来る



ある昼下がりのこと、1台の車が、皇居のお堀端を走っていた。

「先輩、よかったですねー。やっと包帯がとれて。」

「そうだなー。片腕が使えないままじゃ、我々の商売はあがったりだしな。」

「それにね、先輩、やっとサングラスの跡がきえて、もとの男前にもどりましたよ。」

「さーて、それはどうかな。”美人新聞記者”さんにご判定いただくことに しましょうか。」


2人は、毎日新報の東京本社前に着き、足早に玄関前の石段をのぼると、 社会部へ向かった。


「あら、おふたりとも、きょうは何のご用? 淳ちゃん、腕のほうはもういいの?」

「うん。やっと医者の許可が出てね。来週早々からは、とりあえず職場復帰 できそうさ。」

「ユリちゃん。たまには優しいこともいうんだね。」

「まっ、失礼ね。私は、こうみえても、毎日新報の辣腕記者とは仮の姿、 れっきとした大和撫子ですからね。」

「よせよせ、こんなところで。一平も、じゃじゃ馬相手にしてけしかけてると..」

「淳ちゃん!」

「あ、すまんすまん。」

「あっ、そうだ、淳ちゃん、この間のぺギラの件だけど、あの時、南極で 撮ってきてくれた写真を、国際地球観測年の特集記事で使わせてもらう ことになったの。いい?」

「観測年は、もう終わったんじゃあなかったのか?」

「うちのデスクが、”終わったもんでもなんでもいい。盛り上がった気分を できるだけ引っ張るんだ。せっかく、観測年を境に、科学欄の評判が良くなった んだから”だって。」

「おたくも大変だねえ。あっ、そうそう。写真のほうはいいだろうけど、まあ、 一応は、あのときの隊長に知らせておいたほうがいいだろうねえ。」

「うん。わかったわ。....そうだ!ついでに、例の”美人科学者”のコメント ほしいんだけど、会えないかなあ。」

「そっとしておいてあげようや。彼女の辛さもわかってあげたいんでね。」

「それもそうね。わかったわ。デスクには、適当にいいつくろっておくわ。」

淳は、封筒を受け取って、写真を取り出した。





「先輩、見るからに狂暴そうなやつですね。南極だけですんでよかった。」



南極だけで済んでよかった.....この言葉を忘れた頃、彼らは、東京で、極地並みの 寒さに震えることになる....





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