「東京新聞(夕刊)」(2000.08.08)


思想のぶつかり合い

 『新しい神様』は実験的ビデオ・ドキュメンタリーである。思想的かと思えば、青春映画のようでもある。荒っぽい作りだが、何か引っかかる作品だ。

 右翼パンクバンド「維新赤誠塾」の女性ボーカリスト雨宮処凛(25)と反天皇制の土屋豊監督(33)とのビデオ往復書簡がベースになる。雨宮が、元赤軍派の塩見孝也と北朝鮮に行き、よど号事件のメンバーに会ったり、右翼団体を脱退したりする奇妙な生活をそのまま追う。子どものころ、ひどいいじめにあった体験を持つ雨宮が、自分の天皇制依存の心理や土屋監督に対する思いなど、ストレートにカメラに向かって告白する。土屋監督も考えをぶつける。揺れ動く二人の感情が気恥ずかしくも面白い。

 土屋監督は「小林よしのりのマンガ『戦争論』が売れたが、若者が天皇制を指示する気持ちがどこにあるかを知りたかった。あるセミナーで、雨宮さんが『右翼でも、オウムでも自己啓発セミナーでも、参加の気持ちは同じ』と語っていたのが印象に残り、彼女を撮ろうと思った」と制作意図を明かす。

 雨宮は「目立ちたがり屋だから引き受けた」とあっさり。右翼に入った理由は「自分は弱くて、社会で生き抜く自信がなかったが、右翼の人に『こんな社会だから、ドロップアウトしている人の方がまともだ』といわれ、その世界にはまった」と説明する。

 映画がうまく成立したのには、雨宮が日記マニアであったから。ビデオを日記代わりに、内面を告白している。それにしても、最後のカットで、監督自身が雨宮に対する愛を吐露しているのには驚いた。

 監督は「迷ったが、彼女があれだけ自分をさらけだしたのに、自分の方は足りないと感じたからだ」という。

(吉岡逸夫)


〔REVIEW INDEX〕


〔HOME〕