「絶後」
『遊子』第25号(2018年12月)掲載
今宵曲馬団解散せり玉乗りのひなぎくひとり森に残して
放たれしのちの月日は俯かず自分の顔で生きてゆくのだ
雲のかげよぎれる野辺をさわさわときりなく歩み来る白れんげ
梅雨明けの陽ざしのごとく天命はのこりしもののうえにのみ降る
ひねもすを波は寄せくる宛てどころあらぬ手紙のびん待つ砂に
残るとは死に残ること岸辺には流れ着きたる櫓と櫂ばかり
紙上なる淡き詞藻の文字のいろ美しければそっと閉じたり
ぶん
調べよき文にて日ごと記しゆく結語に遠く届かぬふみを
人を焼く臭いのはなし聞きおりき まだ本当のこととは知らず
すべからく行きて帰らぬ門出ならさよならとなぜ言わにゃならんの
かき捨ての恥にあらねばいくたびも厚い絵の具の上塗りで消す
洗いざらいぶちまけてやる実も莢も人間なんかじゃないってことも
ひ と
他人の手で上から下へなでられて死者は口より先に目を閉づ
滅びの日の余興のひとつ 地球という玉あやつらむ二本の足で
直後とはもはや云えざる一分ののちの世界を生き始めたり