう。日本を経つ前に「命を賭ける積もりで頑張ります。」と松井は語ったそうだが、その気持が、アメリカ人の代理人にも伝わったのである。会う人をたちどころに味方に付けてしまう人格の良さが、松井にはある。ともかくアメリカに渡った松井の今後の活躍を楽しみながら見守りたいものだ。佐藤
 
 

 


2003.3.5
 

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