FORTH GATE OPEN



1990 年代後半、バブルの崩壊にゆれる建築業界で、彼は、そうとも知らぬまま、 あるビッグプロジェクトに深くかかわって、多忙な毎日を過ごしていた。


今日も、また遅いの?
うん。悪いけど、先に休んでいてくれ。
わかったわ。じゃ、行ってらっしゃい。

こんな会話も、そろそろ飽きてきた。 例のものの設計に関わってからもう、そろそろ1ヶ月、自宅の玄関を出るたびに、 こんな会話を繰り返している。
自分は、設計担当であり、今までも、 様々なプロジェクトに関わって、数多くの仕 事をこなしてきた。だが、今度の仕事は、どうも、奇妙だ...

まず、いつもは、必ず事前に提示される”構造物の名称”、 ”使用目的”といったものが、全く明かされていないのだ。外部 秘扱いで仮称を使うことはあるが、少なくとも内部の 人間にくらいは内容が明かされてもよいのではないか?

そして、構造材の持つ機能や強度だ。どんなに良心的な仕事をす る場合でも、建材を”それに見合った”程度のものに”おさえる” のだが、今回の場合は、まだ研究段階としか思えないもの、一般の 素材では満たしきれないレベルの精度を要求されるものが必要になる。

( 暗に、他社の技術であっても構わないということを言われてい るが、系列やコネクションにしばられたこの業界で、そのよう なことをするのであれば、最初から JV を組むはずではないのか.....)

明らかに軍事的目的を持った建築物なのだ。それは、設計内容から 判断して、最初からわかっていた。だが、専守防衛を旨 とする国内の防衛方針から判断すると、異様に攻撃的な印象を受ける....
待てよ......奇妙といえば、以前に、トンネルの担当の人間が言っていた、 ”シークレットハイウェイ計画”も、謎が多かった。工事区間が どうも不自然で、明らかに地上区間として良い場所までがトンネ ルになっていたり、トンネルの工区の数が膨大”らしい”のに、 1 業者が扱う作業区間が、異常に短く、全体の構成がわからなか った。担当の者は、”裏道路公団でもあるんじゃないか。”と、笑って いたが、これは、道路網の全体像をつかみにくくするための措置 ではないのだろうか?
あの時は、”どうも、関東から東海にかけてのどこかに集中した 道路ネットワークができるらしい”という印象を受けただけで、 特に詮索はしなかったのではあるが。

これだけのプロジェクトを、組織的に遂行できるのは?
地球防衛軍......まさか。あれは、まだ組織ができただけではな かったのか?
まあ、いい、自分にとっては、仕事なのだから。

さて、あの無茶な要求を(それも、原本は見せてもらえず、ダイ ジェストではあったが)、物理的に限定された空間で、いかに実 現するかだな....実現可能かどうかのチェックと、グランドデザ インが、うちのセクションに与えられた役目なのだから。

  1. 湖沼の多い場所、山岳部に、全地下式で建築するものとす る。

  2. 開口部は、

    • 地下50mで接続する自動車トンネル
    • 鉛直上方に向き、深さ 150mのサイロ状のもの
    • 滝の背面
    • 山の土砂でカモフラージュしたスライド式のもの

    を中心に、数箇所に設けられる。自動車トンネル以外の部 分については、航空機離着陸用に使用されるが、滑走路は 無用。

  3. 外界と遮断された状況でも 400人の人間が3ヶ月居住可 能なこと。

  4. メインとなるエネルギーユニットには、原子力、あるいは 同等のエネルギー変換効率を持つ動力源を用いる。従って この区画を、人間の居住、作業区画と隔離する手段が必須 である。また、各種電磁波、内部での爆発、外壁付近での 1 kt クラスの爆発、あるいは化学的損傷、生物学的汚染 が発生がみられる場合、被害が、該当区域を含む 1 万立方 メートル以内に局所化できること。

  5. 建造物内で発生する電磁波は、地上には一切漏洩してはな
    らない。
    • 上記で列挙した、建築物以外の構造物については、今回発
      注の範囲から除外する。また、細部の詳細設計については、
      別紙に示す。
    特記事項

    本発注の存在、そして、本発注の内容については、 披発注者以外の者に対し、極秘扱いとし、当書類は複写不 可、作業完了時に、当方に返却のこと。なお、決算処理、 監査等において本案件に関する資料を要求された場合は、 以下のような.......



物理的な制約さえなければ、エネルギーユニット、居住区、航空 機、そして(おそらく)武器庫を、平面状に並ベれば設計可能で あろう。しかし、そんなことが可能であれば、わざわざ外部に発 注するはずもなかろう。 では、、各機能を肉厚の隔壁で隔てればよいのだろうか.... いや、要求を満たすとなれば、隔壁だけでもビルの容積の相当部 分を占めてしまいそうだ。他社の技術を使用しても、根本の問題 は変わるまい.....

そうだ、貯蔵、居住区画と、開口部を中心とした区画を分離して、 ブロック間の移送を、ダイナミックに行うことにしたらどうだろ う。移送を行いながら、進行方向及び、通過地点のドアの開閉を 行えば、平常時の防御、内部での爆発に対する防御にも強い耐性 を持たせられるのではないのか ?



やがて、彼のデザインは完成し、
数年の時が流れた.......

静岡県某所、ある、人里離れた静かな山の地下では、ある組織の 人間達が密かに作業を進めていた....
数多くの作業員が施設の動作テストを行っている中で、 服装こそ単なるスーツではあるが、軍人風の男達が、作業現場を見つめていた。


「参謀、なかなかいい出来ですなあ。移送システムが介在す るために、司令から発進までの所要時間が1番のネックになっていましたが。」

「その通りだ。キリヤマ君。我々も予想以上の出来に驚いている。このままの 構成で基地の改善を繰り返し、”プロジェクトブルー”に対応した施設が完成 すれば、予想外に長寿命な基地になるだろう。もっとも、こんな基地が必要 なくなれば、それが1番よいことではあるがね。」

「そうなれば、我々も、職を失いますがね。」

彼らの後ろのスピーカーからは、
”Forth Gate Open !, Forth Gate Open !"
というアナウンスが流れている。

キリヤマの手には、後に彼らが搭乗するマシンの写真が乗せられ ていた。

後に彼らと行動を共にする”恒点観測員”が、地球を訪れる、数 年前の出来事であった。

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