母への百の哀歌 -わが母佐藤タメ子の御霊に捧げる-
- ふるさとの栗駒山の残雪の消ゑゆくよふに母逝き給ふ
- 垂乳根の母逝き給ふ降りしきる雨の命日七月八日
- 数ゑ歳八十七の母ついに夏を越せずに旅立つあした
- 不意打ちの母の訃報に愕然としかし覚悟の吾でもありし
- 百までも生きて欲しいと思えども母の肉体それを許さじ
- 子の欲目米寿を過ぎて百までも生きて欲しいの願い届かず
- これまでの母になしたる数々の無礼悪態お許しなされ
- いたずらをすれば許さぬ若き母吾を野を越えどこまでも追ふ
- とうとうとこの日が来たと言うべきか骸(むくろ)となりても母は尊し
- 母の死を受けとめかねつ白きものそっと払えば大好きな母
- 安らけき母の寝顔に近づきて「お疲れさん」とそっと告げたり
- 息子とし佐藤タメ子の生涯を誇りに思ふ誰何云ふと
- 母よ母、母なる人はただひとり佐藤タメ子でなくてはならぬ
- 口惜しき思ひは数多あるはずに笑顔絶やさぬ母の生き方
- 通夜の夜、眠ってしまう吾がことを母よ叱れよ夢に出できて
- 死に給ゐ骸となりて物言わぬ母の死に顔、色変わりゆく
- 塵ひとつ残さず逝った母のこと美しと思ふやはり美し
- 若かりし母に抱かれし我写るセピアの写真枕辺に在り
- 祭壇の下にて眠る我が母は金糸の布団に抱かれをれり
- 雨の頃、母逝き給ふなり雨の朝先立つ父の影追ふように
- 雑魚寝して母を送ると線香を絶やさず付ける誰かれとなく
- 洪水のおそれもありそな勢いで雨降り続く母死に給ふ夜
- 母逝きて朝日に映える雨粒の匂いやさしき夏の朝かな
- 今頃は旅立ち逝ける母上は懐かし人と会ひし頃かも
- ジージーと蝉鳴く里の桑畑に母の小さき骸は眠る
- 死出の旅に立つ母有りて白木なる棺運ばれし冷夏の朝に
- 母上よあなたの命は受け継がれ永久にし生きむ人在る限り
- 健在の兄弟姉妹集ひ来て母の旅立ち見送らむとす
- 棺に入る母の姿をじっと見て涙流しし叔母痛々し
- 最後まで母を悩ます浮腫(むくみ)消へ白き御美足霞みて見ゑぬ
- 歌記す色紙を母の胸元に手向けて涙をはなむけとせむ
- 我詠める歌を抱きて旅立てる母を悲しと言いたくはなき
- 紫の衣はいやと云ひしした母の気持ちの分かる気のする
- 生きる者、旅立てる人、様々に思ひはあれど言わぬも華よ
- 通夜の夜の時の長さは格別で小一時間が無限に長き
- 読経する和尚の声の海に酔ふ我を許せよ通夜の夜の母
- 母の往く文月八日は夏と云へ雨降りしきる涼しき朝(あした)
- 母逝きし文月八日は夏といゑ雨降りしきる沼倉の里
- 母送るために集ひし里人の涙に母の人柄を知る
- 二日目も雨降り止まぬ朝にして空暗くして山河おぼろなり
- 円年寺和尚の示す白木には母の法名書かれて在りき
- 「光る蓮」思ひ浮かびてこの戒名和尚付けしとなむありがたき
- 慈福院光室誠蓮大姉なる法名受くる母吾が誇り
- 塵ひとつ残さず逝った母タメ子慈福院なる法名受くる
- 在りし日は佐藤タメ子で法名はいらぬと云ひし母「慈福院」
- 「慈福院タメ子」と読めば笑みの漏る在りし映画の原作の様
- 仏壇の慈母観音の手の先の「慈福院光室誠蓮大姉」の位牌は光る
- 蓮咲かぬ花七月の八日朝己が育てし百合を見ずして母は逝くとふ
