「世渡り指南」
     『遊子』第15号(2008年12月)掲載


                            は
   もう済んだ戦いなれば遺されし美談は美しき声にて語る

   夜目利かぬ視界のかなた現への窓のごとくに灯るコンビニ

   主張なき民草の野にふる時雨 いいえ温めないでください

   命乞いにはまだ早く猿という猿が腹にて肝を冷やせる

   足の数の多寡にはよらずこの世ではいずれ食われてしまう弱肉

   周到な論理が意思を二分してスパムメールを次々捨てる

   傲慢は人の性にて気にくわぬ文明なんかゴジラで壊す

   泣かされてみんな出てくる裏切りのひとつもなくて終わる映画に

   怖いもの見たさの子らは見るからに怖いオバケを夏だけよろこぶ

   七人ずつ迫りくる敵たたかわぬダメ男だけがやっと逃げ切る
                 

   しょせん自分のこととし思えば気楽にて意外と深く刺さる耳掻き

   売られゆく末路またよし気分よく割れてなんぼの割り箸として

   命など賭ける価値なき世の中はほんの少しの勇気で変える

   帰れとは神の言葉か 強いられてつかのま生くるこの世の客に
                                
むち
   死にざまを決めかねている肩口に覚めよとばかり策が降りくる