石カルマパ少年の意地

 
 

世界の屋根と言われるヒマラヤ山脈を越えて、千八百キロの距離を歩き通した十四歳の少年がいる。その名はカギュ派最高指導者カルマパ十七世。カギュ派はチベット仏教の4大宗派の一つである。チベットでは、宗教指導者は代々転生をすると信じられており、カルマパ十七世は1992年、カルマパ十六世の転生者として様々な転生者選びの手順を踏んで、転生者として正式に認められた活仏(かつぶつ=いきぼとけ)である。このことについては中国政府も異を唱えなかった。

いかに信仰の力とはいえ、十四歳の少年が僅か三名の同伴のものと共に、中国に支配されている自国チベットを越えて、チベットの最高指導者ダライ・ラマが亡命しているインドのダラムサラに到着したことは驚異である。テレビのカルマパの顔は、確かにあの目つき態度、どれをとっても少年のものではない。さすがに転生者は違うと思わせる凄みにあふれていた。

チベット脱出の理由については、様々な憶測が飛んでいる。APの報道によれば、「カルマパ17世は昨年末、ラサ近郊の寺院を随行員3人と出発、厳冬期のヒマラヤを越えて5日、ダラムサラに到着した。カルマパ17世は中国政府に対し、「宗教的霊感」を得るためインドへの旅行を求めていたが許可されず、不満を募らせていた」、ということだそうだ。そのため今回のようなチベット脱出劇が敢行されたようだ。

中国政府はただちに調査を開始し、今回の協力者と見られる僧侶多数を逮捕して、強硬な取り調べをしている模様だ。

そして中国の朱鎔基首相は11日、このように言った。

「党の宗教政策を貫徹し、社会と政治の安定維持に努めなければならない」要するに、共産主義の宗教観に基づいて宗教管理の強化することを語っているのだ。何という時代錯誤だろう。変化は起こっている。時代が変わりつつあることを彼らは認めたくないのであろうか。

それに対して、ダラムサラのチベット亡命政府は、以下のようなコメントを出している。

「中国によるチベット仏教弾圧、人権侵害で事態は悪化している。」

「中国はここ数年、中国人のチベットへの入植を強化するとともに、宗教者の投獄などチベット人への人権侵害を激化させ、チベット人はマイノリティー化されるとの不安を募らせている。この結果、チベットからインドへの難民が増える事態を招いている」

アメリカ政府は米のルービン報道官は11日、中国の人権状況が悪化していることを指摘し、3月に開かれる国連人権委員会に対中非難決議を提出すると語った。

カルマパは、既にダライ・ラマにも謁見したようだ。思えばダライ・ラマ自身が、1959年3月のチベットを突然襲った中国軍の難を逃れて、ヒマラヤを越えて亡命政府を造った人物である。おそらくダライ・ラマは我が子のように、カルマパ少年を抱きしめたに違いない。平和に馴れきった欲ぼけ社会日本では考えられない事件だ。あなたはこの事件をどのように考えるだろう。私はカルマパ少年の中に人間精神の計り知れぬ力を見る。佐藤
 


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2000.1.13