世間の眼は節穴

ジョン・レノン12歳の叫び


12歳のジョン・レノンが、イングランドの港町リバプールの小さな家でこう叫んだ。

何で世の中の人は、ここに天才がいることを気づかないのだろう

その頃、彼は絵が得意で色々な絵を描いていたそうだ。おそらくそこでジョンは、自分の書いた絵を色々な人に見せて、自分の芸術的な才能を認めて貰おうとしていたのだろう。ジョンは、自分の才能に対する絶対的な、自信を持っていたのである。しかし誰も彼の絵の才能など見向きもしなかった。
ジョンの家族は、既に崩壊していた。父親は飲んだくれで、どこかの町へ行ったのか行方知れず。一方の母親は、どこかの男と駆け落ち。仕方なくジョンは、「ミミ」というおばさんに育てられることになった。だからジョンなど、注目されるはずもなかったのである。

当然の如くジョンは、非行に走り、手の付けられない不良少年となっていった。当時流行っていたリーゼントで髪をなでつけて、ロックンロールの世界に没頭する日が続いた。数々の苦労をへて、ジョンは、ポール・マッカートニーらと「シルバービートルズ」を結成する。数年の苦労の後、彼らは世界的な名声を博するあの「ビートルズ」となって大化けした。

やがて世界は、ジョンの驚くべき才能に気がついた。するとジョンのまわりを取り巻く空気が一変した。次々と発表されるビートルズの新曲は、ミリオンセラーを連発し、20世紀を代表する音楽家、あるいはモーツァルトやベートーベンにも匹敵する音楽的才能とまでその評価は鰻登りとなった。

世間の評価は、まさにジョン・レノンというロックンローラーが、ビートルズという看板を背負った瞬間に決まった。ビートルズの名声は、世間に対する一種の魔法として作用した。こうなると、ビートルズの作るもののすべてが価値のあるもの、素晴らしいものということになってしまう。世間の評価とは元々そうしたある看板によって魔法を掛けられてしまうような怖い所がある。

かつて千利休が、見立てた茶器や茶碗が、一国をも買えるような法外な値付けをしたことがある。しかしそれでも時の大名たちはこぞってその利休好みの茶器や茶碗を競って購入していったのである。おそらく利休は、腹の中で、世間の人間の節穴振りをあざ笑っていたに違いない。

世の中の価値とは、およそそんなもので、今やジョン・レノンの走り書きのような絵が、法外な値段で取引されている。これもビートルズのジョン・レノンという看板の魔法があってのことだ。もしも今ジョンの12歳当時の絵がサザビーズかどこかのオークションにでも出展されたなら、それこそ怖ろしい値段がつくであろう。でもそれは不思議なことではない。何故ならその絵の描いた主が「あの偉大なビートルズの天才ジョン・レノン」だからである。

天国でジョンは、きっとこのように云って不思議がっているに違いない。

何て世間の人の眼は節穴なのだろう?!」佐藤

 


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2000.5.23