イチロー四割打者への挑戦

  

世界で一番イチローに期待している人物は、イチロー 自身だろう。大リーグ経験5年目の今シーズン、イチローには昨年の262本の安打記録に続き、4割打者の期待がかけられている。達成すれば、1941年、 テッド・ウィリアムス(1918?2002)という名選手が406厘を達成して以来、64年振りの快挙となる。

四割を越える打率を残すことが、何故そんなに難しいの か。様々な分析がなされているが、やはり野球の質が変化していることが第一の原因だろう。当時は先発すれば完投するのが普通であったが、最近では投手の肩 をかばって、一定の球数を投げると、打たれなくても途中交代するのが、常識となった。更には9回になると押さえ専門の投手が登場して、9回一回を完璧に押 さえにかかる。

投手の分業化である。投手については多くの変化球も考 案されて、確かにバッティング技術も向上していることは確かだが、4割という数字は、いつしか夢の数字になってしまった。

天才と言われるイチローでも、4割の数字は、7年連続 して首位打者を獲得した日本でも、ただの一度も達成をしていない。しかし今年のイチローには、どこか4割打者となりそうな雰囲気が漂っている。

最近のイチローは劇的に変わったと言われる。そのきっ かけは、昨年の7月の大リーグ公式戦に遡るようだ。ある時、調子を崩していたイチローは、左バッターボックスに入ると、右足を少し後ろに引いてオープンス タンスにした。さらに通常イチローのスタンス巾は40cm余りだが、これをしぼって30cmにしてみた。すると不思議なことが起こった。それまで60度ば かりの角度で立ち気味だったバットが自然に寝て40度ほどになったというのである。バットについては、イチローはまったく意識していなかった。「オープン スタンスにしたら、バットが自然に寝た」とイチロー自身が告白している。

この構えになった時、イチローは投手が手を離してから 自分の前をボールが通過するまでに線で待てることに気がついた。イチローの表現を借りれば、「これは無敵だ」と思ったというのである。

これは天才打者イチローが、新たな壁あるいはトンネル を通過して別の次元にバッティング技術を高めた瞬間であった。それ以来、イチローは423厘という高打率を残し、6月末で315厘だった打率を最終的に打 率を372厘まで引き上げて断トツで2度目の首位打者に輝いたのである。また結局昨年のイチローは安打数を262本として、80数年ぶりにジョージ・シス ラー(1893?1973)の257本の大リーグ記録を更新し、名実共に大リーグ最高の安打製造器となったのである。

イチローの「無敵だと思った」という表現をかみ砕いて 考えれば、ボールの弾筋を線で捉えることによって、よりボールを近いところまで見極めて打てるようになったということかもしれない。時速150キロのス ピードをもつボールが、18mばかりの距離を唸りをあげてやってきて、手元で微妙な変化をするのである。ボールを最後まで見極めることができればできるほ ど、ボールをヒットにする確立は自ずと高まるのは当然である。

2005年のオープン戦でも、イチローは、昨年7月の 打撃開眼以来の好調は続き、オープン戦通算でも、430厘を越える高打率をキープしている。つまりイチローは昨年の7月から、この春まで、430厘の打率 を誇るまったく別次元の打者となっているのである。

そんなイチローは、2005年の公式戦開幕を前にし て、「また新たな壁が現れることを期待する」というようなコメントを出した。それはおそらく昨年の不調を克服した時の強烈な印象を思い出して、新たな壁を もうひとつほど潜らなければ、4割という夢の数字を達成することはできないと思っているのであろう。また「つねに4割を期待されるような打者でいたい」と いうようなことを言った。今シーズンのイチローからは目が離せない。(佐藤 )

 


20054.6

義経伝説ホームへ

義経エッセイINDEXへ