- 蓮を見ず母逝き給ふ雨の朝先立つ父の影追うように
- 母逝きて朝日に映える露草の匂い優しき雨の朝かな
- 今晩は旅立ち往ける母上を見送らむとて眠らむとする
- 入棺を終えて翌朝ゴーゴーと雨激しけり出棺の朝
- 入棺を終えし翌朝雨音の強きに目覚め線香上げる
- 母植えし裏庭にある白百合を手向けむとして叔母雨にたつ
- 豪雨にて散ってしまった裏の百合母を追ひしか叔母唖然とす
- 血潮より紅き色した百合の花、そっと咲くなり母逝きし日に
- 出棺を迎える朝は一段と雨強くなって天の底抜く
- 出棺の朝は激しき雨ふりて天の水瓶壊れる如し
- 葬送の音はなけれど吾が中でショパンの雨だれ鳴り響きたり
- 葬送の曲はなけれど母恋へばショパンの「雨だれ」わが胸で鳴る
- 母死すの実感もなく三日目の激しき雨は誰の涙か
- 生涯を桑畑前の佐藤家に捧げし母の号泣か豪雨(あめ)
- この雨は八十有余の生涯をこの屋に捧ぐ母への鎮め
- 無理もなしこの屋を去る日母の思ひこの雨に観る
- 母の死に有り難きかな里人に親類縁者母送らむとす
- 葬儀屋に任せる葬儀にうんざりとしていた矢先今回のこと
- 出棺の朝は一段降る雨の止まずに母の涙と思ふ
- ぞくぞくと集まる人ら喪服来て一期の別れ母とせむとて
- 正月に我が家に出し虹の橋今にしみれば母の往く橋
- 一段と強まる雨を眺めつつ親類縁者空ふり仰ぐ
- この雨に母の思いの強さ観る去りがたきかな冷たき骸も
- 雨眺めしばしの無言誰一人ものを語らず出棺の朝
- とにかくは明るく見送るつもりして涙なんぞは出さぬと思ふ
- 父の時は風強くして母の時豪雨で在れば霊家去りがたし
- 献花さる花に囲まれ我が母は棺の小窓よりこちらを見つむ
- 雨よ降れ母の意思ならそれもよし母の涙の涸れるまでもぞ
- 悲しみを知らぬひ孫のカズマ居てこれは確かに救いとすべし
- いよいよに棺に蓋する時が来て釘打つ音の厳しさ悲しさ
- もう二度とこの世に出でてタメ子なる名を使ふことなし母旅立てる
- 吾が歌のひとつひとつに我が母は永久にし生きる歌の間に間に
- この母に捧げる歌の花園を母は踏み分け天国に着く
- 冷え冷えとそぼ降る雨よ我が母の心を癒しどこまでも降れ
- 生きる者残されし者我が心推して知るべしこの雨音に
- 若木のカーブを曲がり三迫渡って行けば母の声聴ゆ
- 閉ざされし箱の中にてかあちゃんは花の衣でどこへゆくらむ
- 閉ざされし箱の中にて汝らの思いの深きに感謝をぞする
- 最後まで見送りたりし人人へ、ただ「ありがとう」の言葉しかなく
- 降り濯ぐ雨降り注ぐ道々を無言で走る霊柩車かな
- ただ思い念ずるままに弔ひの歌を詠へば雨強まりし
- この道を母と歩いた思い出を偲びて今日は出棺の道
- 佐藤家の一族泣けば吾もまた辛くはなるが泣かんとぞする
- 夢に観む母は何処に旅立てるバルド・トドル(死者の書)は必要なきや
- 我が歌の色紙を母の胸に置き去りゆく母を送らむとする
- 母送るこの日の雨を忘るまい、早霊柩車築館に入る
- 青々と苗育ちゆく田園を抜けて母焼く火葬場に近し
- 青々と苗育ちゆく田園を抜けて母焼く火葬場に着く
- 人生は瞬くものよ生まれいて俗名タメ子火の中に入る
- 人生は悲しみばかり多くして母の笑顔を思ふ火葬場
