「壁の絵」
『現代短歌』2014年6月号掲載
ち
電灯はしずかに照らす部屋という小さき世界のすべての隅を
こうべ
マタドールの訃音届けば憤然と牛は角ごと頭垂れたり
今はただ嘆じよ人も荷も棄てて身のみ戦火を逃れし輓馬
ね
天使たりしはずなるむくろ抱く母は空の方へと顔を捩じ上ぐ
平穏と似たる静けさ 抵抗のための剣さえたやすく折られ
光なき点とならむかかかる世に生きて死にたるもののどの目も
修羅の場に首を突っ込むまだ少し怒髪うしろに残れるピカソ