実家の愛猫マックについて

  

わが家の愛猫マックちゃん
実家にマックという猫がいる。もう10歳を越えたおばあちゃん猫である。この猫、なかなかの美人猫で、わが家に来る客人のソバに寄っては、甘えるでもなく、ツンツンするわけでもなく、近くに行って、大きな瞳で、ジロリと目線をやる。すると、「いい顔をした猫ちゃんですね」などとたちまちファンにさせられてしまうという誠に調子の良い猫である。どうやら、「美人が得」というのは、猫にも当てはまるらしい。

この度、九月一九日、平泉の柳の御所の桜を枯死から救うという趣旨をもって、その祈願祭を行った。祭りを終え、7時過ぎに実家に戻ると、大変な騒動が起きていた。わが家の愛猫マックが、突然、口からよだれを出して、家中上や下への大騒ぎになっていた。

「毒を食べたのではないか」と姉さんが言う。「ネズミを捕って食べて腹をこわしたのでは」と姪が言えば、一杯呑んで帰ってきた兄は、奥からマタタビ酒を出して、口の周辺にテッシュに湿らせたマタタビ酒を気付けとして与えていた。いつもは乱暴に扱うので、マックに嫌われている姪の子のカズも、「マックちゃん大丈夫?」などと、と心配そうにしている。これはどうしたと思っているうちに、「もうマックも歳だから、死んでしまうのではないの?」と姉さんが、泣きそうな声で言う始末だ。

しばらく様子をみたが、マタタビ酒も利かないようだ。そうこうしているうちに朝が来た。当のマックは、相変わらず、よだれを垂らして、具合を悪そうにしている。家中の廊下という廊下は、マックのよだれだらけになった。いったいどうしたものか。

20日は、お彼岸であるが、私も少し本気になってきた。平泉の一本の桜を枯れさせないように頑張っているのに、実家のマックを何もしないで死なせてしまったら、これは、「平泉の桜も良いが、自分の家の猫を大事にしたら・・・」などとよそから言われるかもしれない。田舎は狭い、たちまち噂は平泉まで広がって、「猫も救えない薄情者の佐藤」というレッテルが貼られるなんてこともある。

そこで私は、「死んだ者より、生きたものを救わねば、まずマックを犬猫病院に連れて行こう」と言った。方針が決まったら、やることは早い。すぐに、マックをバスタオルにくるみ、段ボウルの介護ベッドに入れて、近くの病院に運ぶことにした。着いたは良いが、あいにく、休日でやっていない。困った。姪が携帯で親戚に電話して、どこか「犬猫病院は?」と聞く。何件かあるという。携帯の104で、病院のNOを聞き出して、電話掛けると、「休みですけど、今すぐ来てくれるなら見ましょう」ということになって、何とか、その病院まで辿り着いた。

マックは、車に乗ることもないので、どこに連れて行かれると思ったのか、不安そうにしている。相変わらずよだれは、滝のように流れている。病院に入ると、「初めてですね?」と聞かれ、「はい」と答えると、カルテに名前を書くように促された。

兄の名を書き、「佐藤マック」と書き入れると、「マック」が確かに家族の一員であることの証明のようにも思われた。診察ベットに乗り、洗濯ネットのようなものを被せられるとマックは、観念したかのように大人しくなった。まな板の鯉ならぬ、診察台の猫だ、なと妙に納得する。でも、マックは不安そうに、こちらを覗いて助けを求めている。

先生は女医さんで、「では様々な病気が予想されますので、血を採って検査します」となった。
「普段は何を食べていますか?」と聞かれてたので、「猫マンマです」というと、今時「「キャットフードでないの?」と思われたのか、一瞬、女医さんは驚いたような顔をして、「猫マンマは、気をつけてくださいね。猫は人間の三分の一ほどの塩分で良いので、人間の食べたようなものを食べると塩分過多で、昔の猫ちゃんは、ほとんどそれで内臓を壊して死んでいるんです」と言われた。

なるほどな、と思った。マックは、足の毛を剃られて、小さな注射器で、血を抜かれている。ソバにいた看護婦さんが、マックを押さえながら、「はいマックちゃん、大丈夫ですよ。もうすぐですからね。」などと、まるで人間にするように接してくれている。何か妙に親しみが湧いた。しばらく、そこで見ていると、「家族の方は外でお待ち下さい」というので、マックを置いて、外に出ようとすると、マックは目で、「寂しいよ。どうなるの?」というように訴えている。私も目で「大丈夫」と良いながら、待合室で待つことにした。

しばらくして、「家族の方お入り下さい」というので、中に入ると、先生が言った。
「マックちゃんですが、エイズや白血病ではありません。口の中にも口内炎などもありません。これはインフルエンザですね。早い話が風邪です。お薬を処方しますので、それを呑ませてください」

そして、検査の結果を見せてくれた。早いものだ。犬猫の場合は、エイズもたちまち分かってしまうのだ。体中から力が抜けた。「風邪」まあ、お彼岸の日に家族中で大騒ぎをして、「マック」を病院に担ぎ込んだのだが、風邪とは、おそらく犬猫の場合は、汗の変わりに、よだれを垂らすのではないかと思った。

処方の薬と診察券を渡されると、そこには、「佐藤マックさん」と書かれてある。何故かおかしくなった。帰り道の車の中で、大いに笑った。家族から親戚までを巻き込んでの、マック騒動であるが、必死で病院まで担ぎ込んでの、結論が、「風邪」ということで、悲劇が一転喜劇となった。本当に良かった。後は笑うしかない・・・。余りに車中でみんなが大笑いをしたので、きっと後ろから見れば、車がユラユラと揺れて見えたに違いない。家に着くなり、騒動主のわがマックは、わが身が恥ずかしくなったのか、草原を駆けるチータのようにコスモスで満開の花園に飛び込んで見えなくなった。了 
佐藤
 


2004.10.8

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