- 弟の弘行叔父さん(オンツァン)腰こ曲げそれでもしかと姉見送りぬ
- 我が母は苦労の苦の字も語らずに娑婆の世界を離れ給ひぬ
- 思いつくままに詠みたりわき出る己が言ノ葉ただ身をゆだね
- 思いつくままに詠みたりわき上がる母への熱き感謝を汲んで
- 海と山どちらが好きと云えば母必ず云ひし山がいいなと
- 市野々の里に生まれて十八で嫁ぎて佐藤タメ子となりぬ
- 呉子叔母市野々小学校校歌口ずさみ姉タメ子送る
- 焼かれいる母のイメージ浮かべつつ缶コーヒーをごくりとぞやる
- 生前に母が云ひしと兄の弁「やんだなおらは火にやがれるの」
- 「かあちゃんや」兄は答える「大丈夫、心配すんな痛くねがら」と
- 火葬場の入り口に入る母の棺見送りければ雨音の消ゆ
- 火葬場の硬きドア閉む瞬間にふっと抜けたり張りつめたもの
- 煙出ぬ火葬場なれば外に出て煙に祈ることも出来まじ
- 待合いに火葬の終り待つ人のざわめき聞ゆ念仏のごとく
- 目の前で母の白ほね見るまでは信じたくなきこれは夢かと
- どんなにか辛かったろふ不調なる心臓抱きて母の晩年
- 生きるとは生老病死の苦を抱えそれでも凛と母の人生
- 愚痴云はぬ母の静かな生涯を思いつつ待つ母の白ほね
- もうじきに収骨室のドア開き母の白骨現れむとす
- どうしても業火に焼かるるわが母の姿浮かびて脳裏を去らず
- 死ぬといふ人生最後の試練坂見事に越へて母の白ほね
- それぞれに人それぞれに火葬場の佐藤タメ子の骨待つ人人
- 収骨を終えて胸抱く母の骨結構重いと一歩踏み出す
- 焼き終えて生暖かき骨つぼに母のぬくもりひしひし感ず
- 骨となり壺に収まるわが母の生暖かき骨強く抱きしむ
- さめざめと泣くなど女々し胸中に強く思ひて母の骨抱く
- 意外にも終はりてみればわが中にどこかほっとす気もなくはなし
- 築館の国道四号骨の母抱きて共に雨中を走る
- 時見れば七月十日四時六分骨なる母は今家路就く
- 築館の大川越えて道なりに骨の母乗せ無言バスゆく
- 心地良き母のぬくもり感じつつ歌詠みノオトの下に母在り
- 母抱くこのぬくもりは命ある限り忘れむ栗駒町入る
- 我の背にひ孫のかずま騒ぎ居て少し救いの車中なるかな
- 歌百首母に捧げむ心決めノオトに記せば丁度百首なる
- この道を母と越えゆく光栄を雨は知るなり岩ヶ崎入る
- 日本一美味き米採る栗駒の田んぼにふっと母の笑顔浮く
- 岩高の坂を下れば栗駒は雨に霞みて霧立ちこめる(ただおぼろなり)
- 霞みけるわが家の辺り見渡せば母のぬくもり背中に至る
- 位牌持つ兄の晃弥はうとうと少し疲れの出し頃かも
- 三条の小畑商店じき越へて判官森に母と敬礼
- バスはゆく判官森を右に見て佐藤家菩提寺円年寺越ゑ
- 骸なき御霊となってわが母は自由に山河を飛行したるや
- 後悔のなき人生を送れよと遺影の母がしゃべる気のする
- 暖かき母の骨つぼかき抱くそんな孝行弘弥でなくに
- どしゃぶりの雨も上がるや夜半時かわず鳴くなり静寂戻る
- 大川の濁流激しく波打てる音が遠くに聞こえる夜半
- 母死して四日目にして「かあちゃんありがど」と言える本音かな
- 母死して四日目の夜の暗がりに蛍飛び立つふたつみつよつ
- 火葬の夜、母は蛍に身を代えて野辺を声なく飛び巡りたり
