「週刊SPA! 6/7号」―ニュースな女たち―(2000.06.07)


[ミニスカ右翼の誕生]

 天皇陛下万歳!と叫びたくなるような映画を観た。土屋豊監督のドキュメンタリー『新しい神様』がそれだ。君が代が鳴り、日の丸を背景に「♪先の大戦“侵略”呼ばわり、お前がそんなに立派なの〜」と唄う女の子がヒロインである。茶髪に戦闘服、神風のハチ巻きで叫ぶ民族派バンド・維新赤誠塾のボーカルにして、バリバリの右翼団体“超国家主義「民族の意志」同盟”に先頃まで所属、さらには祖国(クニ)を想う合間にキャバクラ嬢としてフェロモン特攻に励むその女(ひと)の名は・・・人呼んで、ミニスカ右翼・雨宮処凛(あまみやかりん)!

 幼い頃から激しいイジメに遭い、小学校高学年にしてレズに走って同級生女子とヤリまくる。人形作りとビジュアル系バンド追っかけと常習自殺未遂の果てに「天皇陛下」に恋をした。そんな本物の憂国ギャルをエルビス・コステロみたいな風貌の反天皇主義監督・土屋が追い、普段はヤサ男のバンド兄ちゃんなのにマイクを握ると「共産主義を殺せっ!!」とキレる赤誠塾リーダー・伊藤秀人がカラむ。

 デジカメを手に元・赤軍派議長の塩見孝也と共に北朝鮮へと旅立つ雨宮処凛の姿はまるで過激派版・朋友(パンヤオ)だ。彼女の前では元よど号メンバーも「ハイジャック・ギャグをかます面白オジサン」にすぎない。ところが一転、主体(チュチェ)思想を洗脳されそうになると「怖〜い」と泣き出す始末、さながらお寺の合宿でシゴかれるモーニング娘のよう。『ASAYAN』や『電波少年』を思わせるデジカメ映像で果てしなく議論を続け、やがて「オレは何も信じない!」とフテる伊藤に「えっ、天皇も〜!?」と雨宮がカラみ、天皇制の是非をめぐる痴話ゲンカのドタバタ劇ともなってゆく。

 「天皇を中心とする神の国」で「三国人」におびえる宰相や知事のこの都市(まち)で、西暦2000年――もとい皇紀2660年の今にこんなにも愉快で滑稽、バカがつくほど純情な若者らが生きている。日の丸・君が代法制化、従軍慰安婦論争の御時世に「好きな男のタイプは明治天皇のルックスで昭和天皇のマインド。」と笑う女子が不意撃ちのように立ち現れる。そう、雨宮処凛。キャバクラと靖国神社を横断するミニスカ右翼にして、髪を茶に染め反米愛国を叫ぶ民族派パンクス、神国ニッポンの夜明けを待ち望む美しき国体のモーニング娘。・・・彼女をはさんで靖国の鳥居を背景に右と左に思想対立する男たちがぽつねんと立つ。

 「諸君らが天皇を認めれば喜んで手を組もう」と全共闘学生に呼びかけた作家・三島由紀夫を想起した。吉田満の『戦艦大和ノ最期』を評して三島は「かれらの青春ははからずも『絶対』に直面する」とそれが戦争文学でなく普遍的な青春文学であると喝破した。同様に『新しい神様』もイデオロギー映画ではない。切実な恋愛劇であり青春映画の傑作だ。もちろん彼女もまた・・・いや、断じてキワモノ右翼少女なんかじゃない。そう、雨宮処凛は優れた青春映画のヒロインなのだ。だから今こそ、天皇陛下万歳!と声を上げる代わりに、こう叫ぼう。・・・青春万歳!雨宮処凛万歳!!鬼畜米英・容姿端麗・富国強兵・美脚御礼。

(中森明夫)


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