月と火星の六万年の恋


2003年9月10日夜11時頃

暗き夜に秋月恋ふる火星哉
月と火星の6万年ぶりの逢い引き
(2003年9月9日11時頃 撮影佐藤信行)

 ここに一枚の写真がある。撮影は日時は、 2003年9月9日夜11時頃。
あと二日で満月となる夜だった。
この夜、空は澄み渡り、月と火星の逢い引きがはっきりと見られた。
最接近は夜8時50分頃。この写真はその二時間後ということになる。
もう火星は、右端で小さくなっている。まるで逢い引きを終えた男女のようであった。
そして、月のもとを去ってゆく火星に、何やら男の哀愁のようなものが漂っていた・・・。

人は古来より、月に限りのないロマンをかき立てられてきた。若者は、熱き恋心を月の下で冷ました。
禅僧は、月を我が心に見立て、大悟の象徴とした。
数多の 芸術家は、月の光にこの世ならぬ永遠の美を観て、絵画や詩歌や小説や楽曲を創造した。


月は、人間の心を映す鏡である。
この刻々と変化する表面に、うさぎを見、エビを見、かぐや姫を想像した人々。
彼らの想像力の根元にあったものは、己の心の 奥そこからわき出るようなロマンそのものではなかったか。


月の真実の姿は、小さな小さな石ころだらけの無味乾燥な星である。そこには、地球のように命を育む山もなければ河もな い。
ただ無限に続く灰色の荒野であ る。


そんな月に限りのないロマンと美を観たり、己の心を磨く指針とし、また霊感を受ける人間の想像力の何と凄いことか。
月そのものよりも、月を愛でる人間の心 の有り様こそ、もっと賞賛されてよい。


2003年9月9日の美しい月をしみじみと見つめながら、私は月の先に人間の心の奥にある美意識を視た気がした。

心なくば月も火星もただの石銀河 宇宙の塵というべき
逢いかねて又逢いかねて別れ行く女と男、今宵の月星
暗き夜に熱き血潮をたぎらせて君は夜這ひぬ月姫のもと
人の世の純なる恋を映す夜か月に火 星の片思ひ見し


 
2003/9/12 Hsato

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