- 蛍火の小さき光に導かれ天に召されてゆくのか母は
- 蛍火は光まばらに母死せるわが家のいぐね飛び回りたり
- 青春の華やぐ時を戦にて苦労ばかりの昭和の母は
- いくさ日の細かきことは何一つ語らず逝った母の思ゐは
- 吾聞けば「たいへんだった」とのみ云ふ母の心に大戦の傷
- まがままな息子であれば弱き身を引きずるように生きし母かも
- 親不孝許され給へ遺影にぞ頭下げれば母微笑みぬ
- 四日目の朝は晴れまでいかねども薄日さしたり雨は上がりて
- 今頃は何処に在りて健やかに晴れて自由を母満喫す
- 桜さん、独りになりましたねと、云えば、はらり桜の葉落つ
- 薄日射す桜の根もとに佇めば蟻に青虫、母の命継ぐ
- 薄日射す桜を見上げしみじみと母のことなど思ひこそすれ
- ふるさとの山河に生きる限りなき命は数多母は死すとも
- 枕辺をみれば兄弟思い出の品を揃えて母逝き給ふ
- 何もなく何も遺さず散る花の見事さに似て母の生涯
- 種まきの桜にかかる村山の献花に自然と頭の下がる
- 緑なす桑畑前の佐藤家に雨は上がりて朝日射したり
- 今にして思ゑば新春桑畑にかかる虹橋母の逝く橋
- 疲れれば声高になる無理もなし心静かに仏に習ふ
- 納骨を終ゑて寂しき日曜日そそくさ帰る忠弥弘弥と
- かあちゃん、かあちゃん、俺のかあちゃん、かあちゃん、なして雨の日逝った
- 年老いて小さくなった母なれど眠ってみれば無限に大きし
- 母送るために集ひし里人の涙に母の大きさを知る
- 花たちはひしめき合ってわが母をいとしむように並んでをれり
- 古き良き日本はここにふる里の母の葬儀につくづく思ふ
- 深緑の行者の滝はごふごふと昨夜の雨を集めて早し
- 水神のミヅハの神は青龍の如く荒ぶり滝昇りゆく
- 蜂たちの巣に戻らぬを悲しめる在りし日のビデオとても母らし
- 父光弥の三十三の喪も済ませ母他界せるかな気丈な母は
- 晩年の母のノオトをパラパラとめくれば悲し字乱れいて
- 雨の降る朝(あした)に死にし母のこと何故か偲ばれ雨降る度に
- 生前に五月に起きた大地震、母は語りし「オッカナガッタ・・・」と
- 忘られぬ夏となりしかこの年は母失ひし二〇〇三夏
- どしゃぶりの雨に死にとふ母のよふに凛とおはすな勿忘草は
- 命とは永久なるものでけしてなく母タメ子なきふるさとに立つ
- 母も師も共に逝きとふ現実を胸に刻んでふるさとを発つ
- 母も師も共に亡くせし七月を別れの月と名付けたくなる
- 云ふならば2003年7月は別れの月かふるさとの山
- 母居なき薄日射したる故郷の野辺の彼方に栗駒山見ゆ
- 父死すの報に接しし若き頃思い出すなり母の通夜の夜
- 良いことか悪いことかは分からねど母死す今は怖いものなき
- 気丈なる母のタメ子も他界してこの世に我を叱る人なき
- 一段と雨強まりぬ通夜の夜は屋根裂けるごとくに雨降りぬ
- ふるさとの母を送りしこの年を冷夏の度に思い出すかな
- 母死して一ヶ月目の朝方に夢にゐで来て母微笑みぬ
- 母死してまだ一ヶ月それなのに遠き昔の出来事のよふ
- 暮れかけて暮れぬ夏の日眺めつつ西方浄土の母思い遣る
- 戦争の辛き思い出子に告げず何故逝き給ふ母の心は
- 在りし日の母を抱きし一コマを額に入れたき照れ臭さけれど
