「フロム・エー 6/9号」―大槻ケンヂの映画道―(2000.06.12)


 雨宮処凛(あまみやかりん)という女性から、「新しい神様」という映画のビデオが送られてきた。同封の手紙によれば、子供時代の彼女はいじめられっ子で、十代の頃は何度も自殺未遂を繰り返したという。その後ビジュアル系バンドの追っかけをやっていたらしい。ボクのやっていた筋肉少女帯も大好きだったらしくて、ボクの書いた本なんか読み漁るうちに寺山修司の存在を知り、それで右翼思想に目覚めて右翼団体構成員となったらしい。現在は「維新赤誠塾」という右翼パンクバンドで活動しているという。この映画は、右翼に自分の居場所を見つけた彼女のドキュメンタリーで、大槻さんにぜひ見てほしいと書いてある。よし!見ましょう。

 主な登場人物は3人。雨宮さん、バンドリーダーの伊藤秀人さん、それに監督の土屋豊さん。土屋さんは実は左翼で、これまでに反天皇制の映画を何本も撮っている。上映中のスクリーンを切るために出かけていった伊藤さんが土屋さんと知り合い、「右と左で思想は違うが民族を思う心はひとつ」ということで仲良くなり、この映画を撮りはじめたとか。

 24歳の雨宮さんは右翼・左翼のおじさんたちから見ればマスコット的存在のようで、元赤軍派議長と北朝鮮に渡ってよど号事件のメンバーと会うシーンもある。でも基本的には、彼女の日常をそのまま撮ってるだけ。3人で酒飲みながら思想についてだらだら語り合ったり。特に何が起こるでもなく、映画としてのダイナミズムには少し欠ける気がした。

 でも、「維新赤誠塾」というバンドは面白い。ボーカルの雨宮さんが赤いメガホン持って、右翼っていうよりヤンキーな感じで「おまえらナントカカントカ!」と絶叫したり、リーダーの伊藤さんが「日の丸、君が代を踏みにじる者たちは日本国から今すぐ出て行け!」とかベタな演説をしたり。ちょっと笑える。

 要するに彼らはマジメなのだ。いまの日本をマジメに憂えてるんだけど、それを原宿のルイードとかで、しかも対バンありで訴えたりすると、マジメすぎるがゆえにギャグに見えてしまうんだな。

 こうして彼らの日常が流れていって、そのうち雨宮さんが「土屋監督は私のことが好き見たい」と言い出す。それからしばらくして、今度は「私の方が土屋監督のこと好きなのかも」と言い出す。この辺りから妙な雰囲気になってくんだけど、土屋監督の「伊藤さん、雨宮さん、ありがとう」の文字が挿入されて、映画はなんとなくエンディングを迎える。

 結局、土屋監督がこの映画で言いたかったのは、「友達ができた!」ってことじゃないかな。いまの世の中、彼みたいに国についてマジメに考えてる人はほとんどいない。だから、主義主張は正反対でも、伊藤さん、雨宮さんという語り合える仲間のできたことが嬉しくて仕方なかったんだと思う。それから雨宮さんと土屋さんの妙な関係だけど、土屋さんは実は伊藤さんが好き、という線もありうる(笑)。いまの社会に自分の居場所が見つからない人にぜひ見てほしい映画だ。

(大槻ケンヂ・談)


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