- 良き顔で微笑みかける母と我この一コマに癒されしかな
- よく見れば悲しき悲しき微笑みを浮かべし母の老いの一コマ
- 笑いにも悲しき笑いというものもあるものなりや母の晩年
- 心臓に爆弾抱ゑし母なれど息子の吾には何も伝へず
- 心臓に爆弾抱ゑ老いの身を引きずるよふに母の晩年
- これからは7月8日の来る度に母を偲ばむ生ある限り
- 思い出や雷鳴れば蚊帳に入りヘソを隠して母見つめたり
- 盆来れば母に手向けむふるさとの野辺を探して山百合の花
- 初盆と云ふには早き母死してまだ一ヶ月盆棚拵(こさ)へる
- 盆棚に父は坐(ましま)す母はまだ霊前壇に笑顔でお座(わ)す
- 盆来れば母が毎年作りした盆棚作る役目誰する
- 送り火を焚くも何やらうら寂し母亡き里の盆の夕闇
- 「孤雲」なる千葉徹夫翁の歌の華、吟唱せしかな母の霊前
- 母悼む千葉徹夫翁の漢詩吟「温容」の字に母偲びたり
- 表具して母の霊前供えたる翁の漢詩を合掌しつ読む
- 山背吹くふる郷栗駒母のなき縁側で聞くしひぐらしの声
- 夢でしか二度とは会えぬ母なれば心に空いた空虚埋め得ぬ
- いつの日か母の逝去のこの年を「冷夏だった」と思い出すのか
- 母在れば終戦黙祷サイレンをダム放水と間違ふことなき
- 満開の種まき桜をじっと観る母は小さく絵の中にいる
- 村山のこの絵の中に我が母は永久にし生きる種まき桜と
- 早もして四十九日も過ぎたるととても思えず秋風のたつ
- かなかなと鳴く蝉は居るしかれども母なき郷の残暑厳しき
- ぞくぞくと集まる人ら喪服来て一期の別れ母とせむとて
- 健気にも添い寝するのは子猫より母に懐きし愛猫マック
- 山盛りのソフトクリーム食べながら「冷て」と言った母の横顔
- 母として最後の晩餐した夜の母の「うめな」の語気の強かり
- 本当は7月5日のあの夜に母とふたりで語りたかった
- 見ゑぬ眼で祭来ぬかと凝視せる母の瞳に映りしものは
- 見えぬ眼で聞こえぬ耳で立たぬ足抱える母の老いの現実
- 明日からは母の遺影も仏壇の隅に懸かりて生者を見つむ
- 雨ばかり降る母の法事の恨めしく空見上げれば薄日射したり
- ありがたき事かな母の百箇日河北歌壇に吾が哀歌載る
- 若かりし亡母(はは)の写真に語りしは「人生は短しされど美し」
- 戦争の世紀と呼ばれし二十世紀を母は生き抜き新世紀逝く
- 大戦の辛き歴史を日本人は深く心に刻みつけたか
- 訥々と語る挨拶なればこそ母送る兄の思い伝わる
- こんなにも紅かったのか曼珠沙華母恋ふ吾の血の色に似て
- 秋の田に母の面影偲び来て蜻蛉(あきず)飛び交う畦道をゆく
- 霊園の土手に佇(たたず)む彼岸花物言いたげに吾を見ている
- 市野々の墓に詣でて亡き母を育む山河のただ中に佇(た)つ
- 命あるものみな燃へて消ゑゆかむ吾が母しかり紅葉のしかり
- 「この山の紅葉見ずして死ぬなよ」と亡母(はは)に告げたき今日の栗駒
- 限りある命なりけり栗駒の紅葉の錦に心身浸す
- 神無月の栗駒山に来てみれば妖しきまでの紅葉に出会ゑり
- 山神の視点で観れば登山者も舞ひし紅葉か母木離れし
- 大銀河の渦にも見へし紅葉なり母は微笑みそのただ中に消ゆ
2003.7.18
2003.9.27 Hsato